ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~ 作:零八式
カメムシの数が多くて大変でした……1日20匹は殺ってるんじゃないかな……
アメリカ軍空母 ジュラルド・R・フォード 歓迎会会場
「やっほ~、楽しんでる? イオ隊員」
相も変わらずアメリカンサイズの大盛りの料理を次々と平らげていくグリペンとゾーイを他所に、疲れからか飲み物を片手に壁の花を決め込んでいたイオは、不意に下からライノに覗き込まれた。
「ちぃと休憩だ。さっき艦長さんに聞いたんだが、この歓迎会お前が企画したんだって?」
「そう言えば、イオって普通に英語話せるもんね。そうだよ、折角だからみんなで楽しくやらないとさ」
「日本人の血の方が少ないんだけどな、俺」
白人ベースのクォーターだっつーのと付け加える一方、会場の方と言えば二つの勝負で大盛り上がりだった。一つはグリペンとゾーイによる大食い対決、もう一方はイーグルとファントムによるバドワイザーの瓶の飲み比べ対決だ。大食い対決はお互いが大皿をもう何枚か分からない程積み上げられており、飲み比べの方も二人の足元には8本ほど瓶が転がっている、ファントムの方が先によろけ出したのは気のせいか。そんな盛り上がる米兵相手にどちらが勝つかの賭け金を収集しているのはアンタレス3の颯隊員だろうか。
「皆で楽しく、ねぇ……」
「もう、あたしが楽しいこと好きなのは知っているでしょ? けど実際さ、今みたいな時間がずっと続けばいいと思ってるよ」
「一理ある。取り戻した上海の港で今度は戦勝パーティーと行こうぜ」
イオはそうは言うものの、その内心はそこまでいつものお気楽モードと言う訳では無かった。今回の戦闘は文字通りザイとの総力戦。素人目から見てもこの作戦の犠牲は少なく済む事は無いだろうという事は分かる。海鳥島攻略作戦の時でさえ艦隊の護衛機に数人の犠牲が出ているのだから。
意識しまいと、表には出すまいといつも通りに振る舞うが、そんな気落ちしていた彼に声を掛けたのは意外な人物だった。
「あら? もしかして貴方はこの前の……」
彼に声を掛けてきたのは、小動物の様な見た目だが、意外と芯はしっかりしていそうな顔だちの車椅子に座った金髪の軍服を着た少女、クロエ・ライトニングだった。
「あんた確か……ライト、か?」
「はい、数日ぶりですね。あの時はどうもお世話になりました。しかし知りませんでした、自衛隊とそこに雇われているMS社にそれぞれティーンエイジャーがいるとは聞いていましたが、まさか貴方がそうだったなんて……」
「そういうあんたこそ、内勤の情報部って話じゃあ……」
「……イオさん、厚木の基地にいらした時に四機のF-35Bを見ましたか?」
「あ、あぁ。あのデミ・ドーターとか言う奴か。まさか、あんた……」
ライトは少し悲しそうな顔をしてから、本当の自分の所属を明らかにすることにした。
「得体の知れない味方機なんて嫌でしょう? だから白状します。私の本当の所属は空軍の特設部隊、デミ・ドーター実験部隊です。そして私はF-35B DANM一番機のパイロット、つまりは隊長を務めています。実戦は初ですが、お互い生きて帰りましょうね」
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「ったく、聞いてねぇよ色々と……」
その日の夜、持ち込んでいた寝巻に着替えたイオは、割り当てられた自室のベッドにうつ伏せになった。パーティー前に知らされた今回の作戦内容、自分たちは第三波、補給が対応していないので全火器を総動員して制空権を拡大した後に即那覇に撤退、まさしく使い捨ての切り札。後続の安全は自分たちの活躍に掛かっている。
ファルケンのTLSやライノの操るブロウラー、そしてドーターと遜色の無い働きが出来るデミ・ドーター。これらが揃えば確かに制空権を確保し、上海まで辿りつけるかもしれない。
友人である慧の第二の故郷、中国、その空を自分は飛べるのかもしれない。
だが、こんな大規模な戦いは初めてだ。一介の高校生がとても介入して良い物では無いようにも思える。正直及び腰なのは否めない。
「けどまぁ、やるしかねぇよな」
仰向けの姿勢になりながらイオは呟く。いくらアルバイトの立場とは言え今の自分は立派な民間軍事会社の一員である。そこが戦闘状態になった以上、今逃げるのは敵前逃亡もいい所だ。
だが、それでも……
その時、部屋の扉を誰かがノックする音が聞こえた。
そう言えば、二人部屋なのにも拘らずもう一人の姿がずっと行方不明のままだ。イオは二段ベッドの上の階から降りると扉を開ける。
そこにいたのは……
「ら、ライノ!?」
「わお、あたしイオと同室だったんだ~、うわ~びっくり~」
「ひでぇ棒読みじゃねぇか……」
青いジャージ姿のライノは持っていたコーラの瓶をイオに手渡すと、悪びれも無い様子でそのまま部屋に入り込み、下段のベッドに座り込むと機嫌良さそうに体を左右に揺する。聞けば慧もグリペンと同室だと聞くし、そもそもこの空母はアメリカ軍の所有、つまりはそこに所属するライノのホームグラウンドである。多少の融通は利くのであろう。どういった意図が有るのかはいまいち分かりかねるが。
「それにしてもそのジャージ、平時はずっと着てるよな。気に入ってんのか?」
「うん。ドクター八代通と中隊長殿の進言でね~。同じアニマ同士、服装も同じ方が良いだろうって。ちなみにゾーイもグリペンと同じ赤いやつを持っているよ」
「へぇ、そいつは初耳だ」
「まぁ、仲良いからね~あの二人」
二ヘラと笑い、両足をぶらぶらさせながらベッドで仰向けになるライノ。その手にはいつの間にかあの銀色のロケットが握られている。
「でもさ、みんな同じってなんか安心できない? あたしね、生まれて間もない日、コロラド州の山奥、ロッキーの公園でキャンプしたんだ。シャンケル博士の引率でね。バーベキューしたり、テント建てたりしたかな。でもそこで一番記憶に残ってるのは、そこの夜空」
「ジャージの話から随分飛んだな」
まぁ、戦闘機のアニマだし、会話の内容も飛ぶのか……?
そんな事を考えていると、あはは、とライノが乾いた笑みを浮かべた。
「ごめんごめん。けどね、あの宇宙の真ん中に体が浮かんでいる感じ。な~んか自分がちっぽけな存在に思えてきてねぇ。なんか一体感? 没入感? 自分も世界の一部で個体個体じゃ生きていけないって言う感じ。イオにも分かってほしいなぁ~、って」
「人もお前も、独りぼっちじゃ寂しくて生きられないってか? その世界の一部とやらに入れなかった俺には分からねぇな」
ライノの哲学的なその言葉に、イオは皮肉の籠もった声音で返す。
髪と瞳の色が違うと言うだけでクラスから仲間外れにされた経験を持つ彼にとっては、集団でないと生きていけないなど、真っ平御免被る話だ。
「あ、ごめん。掘り返すようなこと言っちゃって。そんなつもりは無かったんだけど」
「気にすんなよ。確かに人間なんざ、所詮その程度かもしれねぇ。違うのはスケールぐらいだろ、国か、学校のクラスか、とかさ」
イオは手持ちのコーラを一飲みすると、ライノから少しだけ間をおいて下段のベッドに座り込む。
「それでも俺は、自分の生きたいように生き、飛びたいように飛んでやる。だってつまんないだろ? 他人と同じ道の上を歩くなんてさ」
「……じゃあさ、イオ。今からあたしと、この船抜け出しちゃう?」
……は?
「だからさ、この船を一緒に抜け出して、楽に自由に生きない? 国とか誰かのために戦うんじゃなくて、自分のためだけに戦う。そういう生き方もありなんじゃないかな~って。あ、鳴谷慧とグリペン、それから君の相棒のゾーイ、後は社長秘書殿も連れて行けると良いかな」
仰向けの姿勢から起き上がり、上目遣いでこちらを見据えるライノ。とろんとしたえくぼが、その破壊力を増大させる。その妖艶な雰囲気にドキリとするが、イオはそれ以上にうすら寒い何かを感じていた。
彼女の言っている意味が、よく分からなかったのだ。
作戦前に船を抜け出すだと? 立派な敵前逃亡じゃないか。それに、この作戦を成功させなければ、次はいつ上海を取り返しに行けるか分かったものでは無い。上海の空を飛べる千載一遇の機会だと言うのに。
彼女も流石に本気で言っている訳ではないだろうと、イオは適当にはぐらかすことにした。
「おいおい、アメリカ特有のブラックジョークにしちゃあ、ちぃとばかしキツくないか?」
「アハハッ、流石に今のはちょ~っとブラックすぎたかな? そうだよね。イオは飛んでみたいんだもんね、上海の空」
そう言うと、一瞬にして先程までのライノが漂わせていたどこか妖艶の雰囲気は霧散した。ライノはいつもの笑顔を浮かべると再びベッドに仰向けになり、今度は布団を被ってもぞもぞ動いたかと思うとその頂点からひょっこり顔を出す。
「なんかごめんね? 変な話に付き合わせちゃって。明日は早いから、寝られるうちに寝た方が良いよ」
「お、おう……」
ライノが急にいつもの調子に戻ったことに拍子抜けするイオだが、確かに彼女の言う通り明日は朝早くから作戦が開始される。自分も眠れるうちに眠っておくかと残っていたコーラを全部飲み干してから立ち上がり、二段ベッドの上に寝転がると一言だけ告げる。
「お互い、生きて帰ろうぜ?」
「……うん、そうだね」
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早朝
現在この海を航行しているのは、軍艦、アメリカ海軍 第七機動隊だ。横須賀を母港とし、極東アジアに睨みを聞かせていた世界最強クラスの機動艦隊である。その艦隊の旗艦を務める原子力航空母艦ジェラルド・R・フォードの艦上は今現在、凄まじい熱気に包まれていた。黄色のユニフォームに身を包んだ、シューターが身を屈め、カタパルトの射出方向へ真っ直ぐ腕を伸ばすと、数秒後には、F/A-18E、F型達が離陸していき、一機が離陸するとすぐに緑や赤のユニフォームの甲板員達が走り込んで来ては、カタパルトのチェックを済ませて待機している艦載機達を誘導、セットしていく。それの繰り返しだ。
「イオ、お前たちは一番最後に発艦だ」
「分かってますって、フナさん。ったく、上空から艦載機が発艦するところを見たかったのによ……」
ため息を吐き不貞腐れるイオだが、無理もない。イオの操るファルケンは、本艦の艦載機であるF/A-18Eと比べて実に1.5倍近くの重量があるのだ。この艦に搭載されている電磁式カタパルトで飛ばせない事は無いそうだが、普段からこんな重い機体を飛ばしている訳ではなく、どのような負荷が出るかは分かったものでは無いため、こうして一番最後まで待機せざるを得ないのである。
「随分と気楽そうに見えるが、大丈夫なのかい?」
「俺の方は心配ねぇよ。ゾーイ、機体チェックの方は?」
「火器管制システム及び機体各部状況オールグリーン、問題無しだ。いつでも飛べるよ」
「ようし、行くか!! 離陸動作は任せるぜ?」
ようやくファルケンの番が来たらしく、フナさんが敬礼してからタラップを降りるとコックピットブロックが閉じ、一瞬暗闇に包まれる。直後、ゾーイのダイレクトリンクの掛け声で多数の六角形で構成された全周囲モニターが点灯し、センサーが拾う周囲の視覚的情報を余す事無く反映させる。エレベーターで機体が上昇していく間にもゾーイは今一度推力偏向ノズルの具合やカナードの稼働、TLSの展開が問題なく行えるかどうかを確認し、インカムからの指示に従い機体の前輪をカタパルトに固定させる。
瞬間、左にいたシューターが身を屈めて、真っ直ぐに目前の大海原を指した。その数秒後、一気に身体にGが遅い掛かる。フルパワーで駆動した電磁式カタパルトは約23トンの規格外の巨体をどうにか数秒で300キロにまで強制加速させた。
「っ……ふぅ、発艦成功。やっぱりここは『行きま~す!!』とか叫ぶべきだったか?」
「止めた方が良い、舌を噛むと死ぬほど痛いからね」
元のネタを分かっていたのかイオの軽口にゾーイもそう答えると、制御をイオに戻してから機体の速度を上げて既にデータリンクの情報からして先に編隊を組んでいるBARBIE隊とライノとの合流を図る。
その瞬間、味方艦から放たれた艦対空ミサイルが正面のザイの大群に降り注いだ。しかし、予想通りと言うべきか撃墜数は爆発の規模と比例せず、僅か二、三機程度でしかない。
ザイの一群が前衛の第一派に食いついた。通常の戦闘機が真っ向からザイと戦える筈もなく、4つの味方を示す点が消える。わずか数秒で、一個小隊が壊滅したのだ。
「ちっ……ゾーイ、全機に通達!! テメェら射線開けやがれ!! ここは俺がTLSで―――――」
『焦りは禁物ですよ、イオさん。戦術マップを見て下さい、敵の防御部隊の陣営が開き切っていません。今こちらの陣形を崩せば、我々は挟み撃ちになります。それに、この配置では撃てたとしても最大限のダメージを与えられません』
「けどよ先生!!」
『大丈夫、イオの道はあたしが作るから。行っちゃえ、
そう言ったのは翼端が青く塗られたブーメラン状の無人機、ブロウラーを操るライノだった。サファイアブルーの輝きが一層増し、彼女の周囲を飛んでいた四機のブロウラーが一斉にザイに対して突撃していく。流石はドーターと遜色の無い機動性を発揮できるポテンシャルは持っているだけあって、瞬く間に追いつくと陣形を維持しようとする味方に襲い掛かるザイを片っ端から落としていく。
「すげぇ。あの四機、本当にライノが操っているのかよ……」
『我々デミ・アニマ部隊がいる事もお忘れなく。全機、陣形が整うまでこれ以上一機たりとも味方を落とさせてはなりませんよ?』
続いてライト率いる四機のF-35B DANMの部隊が、上空を飛び交い、空に紫色の軌跡を描く。こちらも機体性能自体はドーターとほぼ同じの為、ザイの機動性に追従しており、敵を一機も寄せ付けていない。また一機、また一機とザイを撃墜していく。
部隊周辺の斥候の排除に成功、同時に陣形の展開も……完了。
ノーダメージとはいかなかったが、それでも被害は最小限に抑えられた。同時にイオが編隊の最前列に到着、目の前に味方機がいなくなったことにより、TLSの使用制限が完全に解除される。
「全機、俺より前に出るなよ!? ブチかますぜ!!」
TLSを起動させ、最大出力で照射。普段放つそれよりも極太の赤い剣が目の前に雲の様に群がるザイの大群の一部を焼き払い、そのガラス細工の機体を蒸発させる。
防衛網に完全に穴が開いた、第二派のブロウラーを突っ込ませて戦場を引っ掻き回す千載一遇のチャンスだ。
だがその時、先行したブロウラーの遥か低空から襲い掛かる五機の機影があった。IFFには反応無し、所属不明機。
五機が瞬く間に垂直に上昇すると、三機のブロウラーが一瞬にして撃破された。
「所属不明機!? まさか、あいつらか!?」
太陽の中から出現したのはモスグリーンと赤紫の烏賊を想起させる機体、そして翼端がオレンジ色のリューコの操るドーターと同型の機体だった。
間違いない、海鳥島で遭遇した機体と同じ連中だ。
拡大映像で映し出された紫色のヴィルコラクの尾翼には、鋼鉄の義足を持つ狼のエンブレムが付けられている。イオはその機体を自分が以前追い詰められた機体だと認識すると、口の角を吊り上げた。
「良いぜ、この前の借りを返してやるぜ、義足野郎!!」