ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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14話 可能性の欠片

 ロシア国境 戦線 

 

 

 『何だあのオレンジ色は!?』

 

 『エスコートは何をやっている!? 戦闘機がこっちに食いついて来てるぞ!!』

 

 ウクライナ空軍混成旅団の機体がまた一機、また一機と異形の機体に撃ち落とされていく。その三機は、通常の機体ではありえない彩りを持つ機体達だ。一機はクロームオレンジのSU-27M、アクアマリンのMiG29-SMT、そしてその後方から来るのは、ロシア機どころか既存の現用機にはまず当てはまらない機影だった。

 まるで霞の中から出現したかの様なその機体の翼形状はカナード、翼端部に下反角の付いた主翼、浅い角度の上向き斜め水平尾翼で構成されるスリーサーフェイス機で垂直尾翼は無く、左右2基のエンジンに装備された水平方向に可動する2次元ベクタードノズル。搭載される3基のエンジンの内、中央のエンジンは下方90度前後までの排気偏向が可能で、垂直離着陸の他に空戦時の特殊機動にも用いられる。その暗いガーネットカラーの機体のコックピット周りや翼端には紫色に光る結晶が使われており、それが機体が動く度に残像の様に空中に奇跡を描く。

 

 『何だあの機体は……っ!?』

 

 『いいから撃て!! 爆撃機の破壊を阻止しろ!!』

 

 ウクライナのMig-29がガーネットカラーの機体に猛追する。ガーネットの機体のパイロットは自分が追われていると即判断すると、装甲とモニターに覆われたコックピット内でパネルを操作する。しかし、ある機能を使おうとするも、他の機体ではまず見られない電力ゲージがその機能の使用に足りていない事に気づき、舌打ちをする。そのパイロットの首筋や腕、足には、彼ら(・・)と同じくケーブルやデバイスで接続され機体の操縦系と直結されており、その両目は弱々しくも内側から発光して輝いて見えた。

 

 「BAVolk 電力供給を要請」

 

 『了解、送電アンテナ作動。84番からBAVolkへの電力供給を開始』

 

 直後、機体に向けて国中のあちこちに張り巡らされた送電アンテナの一つからマイクロウェーブが発せられ、それを受信した途端に機体の電力ゲージがみるみる回復していく。それを確認したパイロットは笑みを浮かべながら、同時に機体の中に残っていた電力を使用して後方から迫る機体にマイクロウェーブを照射し、肉眼では見えない線が交点を作り出す。

 

 『何だ、この光は……?』

 

 その刹那、自分を追うMig-29の機体の背後の空間が文字通り歪んだ。初めはモヤの様な歪みはやがて一点に集まって巨大なプラズマ光球となり、機体を覆い尽くさんとする程に巨大化していく。どう見ても自然現象ではないその訳の分からない現象に恐慌状態に陥るMig-29のパイロット。そして、気が付いた時にはその正面にガーネットの機体の姿が見えない。

 

 『くそっ、光がついてくる!! 誰か助けてくれ!!』

 

 その叫びを聞き入れたのか、近くにいた友軍が光球に向けて機銃弾を放つ。しかし、実体の無い唯のエネルギー体にそんな事をしても止められる筈もなく、弾丸は虚空を切り裂くばかりだ。そして次の瞬間、光に追われていたMig-29は機体の内側から爆発四散した。

 HPM。High-Powered Microwave weaponsの略であるそれは、外部施設からのマイクロ波送電によって必要な電力を確保している当機が、これを応用して自機と送電施設双方からターゲットに向けてマイクロ波を照射、その交点で発生する共鳴現象によって、敵機のジェット燃料を急激に加熱して爆破すると言う兵器だ。送電アンテナが付近にないと利用できないという欠点こそあるが、弾数の制約は特に無く、どれだけ装甲が厚かろうと文字通り意味がない。

 その光景を見たガーネットカラーの機体のパイロットは、腹を抱えて爆笑する。

 

 「あっはははははははっ!! 二人とも見た? ちょっと温めただけで、ボンッ!! こう言うお菓子あったよね? ジュラ姉」

 

 『仕事中はBA01と呼べと言ってるだろうが!! あとそりゃぁポップコーンだな!! 映画とか見ながら食うとうめぇぞ!!』

 

 「それそれ!! これ終わったら食べに行こうよ!!」

 

 『BAVolk 次にジュラを不快にさせてみろ。私が貴様を落とすぞ』

 

 「ご、ゴメンよ、ラス姉……」

 

 『……はぁ、もう良い。そっちの敵は任せたぞ』

 

 作戦行動中にコードネームで呼ばない()分を叱咤するも、律儀に質問に答えるあたりは流石面倒見の良い性格と言うべきか。

 BAVolkと呼ばれた機体のパイロットは敵爆撃機の直上に付くと、光学迷彩を解除しながら大口径機銃弾を連射し、爆撃機をハチの巣にする。態々晒す必要のない姿を晒すあたり、乗り手の性格の悪さが窺える。まるで、『お前たち如きに姿を隠すまでもない』と高らかに宣言するように。

 

 『バカな……何故、フェ-----------』

 

 爆撃機が自機の内包していた爆弾に引火して空中で巨大な火球を咲かせるその刹那、機長の言葉は終ぞ最後まで言い切れる事は無かった。

 それが切っ掛けとなったのか、ウクライナ軍の機体は次々と撤退を開始。呆気無い程にあっさりと、戦場の空は静かになった。

 

 『BA01 制空権確保』

 

 『BA02 東方空域の敵部隊を殲滅』

 

 「BAVolk 周囲の警戒に入る……これ終わったら一緒に映画行こうね~!! ジュラ姉、ラス姉!!」

 

 機体をバンクさせてから編隊を外れ、周辺の警戒に移るガーネットの大型戦闘機。それを見てオレンジ色のSu-27Mのアニマ、ジュラーヴリクは肩の力を抜くと同時に呆れたような目つきで視界の隅に消えていくその機体を見やった。

 

 (Su-XX……表向きじゃあスホーイ社製の試作機でボーフヴォルクなんて呼んじゃいるがァ……上の連中も大層な代物をうちの隊に入れてきたもんだぜ)

 

 以前演習の敵役としてとあるPMCから派遣されてきたあのホワイトゴスロリ衣装の背の小さいアニマを思い出す。その彼女が自分らを単機で叩きのめした後にうんざりするほど聞かされた武勇譚に出てくる機体に、あまりにも酷似していることから彼女は察していた。まず名前からして隠す気が無い。仇成す獲物は全て喰らう、血に染まりし神狼。その真名は……

 

 (フェンリア、ねェ……あのババア、見たら絶対ブチ切れるだろうなァ……)

 

 

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 小松基地 第三格納庫

 

 「……以上にて、予定の訓練メニューは全て終了しました。皆さんお疲れ様です。MS社の皆さんもご協力頂き、ありがとうございました」

 

 第三格納庫に集められた一同は、ファントムの礼を持って訓練を終了した。彼女が考案したこの計五日間に渡る訓練には、間隙無い模擬戦闘を体験させることで連続でアラート待機になった際の空気を知り、体力作りを中心とした運動メニューを課す事でイオと慧の戦闘可能時間を延長する狙いがあったのだ。

 今まで体験した事も無いような訓練キャンプ同然の生活からようやく解放されると思い、イオと慧は思いっきり伸びる。

 

 「だっはぁ~、やっと終わったぜ……」

 

 「し、しんどかった……」

 

 「あら? 私が終わりだと言ったのは訓練メニューだけですよ? 慧さんとグリペンには最終試験が残っています」

 

 「「はい?」」

 

 その予想外のファントムの言葉に、同時に素っ頓狂な声を上げる二人。しかし、ファントムはそんな彼らには御構い無しに言葉を続ける。

 

 「内容は簡単ですよ。シミュレーターで私を倒せば良いだけです」

 

 「……どうせこの前みたいに偽装情報を送って不意打ちする気なんだろ? 悪いが、前回みたいにはいかないぜ? と、こいつも言っている」

 

 「ふぇぇ……?」

 

 やたら自信満々でファントムに対峙したのは慧だった。両肩を慧にがっちり抑えられて両者の間に立たされているグリペンの目が白黒しているのが、傍から見ても分かる。あぁ、気の毒に……

 

 「随分と威勢が良いんですね? 何か良い策でも思いつきましたか?」

 

 「策? そんな物は無いさ。俺達はあんたを真正面から倒す。俺が勝ったら、以後はああ言う行動は慎んでもらうからな?」

 

 慧の言うああいう行動とは初日のクラッキングの件と言い、その後の痛烈な皮肉と言い、模擬戦中でも容赦なくあからさまな位にこちらを集中攻撃してきたり、その他にもetcetc……この数日間で、慧のファントムに対する憎しみのボルテージは急上昇したと言っていいだろう。だが、それでいい(・・・・・)。ファントムは小首を傾げながら口元を愉快そうに歪めると、こんな提案を出す。

 

 「何を考えてるか知りませんが、良いでしょう。もし私が勝ったら……そうですね、グリペンとのコンビを解消して、私と組んで頂きましょうか」

 

 「全然問題ないぜ。何故なら勝つのは俺達だからな。と、こいつも言っている」

 

 さも自信ありげにグリペンの頭をポンポンと撫でながら話す慧だが、当のグリペンは「はわわ」と緊張とショックで混乱しているばかりだ。 

 

 「では、30分後にシミュレータールームで会いましょう。逃げないで下さいね?」

 

 ファントムは釘を刺してから一礼すると歩きながら八代通と話し、この後の試験の算段を付けていく。彼女の姿が格納庫から完全に見えなくなった辺りで、グリペンの両足からふと力が抜けペタリと地面に座り込んだ。それから恨みがましい視線を慧に飛ばす。

 

 「慧に捨てられた。普通に戦って勝てる訳がない。私を捨てたがってるとしか思えない。驚天動地、立ち直れない」

 

 「悪かった悪かった。でも策があるのはホントだぜ? イオもちょっと耳を貸してくれ」

 

 グリペンの手を取り立たせながら、格納庫の隅にイオも呼ぶと二人にだけ自分が抱え込んでいたその作戦を離す。その内容に、グリペンは目を見開き、イオは意外そうな表情をしていた。

 

 「お前、その事まだ話してなかったのか? てっきり自慢げに話しているもんだと思ってたぜ」

 

 「そんなことが」

 

 「出来ない、とは言わせないぞ? 小松防衛の時よりは状況が良いんだからな」

 

 「……分かった。私は慧を信じる」

 

 「んじゃ、俺の方からも一つアドバイスだ。いわゆる、最終手段って奴だけどな」

 

 再び三人で円を組み、内緒話に没頭する。

 その意見を聞いてグリペンだけは少しだけ渋そうな顔をしたが、最終的には「全員で勝ちに行こうぜ」と拳をぶつけあうのであった。

 

 

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 小松基地 シミュレータールーム

 

 

 『それじゃ、訓練状況開始!!』

 

 舟戸の管理で準備が進められていたシミュレーターはすぐにでも始められるようになっていて、慧は約束の五分前に到着し、早速試験に臨んでいた。

 すでにヘッドオンからの交差は済んでいる。つまり相手はいつ仕掛けてくるか分からない。と言うより、もう電子的な攻撃は始まっているのかもしれない。

 ちょうどその折、ファントムが雲の中を飛んでいる所をレーダーが捉え、攻撃準備に入る。 

 

 「きた、真正面!! FOX----」

 

 直後、真後ろで雲が弾けた。襲い掛かる機銃の轟音。機体をロールさせて雲の中へと逃走するが、至近弾が雲を叩く。

 

 「さっきのあれは本当に移動したのか? それとも……フェイクか?」

 

 自機の真横に現れた翠色の機体が、ホログラムとなって掻き消える。もはやこのモニター(・・・・)を信用して良いかどうかも危うい。

 

 「グリペン!! 敵の位置は分かるか!?」

 

 「レーダーの反応は左、熱反応は下から、ロックオンは後ろから……慧、ごめん……そろそろ、無理……」

 

 グリペンの偽情報の処理が限界に達したのか、ペールピンクの髪から輝きが失われ機体とのダイレクトリンクが切断される。慧はそのタイミングを見計らってから操縦系統を後方に切り替え、イオから教えられた最終手段、ドーターに設けられている二段階式の脱出レバーの一段階目だけ(・・・・・・)を引いた。コックピット周囲を覆うモニターを兼ねた装甲板が取り払われ、グラスキャノピー越し前提の表示に切り替わる。その一瞬のプログラムが変更される瞬間だけ偽装情報の枷から解き放たれ、上空に本物のファントムの姿をその目で確認した。

 

 「色々やってくれたけど……そこかぁっ!!」

 

 機首を上げて減速からの上昇、ファントムとヘッドオン。出し惜しみ無し。FOX2を装備中の四発を一斉射撃。こちらの急な動きに減速の追いつかないファントムはミサイルと真正面から衝突する形で、架空の空に赤い花を咲かせた。

 

 『BARBIE03、ダウン。グリペンの勝ちだな』 

 

 「イチかバチだったけど……何とかなったぜ……」

 

 慧はフロントシートでグッタリしているグリペンに拳を突き合わせてから、シミュレーターの外に出てファントムと向き合う。彼女の表情はどこか納得しつつも、今一つ理解追いつかないと言ったものだった。

 

 「レーダーもデータリンクも視界さえも潰した筈ですが……一体、どうやって正確に私の位置を割り出したんですか?」

 

 「お前の殺気がひどかったから……と言うのは冗談で、文字通り目視さ。イオとフナさんから教えて貰った裏技でさ、ドーターのコックピット周りの装甲って非常時には排除してグラスキャノピーにする事も出来るだろ? シミュレーターならその瞬間に描画プログラムが切り替わるから、その一瞬ならハッキングから逃れられるっていう寸法さ」

 

 「そんな無茶苦茶な……だとしても、情報の処理に追われているグリペンが正確な操縦が出来る訳が……」

 

 「誰がグリペンの操縦だと言った? 最後の操縦は俺だよ。戦闘機を飛ばせる高校生は、何もイオだけじゃないんだぜ?」

 

 あんまり人間様を舐めるなよ、と自慢げに胸を張る慧。しかし、額の汗が決して余裕では無かったことを示している。その隣にヨロヨロとシミュレーターから這い出てきたグリペンが並び立ち、慧の真似をしてふんぞり返る。勝者の筈なのに全く余裕が見えない二人。

 その光景を見てから、ファントムはふと口元を歪めた。

 

 「可能性の一端、しかと見させて頂きました。今までの態度については謝罪しましょう。私とした事が少し大人げありませんでしたね」

 

 「可能性……? 俺達が?」

 

 「私はイオさんとゾーイ、慧さんとグリペンの組み合わせを見てこう思ったんです。本来貴方たちの様な形が、我々アニマと人間のあるべき姿なのでは無いか、と。最初はありえないと思っていましたが、貴方たちは十分その可能性を秘めていると私は考えます。ですから……」

 

 そう言うとファントムは慧に詰め寄り、抉りこむようにして下から慧の顔を覗き込み、慧は恥ずかしさから思わず視線を逸らす。

 

 「訓練が必要であれば、私にいつでも相談してください。メニューを考えるお手伝いはしますよ」

 

 「訓練って……じゃあここ五日間の特訓は、まさかファントムが?」

 

 「はい。ついでに言えば慧さんが私に敵意を持つよう仕向けたのも全て計算済みです。少し興が乗ってしまいましたが、私を倒すという当初の目標は達成できたでしょう? 『怒りは絶望よりも役に立つ』です」

 

 憎い相手を倒すために知恵を絞って、体を鍛えて……人間の持つ心の力とは、時として凄まじいものとなる。ファントムはその心にこそ、可能性があるのではと賭けたのだった。結果は大当たり。その怒りは動力源となり、グリペンは多少はマシな技量を会得し、慧も倒すための作戦を練る為に知恵を絞った。

 

 「あれが全部計算済みかよ……全く末恐ろしいアニマだ」

 

 「フフッ、褒め言葉として受け取っておきますね」

 

 それでは、とファントムはどこか清々しい様子で踵を返し、シミュレータールームを去るのであった。 




役者は揃った。早くロシア勢絡みの話も書きたい……
次回、遂に海鳥島!! 狼と蠍は、五年の時を経て再び邂逅する……
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