ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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16話 双子の翼竜

 「ま、こんなもんかな~。あいつらには平均値(・・・)伝えただけだしね」

 

 四人の少年少女たちが基地として使っているガラス細工の無人島。その上空はEPCMを応用したチャフスモークの雲で覆われ、衛星から発見されるという心配はまず無く、そもそも肉眼で捕捉出来るかどうかも怪しい。そんな無人島に設けられた基地施設の一室で、飛行服姿の金髪の男はベッドに寝転がりながらガラスで出来た板の様な物に描かれた、まるで枝分かれした木にも見えるその無数の線を指先でなぞっては、小型モニターに表示されている現在の海鳥島の周辺状況と照らし合わせながら呟いた。

 

 「しかし、想定していたより頭数が一機多いな……何でファルケンが現場に出てやがる?」

 

 男は珍しく思慮深げな声で思案した。かつて自分が乗っていた機体と同型の機体。しかし、その生産数の少なさから、彼の知る限り本来存在しない筈の瑠璃色のファルケン。男はその機体の存在が、どうしても気になって仕方なかった。

 

 「ま、お前が異端者(イレギュラー)だってんならそれはそれで問題無いんだけどさ。ギャハハ!!」

 

 男はガラス板に新たに出現した(・・・・・・・)細い線を歓喜しながら眺め、それを再び指でなぞり始めるのであった。

 

 「見せてみな。お前らの力をさ」

 

 そう言って男は、衛星回線であるイリジウム衛星携帯電話を取り出した。

 

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 第七艦隊 

 

 

 アンタレス隊とリューコ、そして那覇基地からの増援の活躍によりザイを退けた第七艦隊。洋上で敵前線基地に対するミサイルによる飽和攻撃の準備を着々と進めていた矢先に、新たに接近する二機の機影を捉えた。

 IFF反応なし、無線にも応答なし。

 以上二点から敵と判断しようと司令官が決定を下そうとしたその瞬間、上空に護衛として展開していた空軍部隊全体が青白い爆風に包まれ多大なダメージを負った。

 

 『何だ!? 何処からの攻撃だ!?』

 

 『気を付けろAntares03。あれは恐らく燃料気化弾頭だ。だがあんな破壊力は俺も見たことが無い』

 

 『新型の弾頭? でも今の爆発は……』

 

 『アンタレス隊、気を付けてください。高速で所属不明の二機がそちらに接近中』

 

 何とか被害を免れていたアンタレス隊。その隊長であるAntares01、イアゴ少佐は早期警戒管制機からオペレータによる警告を受けると、改めてレーダーを確認しつつ、下方の艦隊の様子を確認した。このXFA27には限定的ながらCOFFINシステムが採用されており、下方の艦隊の姿もしっかりとモニター越しに確認することが出来る。

 

 『機種は分かるか?』

 

 『接近速度からして過去のデータから該当する物は……え? 該当有り? しかもこれって……』

 

 『どうした? はっきり報告しろ』

 

 『該当機体は……ヴィルコラクです!!』

 

 『何だと!? そんな馬鹿な筈はない、奴はグラハムが叩き落した筈だ!! 俺はこの目で見た』

 

 しかし、そう言っている間にも所属不明機は編隊飛行していたアンタレス隊の横を通過するかのように通り過ぎる。その機影を遠目ながら肉眼で確認してしまったイアゴは、オペレーターの言葉を認めざるを得なかった。

 奴が、もしくは奴の亡霊が、地獄から舞い戻って来たのだと。

 

 『キャハハ!! もう最高!! 今の一発で何機堕ちたかなぁ?』

 

 『10機は行けたんじゃないか? さて、お前たちは僕を楽しませてくれるのかい?』

 

 その問題の所属不明機、五年前撃墜されたはずのヴィルコラクを操るトーリは、両腕に接続された有線型NFIの具合を確かめながら、大はしゃぎするフェルトの問いに答える。

 彼女が今しがた放ったのはただの燃料気化弾頭ではない。かつて、オーレリアを襲ったとある空中要塞が搭載していたとも言われる弾道ミサイルを戦闘機サイズまで小型化。制圧範囲こそ減ってしまったが、それでも戦闘機が装備するそれとしては他と比較しようが無い程広い。その特性から水平方向に爆風の指向性が持たされており、特定高度でないと使えない原形からの欠点を解消した制空兵器。その名もLong range Shock Wave Missile、略称LSWMだ。

 

 自らの獲物に相応しいとアンタレス隊に目を付けたトーリが機体を旋回させると彼らを猛追する。

 一方、フェルトは虫の息である飛行編隊にもう一発のLSWMを放とうと照準を合わせていた矢先、真正面から何らかの飛翔体が自機の直ぐ傍を通過した。本能的に機体を傾けなければ、主翼を持っていかれていただろう。機銃弾では無しえない破壊力と長射程、その視界の先には……

 

 『小娘風情がふざけたモノ使いおってぇぇぇええええええええっ!!』

 

 激昂するリューコを乗せたガンメタリックのドーター、X-02Sの姿があった。機体の下部には大型の砲塔が取り付けられており、銃口から紫電を放っている。MS社で独自開発が進められていた戦闘機用の電磁加速投射砲(レールガン)だ。試作段階のため弾数も少なく電力のチャージにも時間が掛かるが、その破壊力はあらゆる戦闘機を一撃で粉砕する、まさしく必殺兵器。先程の攻撃の正体はこれであり、直撃を貰えば到底耐えられるものでは無い。

 

 『キャハハッ!! このオバサン怖いよぉ!!』

 

 本能で危機を感じ取ったフェルトはLSWMによる攻撃を中断し、ドッグファイトに移行。その生物のようとも形容される圧倒的な機動力は、ドーター化された他の戦闘機では太刀打ちさえ出来なかったX-02Sにさえ追従してくる。

 だが、そんな本能に頼った戦い方をしているだけの彼女に後れを取るほど、リューコは甘くなかった。レールガンの照準から発砲までのタイムラグは初撃を外した時点でばれている。そしてどの道、残弾は後一発しかない。相手は真後ろ、しかもミサイルではなく機銃で攻撃しかしてこない辺り、あの大型弾頭のせいで通常ミサイルは積んでいない物と思われる。

 そうなればやる事は一つだった。リューコはマイナスG機動で機首方向から前転するようにクルビットをすると、機体下部がヴィルコラクの方を向いた瞬間、レールガンをパージした。

 

 『えっ!?』

 

 『貰ったああああああああああっ!!』

 

 突然の思いも寄らぬ攻撃方法に機体を傾けざるを得ず、速度の低下するヴィルコラク。その一瞬を逃さんと、急反転からアフターバーナーを全開。一気に攻守逆転し、ヴィルコラク以上の加速性能で猛追しつつ数少ないミサイルを発射、当然自分が制御するHimat化も忘れずにだ。

 

 『うそ、うそ、うそっ!?』

 

 先程までこちらが優勢だったにも拘らず、気がつけば食らいつかれているのはこちらだった。フェルトはアクティブ防御機構を作動させるが、一向に迎撃で放たれた弾丸はミサイルと接触しない。流石の迎撃システムもアニマの制御によるHimat化には対応しきれない様だ。

 苦労してスレイマニ・ダンスをするが、その一発目は避けても続くもう一射が待っていた。直撃コース、避けられない。

 だが、彼女に着弾すると思われたそのミサイルは、突然空中で炸裂した。

 

 『何!?』

 

 その時、灰色の翼竜と緑色の狼の間をもう一機の翼竜(・・・・・・・)が駆け抜けた。

 機体形状はリューコの操るX-02Sその物だ。しかし、展開した翼端や尾翼の色は燃え盛る炎の様なオレンジ色で、コックピットは通常のグラスキャノピー式、つまりは有人機だ。

 その隙にヴィルコラクは追撃不可能なラインまで逃走、リューコは自機の上空を飛ぶ同型の機体を睨み付けると、その機体から暗号回線で通信が発信された。

 

 『お久しぶりです、教官。いえ……グリフィス01。こんな形で再開する事になるとは、残念だ』

 

 『そのカラーリングと言い……貴様、ミハイかっ!! 何故奴ら(・・)側に付いた!?』

 

 『前にも言ったでしょう。私は無人機が嫌いだと。ドーターやアニマも、私の目から見れば同じ物だ。例え、貴方がグリフィス01の記憶を持つ(・・・・・・・・・・・・・)アニマだとしても』

 

 ミハイ・ア・シラージ。かつて旧オーレリアのエルジアにて絶対的なエースと呼ばれる程の腕前を持つ凄腕のパイロットだ。その彼が師として仰いでいたのがオーレリア戦争の英雄、グリフィス01なのである。彼女に並ぶ、あるいはそれ以上の腕前を持つとも言われた彼は、オーダーメイドでもう一機のワイバーンを作らせ、引退前の彼女に最後の決戦を申し込んだ。だがそれでも、模擬戦とは言え彼女との決着は付かなかったのだ。

 しかし、そもそもアニマの元となった根幹の無人機の制御システムには、老齢になろうと空を飛び続けることを望んだ彼のデータが少なからず使われている。

 そんな彼にとってアニマは、ひいては彼女の記憶を持つアニマの存在は、余計に忌避しいものなのだろう。

 

 『私は確かに自由な空を愛する男だ。だが、人を捨ててまで得たその自由に、価値があるとは思わない』

 

 『はん、何を抜かすと思えば、そんなセンチメンタリズムか……』

 

 『彼らはまだ人の身を捨てきってはいない。だから協力する、それだけだ。お互い燃料も心もとないでしょう。決着はまたいずれ』

 

 翼端がオレンジ色のストライクワイバーンは、機体をバンクさせると戦闘空域から離脱していった。彼の言う通り、既にリューコのストライクワイバーンの燃料は後方で待機している空中給油機を経由しなければ那覇に帰る事すらできない程ギリギリだ。それ程までに、燃料積載量の少ないこの機体で限界での機動戦を要求されていたのだ。

 いつの間にかもう一機のヴィルコラクの姿も見えない。アンタレス隊とバイパーゼロが奮闘してくれていたのだろうか。 

 同時に第七艦隊からミサイルが一斉に発射された。恐らくはファントムの誘導準備が整ったのだろう。

 作戦は成功、味方の被害も軽微……とは言えないが少なくは済んだ。本来なら喜ぶべき状況だろう。だが、

 

 「人はいつでも、己のエゴで動きおる……だから、変われんのだっ!!」

 

 リューコだけは、力強くNFIのパネルを殴りつけるのであった。

 

 

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 海鳥島

 

 

 「クソッタレ!! ミサイルが避けられるってんなら!!」

 

 イオが対峙していた赤紫のヴィルコラクには、何発ミサイルを撃っても後方に迎撃機銃を放つアクティブ防御システムか、謎の変態マニューバ、スレイマニ・ダンスで避けられる。であれば、残る手段は機銃弾か遠距離からTLSによる狙撃しかなかった。しかし、こちらより機動力の高い相手にポジションで有利を取る事は、単機では到底叶わない。

 

 『イオっ!!』

 

 「慧はお姫様の護衛に集中してろ!! ライノっ!! そっちはどうだ!?」

 

 『かーなーり、手強いね。ミサイル残弾2』

 

 ライノの声はいつも通りのお気楽そうなそれだが、まるで余裕が無いようにも聞こえた。彼女の相対する緑色のヴィルコラクもまた非常に高い機動性を発揮し、アニマであるが故にGを考慮しなくて良いライノの人間から見れば無茶苦茶な機動にも追随してくる。

 その折、ヴィルコラクの大口径機銃弾の一発が、ライノの主翼を掠めた。

 

 『ちぃっ!!』

 

 「ゾーイ、五秒稼げ!! 照準……捉えた!!」

 

 しかし、イオは後方から迫る赤紫のヴィルコラクに向けてゾーイの制御によるミサイルを後方発射。相手がその回避に追われている内にTLSを発射してライノの後方に迫る緑色のヴィルコラクの傍を掠めさせる。膨大な熱量がその装甲を炙った。ヴィルコラクにはプラズマ兵器対策の特殊コーティングが燃料タンクに施されているので、燃料温度上昇からの爆散には至らなかったが、有線接続のNFIで機体と一体化している彼女にとっては、焼けるような痛みが背中全体を走る。

 

 『ぐぅぅぅぅぅっ!!』

 

 『エル!! そいつから離れろ!! そいつは僕がっ!!』

 

 仲間を傷つけられたことを怒り、赤紫のヴィルコラクのパイロットであるロッシュはQAAMの照準をイオのファルケンに向ける。敵も良く足掻くが、所詮は有人機。機体と完全に一体化している自分の機動性に敵う筈がない。あと少しでファルケンへのロックオンが完了すると言う所で、通信が入った。

 

 『ごめーん、子供たち。時間切れですよ~!! 既に敵艦隊がミサイルを発射、このままじゃ飽和攻撃に巻き込まれちゃうよ~!!』

 

 『父上っ!? しかし、もう少しでエルを傷つけたコイツを……っ!!』

 

 『エルちゃんならちゃんと離脱してるから大丈夫!! それに、君達にはまだやって貰いたい仕事があるからね。ここで死なれると、おじさん困っちゃうな~』

 

 『そう言う事でしたら……ヴィルコラク遊撃隊、撤退するっ!!』

 

 ロッシュはファルケンの撃墜を諦め、機体を反転させると後部からEPCMを放つ微粒子入りの特殊チャフスモークを放出。EPCMが五感にもたらす作用で肉眼の捕捉すら危うくなる危険性があるが、自身と機体にEPCMを打ち消すクライム・クォーツを内蔵している彼らが使えば、人間相手であればより確実な目くらまし手段となる。

 

 『この次会う時には、必ず仕留めてやる!!』

 

 そのスモークが晴れた頃には、航空型ザイを伴った赤紫のヴィルコラクは、遥か彼方へとその姿を消した。

 

 『敵残存戦力、撤退。EPCMレベル低下』

 

 「終わった……のか? ファントム、ミサイルの誘導は?」

 

 『皆さんの護衛のおかげで戦闘中でしたが、管制誘導は既に完了しています。目標への着弾まであと二十秒です』

 

 グリペンとファントムが報告を終えた刹那、上空から炎の矢が降り注いだ。数え切れないほどの爆炎が海鳥島表土を覆い、ガラスの要塞を焼き払う。戦端はあっけなく幕を閉じたのだ。

 自分の操縦でザイや所属不明機と相対した慧はその感覚を噛みしめながら、空を見上げはっきり口にした。

 

 「ミッションコンプリート、RTB!!」 

   

 

 




アニマ、ドーターってある意味無人機とも言えるよね……という事であのお方が敵として参戦。
そしてお気に入り登録50件突破!! ありがとうございます!!
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