ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~ 作:零八式
予想外に長くなってしまった……
某無人島
無人島である筈にも拘らず、岸壁の側面から光学迷彩で隠蔽されていた滑走路が出現する。その格納庫直結型の滑走路に編隊を組んで降り立つのは、同型の四機の大型戦闘機だ。
機体色はやや明るいモスグリーンだが先頭の一機のみ毒々しい赤みの強い紫色で、主翼などの各所に狼の爪痕が刻まれている。特徴的なコックピットごと前方に大きく突き出した機首には大口径の機関砲を側面に二門備えている。翼形状は機首先端から伸びるカナードと、翼端にウィングレットを持つ胴体と一体化した大型の後退翼、左右のエンジンユニットから伸びた外向き斜め双垂直尾翼で構成され、巨大な主翼には外側にエレボン、その内側にフラップとスポイラーがあり、エンジンに挟まれた中央部にも小型のスポイラーを備える。このエンジンは機体の背面にもエアインテークが備えられており、これに垂直方向への推力偏向を行うパドル式二次元推力偏向ノズルも組み合わされている。
その形状と生物を想起させるほど異常なまでに高い機動性から、かつてとある全空最強を自称したパイロットが『烏賊』と呼称していた、ゴールデンアクス計画が生み出した遺産。
『ロッシュ、どうですか? 調整を終えたヴィルコラクの乗り心地は?』
GAF-01X DANM Varcolac。極秘裏に秘密工場で増加生産されていた四機のヴィルコラクを今は存在しないとある研究機関が回収。『デミ・アニマ計画』に対応する為にコックピット周りに『CQ』と呼ばれる特殊な構造体の使用や機体性能の限界点の引き上げなどの改修が行われており、機体性能自体は元のポテンシャルの高さもさることながら、分類上はドーターで無いにも関わらずドーターと遜色の無い戦闘能力を誇る。
二番機に乗っていた涼しげな声色の少女が、一番機に乗っていたパイロットに声を掛ける。一番機のパイロットはいつも持ち歩いているポータブルプレイヤーを一時停止させると、操縦桿の無いコックピット内をせわしなく動き、
「あぁ、凄いよ。エル。研究所のデータを見ただけで、NFIをここまで僕に最適化させられるなんて……」
『当然です。ロッシュに負担を掛けさせる訳にはいきませんから』
『あーあ、ま~た始まったよ。エル姉のロッシュ贔屓』
『まぁ、人望が無いよりは良いんじゃないか?』
「違いない」
ロッシュは他の隊員たちの言葉に苦笑するとヘルメットを脱ぎ、装甲に覆われたコックピットを解放させる。それと同時に格納庫の扉が閉鎖され、真上からはガラス細工の様に光り輝くロボットアームが降りてきて機体の整備を始める一方、コックピットの脇にどこからともなく現れたタラップが取り付けられる。そして先頭の一番機のその頂点には、鋼鉄で形作られた
「ありがとう、気が利くね」
そう言うと、天然パーマの掛かった黒髪の少年、ロッシュは
『あーあー、えーっと、聞こえてるかな?』
全員が機体を降りた頃、格納庫内に男の声が響き渡る。死の淵から救い出し、生きる指針を示し、認識番号しかなかった自分たちに名前まで授けてくれた、彼らにとっては親にも等しい男の声が。
『まずはテストフライトご苦労ちゃん。どーだい、ロッシュ君。改良型プロトタイプNFIの感想は?』
「今まで飛んだ時より、ずっと自由だ」
『そいつぁ良かった。おじさん苦労して手に入れた甲斐があったってもんだよ。トーリ君の機体は機銃の追従性強化しといたけど、これで良いかな?』
「今の機体は最高だよ、あの無能どもが調整してきたどれよりも速い!!」
四番機に乗っていた白髪長身の痩せこけた少年が感極まったと言った具合で、姿の見えないその男に向けて敬愛の礼を送る。
『ずいぶんご満悦だねぇ、結構結構!! 子供のはしゃぐ姿を喜ばない親はいないからねぇ!! フェルトちゃんも調子どう? おじさんとびっきり速く飛べるようにしといたけど』
「うん!! これなら誰にも負けないよ!! 勿論ロッシュにだって!!」
三番機に乗っていた四人の中で最も身長が低く、やや舌っ足らずな声音でショートの銀髪が特徴の少女が、満面の笑みで飛び跳ねながら意気込む。
『可愛らしくて威勢も良くて結構結構!! でも作戦中のフレンドリーファイヤはダメよ?』
「むー!! フェルトそこまで馬鹿じゃないもん!!」
『エルちゃんの機体はアクティブ防御システムの搭載だったね。適当に再現した奴だから割と際どい位置に弾薬積む事になっちゃったけど、大丈夫だと思う?』
「えぇ、もう少し実戦データが必要になってくると思いますが、実用には十分に耐えうる物かと。これならロッシュの機体に積んでも安心です」
二番目の機体に乗っていたトーリと同じくらいかそれ以上に長身の赤毛の少女が、端末でデータの調整をしながら男の声に答えた。その言葉にフェルトとトーリは「いつもこれだ」と言わんばかりに両手を上げている。
『よーし、おじさんまた物資集め頑張っちゃうぞ~!! と言う訳で諸君、別命あるまで取りあえず待機!! 君たちにならぁ、出来るはずだっ!!』
その言葉を最後にして、どこからか聞こえてきた男の声は止まった。
「やれやれ、お父様のテンションの高さには毎度呆れさせられますね」
「え~? あたし好きだよ~? この前も飴くれたし」
「論点がすり替わっている気がしますが……まぁ、フェルトですしいつもの事ですか」
再び馬鹿扱いされてエルに突っかかるフェルト、データの整理をしながらもフェルトの相手に追われるエル、その少し離れた位置から野次を飛ばすトーリ。
三週間前から随分雰囲気が変わったものだ、と義足の具合を確かめながらロッシュは思うのであった。
様々な理由で孤児となり、研究所にモルモットにされた挙句、表沙汰に出来ない技術まで使ったのに結果が出ないからと殺処分が決まっていた自分達を救出してくれた、あの男と会ったのは、丁度こんな晴れた日だった……
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三週間前 某国研究機関
「……以上から、この度DANM01号から04号までの廃棄が決定した。我々の『デミ・アニマ計画』には05号から08号を使用する事にする。尚、01~04にはクライム・クォーツの有線接続システムを内蔵している、特に01号は両足まで接続端末にしているからな。処分は念入りに行え」
その研究員と主任の会話を薬物やクライム・クォーツ、通称『CQ』の内臓手術による後天的な身体能力強化で向上した聴力を用いた聞き耳で聞いてしまった01号と呼ばれた実験体の少年は、その事実を仲間に伝えるべく全速力で自分たちの部屋にへと向かった。
「そうかよ……あのクソッたれどもがぁ!!」
「落ち着きなさい04。今はこの場を乗り切る手段を考えましょう。とは言っても、私たちが使えるのはこれくらいですが……」
苛立ちも顕わにロッカーを殴り凹ませる04と呼ばれた白髪の少年を窘めながら、02と呼ばれる赤毛の長身の少女がベッドの下から隠し持っていた人数分の折り畳み式のナイフを取り出すが、そんなものは気休め程度にしかならない。この基地に配備されているのは特殊部隊も顔負けの高練度の兵士、そして自分たちの
「あたし達……死んじゃうの……?」
「落ち着け、03。まだ死ぬと決まった訳じゃない。取りあえずは一刻も早くここを―――――――――」
------ドォン!!------
01がここを一刻も早くここを出ようと折り畳み式ナイフを手に持ち部屋を出ようと出口に向かったその瞬間、爆発音と共に基地内に激しい振動が襲い、そして基地内に空襲警報が鳴り響いた。
『警報!! 当研究所に複数のザイが接近!! 待機中の部隊、及び実験体05~08は至急迎撃態勢を取れ!! 繰り返す、当研究所に――――――』
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「おいおい、良いのかぁ? 仮にも極秘研究所がこんなあっさり入られちゃって?」
基地の正面玄関を爆薬で吹き飛ばして堂々と研究基地に侵入してきたのは、サブマシンガンを持った一人の男だった。人を食ったような笑みを浮かべた男の服装は飛行服で髪は尖がった金髪、その左肩には血で染まり最早何が記されていたかも分からない赤黒いエンブレムが付けられている。
男は身を屈めるとそのまま基地の中を駆け巡り、ある物を探す。道中で何人かの特殊部隊員と出会うが、ガラスの様な何かで作られた弾丸は易々と防弾ベストやヘルメットを貫き、一撃で無力化する。
「さてと、情報が正しければ……ドンピシャァ!!」
特殊合金製自動扉を手榴弾で吹き飛ばし、その隙間から格納庫と思わしき広い空間に侵入する。そこにあった四機の機体を見て、男は珍しく苦笑いを浮かべた。
「よりによって『烏賊』かよ……良い趣味してるぜ、ここの研究者」
その機体は、戦場と化したサンフランシスコの上空で確認されたゴールデンアクス計画の産物、GAF-01 ヴィルコラクだった。見た限りカラーリングはともかく外見はそこまで弄られていない様だが、コックピット周りや翼端に取り付けられた紫色に光る結晶が目立つ。
「ったく、クライム・クォーツまで使ってやがるのか。たかが人間様にしちゃあ、頑張ってくれちゃってるな」
「お、お前は……誰だ?」
その時、この機体の正規のパイロットなのか、特殊なボディスーツを着用した四人の少年少女たちが吹き飛ばされた入り口の傍で立ち竦んでいる。
男はその四人を一瞥すると、笑顔を浮かべながら両手を広げて歩み寄る。
「あ~、ごめんね~? 派手なお邪魔しちゃって。おじさんはねぇ、君たちを探していたんだよ」
「……何の為によ?」
「解放のために、かな? しょーじき面倒くさいでしょ? いつ廃棄されるか分からないのに体を弄られ、脳を弄られてザイと戦わされて、さ……おじさんはねぇ、君達みたいな子供はもっとこう、自由であるべきだと思うんだよねぇ」
「親がいない俺たちはここが家みたいなものだ。それに、廃棄の件なら心配ない。廃棄が決まったのは俺達じゃなくて01~04の奴らだからな」
「あ、そうなんだぁ」
男は葉巻を吹かしながらノールックでこちらを狙撃しようとしていた特殊部隊員の頭をヘッドショットすると、その少年たちに更に歩み寄る。
そして無造作に拳銃を抜き取ると、目にも止まらぬ早業でその少年少女たちの頭を撃ち抜いた。
「残念だけど、君達じゃあ駄目なんだよ。残念だけど、ね」
男は一瞬だけ物言わぬ死体となった少年達に黙祷を捧げると、すぐに基地内を駆け回る。爆薬も弾丸も無限ではないので一刻も早く探し当てたい物だが……と思っていた矢先、タンクトップに長ズボン姿の四人の少年少女が折り畳みナイフとどこから奪ったのかサブマシンガンを片手に駆け回っていた所に遭遇した。
「へいそこの少年少女!! 廃棄間近の実験体ってのは君達かい?」
「っ!?」
男の声を聞き取ると、長身の赤毛の少女が義足の少年の盾になるように前に出て、こちらに向けてサブマシンガンを放つ。
男は一瞬ギョッとするが、射線を潜りつつ駆け寄ってスライディングを決めながらハンドガンでその少女の持つサブマシンガンを狙い撃ち、銃を弾く。
「くっ!? コイツ……っ!!」
「まぁまぁそう、焦んなって。おじさんは君達を探しに来たんだから」
「僕たちに興味があるなんて相当変態だね。要件は何だい? 見た所あんた、この基地の奴じゃないみたいだけど?」
これまた厳しい意見なこって……、と言いながら男は立ち上がると、敵意は無い事の表明か、自身のサブマシンガンを長身の少女に差し出しながら、真面目な声でこう告げた。
「『可能性の証明』の為だ。その為に君たちの力を貸してほしい」
「……ここを出られるのか?」
「モチのロン!! ついでに豪華なお部屋と無人島をプレゼント!! ま、ちょっとばかりお手伝いをして貰うけどね」
01号が尋ねると、一瞬にしてお茶らけたトーンに戻りながら男は条件を告げる。四人はお互いに顔を合わせて頷きあい、全員が合意だと決まりその旨を伝えると、男はどこから取り出したのかパーティー用のクラッカーを炸裂させた。
「「「「は?」」」」
「ハッピーバースデー!! たった今から君たちは全員俺の子供だ!! 誕生日プレゼントとして認識番号しか無いであろう君達に名前をあげよう!! そうだなぁ、機体がアレだしなぁ……」
男は格納庫へ呆気に取られる少年少女たちを誘導しながら悩むと、01号と呼ばれた義足の少年をロッシュ・スレイン、02号と呼ばれた赤毛の長身の少女をエル・オリヴィー、03号と呼ばれた小柄なショートの銀髪の少女をフェルト・アリビア、04号と呼ばれた長身の白髪の少年をトーリ・ヤーコフと名付けた。
そして四人がヴィルコラクにに乗り込むと、男は管制室にハッキングを仕掛けて地下の秘密格納庫を開けさせる。
『そう言えば、外にザイがうろついてるって話だけど、突破しなきゃいけないのかい?』
『その心配は無いよん。あーあー、全機。今から空に上がる烏賊みたいな戦闘機を援護して頂戴。滑走路壊さないでね~?』
男が無線機で意味不明な発言をする間にも滑走路にタンキングの済んでいた四機のヴィルコラクは、研究所所属の特殊部隊が上空のザイとの交戦でこちらに構っている余裕の無い間に離陸を開始。
そしてその後ろから続くように、血の様に赤黒い戦闘機がどこからともなく離陸した。二か月前に上海で撃墜され、現在はその同型機がとあるPMCで運用されている機体にそっくりだが、所々形状に差異が見られ、何よりウイングの形状は翼端に下半角の付いた後退翼である。
『あ、そうそう君達。憂さ晴らしするなら今のうちよ? 全機、一回後た~い』
男が赤黒い戦闘機からそう告げると、ザイが一度研究所付近の空域から撤退する。一瞬安堵の空気に包まれる特殊部隊員だったが、次の瞬間、味方のIFFを放つ機体から特殊部隊員の乗る機体が撃墜された。
『クソッ、研究施設のガキどもか!! 敵はアッチだろうが!!』
『黙れ!! 窮屈な生活を押し付けた挙句、廃棄処分だの抜かしやがって!!』
『あたしらのこの怒り、しかと受け止めよ~!!』
『私も少々腹が立っています。ロッシュ、どうしますか?』
ロッシュは他の隊員の意見を聞くや、今まで浮かべた事も無いような笑みを浮かべると、唯一娯楽品として渡されたポータブルプレイヤーのスイッチを入れながら、四人の隊長として指示を出した。
「全機、日頃甚振ってくれたお礼と行こう。LSWMは最後に使う。奴らでは僕たちに勝てないことを、思い知らせてやれ!!」
「「「了解!!」」」
そこから先の戦闘は、一方的な蹂躙だった。まるで、飢えた狼が一斉に獲物を食らうかのように。
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「ロッシュ、次の仕事がお父様から送られてきました」
四人で過ごすにはいささか広すぎる休憩室でロッキングチェアに揺られながら、ポータブルプレイヤーで曲を聴いていたロッシュにエルが端末を持って見せる。
そこに記されていたのは、十字架のような形をした島と、そこに展開されつつあるガラスで作られた前線基地の写真だった。
「『この前線基地を破壊にしに来るであろう日本のドーターと交戦せよ』との事です。勝利条件などは特に記されていませんが……」
「海鳥島、だったっけ? ここからもそう遠くないし、攻撃されてから出撃しても間に合うかな?」
「もう、職務怠慢でお父様に怒られますよ?」
「それもそうか……分かった。ヴィルコラク遊撃隊、出撃準備だ。これより海鳥島へ向かうぞ!!」
ロッシュはポータブルプレイヤーの充電が終わっていることを確認すると、フェルトとトーリにも呼びかけ、休憩室を後にするのであった。
狼と蒼き鷹が邂逅するまで、あと5日。
アンタレス隊の相手と言ったらやっぱヴィルコラクだよねと言う安直な発想。