ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~ 作:零八式
海鳥島 ブリーフィングルーム
無人島の上に作られたガラスの要塞。その中の一室はホテルのスイートクラスと見紛うほどの豪華な内装だ。
その部屋の中央に置かれた大理石のテーブルは中央がモニターになっており、周辺海域の地図が表示されると同時に部屋の照明が一段階暗くなる。それは、仕事の打ち合わせの始まりを告げる合図でもあった。
自動ドアが開いて現れたのは、四人の少年少女を束ねる隊長である天然パーマのかかった黒髪と、鋼鉄の両足が特徴の少年、ロッシュ・スレインだ。
「みんな、聞いてくれ。作戦……と言うほど大それた物じゃ無いけど、父上から新たな言伝があった。『海鳥島は間違いなく破壊されるだろう、だからお前たちはドーター達と交戦するだけで良い』との事だ」
「間違いなく、ねぇ……親父殿には未来でも見えてるのかい?」
「それは分からないよ。ただ、僕たちは示すだけだ。僕らの持つ可能性を」
そう言ってロッシュはテーブルのモニターを操作すると、周辺地図を拡大させ、敵艦隊の予測進行ルートやミサイルの飛来方向、果ては敵ドーターの予測進行ルートまで個別に表示された矢印を隊員に見せる。その内容の細かさは、トーリの言う通りまるで未来が見えているかのようだった。
「これは……お父様が予測なされたのですか?」
「あぁ、父上はこの進行ルートで間違いないだろうと言っていたよ。洋上の駆逐艦隊の護衛に最低でも二機、この基地の攻撃には三機投入してくると予想されている。そこで、2:2で配置を分けたいんだけど、誰が艦隊側に行ってくれる?」
「じゃあ僕が行くよ。最高速度は僕のヴィルコラクが一番だからね。あとフェルトも来るかい? おっきいミサイルいっぱいぶっ放せるよ?」
「トーリ、それ本当!? じゃあフェルトも行く~!! ドドーンのバーンでやっつけちゃうから!!」
「分かりました。トーリの機体には
「あぁ、それで頼む」
エルは役割分担が決まったことを確認すると手に持った端末の項目をタップしてスライドさせ、遠隔操作でそれぞれの機体に目的に応じたミサイルの積み込みを開始させる。この基地は全体がザイその物と言っていいのだが、彼女がお父様と慕う人物から手渡されたこのタブレット端末を使えば、基地型のザイに限り自在に制御することが出来るのだ。ちなみにどういう訳か、彼らの機体は航空型のザイに攻撃される事は無い。
「よし、ヴィルコラク遊撃隊、出撃だ。飛ぼう、全ては
「「「全ては
四人は手をそれぞれ重ね合わせてから一斉に空へ掲げると、すぐに格納庫へ全力で疾走した。
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小松基地 ブリーフィングルーム
「マーティネズ・セキュリティー社の諸君、そして独飛のアニマたちは全員揃っているな? まずはこれを見てくれ。こいつをどう思う?」
薄暗いブリーフィングルームに集められた面々がプロジェクターで見せられたのは、十字架の形をした島の上に並び立った正六角形のガラスの結晶の様な柱の集まりだった。柱と柱の間には不可思議な光の線で結ばれ、幾何学な地上絵を作り出している。
「凄く……大きいな」
「ザイにしては、な。形こそ奇天烈だが、コイツは諸々の分析から判断するに恐らく連中の前線基地だ。何故こんなになるまで発見が遅れたのかは不明だが、衛星写真を見る限りまだ完成には至っていないと見て良いだろう」
「しかし、万が一完成されると太平洋側の防衛ラインはズタズタに引き裂かれると見て良いでしょうな」
「そこで、我々独飛はこれよりMS社と協力してこれの排除を行う」
初の大型作戦からか室内に緊張が走り、戦場慣れしていない慧とイオが固唾を呑む音がはっきりと聞こえる。しかし、その静寂を破ったのはイーグルだった。
「ねぇ、お父様? 結局イーグルたちがいつも通りやっつければ良いってこと?」
「これだから阿呆は……おい鳥娘。儂ら戦闘機だけで基地を吹っ飛ばせると思うとるのか?」
もう何度目か分からないリューコによるイーグルのアホ扱い。作戦会議中だと言うのにお構いなく騒ぎ立てるイーグル、ねちねちと嫌味を言い放つリューコ。話が全く進まないことに呆れてか慧がイーグルを、ファントムがリューコをそれぞれ引き離すと、コホンと咳払いしてから話の路線を戻す。
「私たちは爆撃機ではありません。それに、精一杯爆装しても基地に投射できる火力は精々限られています。しかもこれが前線基地だと言うのなら、防空戦力はまずあると見て良いでしょうね。そんな中に対空装備無しで突っ込めとはいくら何でも無謀すぎます。どうなされるおつもりですか?」
「BARBIE隊、及びMS社のアニマには主に基地上空の制空権の確保、その後ファントムには残存した第七艦隊から放たれるトマホークミサイルの最終誘導を引き継いでもらう。艦隊総出の花火大会と行こうじゃないか」
「さしずめ私は、花火大会の司会と言った所ですね。分かりました」
「あぁそうじゃ、儂は戦線には出んぞ。万が一基地に直接殴りこまれたら適わんからな、陸の護衛は儂とバイパーが行う」
リューコがピシャリと扇子を閉じながらそう言い放つと、イオが意味が分からないとばかりに質問をする。
「社長秘書って、この中じゃ一番強いんだろ? じゃあ、前に出て貰った方が良いんじゃねぇのか?」
「イオさん。先生の機体、X-02Sは確かに私達の機体の中では最も高い空戦闘能力を持ちますが、一つ欠点があり、それが先生が前線に出られない理由でもあります。何だか分かりますか?」
「あの機体に欠点……? ミサイルの搭載数が少ない……とか?」
演習で散々相手をする羽目になった超高機動、超高速の機体。更に乗り手の異常なまでに高い熟練度から、まるで欠点が見当たらない。ある種のトラウマに近い記憶の中からX-02Sの機体形状を思い出し、イオは自分なりの答えを出した。
「30点じゃな。確かに儂の機体にはあの機動力を維持しようとしたら最大六発のミサイルしか積めん。じゃがそもそも積めない原因はなんじゃ? 答えは機体構造から来る搭載スペースの少なさじゃ。したがって燃料タンクも小さいから航続距離も短い。まぁ、年寄りは息切れしやすいからのぅ」
「『最悪に備えよ!!』 っていう考えは間違いじゃないからね~。イオと三人で飛べないのが残念だけど」
リューコはヒッヒッヒと扇子を開きながら教え子の変わり様をニヤニヤと眺めるも、いつもの様にライノがリューコに引っ付き、ウガーッ、と吠えながらそれを鬱陶しそうに振り払う。
作戦前だと言うのに何とも緊張感に欠ける面々である。
「そういう訳だ。社長秘書には陸地を、アンタレス隊には第七艦隊の護衛を行って貰い、それ以外のアニマ五機で海鳥島の敵を撃滅する。空中給油機は既に我が社の物も空に上がっている。共同して使え」
以上だ、とバーフォードがブリーフィングを締めくくり、集められたパイロットやアニマ達がゾロゾロとブリーフィングルームを後にした。
その折、ファントムが慧とグリペンを呼び止める。
「そう言えば慧さん。今回は貴方がメインパイロットを務めるという事ですが、本当ですか?」
「あぁ、グリペンと相談したんだが、どうやら俺の方が安定して飛ばせるらしい」
「だから、私はサポートに徹する。ゾーイみたいに、やって見せる」
「機動力を犠牲に最終的な命中弾の増加狙い、ですか……やはりその形こそ、私たちの本来あるべき姿なのかもしれませんね」
お気をつけて、とだけ言うとファントムは足早に格納庫へと向かった。
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海鳥島近海上空
『カノープスよりアニマ部隊へ、残念ながら悪い知らせだ。台湾空軍の陽動部隊が敵別働隊により壊滅。現在、新たなザイが第7艦隊へ向け移動中だ』
早期警戒管制機からのバーフォードの報告に、一気に緊張が走る。この作戦はファントムが艦隊から発射された巡航ミサイルを誘導するという物。その艦隊その物が壊滅してしまってはそもそもの作戦の根幹が瓦解する事になる。
「Ghostよりカノープス、艦隊の状況は?」
『現在アンタレス隊が対応中だ。那覇基地からGryphus01を筆頭に増援が向かっているが、彼女以外は間に合わないと見て良いだろう』
ストライクワイバーンの速度であれば、ギリギリ艦隊がザイの大群と接触する前には追い付ける。しかし、彼女の最大の欠点はその戦闘可能時間の短さ。いくら彼女が強くとも、燃料が無ければ戦闘機は飛ぶ事が出来ない。
しかし、今の位置からであれば自分たちが艦隊に近く、援護に向かえる。
慧が艦隊の援護に行こうと戦術マップを確認するが、それを咎めたのはファントムだった。
『いけませんよ。我々が援護に向かえば、そこで武装と燃料を使い果たします。このまま進みましょう』
「ふむ、ではどうしようか?」
『先生もいますし全機で向かうのは過剰と考えます。一機のみ援護に向かわせましょう。と言う訳でイーグル、あなたが艦隊の護衛に向かいなさい』
『はぁ? なんであなたが仕切ってるのかなぁ?』
イーグルの不満げな声が響くが、何かを察した慧がそれに続ける。それも彼女が確実に動くであろう言葉を。
『そうそう、ファントムの意見じゃない。八代通さんから、もしもの時はそうするよう言われてるんだった』
『え? 慧、それ本当?』
『あぁ、本当だぜ。イーグルなら押し寄せるザイを千切っては投げ、千切っては投げ大活躍してくれるはずだって言ってた』
『悔しいですが私も同意見です。その馬鹿みたいに鋭い感は私にはありませんから』
その折、「むふーっ!!」と自慢げな鼻息が聞こえてきた。コックピット内でドヤ顔しているのが目に浮かぶ。
『じゃあ話が別だね。お父様、イーグルの事頼りにしてるって言ってたし、分かった!! ガンガン墜としてくるね~!!』
言うが早いか、イーグルは急旋回して艦隊の方へと向かっていった。
お互い見えはしないものの、コックピットで自機の後方を飛ぶファントムに向けてサムズアップを送る慧。その後、イオはおずおずと二人に尋ねてみる。
「お前ら、今のってもしかしなくても……」
『えぇ、嘘です。ご協力感謝します、慧さん』
『嘘も方便とはよく言ったモノだよね~』
ライノがカラカラと笑い、機嫌良さそうに機体を揺らす。
それから程無くして、四機は海鳥島が肉眼で捕捉できるまでに接近した。十字架の様に見えるその島の中央にはガラスの要塞が構築されており、島のあちこちに塔の様な物がいくつも建っている。
こちらの接近を感知してか、基地上空を警戒待機していた航空機型ザイがこちらに接近してきた。
「各機、射線から離れてほしい。TLSを使用する」
『『『了解!!』』』
他の三機が散るようにして動き、その直後にファルケンの機首が展開して内側から大型のレーザー砲が姿を現す。グリペンはファントムの護衛に付き、ライノは前線に出てかく乱をしてくれている。そして、射線内にある程度敵が集まってきてくれた所で……
「ライノ!! 急上昇!! ぶちかますぜ!!」
イオがトリガーを引く頃には、ライノは急上昇をして彼の射線から離れていた。放たれるは空を切り裂く赤い剣。機体を動かし薙ぎ払いつつもゾーイが微細な角度調整を行い、射線上のザイを残らず焼き払う。
「一射で10機撃墜!! 新記録だぜ!!」
『囮はあたし達で引き受けるから、そっちは誘導入っちゃって~!!』
その後も機動力の高いライノが囮を引き受け、射線上に集まってきた所をイオがTLSでまとめて薙ぎ払うと言う、既存の航空戦ではまず見られない光景が繰り広げられていた。
ファントムは自分まで薙ぎ払われないよう、高度を調節すると機体下部に搭載されたレーダーポッドを展開し、艦隊からのミサイルの最終誘導の受け入れ態勢に入る。
だがその時だった。基地の岸壁から、二機の見た事も無い戦闘機が姿を現したのは。
『なんだ!? IFF反応なし……所属不明機か?』
『烏賊みたい……美味しそう』
翼端やコックピット周りから紫色の光を放つ、機首の長いロッキードのブラックバードにも酷似したフォルムを持つ二機の戦闘機。
どうやらザイでは無いようだが、だとしたら何故ザイの要塞から出て来たのか。
しかし、どうやらそんな悠長な事を考えている場合では無いらしい。
『照準警報、ロックされた』
『何!? あいつらも敵だっていうのかよ!?』
毒々しい赤紫色の所属不明の戦闘機は、後ろに回り込んだかと思うとグリペンに向けてロックオン用の照準用レーザーを向けて来た。
すぐに機体をロールさせて回避行動をとり、ロックオンから逃れようとする。しかし、所属不明機は驚異的な機動性でグリペンの動きに追従してくる。まるでドーターの相手をさせられている気分だ。
(いや、そもそもあれは普通の機体なのか……?)
後方を目視しながら襲い来る機銃弾を回避する慧。しかし、ドーターであれば装甲が発光して見えるはずだ。それが目の前の機体には見られない。精々翼端と機首周りが紫色に光っているくらいだ。
『グリペン!! カナードスペシャル!!』
『カナードスペシャル、レディ』
最早慧とグリペンのお得意技ともいえるスロットルを開けたままでのカナード翼の直立による減速。それを実行し、所属不明機をオーバーシュートさせる。
照準、間に合う、FOX2、時間差で二発。
『フッ……』
所属不明機が、そんな笑みを浮かべた気がした。
刹那、まっすぐに着弾するかと思われた一撃目のミサイルは突如空中で爆発。そして時間差で放たれた二発目のミサイルはまるで木の葉の様にひらりと、既存の航空機ではまず成し得ない軌道で宙を舞い、大きく直撃コースから逸れる。なまくら刀で宙を舞う木の葉を切らされているような、そんな奇妙な感覚が二人を襲う。
『なっ……あの距離でかわした!?』
『あんなの、戦闘機の動きじゃない……変態』
その時、早期警戒管制機から再び通信が入った。ザイに関しては半数以上を撃墜完了し、残存勢力は撤退。しかし、所属不明の二機が大型の気化弾頭を装備して艦隊を攻撃しているのだと言う。その端々に、オペレーターの困惑した声が聞こえた。
『中佐!! 今の動きは、『スレイマニ・ダンス』です!! 所属不明機、四機ともミサイルを至近距離でかわしています!! 信じられない……』
『まさかあの機体、スレイマニ……なのか? いや、奴は五年前に死んだはずだ!!』
戦場に広がる混乱。しかし、四匹の狼の進撃は止まらない。
『奴らの価値は、僕たちが喰らう!!』
お・ま・た・せ