古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第97話

「リーンハルト君、エレの事を本当に頼みます!」

 

「据え膳食わぬは男の恥ですよ、ちっちゃくても女だから大丈夫です!」

 

 ヘラさんとマーサさんにエレさんの事を猛アピールされた、でも彼女に手を出す事は無い。仲間としては大切だが恋愛の対象としては見れない。

 

「いや、パーティメンバーをそういう目では……」

 

「エレ、可愛くないですか?ほら、髪を上げるから見て下さい。可愛いでしょ?」

 

「男の人って若くて可愛い女の子が大好きですよね?手を出さないって変です!」

 

 凄い言われようだが、ポーラさんの影響だろうな。真っ赤な嘘だが、僕が若くて可愛い女の子限定で盗賊職を募集した事になっている。

 普通なら恋人募集みたいに選ばれたエレさんに手を出さないのは不思議なのだろう。

 しかも僕は一応だが有望視されているお買い得物件らしいし、幾ら平民は恋愛結婚が増えたとはいえ力有る者に嫁ぐ方が幸せとされている。

 エレさんを僕に勧めるのは彼女達なりにエレさんが大切なのだろう、そんな気持ちが分かるから否定出来ずに曖昧な笑みを浮かべるしか出来なかった。

 

 彼女達は三人で女子会よろしく外食に行くそうだ、誘われたが丁寧に断った。イルメラ達が夕食の準備をしてるからと……

 

 彼女達から「なんだ、妻妾同居なんですね」って言われたが誤解だぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 家に帰ればイルメラ達が玄関で迎えてくれた、わざわざ並んで邪気の無い綺麗な笑顔を浮かべてくれる。

 今日は腹黒い令嬢の笑みしか見てなかったので凄く癒されるな……

 

「お疲れ様でした、リーンハルト様」

 

「お帰り、リーンハルト君。お風呂にする?それとも食事にする?」

 

 む、兄弟戦士曰く帰宅して言われたい台詞って奴だが、それとも私にする?ってオチは無さそうだ。言われても困るけど、ウィンディアなら冗談で言いそうだな。

 

「一寸疲れたから風呂に入るよ」

 

 汚れた身体で食事をするのも嫌だから風呂に入ってサッパリするか、風呂は命の洗濯って言うし……

 

「はーい、洗い物は籠に入れておいてね」

 

「着替えは後で脱衣場迄お持ちします」

 

 至れり尽くせり幸せを感じるのだが、彼女達の連携も慣れてきたな。最初はウィンディアと同居はどうなるかと思ったが、心配しなくても大丈夫で良かった。

 

 脱衣場で汚れ物を籠に入れて浴室に入り先ずは掛け湯、そして身体を丹念に洗う。身体の汚れを流してから浴槽に浸かり足を伸ばす……

 

「ふぅ、これは幸せ過ぎて堕落しそうで怖いな……」

 

 湯を掬いバシャバシャと顔を洗って身体全体を伸ばす様にしてリラックスすれば疲れが湯に溶けだすみたいだ……

 この高待遇を当たり前と思っては駄目だ、彼女達に感謝しなくちゃね。

 イルメラが脱衣場に着替えを持ってきてくれたみたいだ、夕食を待たせては悪いし出るかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 食後に今日の出来事の報告を兼ねたお茶会をする、紅茶とウィンディアが貰ってきたパウンドケーキだ。

 驚く事にルーテシア嬢の手作りケーキだそうだ、彼女は貴族令嬢なのに孤児院で孤児達と遊んだりお菓子作りをしたりと色々と変わっているな。

 勿論、良い意味でだけど……切り分けられたパウンドケーキを一口、普通に美味いな。

 

「ナッツやドライフルーツが程よく入っていて美味しいね。武闘派の彼女からはイメージ出来ないや」

 

 彼女は一度しか見せていないゴーレムの技、刺突三連撃を実際に真似てみせる程の武人だからな。

 

「ああ見えて結構乙女なのよ、大抵の男共はルーテシアより弱いから卑屈になるけど本来は黙っていれば何処へ出しても恥ずかしくない貴族令嬢なの」

 

 自分の事の様に誇らしげに語っているけど、黙っていればは余計だろう。確かに口を開けば、うっかりさんみたいだが……

 

「ウィンディア、黙っていればって何気に酷いぞ。でも確かに普通の貴族の子弟じゃ彼女には勝てないだろうな」

 

 彼女の夫は大変だと思うが政略結婚だろうから織り込み済みだろう、ルーテシア嬢を射止めるのはデオドラ男爵の後継者となる事だからね。

 

「うん、デオドラ男爵様曰く武の才能は子供達で一番らしいわ」

 

「それはそれは……それで指名依頼の日程聞いたかい?」

 

 まだ荒削りな感じだったけどデオドラ男爵が認めるならばそうなのだろう。

 惜しいな、男ならば大成出来る素質を持ちながら政略結婚の駒となるなんて……

 

「明日と明後日なら平気だって、屋敷の方に来て欲しいそうよ。リーンハルト君には悪いけど模擬戦でリベンジだって騒いでた、デオドラ男爵様とアルクレイド様が……」

 

 戦闘狂のデオドラ男爵だけでなくアルクレイドさんまで?デオドラ男爵一族って……

 

「そんな顔をしないでよ、私じゃ立場上断れないのよ」

 

 申し訳なさそうにうなだれるウィンディアに慌てて弁解する、彼女の立場で意見など言えないのは分かり切ってるじゃないか!

 

「うん、分かってる。じゃ早めに済まそうか、明日伺おう。僕の方は四日後から三日間、泊まり掛けになると思うがバルバドス様の屋敷に行ってくるよ」

 

 二人と模擬戦となると午前中は潰れるだろう、昼食をご馳走になって『ブラックスミス』には午後からになるな。

 パトロンとして政略結婚の押し売りを潰してくれているので無碍には出来ないのが辛いが、ゴーレムの運用向上には高レベルの二人は最適な相手だ。

 

「いや、デオドラ男爵との模擬戦は僕も得る物は多い。あのお祭り騒ぎは微妙だけどね……」

 

「リーンハルト君がデオドラ男爵様に毒されて来た?」

 

 ウィンディア、君も十分に染まってるよ。

 

「命の心配無く短時間とはいえ格上と戦えるんだ。僕は戦闘狂ではないが、遠慮なくゴーレムを仕掛けられるなら大歓迎さ。

それにパトロンであるデオドラ男爵に僕の成長を見せる事は必要だよね」

 

 有能である事を示してこそ、パトロンとして色々と配慮してくれるんだ。不要と思われれば切られても仕方ないのが今の僕の立場だから……

 

「最強不敗のデオドラ男爵様と戦うのを嬉しそうに語ってるのよ、十分戦闘狂だよ。ねぇ、イルメラさん?」

 

 終始笑みを浮かべて無言のイルメラを見る。

 

「武闘派の重鎮、デオドラ男爵もリーンハルト様にとっては訓練相手でしかないのですね?流石です」

 

 尊敬の眼差しで見詰められても困るのですよ、イルメラさん!

 

「違う、誤解を招く言い方は禁止だ!」

 

「事実上、最近デオドラ男爵様と引き分けたのはリーンハルト君だけだもんね。

ウチのリーダーはデオドラ男爵様でもゴーレムの為の訓練相手なのか……そこに痺れるし憧れるわね」

 

 ニヤニヤしやがって、勘違いなのを理解した上で言ってるな。

 ウィンディアの悪い癖は他人をからかう事だ、彼女の性格を理解していれば笑って済ませられるが違う場合は恨みを……

 ああ、忘れてた。彼女は親しくない相手には猫を被る強かさんだったよ。

 

「はいはい、僕は魔法狂いのゴーレム大好き魔術師で良いから。折角だから僕とウィンディア、デオドラ男爵とアルクレイドさんの組合せで模擬戦しようか?」

 

 彼女との連携が向上するから悪くない組合せじゃないかな?

 

「嫌よ、絶対に嫌!」

 

 本気で嫌がってるけど訓練としては有効だ、今度提案してみるか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 良く晴れた空、爽やかな風、周りを囲む観客達、木陰から僕を見詰めるアーシャ嬢……

 

「楽しいな、リーンハルト殿。遠慮は要らぬ、全力で来い!」

 

 20m向かいには完全武装のデオドラ男爵が猛禽類を思わせる笑みを浮かべている。

 

「お父様ったら子供みたいにはしゃいでるわ」

 

「全くだ、大人気ない」

 

「リーンハルト君、頑張って」

 

 僕の後ろにはジゼル嬢、ルーテシア嬢、それにウィンディアが並んでいる。

 

「玄関から中庭に直行ってさ、貴族的にどうなんだろう?ねぇ、ジゼル様」

 

 先ずは依頼書の取り交わしとか色々有ると思うんだよね。

 

「リーンハルト様の成長振りが楽しくて仕方ないそうですわ。

ゴーレムポーン三十体同時制御に6mを越えるゴーレムルークを錬成なされたと聞いてます、私も婚約者として嬉しく思いますわ」

 

 思わずウィンディアを見詰める、目を逸らされた。 秘密にする事は頼んでるので、それ以外の事を報告するのは構わないのだが……

 目撃者も多く隠し切れないのだし、申し訳なさそうな顔をするなと言いたい。

 

「ウィンディア、気にするな。何れ分かる事だ」

 

 今は模擬戦に集中しなければならない。

 

「では、遠慮無く全力で行かせて貰います」

 

 空間創造よりカッカラを取出し一回クルリと回す、先端に付いた宝環がシャラシャラと澄んだ音を奏でる。

 

「クリエイトゴーレム!集団戦の妙技をお見せしましょう」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ウィンディア、気にするな。何れ分かる事だ」

 

 私がリーンハルト君の情報をデオドラ男爵に教える事に少し引け目を感じていた、私はその為に彼のもとへ遣わされたのに……

 でも、その一言で救われた気がした。

 

「婚約者の私よりウィンディアに配慮するなど、殿方として減点ですわね」

 

「全くだ、しかし今回は彼の本気が見れる。楽しみだな」

 

 そうだった、対外的にはジゼル様が婚約者だったんだ。少しだけ心が痛む、見せ掛けだけの婚約者なのに……

 リーンハルト君が集団戦の妙技と言った、カッカラの一振りで大量のゴーレムポーンが錬成されていく……何時見ても早い、三秒と経たずに横並び八体ずつ三列で合計二十四体のゴーレムポーンを錬成した。

 全部がロングソードとラウンドシールドを装備している。

 

「突撃!」

 

 整然と走りだすゴーレムポーン達だが、デオドラ男爵様は落ち着いている。

 

「今日は俺も最初から全力だ、食らえ斬撃波疾走!」

 

 手に持つロングソードは一番威力の高い魔法剣『煉獄』だわ、デオドラ男爵様の本気が分かる。

 一振りするだけで衝撃波を飛ばす事が出来る必殺技、最前列のゴーレムポーンが切り刻まれて……

 

「ふん!対空戦が出来ないと思うなよ」

 

 ラコック村で見せたゴーレムの背中を足場に飛び掛かるが、『煉獄』の一振りで衝撃波を飛ばせるデオドラ男爵様は思った以上に手数が多いわ。

 飛び上がった八体を全て迎撃してしまった、なんて不条理な……

 

「ふはははは!中々やるがマダマダだぞ」

 

「接近する事が目的だ!」

 

 確かにデオドラ男爵様の周りには壊れたゴーレム達が周りには溢れて……いない?壊れた端から修理されて全体数は減ってない。

 

「囲め、円陣!二重の包囲網を破れますか?」

 

 前回と同じ、でも今回は数が違う、内側に八体外側に十六体ものゴーレムポーンによる包囲網を作り上げたわ。

 ロングソードから槍に持ちかえた内側のゴーレム達が遠慮なくデオドラ男爵様を攻撃する。

 しかも今回は外側のゴーレム達も順番に内側のゴーレムの背中を足場にして、デオドラ男爵様に飛び掛かって行く。

 全方位から繰り出される槍を躱し、頭上から飛び掛かってくるゴーレムを切り伏せる。

 目が爛々と輝き口元に凄惨な笑みを浮かべ始めた、危険な兆候よ!

 

「何と立体的な攻撃、だが負けんぞ。食らえ『五月雨(さみだれ)』、包囲網を食い破れ!」

 

「お父様が秘技『五月雨』を使うなんて……」

 

 五月雨は一度に複数の衝撃波を飛ばす制圧用の大技、故に出した後に若干の隙が生まれる。

 

「障壁よ!」

 

 その隙を術者であるリーンハルト君に直接攻撃をする事で制御を乱した?

 

「お父様の『五月雨』が簡単に防がれた!馬鹿な、鋼の鎧も断ち切るんだぞ」

 

 ルーテシア、突っ込み場所が違うでしょ!命の心配無くって嘘じゃない!デオドラ男爵様もリーンハルト君もガチで相手を倒しに行ってるわよね?

 

 私の心配をよそに動きを止める二人……

 

「今回も引き分けでしょうか?」

 

「ああ、今回も引き分けだな!」

 

 ニヤリと笑い合う親子程の歳の離れた男達を見て思う、アンタ達は絶対に似た者同士だ!

 


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