ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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鬼門の三巻に入ったので初投稿です。




18話 キミノ コエガ シタ

 月の無い満天の星空の海を、駆け抜ける二機の戦闘機があった。幸い燃料は補給したのでしばらくは飛んでいられるが、機体全体には被弾による傷跡が刻まれており、瑠璃色のファルケンはコックピットを保護する装甲板の無いグラスキャノピー状態、赤いグリペンに関してはミサイルの残弾が二発しかない。その横を飛ぶファルケンの直ぐ横を、機銃弾が通過する。

 

 「ちぃっ!! やっぱり来るよなぁ!!」

 

 『Saphir01!? まさかライノか!?』

 

 『あ~あ、惜しかったな~。今ので救済(・・)出来たのに』

 

 先程の戦いでは僚機だった二人を撃っておきながらヘラヘラと何処かウットリとした、あからさまに狂った様な声が聞こえてくる。発信源は二機の後ろを信じられない速度で追従してくる機体からだった。空の様なサファイアブルーの機体の表面は全体が紫がかったガラスの様な物で覆われており、紫線が機体を奔っている。本来あったはずの二基のエンジンは航空型ザイと同じ可変型のベクタードノズルに変わり、そして主翼には同じくガラス質の大型ミサイルラックが文字通り生えている。

 ザイじみた今まで以上の機動力と、可変型ベクタードノズルによる急激かつ既存の戦闘機では成し得ない機動で、ザイ化したライノはファルケンに襲い掛かる。

 イオは相手のターゲットが自分だと分かると、すぐにグリペンの傍を離れた。

 

 「ゾーイ、少し俺の馬鹿に付き合え!!」

 

 「やれやれ、君と一緒に乗ると本当に退屈しないな」

 

 『イオ!?』

 

 「問題無ぇ!! こっちはお前より武装があるんだ、この馬鹿は俺が引き受ける!! お前は先に離脱して援軍でも何でも呼んで来い!!」

 

 『けど、それじゃ』

 

 「安心してくれ、グリペン。私たちは時間を稼ぐだけだ。旗色が悪くなったら、ちゃんと引き上げるよ」

 

 『……分かった。気を付けて、二人とも』

 

 『死ぬなよ、イオ!! すぐ戻ってくるからな!!』

 

 グリペンはその通信を最後にアフターバーナーを吹かし、どんどん距離を離していく。その上空から襲い掛かる空港から生えて来た航空型ザイはイオがTLSを照射して薙ぎ払い、まとめて撃破してグリペンの突破口を切り開く。残弾を確認、ミサイル残り4発、TLS照射可能時間は残り約60秒、後は機関砲弾のみ。

 

 『ね~え~イオ、空港に戻ろ? 楽しくやって行ければそれで良いじゃん。他の人間のことなんて忘れて、みんなで仲良く暮らそ?』

 

 「お前の与太話に……っ付き合ってる暇なんざぁッ……カハッー!!」

 

 甘ったるいトーンの声を聴きながらの急激な加減速を伴う背後の取り合い。COFFINシステムのG軽減機構を持ってしても吸収しきれないGがイオを襲い、肺の空気を全て持っていかされそうになる。その最中だと言うのに通信から聞こえるライノの声はずっと安定したものなのだから、つくづくアニマと人間の違いを思い出さされる。

 

 『あたしだって撃ちたくないんだよ? だからほら、帰ろ?』

 

 「ゴチャゴチャ、うるせぇ!! 第一、こっちはお前のお守りなんざ、必要ねぇんだよ!!」

 

 『ちょっと何さ~。このあたしが守ってあげるって言ってるんだよ? 感謝こそすれって奴でしょ?』

 

 「うっせぇ!! アニマのクセして俺に負けた事あるクセに、何が守るだ? 寝言言ってんじゃねぇよ!! バーカバーカッ!!」

 

 『今のはちょっと……聞き捨てならないよっ!!』

 

 イオが機体をひねるとライノもそれに追従し、同時に急旋回からの巴戦。その後上下左右が次々と入れ替わり、互いが複雑に交差しあうシザースに持ち込み、外れた互いの機銃弾が空中で交差する。ライノの主翼から生えた大型ミサイルラックからマイクロミサイルの様な物がいくつも射出されるが、イオはそれをチャフ・フレアで凌ぐ。

 

 「大体、この前の訓練の時だって俺の方が撃墜数多かったのに!! テメェがイチャモン付けるからぁ!!」

 

 『先に当てたのはあたしだもん!! それであたしが勝ってた!!』

 

 「財布忘れたからって、貸したパフェ代、未だに返さねーのは、テメェだろぉ!!」

 

 『イオが社長秘書殿やゾーイにばっかり構ってるからでしょ!? あたしの事は見向きもしないで!! こんなに好きなのに!!』

 

 「っ……」

 

 「おや、私もそういう目で見られていたのか」

 

 『大体、あたしだって食堂のランチ、二回奢ったよ!!』

 

 イオの動きが鈍った一瞬のスキをついて、ライノの主翼から射出される二発の大型ミサイル。イオはそれを急上昇させ、TLSを起動させてから機体を振り、ミサイルを薙ぎ払って迎撃する。そして照射は続けたまま、その砲口を彼女に向ける。

 

 「こっちは13回奢らされてんだよ!!」

 

 きっちり13秒間の照射。当然直撃はさせず、機体の装甲を炙るかのようにそのすぐ周囲だけを狙い続ける。モジュールがオーバーヒートしかけたので一度収納、空冷による強制冷却を実行する。再使用可能までおよそ20秒。ミサイルの爆風に紛れて背後取りに成功したイオは、そのままライノの後方に付く。

 

 『なんでしっかり……数えてるのさ!! 細かい男は、女の子に嫌われるよ!!』

  

 「知るかよ!! 俺は自分の生きたいように生きる!! ただそれだけだ!!」

 

 『全く、君って奴はぁ!!』

 

 ライノは急激なコブラによる機体の制動、だけでなくベクタードノズルを機体下部に向けて更に減速をブースト。それどころか、コブラ姿勢のまま真後ろにスライドするかのように飛び退る。その姿は、まさに今にも獲物に針を刺さんとする雀蜂(ホーネット)そのものだった。

 

 「そんなの有りかよ!? まぁ、丁度いいハンデだぜ!!」

 

 再びイオの背後を取ったライノは、ガラス質の結晶に包まれつつあるその瞳と、脳裏に映った拡大されたイメージに同時に映るファルケンを睨み付け、ミサイルのロックオンを行う。脳裏によぎる拡大イメージには、ヘルメットや酸素マスクに覆われたイオの姿が表情までよく見えた気がした。彼がこちらをグラスキャノピー越しに見るその姿を見た途端、不意に彼女は胸を押さえた。

 

 痛み? しかし何の?

 

 『ねぇ、痛いよ。何なのこの痛み……』

 

 分からない。でもモヤモヤする。自己診断プログラムを使っても解析できない。原因不明だが、目星は付いている。多分原因はあの男だ。そうに違いない。消してしまえば、清々する筈だ。

 

 『なんでこんなに苦しいの? 何でイオを見るとこんなに胸が切ないの……?』

 

 そう言っている間にも、延べ30発近くのマイクロミサイルの照準が完了しつつある。ファルケンの音速を超えたループ機動により機体の後部から発生する円形の飛行機雲。追従し、その輪をライノが潜り抜けた時、彼女の中で何かがぐつぐつと煮えたぎる。

 

 『君にさえ……君にさえ会わなければ……っ!!』

 

 結晶に覆われたコックピットの中でNFIのインターフェイスの上で腕をフルフルと震わせながらも、ファルケンに向けてのマイクロミサイルの照準が完全に完了した。そして勢い良く顔を上げて、モニターと脳裏の拡大イメージにダブって映る彼の顔を見た瞬間、感情が爆発した。

 

 

 『こんなに苦しむ事も無かったのにぃぃぃいいいいいいいいいっ!!』

 

 

 激情と共に主翼のミサイルラックから放たれる30発のマイクロミサイル。ガラス質の弾頭はそれぞれが複雑な軌跡を描き、一斉にファルケンに襲い掛かる。

 残弾を全て吐き切った後で彼女の脳裏に走馬灯の様によぎって来たのは、今までの記憶だった。

 

 上海奪還作戦前に空母の中でパーティーをした事。

 

 海鳥島攻略作戦後の那覇海岸での水鉄砲での撃ち合いした事。

 

 防衛に成功したグリペン作の砂の城の前での記念撮影した事。

 

 小松防衛戦で負傷した彼を、病院で八代通から借りたナース服で看病した事。

 

 そして……夕焼けに染まる小松基地で、初めて写真の少年と出会えた事。

 そう、チェーンが千切れて今しがた自分の目の前を舞う蓋が開いたロケットに収められた家族の集合写真、その中央に映る少年と。

 

 イオ。イオ・ケープフォード。

 

 生意気で自分勝手だけど、アニマにも偏見を持たず友達のように接してくれて、なんだかんだ言って面倒見の良い金髪の少年。守り、共に歩みたいと思える対象。

 

 

 ――だからお前も、自分が好きなように生きればいい。それを決めんのはお前だぜ?――

 

 

 あぁ、そうだ。ようやく思い出せた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 『待っ……』

 

 ザイとの同化でもなく、軍が彼女に仕掛けたプロトコルでもなく、それらを振り切ってようやく自我を得たライノは、視界に映るイオに向けて手を伸ばす。

 だが、既に放ってしまったミサイルの制御はもう追いつかない。瑠璃色のファルケンの姿は、一斉に炸裂した30発のマイクロミサイルの爆炎に包まれて消えた。

 

 『イオ……? ゾーイ……?』

 

 空に咲いた爆炎が消え去ってからライノは全周波数で呼びかけるが、一向に返事は聞こえない。いつの間にか消えた月の無い星空に変わり、曇天の空を飛ぶのは周囲にはザイに浸食されかけた青紫色のF/A-18Eだけ。

 周りにはザイすらもいない、ただ自分一人。

 

 『アハハッ……あたしってやっぱり、壊れてるのかなぁ……? 狂っているのかなぁ……?』

 

 ライノは空元気を出そうと笑うが、その声には力が入って無い。始めは結晶に覆われていないサファイアブルーの左目からしか流れていなかった涙が、次第に結晶化して紫色に発光する右目からも流れ始めた。今までいつも演じていたように元気に振る舞おうとしても、瞳に溜まる涙は止まらない、加速する。

 

 力無く青い結晶の生えた座席の背もたれに体を預けながら、ライノはこの作戦が始まる少し前からの事を思い出していた。

 

 

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 上海奪還作戦 独立飛行試験隊通告前

 小松基地

 

 

 「……あぁ、そうじゃ。『蛍光灯』の準備は済ませておけ。そろそろ必要になってくる頃じゃからな。うむ、では切るぞ……えぇい、蜂娘!! いい加減に離れんか!!」

 

 喧騒に包まれた第三格納庫の一端で、ビーチベッドに寝そべりながらチェックリストを読み耽り、更に電話を掛けながらも自分のドーターであるガンメタリックのストライクワイバーンの整備を監督していたホワイトゴスロリの服を着たリューコだが、電話を切るなりジタバタと暴れ出した。

 かれこれ20分は彼女に引っ付いているアメリカ軍から派遣されたアニマ、ライノが暑苦しく鬱陶しかったからだ。

 

 「だって~、社長秘書殿はいつ見ても可愛いんだもん。こ~んな可愛い子、抱きしめなくて何がアニマか!! ってやつ?」

 

 「本当にお主、あのアメリカが調整したアニマかのう……」

 

 悪びれの無い様子のライノを振り解き、整備班のリーダーにチェックリストを渡すと、乱れた服装を直しながらそう呟くリューコ。しかし、その疑問はあながち間違いでもない。

 アメリカ本国はアニマ達を完全なるただの『兵器』として運用している。それは、彼女がセーフハウスに置いているアニマ用簡易メンテナンス装置から読み取れたライノのソースコードを見てからも明らかだった。あからさまにガチガチに固められた思考回路、過剰とも言える禁止事項項目。兵器としての動作の確実性を貴ぶと言う意味では成る程、確かに感情や想定外の動作は邪魔かもしれない。だが、アニマにも『心』があり、それが必要不可欠だという事は、リューコがこの体を得てから痛感しているものだった。

 

 (しかし、臨時隊員(パートタイマー)と出会ってから常にほぼ固定だったEGGパターンや心理グラフに変化があるのもまた事実。今はただ、見守り続けるしかない、か……)

 

 幼女の手が持つにはいささか大きすぎる端末に映っていたのは、社長が独自のルートで手に入れた本国にいた頃、つまりはロールアウトされたばかりのライノの運用状況やEGGパターンのデータだった。それらと最近の精密検査でのデータを照らし合わせてから電源を落とすとカバンの中に放り込み、自機の整備の監督も終わってやる事が無くなった彼女は第三格納庫から立ち去ろうとする。

 だがそこで、リューコはふと思い出すとライノに声を掛けた。

 

 「あぁそうじゃ、蜂娘。ドクター八代通が後で厚木に行くから一一○○時に技術棟に来いと言っておったぞ。厚木にアメリカの技官が来てるとか何とかと聞いておるが」

 

 「本当!? 嬉しいなぁ、アレ完成させてくれたんだ~!!」

 

 「だから引っ付くなと言っておろうが……何か知っておるようじゃが、そいつはお前の新装備か何かか?」

 

 「うん。今はまだ機密だから詳しくは社長秘書殿にも言えないけど、そんな感じとだけは言えるよ。じゃあまたね~!!」

 

 リューコを手放すと機嫌良さそうに技術棟へと走っていくライノ。しかし、リューコの端末には既に彼女の言う機密情報のデータは受信済みだった。

 

 (ブロウラー、か……無人機である以上、あの男が出て来んとも限らんか)

 

 かつての教え子の顔を思い浮かべながら、リューコは()()()()()()()()の姿を見やるのであった。




最初からクライマックスの回。
温存すると途中でダレそうだったので最初から決戦にしました。
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