ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~ 作:零八式
「ちわーす、新鮮な野菜のお届けに参りました~」
ある日の朝、小松市の住宅街の一軒家の前に自転車の籠に大量の野菜を乗せたイオが、インターホンを鳴らして相手の出方を待つ。すると程なくして、家の中から少女の声が聞こえたかと思うと、目の前の引き戸が開けられた。玄関に出てきたのは慧が中国にいた時から一緒にいる幼馴染でポニーテールが特徴の少女、明華だった。
「おはよう、イオ。うわ~、ジャガイモがたくさん!! こんなにどうしたの?」
「俺の家周りに畑が多くてさ、暇な時に婆ちゃん達の畑仕事手伝ってたらお礼で貰えたけど、俺一人じゃ食い切れなくてよ。まぁ、同じ学校に通う先輩からの編入祝いってことで受け取ってくれよ」
サボりの常習犯ではあるが、イオも一応は地元の高校に通う立派な高校生である。
小松防衛戦の後、慧と明華もイオと同じ学校に通う事になり、その祝いとして大量のジャガイモを持ってきたのだ。最も、彼女らが避難してきて間もない頃から親しかったイオは、以前から趣味の畑仕事の手伝いで得た報酬である野菜をこうしてちょくちょく渡していたのだが。
「いつもごめんね? あ、良かったら上がっていってよ。お礼に朝ご飯作るから」
「マジか!! じゃあお言葉に甘えて、おっ邪魔しま~す!!」
小躍りしながらイオは自転車の籠からジャガイモの入った段ボールを引き抜くと、明華のご厚意に甘えて朝食をご馳走になる事にした。ほぼ実質一人暮らしである彼にとって、料理を知人の誰かに作って貰えることは最近では滅多に無いのだ。そんな久々の手料理にありつける事を心底喜びながら、慧の祖父母の家にお邪魔する事にした。
「あ、ジャガイモはその辺に置いといて。席は適当な所に座ってくれて良いから」
ジャガイモの入った段ボールをリビングの冷蔵庫の横に置き、テーブルに着いたイオは時間を確認する。現在の時刻は午前八時、これなら朝食を食べた後でも余裕でファントムの特訓には間に合うだろう。折角のベテランが直々に開いてくれる講習なのだ、サボる訳にはいかない。例えその彼女がアニマであれ、自分より実際の飛行時間が長く、実戦経験も多いという事に変わりないのだから。
これも彼の父の受け売りなのだが、『全空最強のこの俺も、最初から天才ではあっても強かった訳じゃあない。自分が相手に負けてると思ったら、誰であろうと即教えを請え。そして一発で覚えろ』と。
イオには700時間超えの仮想空間飛行時間と言う、一般の学生ではまず持っていないアドバンテージを持つが、そんな物は基礎中の基礎が最初から出来るか出来ないかの違いである。シミュレーターの敵にはハッキングを仕掛けてくる相手もいなければ、熟練の技で機体を飛ばしてくる相手もいない。要は実戦での戦闘経験が足りていないのだ。
そんな自分に実戦に近い本格的な特訓の手ほどきをしてくれると言うのだから、これを受けない手は無かった。
(やっぱ家庭的な子って良いよなぁ~……あの野郎、こんないい子に面倒掛けるたぁ、なんつう贅沢な奴だ)
鼻歌を歌いながら朝食の準備をする明華を見ながら、頬杖を付きつつ思案する。
とは言え、時折自分も慧の『バイト』の隠蔽工作に一役買っているので、そんな事を言えた立場では無いのだが。
それから程なくして朝食が出来上がり、それを頂いてる最中に二階から明華が「起きなさい!! 今日もバイトの研修なんでしょ!?」と慧を叩き起こす怒鳴り声が聞こえ、イオは肩を竦めるのであった。
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小松基地 隊員食堂
「しかし、お主が素直にモノを教えるとは、一体どういう風の吹き回しじゃ?」
ほぼ同じ頃、小松基地の隊員食堂で朝食をとっていた薄手の生地で新たに作り直した高級シルク製のホワイトロリータ服を纏うアニマの少女、リューコは対面に座るファントムに問いかけた。彼女の性格については操縦技術に関しては師範である自分がよく知っている。であればこそ、あっさりと自分の会社の若手見習いに手解きを行うという教え子の思考が今一つ理解出来ないでいた。
「先生、私たちアニマは基本的に自立していますよね?」
「? まぁ、そうじゃなあ。EPCMと言いHimat機動と言い、生身の人間には荷が重すぎるからのう」
「それもありますが、先生はともかく私たちの様なブラックボックスの塊を自立稼働で運用させるなんて、合理的に考えれば危険すぎます。私たちが兵器だと言うのなら、本来なら我々アニマがサポート、ドーターの制御は人間が行った方が確実ではありませんか?」
「まぁ、マシンが良くてもパイロットが性能を引き出せなければポンコツじゃがのう……」
リューコはそう言って、好物であるリンゴジュースをクイッと呷った。ワンオフ同然の機体のドーター化故に多くの素体の記憶を持ち、ましてや光学迷彩付きの大型飛空艇や戦闘機などを相手にしてきた彼女にとっては、どれだけ高性能の機体があろうと結局最後に勝負を決めるのはパイロットの腕だという『元乗り手』の考えが根付いているのだろう。
嘆息しながらも、ファントムは言葉を続ける。
「話を戻しますと、私たちが兵器として生み出されたのなら、理想的な形だと思いませんか? 人類を救う手段として、彼らの形は」
「
「だからこそ、その問題を出来る限り排除して見てみたいんです。彼らの持つ可能性を」
「……それがお主の答えか」
「えぇ、今までの私なら可能性に賭けるだなんて博打論、まず考えなかったんですけど。もしかしたら私とした事が、あの二人の馬鹿正直な姿勢に絆されたのかもしれませんね」
先生のせいでもあるんですよ? と言って肩を竦めて微笑を浮かべながら、食事を終えたファントムが両手を合わせてからプレートを返そうと立ち上がる。すると、リューコはいつものヒッヒッヒッと老婆じみた笑いを浮かべながら、扇子を開いてファントムに付き出した。
「よし、ファントム。うちの会社の機材と
「ありがとうございます、先生。では、早速なんですが……」
礼を告げると、小声で必要な物をリューコに伝えるファントム。
その内容を聞いて、二人は同時に含みのある笑みを浮かべた。
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数日後……
「派遣のあたしまで基地の走り込みなんて……聞いてないよ~」
「なんて声、出してやがる……ライノォ」
「だってさぁ~……」
基地の外周を走らされているのは、どこから引っ張り出してきたのか青い所謂芋ジャージを着たライノと、空軍迷彩の服を着たイオだった。すでに小松基地外周コースも四週目に突入しようとしている。ライノは声の割には平気そうではあったが、イオはもうヘロヘロだった。ちなみにイオのパートナーであるゾーイは、現在進行形でファントムとマンツーマン指導で電子戦におけるノウハウ等を座学と実技を交えた形で叩き込まれている。
「あんの鬼教官……撃墜された数この基地周回しろとか、何Kmあると思ってるんだ……?」
イオがファントム主催の特訓に参加し始めてから既に三日が経過した。その内容は主に条件や編成を変えながらのシミュレーターや実機を交えた実践的な訓練だったのだが、何の真似かMS社精鋭の飛行小隊『アンタレス隊』の面々まで訓練に参加しているのだ。隊員から聞いた限り社長秘書権限とやらのワードが聞こえてくる辺り、あの自称社長秘書であるロリBBAアニマの仕業としか思えない。
「お先に失礼、イオ隊員!!」
そう言ってイオやライノの横を颯爽と走り抜けていくのは、アンタレス隊のパイロット池波颯少尉。コールサインはAntares03。生粋の日本人で、元自衛隊のパイロットとして三沢基地に配備されていたが、五年前の武装組織『ヴァラヒア』撃退の際にMS社と縁があり、ゴールデンアクス計画阻止作戦の直前に増員された隊員である。腕前は三機編成でザイやドーターを追い詰めるあたり相当なもので、自衛隊所属時代にも模擬戦にてF-4EJでF-15Jを撃墜するなどいくつかの伝説を持つが、素行が悪い事で有名。使用機体はそのまま自衛隊に所属していれば自分がいずれ乗る筈だったと言うF-35Aだ。
「何であんなに持つんだ……?」
「経験年数が違うからな。ほれ、後一周だぞ」
ゴールに差し掛かり、周回コースから離脱する直前にイオの肩を叩いたのは現Antares01である大柄の白人の男、イアゴ・アダムス少佐だ。MS社きっての古株で、二か月前に前Antares01であったイオの父グラハムが亡くなるまでは長らく彼がAntares02を務めており、今も昔も色々と適当だったグラハムに代わり隊員のまとめ役を務めている苦労人。口数が少なく寡黙で分かりにくいが、情には厚い男。日本のオタク文化に興味がある。使用機体は旧オーレリアの技術者がX-02のデータを基に開発を進めている現在試作段階のXFA-27で、MS社は当機のデータ取りも行っている。実はリューコにホワイトゴスロリ服を薦めたのも彼。
「ライノちゃんと隊長は終わり~!! イオとハヤテは後一周!! 気合い入れなさい!!」
「「うーいっす」」
短めの金髪のポニーテールを揺らし、走り終わった二人にはスポーツドリンクを、まだ周回が残っているイオ達には激を送る女性はアンタレス隊の中ではイオに次いで最年少で唯一の女性隊員であるカーミラ・ウォルコット中尉。コールサインはAntares02。元アメリカ海軍の戦闘機乗りで、事実上グラハムの後輩である。アニマに偏見は持っておらず、海軍機であるF/A-18Eのアニマであるライノとは特に仲が良い。ちょくちょくゾーイも連れて三人で街へ繰り出すこともある。実は博識で、アメリカの某有名大学を次席で卒業した文武両道の才女。そのせいか、MS社で行われる自社の装備開発、改良の技術主任を任せられることも。使用機体は倉庫で埃を被っていたが、実は前から乗ってみたかったという事で彼女に受領されたSu-47。
そんなこんなで隊員たちとすれ違いながら走っていると、明らかな周回遅れである赤い芋ジャージを着たグリペンに遭遇した。ちなみにイオ以上に疲労困憊の様子であり、その横には慧が付き添っている。
「慧……もう無理、お腹空いた」
「頑張ろうぜ、グリペン。さっきだってアンタレス隊の人を撃墜したじゃないか」
「けど、ファントムには四回、イーグルにも三回落とされてる……アニマの中では私たちが最弱……」
「そう言えばアイツ、初日から執拗にグリペンばっかり狙って来やがって……っ!!」
先程の演習の時の事を思い出したのか、怒りを振り払うべく爆走する慧。置いてけぼりになるも速度を出せないでいたグリペンを見かねてか、イオはそっと彼女の肩に手を当ててやるのであった。
ちなみにイーグルは後にサボりがバレて、この合同訓練にやたらノリノリな八代通とリューコの監修のもと、文字通り死ぬまで走らされたという。