ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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20話 ジュンスイ ナ ギモン

 「ごめ~ん、お待たせ~。ちょっと買いすぎちゃった」

 

 広場で車椅子の少女、ライトを交えて待つこと更に数分、買い出しに行っていたライノが大荷物を抱えて戻って来た。左手の袋には大量のピザ入りの紙パックが四弾は積まれて入っている。その他にもポテトフライの包みやチキンナゲット、ハニーメイプルビスケットにフライドフィッシュとレパートリーはまさしく何でもござれと言った具合だ。こちらに駆け寄ってくると、そこでようやく車椅子の少女が増えている事に気が付く。

 

 「あれ、なんか一人増えてる? 基地の人?」

 

 「はい、クロエ・ライトニングと申します。情報部所属で階級は中尉です。どうぞライトとお呼び下さい、ライノさん」

 

 「情報部の人か~。じゃああたしの事知ってても問題ないよね~。よ~ろしくね~」

 

 ライノは特に警戒するでもなく彼女を受け入れると、テーブルに次々と買ってきた品を並べていく。蓋を開ければ辺り一面に香ばしい匂いが広がった。

 振り向けば口の端から今にも涎を垂らしそうな勢いのグリペンと、彼女ほどでは無いにしろうずうずしているゾーイの姿がある。

 

 「「私たちは今、多大な忍耐を強いられている」」

 

 口を揃えて呟く二人に対してイオは面白がってステイステイ……ゴーッ!! 等と茶々を入れていた。合図と同時に二人は目にも止まらぬ速さでピザを一つ摘まみ、垂れるチーズを左手を広げて受け止めながら、何とも幸せそうな顔でそれを食していた。その一連の動作のシンクロ率は驚異の100%。流石はいつの間にか結成されていた『アニマ美食の会』の会長と副会長と言うべきか。ちなみに会員はグリペンとゾーイの二人だけである。

 ライトはその光景を笑いながら、イオと慧はやれやれと肩を竦めながらそれぞれポテトを食そうと一つまみする。そこでふと、イオは隣から自分を覗き込むライノの視線に気が付いた。

 

 「何だよ、いつも隊員食堂で見てるくせに、そんな珍しいか?」

 

 「けど、ジャンクフードこうして食べるのは見るの初めてだもんね~。今日はジャンクフード記念日って奴?」

 

 「サラダ記念日じゃねぇんだぞ……」

 

 何故日本の文学の話になったのかはさておき、イオは一しきり料理を堪能すると最後にコーラをクイッと一飲み、良く冷えた炭酸飲料がこの太陽の光と料理で温まった五臓六腑に染み渡る。

 

 「ぷはーっ、うめぇ。隊員食堂の飯も美味いが、偶にはこういうの食いたくなるよなぁ」

 

 「……ねぇ、イオ。鳴谷慧とグリペン、そして君とゾーイ。何で君達は揃っていると安定して飛べるんだろうね? やっぱり不思議パワーでキュピーン、ピカーンっ!! みたいな?」

 

 「そんな新人類じゃねぇんだから。俺だって聞きてぇよ。俺に出来るのは精々仮想訓練で身に着けた操縦技術を生かす事ぐらいだからな。それよりもお前の所の新兵器、あいつらにかなりディスられてんぞ」

 

 「ん~。まぁしょうがないよね。今のままだと大国間の軍事バランスは間違いなく崩れるもん。日本とロシアが手を組んだ場合のアメリカとの戦力差は最低でも8対1。あ、アニマの数の話ね? さらにMS社の様な自前のアニマを持つ組織がそちらに雇われないと言う保証もないから、最悪の場合は10対1だね。まぁ、社長秘書殿が敵に回った時点であたしの負けなんだけど」

 

 背後で目にも止まらぬ速度でピザを手にとっては瞬間で食す二人を他所に、いつもライノが愛でている愛くるしい見た目とは裏腹に模擬戦でも実戦でも文字通り負け知らずの幼女型アニマの姿を思い浮かべては、彼女の瞳から不意に光が消える。同時にその口元が歪んだ。まるで、何かを嘲笑うかのように。

 

 「だから上もさ、お尻に火が付いているんだと思う。それでブロウラーやデミ・ドーターだっけ? の様なまがい物を作ってその差を少しでも無くそうとしているんだよ。もしもザイとの戦争が終わった後の為に。人間は不思議だよねー、外に人類共通の敵がいても内側にも敵を探しているんだもの」

 

 「……改めて聞くと、ホント下らないな」

 

 イオはライノのその言葉に肩を竦めた。全く馬鹿げている。

 イオがその言葉に重ね合わせたのは、中学生の頃アメリカから日本に住むことになった直後の自分だった。その学校には生徒全般からの評判があまりよろしくない教師がおり、イオは不幸にしてその担任の元で2年過ごした。しかし、生徒全員がその教師を嫌っているのだとしても、生徒間でのいじめと言うものは発生する物だ。イオは容姿の違いからそのターゲットになったが、喧嘩の心得があった彼は暴力で一度はそれを振り切ってみせた。

 結局は媚びを売ろうと教師側に付いたいじめの首謀者に謀られ、彼は札付きの悪者扱いされる事となったのだが。彼が学校と言うものに最低限卒業できる程度にしか顔を出さなくなったのも、この出来事が原因だ。

 

 「ね、イオはどう思う? その人間の姿を模したあたし達もいつかは仲間割れを起こすようになるのかな? 仲間と余所者を区別して対立の芽を探し続けるのかな?」

 

 「さぁな。けど俺は……世界がどうなろうが、俺を邪魔するモノ全てに蹴り入れて生きてやる。俺の生きたいように生きるために。集団が頼れないなら、結局最後に頼れるのは自分しかいねぇよ」

 

 「……そっか、でも大丈夫だよ。例え世界が滅ぼうと、イオだけは絶対あたしが守るから」

 

 口元を少し歪めた状態のまま、瞳を閉じてイオに微笑みかけるライノ。しかし太陽を背にして影が掛かったせいか、一見すると愛くるしいが、彼女の表情には愛嬌以外の何か別の物を感じていた。ある種のストイックさ、狂気、とも言うべきか。

 

 「お二人さん、デートのお話ですか? それも宜しいですが、早くしないとデザートを全部二人に食べられてしまいますよ?」

 

 「げげぇっ!? こいつ等本当に二人で全部食う気かよ!? 俺にも甘いもの寄越しやがれ!!」

 

 「わ、悪いイオ。止めたんだけど二人とも本当に底無しの食欲で……」

 

 ライトの声に急に現実に引き戻され、その体のどこに入るのか分からない勢いで食していくグリペンとゾーイの手により机の上に並べられたメイプルは二―ビスケットが無くなり掛けている事に気が付くと、それを急いで確保するのであった。

 しかし、ライノの言葉が頭から離れない。

 

 

 ―――例え世界が滅んでも、イオだけは絶対あたしが守るから―――

 

 

 現在MS社に派遣されている身だとは言え、アメリカ所属のアニマである彼女のこの言葉が対象にしているのはあからさまに個人である。守るべき対象が国では無く、個人。

 

 彼がその言葉の意味を知るのは、数日後に開始された作戦中での出来事となる。

 

 

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 無人島

 

 「うーん、楽しみだ。おーい、子供たち~、ブリフィーングの時間ですよ~!!」

 

 飛行服を着た金髪の男は無人島に設立された基地の休憩室に入ると、端末を手で打ち鳴らしながらそれぞれ本を読んだり曲を聴いたりして寛いでいる自分の義理の息子たちに声を掛けた。

 休憩室の真ん中に備えられた巨大な机に男が持ってた端末を接続すると、机の上に戦術マップが拡大表示される。そこには男の予想した敵の進軍ルートや、こちらの戦力がそれぞれ様々な色の点で表示されている。

 

 「え~、コホン。大仕事はこれで三回目だねぇ、と言う訳でおじさんからざっとお仕事説明。明後日にも日本国自衛隊と米軍が協力体制で上海に上陸しようとして来る訳。連中アニマもフル投入してくるみたいだけど、問題はこっちなのよね~」

 

 男が表示を切り替えると、そこにはどこから持ってきたのか現在でも米軍のトップシークレット級の極秘資料の筈のF-35B DANMの試験飛行の映像、そしてパイロットのデミ・アニマ化のデータが流れていた。

 

 「連中君たちのデータをどこからか入手したみたいでさ~、こんなまがい物まで作っちゃってる訳なのよ」

 

 「ベース機体はF-35のB型……短距離離陸と垂直着陸能力を持つ機体だな」

 

 「ハッ、何だよこれ。有線接続じゃないだけあって思考操作の反映もラグ出まくりだし、機体のドーター化も中途半端。この技術者大分チキンだね、やるなら徹底的にやれっての」

 

 「しかし、量産性は私たちの物よりも高いようですね。デバイスも簡易化されていますし」

 

 「と言う訳で君たちの第一任務はこのデミ・ドーター戦闘機と戦い、勝利する事。まぁ、他のドーターどもの相手は二の次で良いよ。あ、そうそう、今回はスペシャルゲストとしてミハイおじいちゃんが来てくれるよ~!!」

 

 「ホント!?」

 

 「うん、ホントだよ。ただミハイおじいちゃんはちょっと別のお仕事があるから、くれぐれも邪魔しないようにね、フェルトちゃん」

 

 男の言葉にいち早く反応したのはフェルトだった。以前海鳥島での戦いの時に危うく死にかけた所を助けて貰ったのが原因か彼女はミハイに懐いており、彼をお爺ちゃんと呼び慕っている。一方、本人も満更でも無いようで、何でも『ヨーロッパに住んでいる孫娘たちを思い出す』との事だとか。

 

 「と言う訳で、おじさんからの説明は以上!! じゃあ頑張ってね~!!」

 

 金髪の男は机から端末を取り外すと、手をヒラヒラ振りながら休憩室を後にするのであった。

 

 

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 CVN-78 ジュラルド・R・フォード 艦内

 

 

 「ゾーイ。貴様に少し話がある」

 

 上海上陸作戦での独立飛行試験隊、及びその旗下であるMS社のホームとなるアメリカ軍の誇る世界最大の軍艦、ジュラルド・R・フォードで与えられた自室にて、最後に運び込まれた自身のドーターの調整を終えたリューコは同室であるゾーイに一つの小型のトランクケースを渡した。

 

 「……これは何かな? 社長秘書」

 

 「本来なら臨時隊員(パートタイマー)が適役なんじゃろうが、社長の指示でな。まぁ、確かにガキにが持つにはちょいとばかし大層な代物じゃからのう」

 

 ゾーイはそのトランクケースを開けて良いかを尋ねると、リューコはコクリと頷く。二重にロックされたそのケースを開くと、中身を見たゾーイはあぁ、成る程と納得した。

 中に収められていたのはMP7と呼ばれるサブマシンガンだった。元々はドイツの銃だが、アメリカでもデルタフォースが採用しているモデルだ。銃の他には予備弾倉二つと、やや特殊な弾丸が装填された弾倉が一つ。

 

 「この少し長いマガジンは?」

 

 「アメリカが開発した、試作段階じゃが対アニマ用の特殊弾頭じゃ。他国のアニマを敵に回した時の為と、蜂娘が暴走した時の抑止力の為の、な」

 

 聞けば、この特殊弾頭に使われている航空型ザイなどのコアでは無く本体の方の欠片、通称クライム・カーボンは一種のCPUプロセッサのような働きを持つらしく、単純な指令しか入力出来ないがコマンド次第では様々な効力を発揮するのだと言う。この弾頭に仕組まれたプログラムは『停止』。この弾丸がアニマに着弾しようものなら、たちまちにその行動を阻害され、強制停止に陥るのだと言う。

 

 「蜂娘の我が社への派遣期間は残り一か月弱、その間に何が起きても良いようにとついさっきあの木偶から渡されたんじゃが……こいつをゾーイ、貴様に託す」

 

 「イオの次に彼女に近いのは私、要はそう言う事なのだろう? 全く、私も損な役回りだな」

 

 そう言って彼女はMP7 を手に取りフォアグリップを展開しては銃を構え、その具合を一度確かめた。ライノは同じ組織での初めてのアニマ仲間という事でゾーイと仲が非常に良い。要するにお目付け役としては、ある意味ゾーイは適任だからという事なのだろう。

 

 「本来なら儂が持つべきなのかもしれんが、生憎この体で銃を扱うのは少々骨が折れるのでな」

 

 「出来れば、こんな物を使わなくて済むよう願いたいな。私も初めての同僚を撃ちたくはないよ」

 

 そう言ってゾーイはサブマシンガンをトランクケースの中に戻してベッドの下にしまい込むと、リューコを連れて二人揃って歓迎パーティーが開かれていると言う会場へと向かう事にした。

 






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