古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第944話

 ニーレンス公爵とローラン公爵を抜いたメンバーでの話し合い。それは、リゼル絡みならば彼女のギフトである『人物鑑定』による読心術関連だろうと予想した。

 

 リゼルのギフトの件は、今回参加しているメンバーしか知らない事になっている。まぁ普通に心を読まれるとか知れ渡れば、交渉を必要とする外交関連に問題が生じる。

 

 リゼルのギフトの事を半分以上、公然の秘密扱いにしていたバーリンゲン王国の情報管理の杜撰さが浮き彫りに出る事案だな。全く秘匿すべき最重要案件なのに……

 

 

 

 リゼルが全員の紅茶を新しく用意してくれた。気持ちを切り替えろって配慮だろうか?砂糖を三杯入れて掻き回し一息で半分程飲む。ロンネフェルト産の最高級茶葉を使用した紅茶なのに勿体ない飲み方。

 

 本来の飲み方ではないが先程の話で予想以上に緊張していたのだろう。熱い紅茶が喉を通る時の刺激さえも心地良く思う。あと甘味が気持ちを落ち着かせる。

 

 子供っぽいと言うなかれ。精神年齢は別として、肉体年齢は未だ子供……いや成人に達する年齢にはなったのだが、僕の成人の儀についてストップが掛かっている。

 

 

 

 落ち着いた時期に大々的に国家事業として執り行うらしいのだが、そんなに大事にする話なのだろうか?後見人を頼もうにも人事は正式に王家からストップが掛かっているので自由に決められない。

 

 お世話になっている、デオドラ男爵やサリアリス様に頼みたかったのだが簡単に決めて良い事じゃないと言われたんだ。それなら誰なら良いの?って思ってしまう。現役宮廷魔術師筆頭でも不許可って?

 

 まさかアウレール王が?いやいやいや、そんな前代未聞な珍事にはならない。そうなってしまったら、僕は王族の末端で一翼を担う存在になってしまいます。

 

 

 

「さて、このメンバーだけでの話し合いだが……凡その見当はついているな?」

 

 

 

 はい。リゼルのギフト絡みですね?言葉には出来ないので頷いて同意を示す。だが心を読んだ相手の事は分からないので、内容を聞いてから考えよう。

 

 因みにだが、リゼルは容赦なくこの段階でも僕の心を読んでいる。少しは気を遣って欲しい。まだ序盤だろ?何も考えてない段階だろ?

 

 現状を考えれば滞在する各国の大使連中の思考を読んで、反エムデン王国連合の兆しでも察知したのか?または幽閉中のパゥルム元女王達が何か企んでいるのか?

 

 

 

 どちらにしても良い話ではないな。でも僕に聞かせるとなれば、対処可能な範疇なのか?

 

 

 

「現在、王宮内の外れの塔に幽閉というか軟禁している亡国の王女達だが、末の妹であるオルフェイスの暗躍が問題となっている」

 

 

 

 オルフェイス王女が?一応だが彼女の望み通り簒奪された祖国を離れて、安全なエムデン王国で姉妹と一緒に穏やかに暮らせている筈だが?

 

 そこに自由は殆ど無いが、その分の労働も責任も無い。ある意味では変わって欲しい位だが、もしかしなくとも待遇改善を問題になる程の実力行使で求めたのか?

 

 結構な資産を持ち込んで、それらは没収はしなかった。元々危険な武器や防具、薬品類にマジックアイテムも無く宝石とか換金率の高いものが殆どだったと報告書で確認した。

 

 

 

 影の護衛と思われる、ミーティアも側使えとして相応の自由は与えたが軟禁状態の筈だよね?

 

 

 

「可能性は低いと思いますが、祖国の奪還でも求められましたか?エルフにちょっかいを掛けて祖国が森に埋まる情報は、彼女達には秘匿されている筈ですが、教えてしまいましたか?」

 

 

 

 だが彼女は祖国にというか、国を構成する元家臣や領民達にも価値を見出していない。その彼女が望むというのは、姉達に懇願されたか?だが我々に奪還させて女王に返り咲いても幸せにはならない。

 

 それを理解している筈だから、この考えはハズレだ。ならば求めるのは自由?軟禁はされているが、相応の自由は確保されている。籠の鳥ではあるが、そもそも女性王族はみだりに外出などしない。

 

 婚姻の自由?いや、相手が居ない。一応元王族だし伯爵級の関係者で側室でなく本妻に迎え入れてくれる奇特な人物など知らない。それに結婚しても塔から嫁ぎ先の屋敷への軟禁に変化はない。

 

 

 

 権力を行使したい?これが一番らしい案だな。何故か理由も無くエムデン王国に対して上から目線の態度だし、下に見ていた者に命令されるのは嫌とか?そんな程度の低い我儘な事か?

 

 

 

「あの国の末路など教えていない。知る必要も無い。問題視しているのは、影の護衛と思われる配下共の行動だな。あの愚か者共は、ミーティア達を使って王族の女性陣に接触をしようとした」

 

 

 

 女性陣?つまり複数?リズリット王妃やアウレール王の親族達に?後宮の側室達は王族とは見做されない。アウレール王の子供達は王族だが、その母親達は違う。

 

 だが、そんな簡単に王宮内の王族の生活する区画に潜り込める事など出来ない。確かに、ミーティアは凄腕かもしれないがクリスより数段落ちる腕前だぞ。

 

 それに王宮内の警備は暗殺未遂事件の後に更に強化した筈だ。それでも問題になる程の接触を許したとなれば……

 

 

 

「まさか内通者が?」

 

 

 

「結論が飛躍し過ぎだぞ。あの馬鹿共はリゼルが王宮に居る事を知っているので用心深かった。買収する資産も持っている。それでも普通なら買収は不可能。だが腹黒の末の妹は、交渉材料を手に入れようとした」

 

 

 

 交渉材料?王族の女性陣が欲しがる物?嗚呼、そういう事か。リズリット王妃と王族の女性連合がどうしても欲したアレを手に入れて交渉の材料としたかったのか。

 

 

 

「ミーティアと数名の者達は拘束したけれど、リゼルがギフトを使う前に自殺してしまったわ」

 

 

 

 ザスキア公爵がアウレール王から言葉を引継ぎ、そして言い終わった後に目を伏せた。貴重な人材を下らない事で浪費する悪癖、オルフェイス王女は兄殿下達と変わらない。

 

 ハイディアの街攻略の時のクリッペン元殿下もそうだった。自分の脱出の為の時間稼ぎと、運を天に任せた的な確率の暗殺に影の護衛達を捨て駒のように使った。

 

 影の護衛達は仕えし主には絶対服従、そういう風に教育されているのは分かる。だが、もう少し使い方を考えろって言うのは傲慢なのだろうか?

 

 

 

「あの国の王族達は、影の護衛の使い方が間違っている」

 

 

 

 何故、そんな愚かな事に命を使われて平気なのだろうか?洗脳か?忠誠心だけでは理解出来ない。

 

 

 

「そうね。でも実行犯が死んでしまっては、オルフェイス王女に責任を追及出来ない。確実な証拠が無ければ、元属国の王族を保護した事になっているのですから」

 

 

 

 クーデターが起きて属国化していた政権は崩壊。その元支配者と姉妹達は宗主国に保護を求めた。体裁としては問題は無いが、その扱いには細心の注意が必要になる。

 

 オルフェイス王女は、その辺の事を理解して、僕に言質を取りに来た程度には頭が回る筈なのに今回の失策は何だろう?焦り?いや、残された時間は多いので急ぐ必要は……

 

 他に事情が出来たのか?焦らなければ、配下を使い捨てにする様な拙い作戦を実行する程の?

 

 

 

「モア教に対しても、周辺諸国に対してもですね。しかし、オルフェイス王女は焦っているのでしょうか?今回の件、稚拙過ぎませんか?」 

 

 

 

 愚か者しかいない国という先入観で測っては駄目なのが、オルフェイス王女だと思う。あの思考は狂人の類、姉達の為ならば、どんな犠牲も厭わないだろう。それでも今回の、ミーティア達の処遇には疑問しかない。

 

 

 

「そうだな。それを調べる為に、ザスキアとリゼルに動いて貰う。お前は彼女達には接触はさせないが、報告は定期的に届けさせる」

 

 

 

 つまり、今回の王命に、彼女達の助力は無理って事なのかな。了承の意を深く頭を下げる事で示す。ザスキア公爵とリゼルの二人がサポートに入らないのは心細いが仕方無い。

 

 今回の王命は錬金が主な仕事になるし、魔術師ギルド本部に協力を依頼し、土属性魔術師を集めて貰うように、レニコーン殿とリネージュさんに指示を出すか。

 

 ウルティマ嬢と育成中の諜報部隊も連れていこうかな。

 

 

 

 如何に今迄、ザスキア公爵とリゼルに頼っていたかを実感する。改善と猛省が必要だな。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 王命の内容について凡その内容が纏まった。要望書を参謀本部に提出したが、主席参謀のアルドリック殿が不在の為に殆ど修正や質疑も無く採用された。

 

 アルドリック殿と参謀本部の半数以上が、フルフの街に詰めているらしい。バニシード公爵に顎で使われていると思ったが、そうでもないらしい。

 

 ここで手柄を立てないと色々と追い詰められているとか何とか……ザスキア公爵が裏で手を回したのだろう。『新しき世界』の信奉者(信者)達を使って……

 

 

 

 まぁ理想の通りの区分を王命と言う形で頂けたので問題は無い。

 

 

 

 バニシード公爵の責任区分は、フルフの街の住人の移住と、移住後の街の清掃・整備。移住の条件も一任されている。家財道具一式の持ち出しや保証金等の決定権も含む。

 

 飴である好条件だけでなく、戻って来た場合の対処全般、つまり鞭の部分の厳しい処罰の決定権も含まれている。宥めすかして上手く立ち回らないと必ず揉め事になり炎上するだろう。

 

 保証金を払う場合は国庫の予算を使う事になるので、極力使いたくないだろう。予算の使い込みは評価が下がるから、アイツ等が無償で出て行く訳がなく、何かしらの条件決めが大変だ。

 

 

 

 強権発動で強制退去も取れる方法ではあるけど、安易に使えるかは別問題。暴徒化するのが目に見えているし、逆賊として全てを討伐するも明確な建前が無ければ後々の世論の対応が難しい。

 

 モア教の対応も考えて行動しないと、安易に武力の行使は責任問題に波及するよ。エムデン王国としては、実行者を処罰すれば一応の対応は取れる。切り捨てられない様に努力しないとね。

 

 今の所、亡命希望や難民達の対応は問題なくこなしているらしい。そして今後も押し寄せて来るだろう難民への対応も対策も全て、バニシード公爵の責任となる。正直、これはキツイだろう。

 

 

 

 アルドリック殿、参謀連中も補佐じゃなくて正式に指揮下に組み込むと明記して貰った。途中で抜ける事は許されなくなったよ。これは細やかな意趣返し、やられっぱなしにはしない。

 

 

 

 僕の方の責任区分だが、先ずは移住する魔牛族と護衛の妖狼族についての全ての責任と権限。彼等には無事にエムデン王国領内に移動して貰う。正式な移住先は調整中だが、その移住先の整備も僕の責任にて行う。

 

 カシンチ族連合についてだが、同じく全ての責任と権限は僕が担う。ソレスト平原に移住先の住居や農地の整備、物資の補給やルート構築。街道の整備も含まれる。

 

 殆ど新規の街を作る事になるので、ライラック商会経由で商業ルートの開拓も必要。人が暮らせる街の整備、これは相当難しく手間が掛かる。手探りで行う事になるな。

 

 

 

 当然だが国庫の予算を使用する為に、予算を組んで申請し事業を進めて行かなければならない。正直、バニシード公爵の手伝いは無理。

 

 

 

 だが、カシンチ族連合にはバーリンゲン王国の連中の間引きも依頼しているので、難民対策を主導するバニシード公爵と協議が必ず必要になる。彼等の存在意義の関係で、やらない訳にはいかない。

 

 単純にすり抜けて来た連中を見付けて捕縛だけでは済まない。積極的な行動を内外的に求められるだろう。この件については、王命でも曖昧にしている。

 

 状況次第でどうなるか分からないし、臨機応変に対応する場合も有りそうな事。それとバニシード公爵への配慮も含まれている。少しは主導させてやれって事だろうか?

 

 

 

 僕の屋敷と大使館については凡その場所は指示されているので、立ち退きが終われば建設を始める事になる。殆ど錬金で建てる予定なので、調整は備品の搬入位に抑えたい。まぁ最悪最後でも構わない。

 

 そして何故か王命の最優先事項は、フルフの街の地下空間の調査。ある程度の調査が進んだら、アウレール王とセラス王女が視察に来る事になっている。

 

 これは、アウレール王がセラス王女への御褒美として予定したらしいのだが、彼女はマジックアイテムには興味が有っても錬金で構築した構造物に興味が有るかは不明なんだよな。

 

 

 

 この視察は、バニシード公爵も後々焦りが隠せなくなるだろう。故に視察の時期は要相談として駆け引きの条件の一つにしようかな。

 

 バニシード公爵の希望の時期に合わせて視察を行う様に計画すると言えば、相応の妥協と見返りが望める筈だ。嫌なら一番見せたくない時期に視察の予定を組むぞって言う。

 

 勿論だが、アウレール王とセラス王女の安全が最優先、元住民の移住が終わり街の整備が完了し周辺の安全が確保された時期に視察の予定を組むのが望ましいですよね。

 


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