Fate/GrandOrder 異邦の小鬼殺し   作:痩せた骸骨

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小鬼殺しの日常:②

「という訳なんです」

「それでローマにレイシフトしたいのか」

「そうだ」

 

 観測機シバの調子を見ていたゆるふわな雰囲気の職員──ロマンに事の経緯を説明をしていた。

 ゴブスレは隅に座り込んで所持していた道具を広げ、一つ一つ調べていた。

 

「ネロさんから頼まれたのでレイシフトの準備をお願いします、ドクター」

「立香ちゃんやマシュが一緒に行くなら問題ないよ、むしろそうしてくれないと色々困るよ」

 

 ゴブリンスレイヤーを見ながらため息をつき、表情を緩ませながら立香に向き合った。

 

「彼の手綱をしっかり握ってくれればこっちも安心できるよ」

「いつも一人で行動するからね」

 

 なにをやらかすのか読めないゴブリンスレイヤーの手綱を握ることは容易ではない。

 たった一人でレイシフトしてゴブリン退治をしに行ったこともあって、ロマンとしては気が休まらない心境だったのだろう。

 

「……イヤな事件だったよね」

「ドクター、事件とは?」

 

 ロマンが遠い目をしながら疲れたように頷いた。

 寝てないのか、疲れが癒えてないのか分からないけど、あんまり無理して欲しくないかな。

 

「彼がやり過ぎたことの後処理をしていただけで、気にしなくていいよ」

 

 ロマンがマシュの質問をはぐらかしていたとき、此方に来る足音が響いてきた。立香が振り向き、足音の主が笑みを浮かべて手を振りながらロマンの方に向かった。

 

「ゴブリンスレイヤー君がやっちゃった事件は置いといて、こっちの準備は万端だ、いつでも行けるよ」

 

 レイシフトの準備を終わらせて来た長い黒髪の絶世の美女──ダ・ヴィンチは報告をした。

 

「やあ立香ちゃん、マシュ、おはよう」

「おはよう、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 いつものミステリアスな笑顔のダ・ヴィンチと挨拶を交わした。

 

「おはようございます、ダ・ヴィンチさん」

「元気よく挨拶するのは良いことだ。笑顔を絶やさなければ、自然とやる気が出てくるからね」

 

 いつもの挨拶をした後、ダ・ヴィンチちゃんはロマンの所に行き、私とマシュは座り込んでいるゴブスレが何をしているのか、気になって歩み寄った。

 

「何してるの?」

「装備と道具の点検だ、怠るわけにもいかん」

「ゴブリンスレイヤーさん、サーヴァントの武具は壊れにくい筈ですが」

「万が一が起こることもある、油断すれば死ぬ」

「ゴブリン退治なのに、少々物々しくないですか?」

「準備を怠って良い理由にはならん、奴等は馬鹿だが間抜けじゃない」

「小鬼でも知恵を回す、ということでしょうか?」

「そうだ」

 

 ──馬鹿なのに間抜けじゃない。頭は悪いけど考えなしだと思っちゃいけないということか。

 ゴブスレの用意周到な準備と格下だと見くびらない用心深さに、どれほどの修羅場を潜り抜けてきたのか想像もつかない思いだ。

 なにが彼をそこまで駆り立てているのだろうか。

 

「ゴブリンスレイヤーでも、命懸けなの?」

「そうだ」

 

 あっさりと、簡潔に言い切った彼にかける言葉が見つからずにいた。短い間だがゴブスレの言葉には冗談もウソもない剣呑な雰囲気を感じた。

 マシュと私がなにも言えずにいるとダ・ヴィンチちゃんがゴブスレに歩み寄ってきた。

 

「ゴブリンスレイヤー君、おはよう」

「ああ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが彼に挨拶をしていた。

 短いながらも挨拶をしたが、ダ・ヴィンチは不服だったのか、徐にゴブスレの兜を掴んで頭を力ずくで顔を向かせた。

 

「ゴブリンスレイヤー君、おはよう」

「……おはよう」

「よろしい。挨拶は大事なことだ、一日が始まるという自覚が生まれてくるものだ」

「そうか?」

「そうだとも」

「そうか」

 

 満足したのか、兜から手を離したダ・ヴィンチは頷いき、ズレた兜を直したゴブスレは此方を向いた。

 

「準備は終わったか?」

「マシュ・キリエライト、準備を整えました」

「私も準備できたよ」

「そうか」

 

 レイシフト準備の確認をとり、あとは起動するだけ。

 ロマンとダ・ヴィンチにそう伝えると。

 

「それじゃ私とロマンはオペレーションルームに戻るよ、気をつけてローマのお土産を買ってきてよ」

「観光旅行じゃないんだから、それは控えてね」

「ついでに助っ人も呼んでいるから安心したまえ」

 

 茶々を入れつつダ・ヴィンチはロマンと一緒に入り口から退室していった。

 

「助っ人?」

「誰なんでしょうか?」

 

 緊張感が高まる最中、再び機械音を響かせながら入り口のドアが開いた。

 潜り抜けて来た人物はよく知っているキャスターだった。

 

「ようお嬢ちゃんたち、またローマに跳ぶんだってな」

 

 オークの杖を携えた美丈夫──クー・フーリンが上機嫌に訪ねてきた。

 面白いことがあったのか、いつも以上にテンションが高い。

 

「助っ人ってクーフーリンだったんだ」

 

 心強い助っ人の登場に立香とマシュは頬が緩む思いだ。

 かつて特異点Fにて共に戦ったサーヴァント、彼の助けがあったからこれまでの人理修復を成すことができた。

 

「クーフーリンさん、こんにちは」

「おう、あの兄ちゃんに頼まれてな、今度は何しに行くんだ?」

「ゴブリンスレイヤーさんのゴブリン(小鬼)退治の手助けに行くところです」

「ゴブリン? あの性悪なゴブリン(妖精)か?」

 

 頭をかきながらキャスターは疑問を投げ掛けた。

 

「そうだ」

「そりゃまた難儀だな、あの性悪どもの退治とはね」

 

 困惑した顔を浮かべたがクー・フーリンはゴブスレを見ながら訝しんだ。

 ゴブリンにいまいち不安を感じないが、油断していい相手ではないことを立香は感じ取っていた。

 

「ゴブリンってそんなに強いの?」

「いえ、それほど強くはないですよ先輩」

「そうなんだ?」

「はい、少なくともサーヴァントが一人いれば十分安心なはずです」

 

 ゴブスレが退治する案件は人理の危機とは違うが、ネロが困る事態になっているのなら放っておけない。

 立香が人知れずに拳を握り固めていると。

 

「来るのか?」

「マスターが出向くってんなら、オレも付いていくぜ」

「そうか」

「お嬢ちゃん達の成長も見れて暇も潰せ、両手に花付きの仕事とくりゃ、一石三鳥ってなわけだ」

「そうか」

 

 男二人の話しも一段落ついたらしい。

 レイシフトに参加するのは四人。ゴブスレとクーフーリンが来てくれるだけでも心強い。

 ローマの地に何が起こるかわからない、いつもの手探りでゴブリン退治をすることにまだ不安が付き纏う。

 

「一石三鳥……とは言うが」

 

 ふと、ゴブスレが何かに疑問を持ったようだ。

 

「石ではなく、弓矢で射ち落とした方が早い」

 

 少なくとも一羽は確実に落とせると、ズレた事を仰ったゴブスレにクーフーリンは肩透かしをくらい、眉間に皺を寄せてていた。

 

「……お前さん、ことわざって知ってるか?」

「知らん」

 

 皮肉を一刀両断してゴブスレは荷物を纏め始めた、武具の具合を触り準備を終わらせて此方によってきた。

 ふとゴブスレは足を止め、腕を組んでいた。

 

「今のがそうか」 

「一石三鳥か?」

「ああ」

 

 今ことわざの事を分かったのか、ゴブスレは得心して頷いていた。

 

「正確には一石二鳥です、クーフーリンさん」

「細けぇことは気にすんなよお嬢ちゃん」

 

 おいキャスターそれでいいのか、キャスターなのに細かいこと気にしなくて良いのか。

 指摘したマシュの肩に手を乗せて、笑って誤魔化すつもりだ。

 

「正確な情報は必要だ」

「間違えて覚えていたら恥ずかしいしね」

「特に、ゴブリンの事は詳しく知る必要がある」

「ゴブリン以外の事は?」

「興味がない」

 

 なぜだろう、仕事一筋の駄目な人に感じてきた。

 立香がため息をして肩を落としていたがゴブスレは気にすることなく、部屋の中央にあるカルデアスに向かって行った。

 

「それじゃ行きますか」

 

 立香が振り向き、マシュとクーフーリンは頷き答えた。

 

「いつでも行けます、先輩」

「どれだけ腕をあげたか、期待するぜマスター」

 

 二人の反応に立香は強く頷き、ローマへとレイシフトするためにカルデアスへと向かって行った

 召喚して以来のゴブリンスレイヤーを伴った初レイシフト、小鬼殺しが危惧するゴブリンとは何者なのか。

 立香達三人はこのときまだ知るよしもなかった。

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