ギャラルホルン火星支部所属のクランク・ゼント二尉は言いようのない不安が胸中を占めていた。
例えるなら家のガスの元栓を閉めたかとか、母親に部屋の掃除を勝手にやられてベッドの下に隠してたちょっと見せられない本を見つけられたかもしれないというような不安が。(注意、これらは作者の例えであってクランクさんはもっと真面目な例えができます)
そしてコーラルから民間の警備会社を襲撃してクーデリア・藍那・バーンスタインの捕縛を命じられた時は更にその不安が大きくなった。
はっきり言うとこの任務は新入りのアインが一緒にいなければ今すぐ投げだしたくなるようなほどに。
だが、不安は的中する。72番目の悪魔が目の前に現れたことで。
それほど離れていない距離、クランクとアインのグレイズを前に足元には無数のモビルワーカーの残骸が転がり佇む隻腕のMS。
「アイン!正面は俺がやる。背後から挟みこめ!」
『了解!』
○
「おー?見たことの無いMSデスネー。HALOわかりますカ?」
「特徴を検索!ヴァルキュリアフレームに酷似!ヴァルキュリアフレームに酷似!」
「なるほどデス。じゃあやりますカ!」
左腕がない。だがそれがどうした?とばかりにミカはアンドロマリウスを稼働させる。
「食べ応えあることを期待しマース!」
獣のように屈み、ガンダムフレームのツインリアクター特有の高出力を利用した瞬発力で勢いよく突撃し、背部の格納している3対6基のウィングブレードを2基射出しお手並み拝見といった様子で蛇が地面を這うように2機のMSへと攻撃を放つ。
そこまで殺意の乗せた攻撃ではないため、簡単に片割れは避けるが片方は避けきれずに頭部の装甲を剥がされ、センサーが露出する。
「後ろは動きがまだぎこちないデスガ。左は結構慣れてますネ」
「アナタを
熱の孕んだ笑い声を上げ、アンドロマリウスは応えるようにツインアイの光を強く発光させた。
○
「ヌゥ!」
スラスターかと思っていたユニットから突然飛び出てきた武装にクランクは驚愕しつつ、すぐに最小限の動きでその攻撃をかわし距離を離そうとしたが、不明機は狙いをクランクに定めたのかアインのグレイズを無視して一直せんに突進してきた。
「チィ!」
すぐに距離をとることをやめ、ライフルを投げ捨て近接武装のアックスを装備し近接戦闘を開始する。
「むふふ〜、なかなか反応はいいですネー。なら次はこれデース」
片腕がないという決して小さくないハンデを負いながらも、愛機を駆るミカの表情は余裕そのもので寧ろ楽しんでいた。
蹴りやパンチだけの格闘にウィングブレードを追加する。クランクはそれを盾やアックスを用い長年のパイロットとしての勘と経験を活かし必死に捌き続ける。
「そのような骨董品のMSでギャラルホルンのグレイズを!!」
そしてそれをどうにか援護できないかアインはライフルの銃口を向けるが、ミカはクランクのグレイズを射線に被るように立ち回り2対1という不利な状況を擬似的なタイマンに持ち込んでいた。
「(強い──!!)」
短い間に武器を交え、クランクの頭に浮かんだ言葉はそれであった。
クランクはエースというほど実力はないが、パイロットとしての期間は長く教官にも任命されるほどだ。
自分と目の前のMSに乗る実力差も途轍もないくらい離れていることに。恐らく相手は手を抜いているだろう。事実、ワイヤーで繋がっているブレードは背部のユニットに格納されているのを見ても残り5本もあるというのにそれを使わず1本だけしか使わないのが何よりの証拠だ。
「アハハ!いいですネー!ちょっとだけ物足りないけどお遊びはおしまいデース!!」
「ぬぅ!!?」
これ以上は時間の無駄と思い、ミカは最後にクランクのグレイズを蹴り飛ばし地面へ転がすとウィングブレードでフレームごと腕部を突き刺し、もう片方の腕を足のシザークロウで固定し内蔵されていたパイルバンカーを打ち付け、地面へ縫い付ける。
クランクは激しい揺れに頭を打ち付け、少しだけ意識が飛びかけた。
「それじゃあ、オシマイデス」
ガシャン、右腕部の武装が上下4本のサーベルタイガーの顎のように展開すると、その先端が高速振動し始めた。
そしてゆっくりとソレをコクピットへ近づけクランク諸共破壊しようと近づけるが・・・・
「ッ!!」
瞬間、アンドロマリウスの胸部装甲にアックスが突き刺さりコクピット内部に激しい揺れが襲いたまらずアンドロマリウスの体勢が崩れる。
「チィ!! 一体なニ!?」
少女がその端正な顔を歪め、睨みつけるとそこには投擲した体勢のアイン機がいた。
『大丈夫ですかクランク二尉!?』
「ぬぅ・・・ すまんアイン」
『いえ!それとクランク二尉。オーリス隊長はクーデリア・藍那・バーンスタインの確保に失敗、突如現れたMSの攻撃に戦死した模様です・・・』
アインの通信により、クランクは自分の教え子に少しの間だけ瞠目し口を開く。
「作戦は失敗。これより帰投するぞアイン!」
『ハッ!』
クランクも近くに落ちていた自身のライフルを拾い上げ、アインと共に弾幕をアンドロマリウスへ広げスモークも焚き脱兎のごとく逃げ出す。
「逃げんなァ!!」
「レールキャノン展開!レールキャノン展開!」
ガシュン! ミカが叫ぶと背部のウィングに内蔵されていた二門の大口径レールキャノンが展開し、狙いを2機へ定めその砲門から2発の砲弾が発射された。
空気を引き裂き、途轍もない加速によりマッハともいえる速度でソレはクランクとアインのグレイズのすぐ横を通り過ぎその余波でアインのグレイズの片腕をもぎ取ると先の地面を勢いよく爆発させた。
「チッ、外しましたカ。追いかけようにもアンドロマリウスがボロボロ・・・・ 仕方ないデス。今回は見逃しマース」
ミカは不満げに眉をひそめながら2機が帰投するのを見送り後ろ姿が見えなくなるとその視線をこちらを見ていたバルバトスへ向ける。
『あの白いのってどうするオルガ?』
『おそらく味方・・・ だと思うから一応通信しておけミカ』
『わかった』
バルバトスのコクピット内部、三日月・オーガスはオルガへと短く会話をすると目の前のバルバトスと似たMSへ通信を送る。
『ねえ、アンタ。誰?』
「人に尋ねる前にそちら側が教えて欲しいのデスガ───。コホン、私は"ミカエラ・
「HALO!HALO!」
ヘルメットを外し、その中から長くしっとりとした艶やかな黒髪が露出し、深海のように蒼い瞳、小さな蕾のような唇を薄く笑わせミカエラ・カイエルは答える。
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歳星にて登場するアンドロマリウスの新装備案
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近接攻撃型
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遠距離砲撃型
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電撃強襲型
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強行偵察型