古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第959話

 僕の腹心が予定外の行動で、滞在するモレロフの街に来た。驚かされたが、状況が変化したので逆に有難い。だが魔牛族のエアレー達に牽制と思われる言動をしたりと少し様子が変だ。

 

 まさかと思うが、僕の性癖が幼女愛好家にでも変わったと思ったのか?ないない、そんな事は天地が引っくり返っても有り得ない。まだ、ミルフィナ殿との浮気を疑われた方がマシだよ。

 

 それはそれで困った事ではあるが、まだ周囲も納得出来る理由だろう。魔牛族の母性溢れる魅力に参る連中が多いのは理解した。まさかエムデン王国の貴族連中にも不埒者が居るとは……

 

 

 

 前に、ザスキア公爵が彼等の扱いについて良く検討する必要が有ると案じていたが、その通りになったよ。微妙な雰囲気で終わった宴会の後、僕に割り振られた私室にリゼルと、何故かミルフィナ殿とクリスが訪ねて来た。

 

 あと嫌々なのが分かり易い、クギュー。ルスが不参加なのが不思議だな。こういう場には喜んで参加すると思ったが、旦那に任せるって事だろうか?

 

 呼んだのは、クリスだけなのだが風紀的な?観点からの参加だそうだ。宴会ではワインが饗させていたので酔い覚ましに桃の果実水を用意して貰う。

 

 

 

「それで、今後の進め方だけど……ミルフィナ殿とクギューはモレロフの街とその周辺の維持管理、此処を最終防衛線としてバーリンゲン王国の連中のエムデン王国への侵入防止で良いですね?」

 

 

 

「当初の予定とは違いますが先任の責任者である、バニシード公爵の指示です。王都には状況の変更の報告を送って指示待ちですが、このままの状況で問題無い様にします」

 

 

 

 ミルフィナ殿とクギューを見て、彼等の今後の方針を再確認させる。それと現在行っている仕事が無駄にならない様に現状維持で話を進めると説明しておく。

 

 漸く落ち着いて生活基盤を整えようとしているのだから『また移住です!』は受け入れがたいだろう。それに思ったよりも悪くないので、このままで進める様に調整しよう。

 

 ミルフィナ殿は安堵の表情を浮かべて、クギューは少し不満が有りそうな感じだ。最終防衛線としての対応だと、殆ど手柄は無いと考えているのだろう。

 

 

 

 実際、この国境付近まで奴等が辿り着けるかは微妙だ。そしてそもそもソレスト平原は国境線だったので、自分達の後ろにもう一つの最終防衛線が有る訳だから余計に不満なのだろう。

 

 カシンチ族連合の事を信用していない訳じゃないのだが、状況はそう思えてしまう。そして本当に此処まで来れる連中は、相当の実力者だろう。

 

 先ず、少数で有る事。マジックバッグ等の物資を運ぶ手段を持っている事。何の障害物も無い場所で野営するとなれば、暖を取る火も使えず、目立つテントなども使えない。

 

 

 

 馬車など余計に無理、カモフラージュしても雨露を最低限防げる程度。体力の無い女子供では無理、故に体力の有る屈曲な者達が予想される。

 

 

 

 高位の冒険者や、軍関連なら特殊部隊とか最精鋭の連中が自分の生き残りを掛けてエムデン王国に向かって来るんだ。今は未だ領民達や一般兵士程度だが、今後は分からないぞ。

 

 今は国境周辺の街をエムデン王国が接収していると思っているだろうが、そろそろ辺境に向かうエルフ族の古老達のゴーレム擬きが国土の森林化による浸食を始める筈だ。

 

 余程の馬鹿じゃ無ければ一連の事は繋がっていると、逃げ場は、エムデン王国側しかないと考える。今は未だ権力を握っている連中には余裕が有る。精々、金になるゴーレム擬きを逃がした程度の認識だろう。

 

 

 

 だが辺境が森に浸食されてくれば、否が応でも理解する。自分達が滅びの道を全力疾走している最中だと……

 

 

 

「今は追い出された貴族や領民位しかエムデン王国側に亡命しようとは思っていないだろう。だが、もう少しすれば自分達の国が森に埋まると認識する。それからは地獄だよ」

 

 

 

 バーリンゲン王国の連中にとっての地獄の始まりと終焉だよ。絶対逃がさない、見逃さない、受け入れない、許さない、同情しない。

 

 

 

「つまり手に負えない連中が、此処まで押し寄せて来るって言うんだな?」

 

 

 

「実力の有る連中が死に物狂いで縋って来るだろう。より狡猾に図々しくね。奴等の狙いは自分達の置かれた境遇を脚色して盛り捲って被害者を装い、全てをエムデン王国の所為だと騒ぎ立てるだろう。

 

補償と賠償と謝罪と国土の奪還か、新しい国土の要求くらいは平然と言うだろう。モア教や周辺諸国に、そのような与太話が広がる事は全力で阻止する」

 

 

 

 正しい理由は、エルフ族に失礼極まりない提案をして逆鱗に触れた事。エルフ族の保護種族みたいな関係の妖狼族と魔牛族の連中に絡んだ事。

 

 自分達の能力を過信し過ぎて、『世界は自分達を中心に回っているんだ!』位は考えているのだろうな。羨ましくは無いが、何という頭の中がお花畑で一杯な連中だろう。

 

 何時までも何処までも、エムデン王国は自分達の下の存在で何をしても良いし何でもする連中だと信じ込んでいる。

 

 

 

 苦々しい思いを甘い桃の果実水と共に喉の奥に流し込む。

 

 

 

「必ず来る。連中は屑だが能力の高い連中も一定数は居る。そういう連中が自分達の命に関わる事ならば、信じられない事を仕出かすよ。他の全てを犠牲にしても自分だけ助かる様にね。

 

だから警戒は怠らずにして欲しい。幸いと言うか、この付近は荒野が多いから身を隠す場所が限られる。見つけ出すのは、そう難しくはないと思うよ」

 

 

 

 ある程度の方向性だけ指示して、後は自分達で考えて貰う。元々、此処と似たような生活環境の厳しい環境で生き抜いてきた連中だ。細かく指示をせず、任せた方が上手くいくと思う。

 

 

 

「少し地形を弄る必要も有るかもな。敢えて身を隠し易い場所を幾つか設けて監視するとか、まぁルスと相談して考えてみるぜ」

 

 

 

「まぁ任せるよ。資金や資材は要相談で、後から来るライラック商会を紹介するから頼むと良い。ある程度の予算枠は取ってあるからね」

 

 

 

 人材はお任せで、資金と物資の面倒を見れば良い。あとはライラック商会が現実的なレベルまで面倒を見てくれるだろう。ダミーの野営地は良いアイデアだと思う。

 

 それなりに条件を揃えておけば疑われないだろうし、緊張を強いられる逃亡中に気の休めそうな場所の誘惑に抗えるとも思えない。

 

 もう少しでエムデン王国領内に入れると言う安心感も、罠に掛かる率を上げてくれるだろう。一寸した身を隠せる岩陰とか小規模な林とか、人工物じゃなくても良いんだ。

 

 

 

「小さな水場、雨風を凌げる岩陰や木陰。人工物は警戒されるから、自然を装った方が引っ掛かるんだ。特に水場は重要で、各々の水場の距離関係を掴んでおけば必ず立ち寄る必要が有るから予想が立て易いのさ」

 

 

 

 周辺の水場の位置か……調査する必要が有るな。この辺りの水場の正確な位置は、国が所有する戦略用の地図にも載っていない。もとは敵地なのと国境に近いので現地での補給の必要が低かったからか?

 

 僕が何ヵ所も井戸を掘ってしまったが、地下水脈が有るのだから他にも井戸も有るだろうし水が沸き出る泉も有るかもしれないな。野生動物もいるのだから、彼等の水飲み場だって有るはずだ。

 

 限られた水場を把握すれば、そこに集まる連中を一網打尽に出来る。仮に水場に来なくても、飲み水の確保が出来なければ生きてはいけない。

 

 

 

 一般的な監視網と合わせれば、何とかなるか?

 

 

 

「人は一日に最低飲む量は決まっているし、水無しでは三日と生きられない。幾らマジックアイテムを持っていても、目減りする水の量を思えば補給したいと考えるのが普通だね」

 

 

 

 属国化した時に調べた、バーリンゲン王国の公式情報に空間創造のギフト持ちは居なかった。勿論、未登録の者も居るだろうし意図的に隠している場合も有るが……

 

 大国であるエムデン王国でも数える程しかもってないレアなギフトだが、コイツ等だと密輸に便利とか良からぬ事に利用する為に隠蔽している可能性が高い。

 

 そして財を成した連中は豊富な資金力にモノを言わせて権力を拡大していく。そういう連中が居ないとも限らないのだが、総じて詰めが甘いっていうかね。

 

 

 

 傲慢な所があるから最後まで有能で終わらないのが、バーリンゲン王国クオリティ?ははは、乾いた笑いしか出ないや。

 

 

 

「仮に一切の補給を必要としない連中が来ても、24時間動き続ける事は出来ない。休むべき場所は必要だから、何方かの監視網に引っ掛かれば良いだろ?」

 

 

 

 夜陰に乗じて移動も有りだが、月明かりだけでの移動には伴う危険が大きい。野生のモンスターの間引きって、この辺は殆どやってないんだよな。

 

 カシンチ族連合や魔牛族達は大人数での移動だったので、数の脅威で襲って来なかったのかもしれない。だが少数の移動の場合、相手の強さが分からない連中は襲ってくるだろう。

 

 同胞が野盗と化した連中は駆逐されている筈だから心配は無いと思うけど、精神的にも参るだろう。弱みにつけ込む感じになるけど、排除一択の相手に甘い事は言わない。

 

 

 

「バニシード公爵の管理下ですり抜けした連中だが、僕等も同じ様に取り逃がせば責任は此方側になる。慎重に頼むよ」

 

 

 

 バニシード公爵側のメリットが、多分コレだろう。最悪、自分達が逃がしても最後方に配置したカシンチ族連合にケツ持ちをさせる考えだろうね。リスクの分散、責任回避か?

 

 

 

「任せてくれ!ルス達も漸く落ち着ける新天地が得られたのだから、感謝の気持ちも込めて頑張るっていってるしな」

 

 

 

 クギューが両手を握り締めて意気込みを表した。まぁ任せても問題は無さそうなので、此方も安心だ。ミルフィナ殿も特に口を挟まないし、方針としては納得してくれたのだろう。

 

 

 

「はい、良く出来ましたわ。カシンチ族連合の皆様と魔牛族の方々については、問題無いでしょう」

 

 

 

 黙って聞いていた、リゼルが笑顔で締めの言葉を言った時に……クギューがビクッと肩を震わせたのだが、何が彼女を恐れされる原因なんだ?

 

 僕の知らない内に、既に上下関係が構築されているみたいなのだが?リゼルさん?彼等に何かしたのでしょうか?

 

 心の声に見惚れる様な笑顔で応えてくれたが、それは質問の回答では無いよね?誤魔化しているよね?ミルフィナ殿も目を逸らして無言だけど、誰か僕の問いに答えて欲しいです。

 

 

 

 視線だけで、ミルフィナ殿とクギューを退出させた、リゼルが身体ごと此方を向けた。見惚れる様な笑顔を浮かべているのだが、恐怖心が沸き上がるのは何故だろう?

 

 

 

「それで、ご主人様が魔牛族の幼女の角を触れる程の関係を築いた件についてですが……申し開きは有りますでしょうか?」

 

 

 

「親戚のお兄ちゃん位の関係を結べたとかかな?友愛であって、愛欲は一ミリも無いよ。と言うか、何故そっち方面で心配するのさ?」

 

 

 

 リゼルの言い分を纏めると……

 

 

 

 彼女は元はバーリンゲン王国に所属し王宮内で侍女として働いていたので、貴族連中が魔牛族をどのような目で見ていたか熟知している。

 

 実際の所、魔牛族の女性とバーリンゲン王国の男性貴族が結ばれた事は無いし、その逆も無い。それは妖狼族とも同じ。いればハーフ魔牛族やハーフ妖狼族が居る筈だし。

 

 そう思うと、モリエスティ侯爵夫人は稀有な存在だよな。エルフ族の母親を口説き落とした父親って、どんな人物だったのだろう?ハーフエルフは稀に居るな。

 

 

 

 絶対に有り得ない事だが、魔牛族の女性が幼いと言えども慎み深い彼女達が自分の角を異性に触らせる事が、先ず有り得ない。本来ならば家族か伴侶にしか触らせない。

 

 それと魔牛族の族長という立場の、ミルフィナ殿が許容している事が信じられない。同じ事をバーリンゲン王国の連中がしようとしたら猛抗議をするのに嫌がりもしない。

 

 族長と本人が認めて受け入れてしまっている事を考えれば今後の事も踏まえて、エムデン王国に移住するに当たり最上級の影響力を持つ、僕を受け入れたのでは?

 

 

 

 そういう結論に至ったらしい。クギューが恐れたのは、裏取りで事情聴取(尋問)を行った事が原因らしい。

 

 

 

「ご主人様は異性関係が、だらしなさ過ぎます。私的にはプンプンです」

 

 

 

 両手を腰に当てて、私怒ってます的な態度を取られたけどさ。君の事だから尋問する時に真実を理解しているよね?全くの誤解だって、分かって言ってるよね?

 

 

 

「いや、プンプンって擬音を口に出されて言われてもですね」

 

 

 

 彼女の機嫌を回復させる為に幾つかの約束をさせられた。可愛い交渉テクニックなのだが、この後で本命(ザスキア公爵)と大本命(イルメラさん)との話し合いが有る。

 

 その助力も、リゼルの約束の内の対価(お願い)に入っているのだが……

 

 

 

 バニシード公爵との交渉の方が、全然マシだと思うのは幸せだからなのだろうか?

 




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