ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~ 作:零八式
MS社管轄 極秘格納庫
「くっふっふっふっ……ようやく儂の出番が来たようじゃな!!」
ライトアップされた極秘に隠された格納庫の中で、灰色の髪を揺らしながら純白のロリータ服に身を包んだ小学生くらいの少女は、目の前に鎮座するメンテナンスの終わったガンメタリックの戦闘機を見ては不敵にほくそ笑んだ。
少女の名はリューコ。この目の前に鎮座するガンメタリックカラーの特徴的な前進翼が採用された対ザイ用にチューニングされたドーター、旧オーレリア連合国群の遺産、X-02S ANM ストライクワイバーンのアニマだ。
この目の前にある機体は現代においてもオーパーツとも呼べるほど既に完成されていた設計とは言え、元の設計された時期が40年前という事もあり、機体を構成する構造材等には旧式の技術が使われていた。それをドーター化に際して根底から最早一から製造したのと変わりないとも言えるレベルで手を加えられており、日本の那覇基地のバイパーゼロもかくやと言った機体に仕上がっている。
「行くのね、リューコ」
「ロシアの純白娘の根回しの事もあるし、向こうにいた方が何かとお主らにとっても都合が良いじゃろうて」
またあの小生意気な小娘の鼻っ柱を演習という名のもとに叩き折ってくるとするかねぇ、と、リューコは黒い笑みを浮かべる。以前演習の
「思えば、あなたと出会ってからもうすぐ二年。早かったわねぇ」
リューコの横に立ち並んでいた、相も変わらず奇天烈な民族衣装を纏った隻眼のMS社の社長はしみじみと名残惜しそうにそう呟いた。
「世話になったな、社長。共に尽力を尽くそう。
「えぇ、そうね。
リューコは社長に別れを告げると、自分の身長の半分以上の大きさのキャリーケースを引きずって、機体の後部座席に放り込むのであった。
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日本 石川県小松市
「-----と、言ってみたは良いのじゃが……」
日本に来日したリューコはリボンで飾られたつば広帽で日光を遮りつつ、その額に汗をかきながらぐったりと前に進む。全身に纏った自慢の高級シルク製ホワイトロリータ衣装が今は汗で地肌にベットリとへばり付いており、それが動きづらさを更に増している。
「あづぅぅぅぅぅい……どうして日本の夏は、こう蒸し暑いのじゃぁあああ……」
折り畳み式の扇子で自身を仰ぎながら、リューコは天を仰ぐ。
機体を現在小松基地で厄介になっているファルケンの補修パーツのコンテナに偽装して自衛隊基地に搬入させたまでは良かったのだが、リューコはこれからMS社が用意したアニマ用の遠隔メンテナンス装置が運び込まれたセーフハウスに行かなければならない。携帯に表示された地図を見る限り、そこまではまだかなりの道のりがある。
そして、いかんせん着ている服装がまずかった。いくら通気性の良いシルク製とは言え、地肌を殆んど露出させていないその恰好は、梅雨が明けたばかりの日本特有の湿度が高く蒸し暑い環境には不相応だった。
「何か、飲み物でも買うとするかのう……」
リューコはポシェットから財布を取り出すと手近な自販機に近づき、小銭を入れると一番上の列にある好物のコーラを押そうとする。しかし……
「ぐぬぬ……っ!!」
背伸びしても届かない、飛び跳ねても届かない。何度跳ねても、助走を付けて跳んでも、自販機にビターンと激突する、届かない。身長が、圧倒的に足りない。
「こんのぉ……こうなったら――――」
「何やってんだ、嬢ちゃん?」
自動販売機に対して闘志を燃やしていたリューコに対して声をかける人物がいた。後ろに待ち人がいたかと思いハッとしてリューコが振り向くと、そこにいたのは尖んがった金髪の少年、イオだった。丁度実家の裏庭の畑の様子を見に行った後に前回の出撃で得た報酬金で何か買い物をしようと外出している途中だったのだ。リューコは彼を先日送られてきた報告書に添付されていた写真で見たことがある為、すぐに分かった。
イオは近づくと、事情を察してか目線をリューコに合わせて話しかける。
「あぁ、届かないのか。どれが欲しいんだ?」
「こ、コーラ……ゼロカロリーの奴」
「了解だ」
イオは笑うと、お金を入っているのを確認してからゼロカロリーのコーラを押し、出てきたソレをリューコに手渡す。
その構図は、まるでどこかの国の姫君に贈り物を献上する騎士の様に見えなくもない。
「ほいよ。ご所望の品だ、お姫様」
「こ、子供扱いするでないわ、若僧が……だが丁度良い。おいお前」
「な、何だよ……?」
リューコはくっくっくっとほくそ笑むと、イオの鼻先に閉じた扇子を突きつける。
まるで、丁度いい獲物を見つけたと言った様な、そんな含みのある笑いだった。
「特別誂えだ。貴様を今日一日、儂の家来にしてやろうぞ!!
「え? 何で、俺の名前を……?」
「悪いが拒否権は無いぞ。儂は社長と付き合いがあるのでな、貴様をクビにする事も出来なくはない」
リューコはイオの問いには答えず、ただひっひっひっと老婆の様にほくそ笑むと、まずは荷物を持てと言い放つのであった。
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そしてしばらく経った頃、リューコのセーフハウスであるアパートの一室にどうにかして荷物を運び終えたイオは、今度は彼女の買い物に付き合わされていた。
汗だらけのホワイトロリータ服は着いて早々に脱ぎ捨てたものの、持ち合わせの予備の服は全て似たような物ばかりで、このままでは先程の二の舞だ。
そこで今度はイオにクビをチラつかせながらも強引に小松市内のショッピングモールへ案内させると、袖の無い薄手の白のワンピースを購入し、その他にも様々な服屋や靴屋を見て回り、昼下がりにはカフェテリアに連れ込んでいた。
「ここまでよくぞ儂の為に働いてくれた。褒美を取らせようぞ、
「いやー、あの。流石に申し訳ない気が……」
まるで女王の様にふんぞり返る少女のその姿に、イオのいつもの不躾な態度はどこか鳴りを潜めていた。雰囲気に呑まれた、とも言うべきか。
いくら相手が自分の雇い主である会社の社長の知り合い(正しくは同企業最高企業秘密なのだが)とは言え、見た目はどう見ても小学生である。
そんな子供にしか見えない少女に奢ってもらう高校生など、情けないにも程がある上に本人にその気が無くとも犯罪の香りしかしない。
「過ぎた謙遜は嫌味にもなろう、分を弁えよ。どれ、ここは一つ、儂が頼んでやるとするかの」
リューコは店員を呼び止め、イオには無難なサンドイッチとコーヒーのセットを、そして自身の分として特盛のパフェを注文する。
しかし、注文を待っている間、イオは彼女にとある国の逆転劇について延々と聞かされていた。やれ二か月で壊滅した国土を戦闘機一個小隊で取り戻しただの、光学迷彩の付いた戦闘機の相手をしただの、
イオとしては勘弁してくれ……と言った感じでグッタリしているのだが、その様子を後ろからつまらなさそうにジト目で見つめる人物がいた。
「ジーッ……」
「どうした、ライノ?」
握っていたコーヒーの入ったカップを危うく握り潰しそうになりながら、ライノは慌てて「なんでもない」と一緒に昼食をとっていたゾーイの方へと向き直った。
この二人に関しては現在日本の管轄指揮下では無いため、比較的自由に町内に繰り出せるのだ(門限こそあるのだが)。
彼女らも気晴らしにとショッピングに出掛けていたのだが、今日は実家に帰るから会えないとばかり思っていたイオとの思い掛けない再会である。それも、向こうはどこの馬の骨とも知れない謎の灰色髪の幼女を連れて。
ライノはそれをつまらなく思ったのか、遂に行動に走った。
『ゾーイ、振り向かないで。君から見て七時、何が見える?』
今しがた来たパンケーキを写真で撮る振りをしながら、ライノはメールでゾーイに促す。
それを読んだ彼女は、皿を持ち上げて可愛らしくポーズを決めるライノの写真を撮る振りをして、携帯のカバーに付いている身だしなみ用の小型ミラーで後方を確認した。
「あれは……あぁ、イオか。向かいの小さな子は誰だろう、妹だろうか?」
「イオは一人っ子だもん。妹がいたなんて話、あたし聞いたことないよ」
「成る程、見知らぬ幼女との密会、か……つまり、このままだとイオは牢屋行きと言う訳だ」
ゾーイは傍目にはいつも通りの落ち着いた雰囲気で生クリームでデコレートされたパンケーキを食しているようにしか見えない。しかし、その速度は尋常で無いほどに素早い。切断、突き刺し、運搬、咀嚼、これらのサイクルがまるでリボルバーカノン式の機関砲のシリンダーのように正確かつ異常な速度で行われているのだ。下手したら早食い大会にも余裕で出場できるレベルである。
そして最後の一切れを食し終えると、褐色の肌に映える真っ白な生クリームを口の端に残しながら
「そのような形でパートナーを失うのは、私としても面白くない」
口調こそいつも通りのゆっくりとした物だが、決め顔で放たれたその言葉には確かな意志が込められていた。尚、口の端に付いた生クリームのせいで全く決まっていない模様。
ライノは生まれて初めて出来た同僚のその姿にやや呆れながら口元を拭ってやると、すぐに突撃の機会を窺うのであった。
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「ほれほれ、とっとと食わんか、若僧。年寄りの賄いを無駄にするでないわ」
その頃、イオはと言うとリューコから所謂「はい、あーん」をされている状態にあった。一方、している方のリューコはかなりノリノリである。
断ったらクビにするぞと携帯を片手に脅されたので有り難くコーヒーとサンドイッチのセットは頂くことにしたのだが、不意に甘いものが欲しくなり、彼女の頼んだパフェに視線が行ってしまったのが不味かった。
リューコはそれに速攻で気が付くや、にやりと笑うとつい先程まで自分が使用していたスプーンでわざわざ齧り掛けのアイスクリームを掬い取り、それをイオに差し向けたのだ。
(幼女の食べ掛け……使用済みスプーン……っ!! 誘いに乗ったら確実に死ぬ……っ!!)
うりうりと見る人が見れば余りにも魅力的な物体を突きつけられるが、イオは頑なに身を反らしてそれを避け続ける。その光景はまるで、尋問で銃を突きつけられた捕虜の様だ。それを受け入れれば確実に負ける。様々な意味で。とうとう身を反らすにも限界が来た時、
「おや、いらないと言うのなら私が受け取ろう。何せ、私は彼のパートナーだからな」
そのスプーンを褐色の手が取り、先端のアイスを頬ぼる。唐突な援護射撃に驚きつつも、イオが振り向いた先にいたのはキャミソールの上にTシャツ、デニム地のスカートと言うラフな格好のゾーイだった。
「ゾーイ!? お前いつからここに……っ!?」
「君たちが入ってきた頃には既にいたよ。さて、誰かと思えば私のパートナーへのイタズラはその辺りにして貰いたいな、社長秘書殿」
「社長秘書!? こんな小さな子が!?」
道理で先程から社長に直訴する準備が出来ている訳だ。いやいや、そうじゃなくて
「はっ、機体年齢高々10年そこいらの若僧が、分を弁えよ」
「火力は私の方が上だよ。それに、イオを載せた私はもっと自由だ」
「お前たち、何の話を……がはっ!?」
「良かった~!! イオが刑務所送りにならなくて~!!」
イオがリューコとゾーイの唐突な会話の内容を問いただそうとしたその時、ライノが後ろからヘッドロックを決めた。口ではそう言いながらも、内心怒っているのかギリギリと締め付けてくる。苦痛と柔らかいものが同時に押し寄せるこの感覚、彼が味わうのは何度目であろうか。
「あぁ、イオやライノは彼女と会うのは初めてだったか。紹介しておこう、彼女は我が社の最高機密、X-02Sのアニマだ」
「「アニマ!? こんな小さな子が!?」」
その今まで見た事の無い幼女型のアニマに、イオとライノは口を揃えて驚いた。
「控えおろう。全空最強の機体、ストライクワイバーンを敵に回す罪は重いぞ?」
リューコは少女の物とは到底思えない程の凄みを携えた笑みを浮かべたまま、再び美味しそうにパフェを頬ぼり始めるのであった。
この世界でのX-02は基礎設計が40年前、度重なる魔改造など、バイパーゼロと似たようなポジションとなっております。