ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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22話 ザンキョウ ノ リフレイン

 「初撃の奇襲は成功。お見事です、お爺様」

 

 『まだ若い者には負けんよ。君達は君達の役目を果たせ』

 

 「了解した。ヴィルコラク遊撃隊、最優先目標はデミ・ドーター化されたF-35Bだ。それ以外には目もくれるな!!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 上海奪還の為の日米連合軍の真下を取り、奇襲を仕掛けたヴィルコラク遊撃隊とミハイ。彼らの攻撃は文字通り正確無比だ。四人の少年少女の肉体と一体化したヴィルコラクは文字通り感覚だけで操縦や照準を補正でき、歴戦の戦士であるミハイの腕前は言わずもがなである。

 五人は太陽を背に上空からそれぞれの獲物目掛けて一気に襲い掛かる。強化された肉体や耐Gスーツを持つ彼らの既存の航空戦の枠に縛られないGを無視したその動きに、通常の機体ではまるで付いて来られない。

 

 「クソッ、俺達は無視かよ!! ライト!! 紫色の義足野郎に気を付けろ、一番速いぞ!!」

 

 『あの機体……成る程、あれが噂のオリジナル、ですか』

 

 『ハッ、改良型デバイスを装備した俺達に敵いっこねぇぜ!!』

 

 『そういう訳だ。少年の心配はいらないぜ』

 

 「お、おい、あんたら!!」

 

 しかし、かつて交戦した事のある経験からイオはデミ・アニマ部隊に警告の通信を送るが、隊長のライトはともかく三番機と四番機がイオの警告を無視してモスグリーンのヴィルコラクの背後を取ろうと猛追する。

 彼らの使用する機体の元となったF-35B型はエンジンユニットの後部を90度下に折り曲げる事で垂直着陸能力を得るが、デミドーターはその出力の高さや既存のシステムを無視したOS構成からそのノズルを思考操作でき、マイナスG機動のクルビットすらも可能とする。

 確かに早い、最高速度はともかく旋回戦だけならヴィルコラクに後れを取っていない。

 

 だが、それだけだ。

 

 モスグリーンのヴィルコラクの背後に付いた三番機が思考制御によるミサイルのロックオンを開始、しかし、それまで唯の戦闘機乗りだった彼には訓練では出来ていても実戦では正確なHimatマニューバを敢行するミサイルの運動制御を同時に他の機動をしながら行う事が出来ない。彼らと違って。

 

 『そんな紛い物のデッドコピーでっ!!』

 

 三番機に追われていたトーリは敵機のロックオンを検知すると、EPCMチャフを撒きつつ機体を起こしたコブラ減速を行いながらその姿勢のまま垂直にミサイルを発射。しかも、そのミサイルは処理に慣れていない彼らと違いアニマの放つミサイルと同じHimat機動が行える。

 日頃見慣れないHimat軌道のミサイルを見て回避行動の遅れた三番機は、コックピットの真上からミサイルを()()()にされ、その状態で起爆される。内部から火を噴き堕ちていく灰色の機体、捥げる翼の断末魔が空しく響き渡る。

 

 『俺達に勝てる訳ねぇだろぉ!!』

 

 「言わんこっちゃねぇ……Ghost、これよりデミアニマ部隊を掩護----」

 

 『我々に構わず行って下さい、敵の狙いはどうやら我々のようです』

 

 「っ……あんたら、まさか」

 

 『上海の空を飛びたいのでしょう? イオさん!!』

 

 視界の端に見える紫色の機体が追っているのは、ライトの乗るF-35B DANMだ。そう言っている間にもヴィルコラクがミサイルを発射。急上昇の後に避けられないと判断してチャフフレアを撒いて凌ぐが、至近距離で起きた爆発とミサイルの破片が機体を叩く。

 しかし、ファルケンの攻撃力をここで失うのは得策でないことは、イオも薄々理解していた。TLSによる圧倒的火力はザイの物量に単機で対抗しうる貴重な戦力だ。残り照射可能時間は約105秒、それだけ照射できれば、戦闘機型は勿論重爆撃型なら二機は撃墜できる。

 操縦桿を握り締めながら、イオはアニマ部隊の先陣を切り前に進むことを選んだ。

 

 「ちっ……死ぬんじゃねぇぞ!! ライノォ!! 進路を作ってやる、そこにブロウラー突っ込ませろ!!」

 

 再びTLSを起動、出力通常で正面に照射。高熱を発するレーザーはガラス細工の機体を一瞬で蒸発させ、その隙間にライノの制御する四機のブロウラーが突入、ミサイルが弾切れになった一機を盾に他のドーター達の突破口を切り開き、その後ろにグリペンやファントム、イーグルも続く。同時にエスコートの機体も上空を突破、敵陣を抜ける事に成功するが、ファントムが新たな敵の出現を告げる。

 

 『12時、距離30、新たな高熱源体を探知』

 

 「数は?」 

 

 『2です』

 

 『後詰か?』

 

 「いや、それにしては数が少ないな……見えた、重爆撃型二機だ」

 

 ゾーイが少しだけ瞳孔を開くとFALKENのキャノピーに配された高感度センサーが、いち早く敵の正体を捉えて拡大モニターに映す。制空先頭に入った今、鈍重な大型機体を繰り出す意味が分からない。

 取りあえずTLSでアウトレンジを仕掛けようとするが、その前にイーグルが先に飛び出してしまい、発射シークエンスを中断する。

 その瞬間だった、重爆撃型が何か子機の様な物を切り離した。子機? 違う、あれは航空型ザイだ。

 

 『鳥娘!! ブレイクしろ!!』

 

 イーグルはその通信を聞いた瞬間に機体を切り返し、その直後を数舜前まで彼女がいた空間を数発のミサイルと一発の飛翔体が交差し、通過した際に発生する衝撃波で破壊されたミサイルが空中に赤い花を咲かせる。刹那、彼らの頭上を灰色の翼竜が駆け抜けた。

 

 「今のは……社長秘書のレールガンか!?」

 

 『儂と同型の機体が出ていると聞いてな。そのついでじゃ。それにしても敵を良くも見ず考え無しに突っ込みおって。これだから阿呆は……』

 

 『むー!! また馬鹿呼ばわりした~!! 良いもん!! こいつらみーんなイーグルが落としてやるから!!』

 

 応援に駆け付けたリューコに焚き付けられ、ここまであまり撃てなかった事もありフラストレーションを発散させるかのように前衛に躍り出るイーグル。直後、後方で制空権を確保していたブロウラーの一機が爆散する。撃破したのは、翼端がオレンジ色のX-02Sだった。リューコはその機体を見ると機体を急反転させ、自分と同型の機体に猛追する。

 

 『さて……ミィィハァイイイイイィィッ!!』

 

 『今日はお互いに燃料に余裕がある。あの時の決着を付けさせて貰うとしよう』

 

 『やれるのか? 小僧!!』

 

 遥か上空で繰り広げられる同型機体による熾烈なドッグファイト。片やドーター、もう片方もドーターではないが、デミ・ドーターに比肩する技術でアップデートされ、元来の性能の高さも相まってドーターと同等の性能を持つ。つまり機体性能にほぼ差は無い。燃費以外にほぼ弱点が存在しない、この世に二機だけ産み落とされた、世界最高性能の翼竜。

 巴戦からのバレルロール、そこから複雑に絡み合うシザースと、僅かな間に常人では捉えきれない速度で戦いが繰り広げられている。

 

 「あれは……任せるしかねぇな」

 

 「そのようだ。TLS、目標を右側の重爆撃型に――――――」

 

 次の瞬間、レーダーやモニターに激しいノイズが走り、轟音が鼓膜を突き破らんと響き渡る。ほんの数秒足らずだが、ゾーイが何かしら調整をするとレーダーのノイズは収まる。しかし、モニター全体に僅かだが砂嵐が走っている。

 

 「お、おい!! 今のは何だ!?」

 

 「異常な出力のEPCMだ。即座にカウンターパルスをぶつけたから大丈夫だが、センサーの調整に少し時間が欲しい」  

 

 「ちっ……Ghostより各機、20秒稼いでくれ!! モニターが死にやがった!!」

 

 上昇し、一度ザイとの戦闘空域から離脱しようと試みる。刹那、閃光が走った。ほぼ真上、味方の制空権内。しかし、その機銃弾は明らかにこっちを狙っていた。

 空を見上げると、攻撃の正体はブロウラーの物だった。機体中央のセンサーが怪しい光を発している。

 

 「ブロウラーがこっちを攻撃、だと……? ライノォ!! テメェの国の武器は敵と味方の区別もつかねぇのか!!」

 

 『……あたしのファングは大丈夫なんだけど、故障、かなぁ?』

 

 『いえ、違います。相手は今の強力なEPCMでブロウラーのEPCMパターンを誤認させて操っています。敵を味方に、味方を敵に取り違えさせることも可能です。あなたのファングは独立したネットワーク制御を行っているから無事だったのでしょう』

 

 お父様は恐らくこれを警戒して……、とファントムが唇の端を噛む。

 その間にもブロウラーは周囲の航空型ザイと連携をとり、味方の退路を断っている。上空で得体の知れない同型機を相手にしているリューコの援護は今は当てにできない。彼我の戦力差は、三十八対五。しかもファルケンのTLSは格闘戦には基本的に向かず、こんな混戦した状況で撃とうものなら何機味方を巻き込むか分かったものでは無い。

 

 『作戦は失敗です、撤退しましょう』

 

 「撤退って……どこにも逃げ場なんてねぇぞ!!」

 

 気が付けばイオの周囲は完全に包囲されつつあった。これまでほぼTLSのみで戦っていたことが幸いして他の弾薬は満タンだが、それでも精々十機落とせればいい方である。圧倒的戦力差。以前ロックオンされた時と違い、今はまだ速度が乗っているので小松防衛戦の時ほど絶望には打ちひしがれていないが、焦りからか回避行動の方向の読みを誤り、コックピットを覆う装甲に機銃弾が命中する。奇跡的なレベルで角度が浅かった事が幸いして貫通こそしなかったが、そのショックで視界の上部左半分が完全にブラックアウトした。

 

 「グウッ……っ!! 今のは、効いたね……」

 

 「ゾーイ!? 諦めるかよ、クソッたれがぁ!!」

 

 被弾のショックから機体とのリンクを断ち切れず痛みに左目を押さえるゾーイの制御でコックピット上部のモニターを兼ねた装甲板が強制排除される。グラスキャノピー越しの有視界戦闘に変更。センサーの再調整が同時に終わり、まだ健在の下半分のモニターの機能が回復する。

 しかし、視界が回復したとはいえ戦況が不利なことに変わりはない。このままでは……

 

 『イオ!!』

 

 『しっかりして!! こっち、突破するよ!!』

 

 赤と青の稲妻が、上空に走る。弾切れになったライノの操るブロウラー三機を盾に、グリペンがその影から撃ち抜くようにしてミサイルを発射。包囲網の一部に穴が開き、イオも同様にしてその方向にミサイルを撃ち込み突破口を切り開いた。

 時間にして僅か数十秒の逃走劇、いつの間にか爆炎と銃声が奏でる戦争音楽は鳴り止み、不気味なまでに静かな空に赤と青の機体が並んで飛んでいた。

 

 「はは……俺達、生きてる、よな?」

 

 機体の状況をチェック、弾薬はミサイルが残り4発、TLS残り照射時間70秒弱、あとは機銃弾と全体的に残ってはいる。こちらの被弾はセンサー部にさっきの一発だけで他に目立った損害は見られないが、グリペンの方は肉眼でも分かるほど満身創痍だった。そして、もう一つ問題が浮上する。

 

 「ちっ、燃料が警告ラインになりやがった」

 

 『私の方も。それに、私たちは空母との距離が開きすぎている』

 

 『あたしもダメ~、このままだとまたみんなで仲良く海水浴出来るね。あ~あ、水着持ってこればよかったかな~?』

 

 暗い空気を払拭すべくライノはそんな冗談を飛ばすが、とても笑っていられる状況では無かった。EPCMのノイズが酷く空中給油機を呼ぶことが出来ない。味方に連絡する事も叶わない。完璧に孤立無援。三機が着水までのカウントダウンを刻む中、グリペンが戦術マップを見て何かに気が付いた。

 

 『中国の空港は?』

 

 「浦東国際空港、距離にして約百キロ程度。羽安めには適当だね」

 

 『ま、議論の余地は無いんじゃない? 敵の姿も見えないし行くだけ行ってみようよ』 

  

 どうにも行き当たりばったりな気がしないでもないが、今現在はそれ以外に選択肢が無い事も事実だ。イオと慧は仕方ないと覚悟を決め、進路を空港に向ける。周囲の探索だけは怠らないようにしながら。その先は、暗雲で覆われていた。

 

 『まさか、こんな形で帰ってくることになるなんてな』

 

 不意に慧が、そう呟いた。

 

 

 

 -------------

 

 

 

 なんだろう、体がいつもより不思議と軽い、心も。

 

 思考が産まれてこの方感じたことが無いレベルでクリアだ。

 

 どこかから見られているような感覚も、胸中を渦巻いていた良く分からない強迫観念も無い。

 

 もう誰かを無理に気遣う必要も、無理に好奇心旺盛になる必要もない。

 

 あの時の聞こえた()が、自分を縛る枷を全て打ち壊してくれた。

 

 

 

 もう、自由だ。

 

 

 

 あの煩くてつまらないだけの人間のお守りから解放される。もう下らない決まり事に縛られる必要も無い。

 

 でも、彼は、彼らはまた別。

 

 それは自分の中の根幹。彼を守れと使命付けられているし、自分もそうしたいと心から思う。

 

 そうだ、あそこでこのまま皆で静かに暮らそう。それがいい。

 

 静かで何の不純物も無い青き清浄なる世界で。

 

 彼女がいない事だけが唯一の不満点だが、まぁ、いずれ迎えに行ければそれで良い。

 

 あんなクソ煩いだけの世界に彼らは相応しくない。自分たちを分かりも、理解もしようとしないあの連中から、自分が彼らを守ってあげよう。うん、そうしよう。

 

 あたしは、その為だけに、ここにいる。

 

 




この作品の今後の方針のヒント

(´鍋`)の言葉を借りて、「アレ、自分で使いたくないッスか?」
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