すまぬ……すまぬ……
「クソッ!」
後ろから迫ってくる足音に思わず毒づいた。
ドッ! ドッ! ドッ!
激しい音が近づいては少し逸れ、また近づく。本当に猪相手にジグザグに走る戦法が効くとは思わなかったが、嬉しい誤算だ。おかげでなんとか生き残ることができている。
しかしそれも体力の消耗によって危うくなってきている。速いとこ解決策を見つけないとしめやかに爆発四散することになるだろう。
使えそうな物は懐にいれてあった予備の短剣と体に巻きつけていたロープぐらいだ。それ以外の物は落ちた時にどこかに飛んでいってしまった。
……まったく倒せる気がしない。しかも逃げてる途中に気づいたが尋常ではない回復能力を持っているようで、脳天に深々と枝が刺さっても平然としていた。
まじで詰んだんじゃないか? しかも逃げながらもっとヤバげな化け物も見かけたし、こいつを倒してもまた別の化け物と追いかけっこをする羽目になるはずだ。
一応これも逃げている途中に見つけた、黒い塔のようなものの方向に逃げているのだが、距離が遠すぎるようでたどり着ける気配がない。
「ん? あれは?」
何かの鎧のような物が木に立て掛けられているのに気づいた。しかしその瞬間、気が緩んだのか猪の突撃を躱しきれず牙が擦ってしまった。
「ガッ!!」
痛い! 痛い! 痛い! 痛い!
その傷から凄まじい痛みが走り、じわりじわりと俺の中に侵食されているような感覚に陥る。失いそうな意識の中、半ば無意識に鎧に向かって走り続ける。
ジグザグに走るなど一切考えられず、足をもつれさせながらひたすら一直線に鎧目掛けて走り続ける。その間にも俺の中に入ってきた何かは血管を廻り、全身を蝕み、着実に俺という存在を変質させている。
鎧の目前まできたその時、痛みと何かによって意識が濁り、自分の輪郭がぼやけ始めた。まずい、と思うが時すでに遅く、俺の体はバランスを崩し、前のめりに倒れ込んだ。
立ち上がろうにも何かによって蝕まれた腕は自分の意思に関わらず痙攣し、上手く力が入らない。もはや生きる気力もなくなり、走馬灯をぼんやりと見ながらただただ迫る足音を聞き続ける。
理性では自分の死を理解し、生を諦めた。しかし、脳にまで侵食した何かが生存本能を激しく刺激し、宿主を生かさんと脳内にけたたましい警鐘を打ち鳴らした。
(体が……熱い)
体が火が灯ったように熱くなり、手足に力がこもった。不思議もので、力が入るとともに思考すらも自分が生き残ることだけを考え始めた。
とはいっても強力な力が宿ったわけでも巧妙な策を思い付いたわけでもない。あと数秒で俺の命はあっけなく散ってしまうだろう。
そこまで考えたところで手のうちに硬いものがある感触があることに気づいた。
そこからは完全に無意識だった。手にあったそれを全力で握りしめ、すぐ背後にまで迫っていた猪に向かって突きだした。
猪の脳天にそれが刺さったと思った瞬間、認識できないような速度で木に叩きつけられた。メキメキという音が体と木から鳴っている。もはや手足は砕け、その原型を微かに残すのみになっている。
しかし、
「や……た……」
霞んだ視界に血を吹き出しながら崩れ落ちる猪の姿が映っていた。
それから視界が回復するまで待ってみても、猪は何故か再生する様子もなく血を流し続ける。
本当に終わったんだな……。
安堵に意識を失いそうになるもなんとか
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
自分が自分でなくなっていく感覚に耐えられず、猪に刺さっていた黒い短剣を引抜き、自分の首筋におもいっきり突き刺した。すると凄まじい速度で血が抜けていくと共に変異が鈍くなったように感じた。
どんどん強くなっていく寒気を無視して自分の体に「俺」そのものの付与を行い始める。死ぬ間際ぐらいは人でありたい。先程とは真逆の意志でひたすらに付与をかけ続ける。
少しずつ薄れていく意識のなか、ゆっくりといつも通りの体に戻っていくのが目に入った。意識を失う寸前、最後に見えたのは「人間」としての俺だった。
執筆中作品のページに15作品くらいある馬鹿の鑑が今ここに
……(待っていた人がいたかは別として)遅れまくって本当に申し訳ありませんでした。