ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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(クシャル○オラじゃ)ないです。
ですが、機体カラーのイメージは近いかも……


11話 灰色の鋼竜

 

 「「「合同演習?」」」

 

 予定より早く整備の終わったストライクワイバーンの前にリューコはMS社所属のアニマとイオ、バーフォードを呼び集めると思いも寄らない発言を口にした。相変わらずライノに引っ付かれて暑苦しそうだが、多少耐性が付いたのかチェックリストの記されたタブレット端末を片手に余裕そうな表情を保ったままだ。

 

 「あぁ、独飛だかトックリだか知らんが、連中儂を舐め過ぎじゃ。ここいらで一つ、儂の強さを示しておこうかと思うてのう」

 

 「俺は別に構わねぇけどよ……」

 

 「しかし契約上、貴方は頭数に数えられていない筈では……」

 

 「文句あるか? バーフォード。この全空最強の儂がタダで稽古付けてやろうと言うのじゃ、滅多に無いサービスじゃぞ?」

 

 「それが問題だと言っているんです……っ!!」

 

 珍しく敬語で応対するバーフォードだが、リューコはどこ吹く風と言った具合で一向にその考えを改めない。確かにPMCであるMS社としては模擬戦闘の敵役(アグレッサー)の仕事をタダで引き受けるなど、赤字経営もいい所だろう。

 機体整備は三機とも万全でいつでも発進できる態勢にはあるのだが、バーフォードは渋面のまま反対意見を述べ続ける。しかし、いい加減に聞き飽きたのか、リューコはライノを払い除けるとバーフォードの顔面に閉じた扇子を突きつけた。

 

 「分を弁えよ、バーフォード。あんまりしつこいと社長に頼んで減給させるぞ? 儂が独自の行動権を持っていることを忘れたか?」

 

 「そ、それは……」

 

 「よし、バーフォードは黙らせた。お前たち、すぐに出撃の準備を……いや待てい」

 

 リューコが意気込むと、ポシェットの中から鳴り響いた携帯を取り出して添付されてきたメールを読む。それを見て、リューコは生徒の面白い回答を見た教師の様に口の端を吊り上げる。「品の無い若僧どもに灸を据えよ、か……面白い」と呟くと突然立ち上がっては扇子を広げる。

 

 「模擬戦は予定通り行う!! じゃがチーム分けは変えよう。お前たちは四機、儂らは二機じゃ」

 

 「それはつまり……私たちは社長秘書と敵対する、という認識でいいのかな?」

 

 「察しが良いな、ゾーイ。儂ら側はファントムを含めた二機じゃ。お主もあんまり年寄りを舐めてると痛い目を見るぞ?」

 

 「えぇ~、折角だからあたし、社長秘書殿と飛んでみたかったな~……」

 

 リューコはライノの言葉に「こいつ、空でも儂にくっつく気か……」と呆れると、バーフォードに突き付けていた扇子を今度はイオの方向に向け直す。その瞳には、確かな興味が沸いていた。

 

 「ときに臨時隊員(パートタイマー)。COFFINシステムのG軽減の恩恵を受けているとは言え、人の身の分際でドーターを操り、ザイを撃墜したその腕前がまぐれか本物か……貴様が曲がりなりにもAntaresのコードネームを持つに相応しいか、試させて貰うぞ」

 

 「……面白ぇ、そこまで言うなら俺も見せて貰おうじゃないか。最高企業機密様の力とやらをな!!」

 

 安い挑発、だがイオも敢えてそれに乗っかる。こうしてお互いに不敵な笑みを携えたまま、模擬戦の準備が始まった。尚、この時この瞬間、ゾーイ以外はリューコの実力を知らないので、後にイオのその自信が完膚なきまでに叩き折られることを、そして、そもそもこの模擬戦闘自体行う事になったきっかけが、元はと言えば自分を子供扱いした慧やグリペンに対するリューコの単なる憂さ晴らしだという事を、この場にいる誰もが知らない。

 

 

 --------------

 

 

 高度6500フィート 金沢沖50㎞地点

 

 

 『そういえば、イオってロッテ戦術ってやった事ある?』

 

 機体が上空に上がり、状況開始の合図が通達されるその少し前、イオの操る瑠璃色のファルケンの横を飛ぶ青いF/A-18Eから通信が入った。ロッテ戦術とは、戦闘機の編隊飛行において二機一組を最小単位とする戦術で、国防軍時代のドイツ空軍で確立された物だ。

 ライノの所属するアメリカの陸軍航空軍ではエレメントと呼称されるが、ファルケンの原産国であるドイツに準えてそう言ったのだろう。

 

 「いや、初めてだ。それに、本物の空はこれが二度目だしな」

 

 『だよね~。じゃあ、あたしがフォローに入るよ。機動力はあたしの方が上だから、長機は任せて~』

 

 ライノはにへらと笑うと、イオの前に付くようにして飛ぶ。機体性能を限界まで発揮すれば前進翼を採用しているファルケンもかなりの旋回性能を誇るのだが、いかんせん人間が乗っているのでいくらコックピットがGを軽減してくれていると言っても常時フルスペックが発揮出来る訳ではない。そういった意味では、アニマしか搭乗していない機体に前衛を任せた方が、ファルケンのコンセプトである後方からの長距離砲撃も生かしやすいのだろう。ライノが自機の前方に移動したのを確認すると、イオは少々むくれている友人に通信を飛ばす。

 

 「Ghostより01。肩に力入り過ぎてんぞ?」

 

 『うるさい……アイツら、グリペンだって必死になって頑張ってるのに、二人揃ってロクで無しだの、失敗作だの……大体、アニマってなんでこんなに協調性が無いんだ……?』

 

 「あーあ、聞いてねぇやこりゃ」

 

 イオは肩を竦めた。出撃前にファントムやリューコに相当言われていたのであろう、慧は不快も顕わにと言った具合だった。現在はグリペンがメインパイロットを務めているのにも拘わらず、握る必要のない操縦桿を強く握り締める音が聞こえる。

 

 『BARBIE隊、及びMS社所属各機へ、これより訓練状況を開始する』

 

 (来やがった……っ!!)

 

 それまで気楽に構えていたイオだが、八代通からの通信を聞いた途端に操縦桿を今一度握り直して気合を入れる。今回の訓練内容は四対ニによるやや変則的な異機種間戦闘訓練だ。使用可能装備は全機体が短射程AAMと機関砲、加えてファルケンに関してはTLSも使用可能である。それら全てがセンサーやシミュレーションプログラムで計算された元に当たり判定を導き出すので、実際に実弾を撃つ必要はない。

 そして索敵開始から数十秒、レーダーが今回の敵機であるファントムを示すBARBIE03とリューコを示すGryphus01をそれぞれ捉えた。

 

 『イオ~、どっちに仕掛ける?』 

 

 「当然社長秘書様よ!! 01、02、そっちの相手は任せたぜ!!」

 

 『了解。BARBIE01、これより03の撃破に向かう』

 

 『02りょうか~い!! イーグルが一番強いってこと、証明してあげるから!!』

 

 二機体づつでロッテを組み、それぞれ自分の所属する組織の機体に向けて飛翔する。刹那、ライノが突然スピードを上げた。

 下から回り込むつもりなのか、一度高度を下げると一気に機首を上げ、灰色の翼竜の背後に向けて飛翔する。

 

 『Saphir01、エンゲージ!! 社長秘書殿のお出ましだよ!!』

 

 『最初の相手は貴様らか。面白い!!』

 

 リューコのX-02SはライノのF/A-18Eからの攻撃を予測すると、敢えて一度推力を切った。

 ストールする機体、しかも低速域にも拘らず主翼をわざと閉じて揚力の発生を防ぐと同時に全面投影面積を可能な限り減らす。丁度その瞬間、X-02Sのすぐ脇をイオが薙ぎ払ったTLSが通過した。

 二人の作戦としては背後の取り合いになり減速した瞬間をイオが捕捉、TLSによる狙撃で仕留めるというものだったが、かつてグリフィスウォール奪還作戦で八基のメソンカノンを相手にした経験のある彼女にとっては、たった一本のレーザーを回避する事など造作でもなかった。

 

 『うっそ~!?』

 

 「アレを避けやがった!?」

 

 「さすがは社長秘書、だね」

 

 『背後を取ろうと減速したところを狙い撃つ、TLSならではの戦術じゃの。じゃが……』

 

 そのまま自由落下して下から回り込み、ライノを通り過させて背後に回った途端に主翼を再び展開して揚力を獲得、アフターバーナーを一気に吹かして尋常で無い速度でライノに追いすがる。その速度は並みのドーターの比ではなく、レーダー上でどんどん二機の距離が狭まっていく。

 

 「くそっ!!」

 

 イオも長距離砲撃による撃破を諦め、ライノを救出する為にX-02Sの背後に付くべくスロットルを上げるが、自重の重いファルケンでは加速の乗りが悪く、追いつくまでに時間がかかる。

 その間にも背後に付かれたライノは全力で振り切ろうとするが、速度を落とせば主翼を展開してこちらよりも高いロール性能を、上げれば主翼を閉じて圧倒的な最高速度を安定して叩き出してくる。これぞベルカ人が生み出した、史上最速の鋼竜の実力。

 

 『すごい!! 全然振り切れない!!』

 

 『練度が足りんわ!!』

 

 完璧にロックオンを終えたリューコは、ライノに向けて攻撃を放った。ほぼ至近距離、FOX2、更に機銃弾のオマケ付き。

 ライノはミサイルをフレアで避けるが、回避先を予測して『置かれていた』機銃弾がエンジン付近に被弾、それも急所だったらしく、大破炎上判定が下される。

 

 『Saphir01 ロスト』

 

 『ごめ~ん、やられちゃった……強いよ、社長秘書殿』

 

 「たった機銃数発で……」

 

 『反撃開始直後は物資が少なくてのう、機銃弾も節約する始末じゃ。さて、そろそろ速度は乗っているな?』

 

 驚くことに、彼女はイオが接近して格闘戦を挑んでくること前提にしており、今すぐにでもドックファイトを繰り広げられると言った様子だった。いくら何でも加速性能の悪いファルケンで低速状態からのスタートでX-02Sとドッグファイトをさせるのは、さすがに彼女も酷に感じたのだろう。

 その余裕が、イオの闘志に火を付けた。

 

 「こんの……舐めやがって、ぇ!!」

 

 激情をトリガーにしたアドレナリンの過剰分泌が、イオの痛覚を麻痺させる。直後にスロットルを全開、通常の設備なら間違いなくパイロットに致命的なダメージの入る速度で、X-02Sに追いすがる。

 リューコはそれを確認して鼻で笑うと、主翼を閉じてアフターバーナーを全開、一気に距離を突き放しに入った。

 その背後を追いすがり、機銃を乱射するが、驚異的な精度かつ最小限の動きで繰り出されるシザーズで全てかわされる。

 しかし、それはある動作を誘い出すための罠だった。それは常時前進翼であるファルケンがそうであるが故にストライクワイバーンに対抗できる数少ない要素、所謂『最高速度域における旋回性能』を生かすためだ。

 確かに最高速度こそ劣るが、機体形状からして主翼を閉じた状態のX-02Sに比べれば、常時前進翼であるファルケンの方がまだ旋回性能に関しては分がある。元々とある機体の随伴機として開発が進められていた機体だ、高速度域での旋回性能が要求されたのだろう。

 要するに、相手が高速度域でブレイクした瞬間を狙い撃とうと言うのだ。 

 

 「ゾーイ!! FOX2四発!! 本命は一本だけだ!! 後は適当に撃て!!」

 

 「分かった、FOX2!!」

 

 ゾーイにミサイルの誘導をオーダーするイオ。しかし、ゾーイの制御によるHimat化は一発のみで、後の三発は唯の赤外線誘導である。

 リューコは最高速を維持しながら急速旋回しつつフレアをばら撒き、囮の三発の誘導を誤魔化すが、本命のゾーイによる直接制御のHimat化したミサイルが、X-02S以上の高機動でその陰から襲い掛かる。

 

 

 『ほう』

 

 

 その時、リューコが初めて感嘆の声を漏らした。奥の手で構えていたTLS以前にミサイルの直撃コース、避けられない、勝て-----------

 

 「何!?」

 

 刹那、レーダーのシンボルを確認した限り撃墜判定が出たのは機体ではなく一発のミサイルだった。本体を倒せていない、試合続行。しかも倒せると安堵したその一瞬の油断が命取りで、いつの間にかイオの視界の中にストライクワイバーンの姿は無い。

 

 「……やられたね」

 

 『この機体の数少ない弱点を突いてくるとはのう……そのセンスは認めよう。じゃが』

 

 いつの間にか自機の上空に回り込み、瑠璃色の鷹に影を落とすようにして悠然と翼を広げて飛ぶ、灰色の翼竜。この距離であればいかなる攻撃も外す要素がない。実質的な、死刑宣告。

 その理解不能な敵機の生存に、イオは戦慄を覚える。

 

 『その油断が命取りになるぞ。撃墜は己の目で確認するまでが撃墜じゃ、よう覚えておけ、臨時隊員(パートタイマー)』 

 

 「今、何を、したんだ……?」

 

 「恐らく、ミサイルに自機の信号を映しこんでリリースし、即席のデコイにしたんだろう。社長秘書は電子戦も得意だからな」

 

 「それを先に言え、ゾーイ!!」

 

 しかし、瞬間的な反省会も他所に、リューコは一向にイオに止めを刺さないでいた。

 

 「……何で止めを刺さねぇんだ?」

 

 『お主にはまだファントムと戦って貰いたいからのう、あやつから学べることは多いぞ?』

 

 さて、儂はあの若僧どもに灸を据えてくるかねぇ、と黒い笑いを浮かべながら、リューコは機体をバンクさせると急旋回してイオの元を離れた。

 それから間隙も無く、レーダーが近距離にBARBIE03の接近を知らせる。

 

 『まさか先生から一本取りかける人間がいるなんて、考えてもみませんでした。次は私が相手をします、どうぞお手柔らかに』

 

 相も変わらず、午後の紅茶でも勧めてきそうな雰囲気の穏やかな声。

 レーダーを確認する限り、BARBIE02の反応がない。恐らくは速攻で片づけて来たのだろう。  

 イオはリューコの底知れぬ実力に身を震わせながらも、頭を振って気持ちを切り替え、第二ラウンドに備える。

 

 「よっしゃあ!! 切り替えた!! こっちこそ頼むぜ、ファントム・レディ!!」

 

 交差する翠色の幽霊と瑠璃色の鷹。その刹那にファントムとイオが装甲越しに横目で向き合い、演習の第二幕が幕を開ける。

 

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