古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第946話

 バーリンゲン王国の今後の対応について、詳細な対応を決める。民族根絶やしの方針は変わらないし変えさせない。あとはどう対処していくかだけだ。

 

 内政のニーレンス、軍事のローラン、諜報のザスキア。それと助言にサリアリス、情報収集のリゼル。この分厚い布陣ならば問題は無いだろう。

 

 先行で現地入りしている、参謀連中とバニシードにも期待はしている。此処で踏ん張らねば未来は無い。そう言い聞かせているので死力を尽くすだろうが保険は必要だ。

 

 

 

 バニシードもリーンハルトに対して態度には出さないが……いや感情優先で出してしまう場面もあるが、敵対路線から不干渉位まで態度を軟化させてはいる。

 

 感情優先で敵対し続けても、どうにもならない事を学んだのだろう。下手に敵対を続ければ、自分が破滅してしまう。奴の周囲の女性陣が総出で説得したらしい。

 

 それでも反抗してしまうのは、まぁ分からなくもない。今迄は自分が一番で何でも言う事を聞かせていた立場だからな。そうそう性格的な物の矯正は難しいだろうよ。

 

 

 

 それに、リーンハルトはザスキア達が囲っている。今更、仲間に入るのは無理だし全員が纏まっている事は理想だが反対する者が全く居ないのも問題だ。

 

 政治もそうだが意見の対立は悪い事ではないし、反対派はそれなりの使い道も有る。故に失敗を重ねても、バニシードは失脚させなかった。

 

 お前の存在にも意味が有る。優遇は出来ないが相応の扱いはしてやる。お前の後継者の能力次第では栄達も取り潰しも有るがな。

 

 

 

 まぁアルドリック達と共に頑張れ。成果に対しては正当に評価してやる。だが接収した財貨の横領は駄目だぞ。お前達が正確に財貨を申告するか、それも評価の判断基準だ。

 

 何と言っても財政が厳しい。普通に戦争とは採算性の乏しい国家事業、配下に納めた新しい領地から税収が集まるが復興とか治安維持で想像以上に人・物・金を消費する。

 

 リーンハルトの存在で一つの方面軍の費用を殆ど掛からず、復興も短期間で済んだ事が幸いだが……愚か者の対応で予想以上の人・物・金を浪費する事になったぞ。

 

 

 

 だからこそ、未来に不安を残さない為にも甘い考えなど捨て去り全てを滅ぼす必要が有る。バーリンゲン王国を過去の記録上の存在に変える。

 

 そして俺の自伝で最低・最悪国家として記録を残す。殆ど脚色無しで事実を記録するだけで未来の連中もとんだ疫病神が隣国に存在し、そして消え去った事を喜ばしく思うだろう。

 

 俺の代で全てを終わらせる。俺の自伝の中盤の盛り上がり的な存在としての価値は認める。序盤は兄王から政権を譲られた事、中盤は聖戦と愚か者国家の消滅、終盤はエムデン王国の繁栄。

 

 

 

 これで決まりだな。俺はエムデン王国の繁栄の祖として歴史的評価を受ける事になる。国王としての誉(ほまれ)に尽きると思うならば、今回の苦難も飲み込めるというものだ。

 

 

 

「予算はどうだ?」

 

 

 

 ニーレンスに問う。国庫の予備費の開放も見込んでいるが、先ずは一般財源でどうにかなるかの確認だな。国王でもあるが、国庫の全てを把握している訳じゃない。

 

 

 

「はい。相当の持ち出しで長期的、それこそ延べ十年は赤字覚悟になります。凡その概算ですが、此方の資料に纏めて有ります」

 

 

 

 最長十年で害虫共の駆逐が終わるならば、我慢も出来よう。未来に負の遺産を残す訳にはいかないので、俺の代で清算する決意を更に固める。

 

 急いで纏めた概算だが……フルフの街周辺の整備、初年度に金貨八十万枚。これはフルフの整備に大使館の新築を含む。その後の維持費に年間金貨十万枚、これは継続的外交の運営費か。

 

 外交要員の人件費に建物の維持費、警備等の諸費用も含めている。少し割高感も有るが、今後精査すれば少しは抑えられるだろう。

 

 

 

 難民対策、これは動員兵力が交代要員を含めて二千人。人件費だけでも金貨七万枚、衣食住の費用を含めると金貨十万枚。あくまでも対応する自国の兵士だけの必要経費だ。

 

 これに捕縛した場合の拘束から取り調べ、追放迄の費用を含めると想像したくないな。現状でも毎日、百人前後の連中がフルフの街に押し掛けている。

 

 バニシードも良くやっているし、亡命にきた連中の財貨は接収しているが全てを賄える訳じゃない。財務担当の連中は頭痛と胃痛で悩まされる事になるだろう。

 

 

 

「ふむ。初期投資と継続費用か……これ以外にカシンチ族連合と魔牛族関連の費用を見込む必要が有るな。リーンハルトと良く協議しろ。あと魔牛族に与える領地の選定を急げよ」

 

 

 

「はい、分かりました」

 

 

 

 カシンチ族はソレスト平原周辺に新しい街を一から作る事になる。魔牛族の領地は今回の功績でリーンハルトに与える土地に移住させる事にする。妖狼族と扱いは同じだな。

 

 魔牛族は外見的魅力に溢れている連中なので、不用意に貴族連中と接触させると禍の元になるだろう。俺の国にそのような不届き者が居ないと言い切れないのが辛い所だ。

 

 最近だと、ワーグナルスの愚かな行動の報告が上がって来ている。色香に吸い寄せられて和解する予定が敵対一歩手前になってしまった。家の存続より欲望を本能的に優先する馬鹿が確実に居る。

 

 

 

 だから魔牛族との直接的な交流や交渉は行わせないし、させない。領地は特区扱いにするか……

 

 

 

「アウレール王。今回の件、裏の事情をリーンハルト殿に教えなくて良かったのですか?」

 

 

 

 ローランの控えめな質問、声量まで抑えてギリギリ聞き取れる程度だった。うしろめたさも含んでいるのか?リーンハルトに対して罪悪感が有るのか?

 

 お前のリーンハルトに対する感情は既に身内の扱いだな。息子も助けられて懐いているし恩義も感じているのだろう。故に今回の件は裏切りだと感じてしまったのか?

 

 俺は奴に『女絡みの悪さはしない・巻き込まない』と約束しているから、今回の件を教える事はしないし絡ませもしない。

 

 

 

「良い。今回の件は暗躍するオルフェイスの目と手足を奪う事と、我が王妃への忠告の意味も有る。それと血を分けた血族なのに自由気儘に振舞う者共への警告だな」

 

 

 

 リズリットを唆して、リーンハルトに接触しようと企んだ連中に偽の情報を流した。『国を追われたパゥルム女王達の慰撫の為に特別措置としてネクタルを与える』とな。

 

 管理統制させて話は聞くが現物の動きが掴みきれない連中は、この偽情報に飛び付きパゥルム女王達に交渉を持ち掛けた。ネクタルの対価は行動制限の解除と優遇措置辺りだろうか?

 

 ミーティア達、影の護衛共も主人の待遇改善の為にならと接触を試みた連中と秘密裏に会う事にした。だが情報は既に漏れていて掌握済み、そもそも監視下で泳がせていた。

 

 

 

 王宮内の一室での密会の現場を押さえ捕縛し、パゥルム女王達と接触を断たせる為に監禁するつもりだが……まさか牢内で自殺するとは思わなかった。

 

 ミーティアの失敗は密会を警戒するに当たり、周辺の警備と見張りとして複数の仲間を貼り付かせた事。これにより計画的な犯行と捉えられてしまった事。ミーティアだけなら、言い逃れも可能だった。

 

 だが奴は忠誠心の為か、主の待遇が自分達の行動で悪くなる位ならと自害に踏み切ったのだろう。自分達が死ねば、責任の追及は有耶無耶となると考えたのか?罠だったから無理だぞ。

 

 

 

 自分達が死ねば、パゥルム女王達を処分する迄はしないと考えたのだろうか?当事者が自害した今となっては真意は不明だが、此方の目的も果たせて関係者共に警告出来たので良しとしよう。

 

 

 

 王族の女性陣達は少し甘やかせ過ぎたのかもしれん。血族だからといって、何をしても許されると思っていたのか?今回は公費の大幅な削減と幾つかの権利の剥奪で済ませたが、次は無いぞ。

 

 リズリットも今回の件で少しは懲りただろう。だが鞭だけでは収まりが付かないのが現実、飴として数本のネクタルを渡す必要が有る。数年若返れば相応の時間を稼げるだろう。

 

 もう少しすれば、ネクタルの利用条件が緩和される筈だ。ザスキアの敵対者は入手困難かもしれないが、今から関係改善に動けばチャンスは有る。

 

 

 

 あれは困った女だが、俺には必要だし愛着も有る。若い側室が増えて肉体的な満足度は得る事は減ったが、精神的な繋がりや安らぎはアレが一番なのだ。最低な事だが、それが事実で真実だ。

 

 

 

「身内の引き締め。自分達も身をもって理解しました」

 

 

 

「リーンハルト殿でさえ、愚弟に苦労させられていますからな。我等の身内は彼の愚弟よりも悪質で手に負えない連中でした」

 

 

 

 ローランは実弟に毒殺されそうになり、ニーレンスは親族の女共が結託しザスキアからネクタルを強請ろうとして逆に矯正された。

 

 それとメディアに親族共が危害を加えようとしているのをリーンハルトがエルフを貸与して未然に防いだ事も有ったな。どの一族にも恥と思える連中が一定数は居る。

 

 悲しい現実だが、それをどうにかするのも家長の責務。

 

 

 

 諜報を主とする、ザスキアの所は悪い芽は早々に摘んでいるのか問題児は居ない。いや、奴そのものが問題児だったな。ははは、アレ以上の問題児など居ない。

 

 俺の苦労の三割は、ザスキア関連だな。二割がリーンハルトで五割は他の要因か。まぁ恩恵の方が大きいから、苦労に見合う対価が有るので飲み込んでいる。

 

 

 

「ははは、身内のやらかしは本当に胃にクるな。ザスキア、パゥルム女王達というかオルフェイスの監視を厚くしろ。目を潰し手足を捥いだが、それで大人しくなるとも思えない。

 

病んだ女の狂人の思考は常人には理解の埒外だ。だが奴はバーリンゲン王国という狂った国の中枢に居たのだ。他の愚か者と同列には出来ない。もしも問題行動を起こすならば……」

 

 

 

 そこで一旦言葉を止めて全員を見回す。エムデン王国の国益を損ねさせる行動を起こす者が、例え他国の滅びつつある王族の年若い女であろうとも憐憫の情を浮かべる奴は此処にいる資格は無い。

 

 

 

「速やかに病死か事故死を装って排除しますわ」

 

 

 

 ザスキアが答えて他の連中は頷いて同意した。それで良い、女だから子供だからと温情を掛けるような奴は施政者にはなれない。

 

 フレイナルが危なかったが、ギリギリで矯正出来た事は喜ばしい。アレは俺が認める程に生まれ変わった。もう心配は無いのだが、影で言われる『綺麗なフレイナル』という呼び名はどうなのだろうか?

 

 生まれ変わりみたいだから別人っていう意味か?逆に『汚いフレイナル』も居たのか?それとも『色欲のフレイナル』とかか?

 

 

 

 まぁ良い。奴は更生した。今はそれだけで良いのだ。我が国の宮廷魔術師に問題児は居ない。フローラは、今の所は問題を起こしていないが『同性の幼女愛好家』という不名誉な呼び名はどうなんだ?

 

 火属性魔術師達から危険人物として報告が多々上がっている。忘れてはいないが、奴等も未成年のウェラーを『我等の守護天使』とか言って信奉している。

 

 駄目だ。俺の国の宮廷魔術師や宮廷魔術師団員達も問題児ばかりだった。笑い話レベルの事だが、正常とも言えない現実に腹の底から笑いが漏れてしまう。

 

 

 

「くっくっく、あっはっははは!」

 

 

 

 悩みが笑い話レベルとは、俺の国の未来は明るいな。あとザスキアとリゼルよ。俺を変な目で見るのを止めろ。

 

 ニーレンスもローランも目を逸らすな。俺が奇行に走っているみたいじゃないか。サリアリスも、ヤレヤレみたいに首を振るな。

 

 国王とは唯一無二の存在、臣下共とは悩みのレベルが違うのだよ。その俺が笑っているのだから、未来は明るいのだぞ。

 

 

 

「よし、バーリンゲン王国の連中をこの機に地上から一掃する!皆も心して対応に当たれ」

 

 

 

 暫くは赤字が続くが、旧ウルム王国領が落ち着けば徐々に税収は上がって来るし国庫の貯えも相応に有る。国難には違いは無いが、先が見えているだけ余裕が有る。

 

 対応さえ間違わなければ、問題は発生しない。気がかりなのは、モンテローザが発見出来ない事だ。麻の様に乱れた、バーリンゲン王国領内に潜伏している事は掴んでいる。

 

 だが未だに身柄の発見も拘束も出来ないとは、既に死んでいるのか?それとも洗脳した有力者の庇護下に居るのか?奴だけは他国に逃がす訳には行かない。

 

 

 

 大陸一の大国であるエムデン王国は周囲の国々から警戒されているし、デンバー帝国とかは仮想敵国として見ている可能性は高い。そんな連中の敵対心を増幅されたら、最終的に行き着く先は戦争だろう。

 

 数年は国内の整備と滋養に当てたいので、不安要素は早急に排除したい。特別捜索隊を組織しバーリンゲン王国内に解き放つか?いや、混乱しているから藪蛇か?

 

 悩ましい。女一人、出来る事は限られると思うのだが妙な胸騒ぎが止まらないのだ。根拠の無い不安と言われたら、それだけの事なのだが……

 

 

 

 もう一波乱有る。俺の勘がそう告げている。

 

 


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