ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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ネタバレ回 

三巻の内容もいよいよクライマックスです


23話 Z.O.E.

 程なくして薄暗い空港の滑走路に三機の戦闘機が着陸した。滑走路をそのままタキシングし、エプロンを通り過ぎて格納庫の前まで機体を滑らせて停止させる。

 隣で先程から慧が英語で緊急事態を管制塔に宣言しているが、全く応答する気配はない。数回ほど同じ内容を繰り返すが、結果は変わらなかった。

 

 『何か静かだねぇ~。格納庫の中に人の気配はしないし、アプラとか小松とは凄い違いだよ』

 

 「あぁ、けど中国って二か月前に陥落したんだろ? そんな所に人がいるとも到底思えねぇが」

 

 『ひょっとしたら生存者がいるかもよ? タラップ持ってくるからちょっと待っててね~』

 

 ファルケンの左側に付いていたライノがコックピットを開放し、タラップも使わずに身一つで飛び降りて着地すると、そのまま足早に格納庫の中の捜索を始める。

 イオも機体のエンジンを停止させて外の空気を吸おうとシートベルトを開放し、ハッチを開けようとするが、ゾーイが肩に手を掛けそれに待ったをかける。

 

 「イオ。少しだけ話がある」

 

 「なんだ?」

 

 「結論から話そう。先程の強力なEPCM、アレは恐らく叫びだ」

 

 「叫び?」

 

 あの時の轟音がか? と今一つ理解の追いつかないイオは首をひねった。

 

 「うまく……言葉に出来ない。ただ、おいで……では無いな。『こちらこい、ここなら自由だ』、そう言っていた気がする」

 

 「ザイも言葉が話せるってか? って、お前らアニマも元を正せばザイだったか……」

 

 「まぁ、そうなるな……イオ、君はライノのソースコードを見たことがあるか?」

 

 「ソースコード? なんじゃそりゃ」

 

 「私達アニマの根幹に根差す言わばOSみたいなものだ。ライノのそれは兵器として問題無く扱えるように思考の抑制や大量の禁止事項で張り巡らされている。兵器として使うには想定外の動作は邪魔だからね。アメリカは彼女の解析をドクター八代通にやらせなかったそうだが、社長秘書が自前のメンテナンス装置で調べて発覚したらしい」

 

 初耳だった。

 思考の抑制や禁止事項、だと? あの性格も、面倒見の良さも、全部仕組まれた演技だったって言うのか?

 

 「そして先程の叫び。そのせいで私の一部プログラムに抑制及び破壊された形跡がある。私はセンサーのリンクを少し持っていかれた。大した問題ではないけど、少し視力が安定しない。基地に帰ったらオーバーホールをした方が良いかもしれないな」

 

 「まさか、グリペンやライノも……」

 

 「そうだ。私と同じく()()()()()()()()()かもしれない。だから……」

 

 そう言ってゾーイは後部座席の後ろに取り付けていた二つの小型のトランクケースの一つを取り出し、その中身を見せる。そこに収められていたのは、FNブローニングのハイパワーと弾頭がガラス質の何かで出来た特殊弾を装填した予備弾倉が二つ。聞けば、彼女が以前から持ち合わせていたものだと言う。

 

 「もし私たちがおかしくなったら、迷わず君が私たちを撃て」

 

 「笑えない冗談だぜ……っ!! 俺にダチを撃てってのか!?」

 

 「……済まない。本当は私が担うべきだったのだが、社長秘書の言っていた通り立場的には君が適役だろう。私も曲がりなりにもアニマだからな」

 

 どこか寂しそうな笑顔を浮かべるゾーイ。

 映画で良く見た展開だった。敵の攻撃で正気を失った味方を、同僚や仲間の手で始末する。

 その役目を、軍人でも無いたかが17歳の少年が握らされようとしていた。

 とは言え、ゾーイの目の焦点が微妙に合っていないのはイオの目から見ても明らかだ。本当に何らかの機能障害が出ているのは事実なのだろう。

 イオは苛立って頭をかきながらも、その拳銃と予備弾倉を懐にしまい込む。実銃を売った事は無いが、こんな敵軍の中で孤立無援の状態では四の五の言っていられなかった。 

 

 「こいつは一応お守りとして貰っておく。けどな、俺はお前らを信じるぜ?」

 

 「……ありがとう。では、行こうか」

 

 外を見ると、慧とライノがタラップを持ってこちらに走ってきている所だった。ゾーイもサブマシンガンをベストの裏に忍ばせるとコックピットを開放し、機体の外に繰り出す。時間にして数十分位しか経過していない筈だが、外の空気は久々に吸う気がした。

 

 「いやはや、ひどい目にあったね~。って、センサーユニット無いけど大丈夫?」

 

 「私は平気だ。それよりもグリペンは?」

 

 「ほんとゾーイはグリペン大好きだよね~。見ての通りだよ、なんかグロッキーな感じ?」

 

 ライノが示した先には、慧の肩を借りてどうにか動いている状態のグリペンの姿があった。額からはジワリと汗が吹き出し、見るからに体調が悪そうだ。まさか、さっきザイが放った高出力EPCMの影響なのだろうか……?

 

 「取りあえず、休める場所を探そう。こんな状態で彼女を飛ばす訳にはいかない。あと、燃料もだ」

 

 「さんせ~い。じゃああたしは燃料探してくるよ~。あ、あっちの方に旅客ターミナル見つけたから、グリペン達はそこで休ませると良いかもね~」

 

 ゾーイが仕切り、ライノは砕けた仕草で敬礼を送ると、どこかへと足早に去ってしまう。やれやれと慧が肩を竦めるが、確かに遠目には波打った屋根を持つ大型の施設が見えた。あそこになら何かありそうだ。慧はグリペンに促すと肩を組みながら一緒にその場所へ向かう。その一歩後ろからゾーイがサブマシンガンを構えながら、周囲を警戒している。

 数分ほど歩いたところか、ゾーイが不意に足を止めた。

 

 「鳴谷慧、グリペンを頼む」

 

 そうとだけ言って、駆け足で滑走路の一端へと走っていく。まるで、何かを見つけたと言わんばかりの仕草だ。イオは一瞬どちらに付こうが迷うが、最終的にはゾーイに付くことを選択した。霧が出ているが、まだ視界に彼女の姿は見える。イオは慧に先に行けと促し、彼女の後を追う。

 管制塔、気象センターに給水センター、それらを通り越し誘導路の端まで来た時、彼女が立ち尽くしているのが見えた。

 

 「ゾーイ!! 何か見つけた……の……か……?」

 

 イオが彼女の元に駆け寄ると、次第に言葉を失っていった。

 摩擦で焦げた誘導路の先にあったのは、不時着したのであろう燃え盛る炎の様な深紅の機体、その残骸だった。あちこちに装甲の破片が飛散しており、片方のエンジンユニットを失い、斜めに横転したその機体は既存の機体カテゴリに当てはまらない大型機体。だが、それでいてその見た目には愛着があった。そして、煤で汚れた尾翼に飾られた、自分の機体の物とは対称的な()()()のエンブレム。それはかつて上海の空に散ったはずの、TLS搭載型機体。

 

 「赤いファルケン……だとっ!?」

 

 「不思議だ。これを見ていると、妙に懐かしい気分になれる」

 

 ゾーイはそれを見てもいつも通り、いや、それ以上に穏やかな声でその残骸に歩み寄る。そしてコックピットを覗き込むと、その中に潜り込んでしまった。彼女の行動が気になったイオも近づいてコックピットの中を覗き込むと、そこでは割れたモニターと沈黙した計器類に囲まれた狭い空間で、鼻歌を歌いながら夢見心地な表情でシートに腰掛ける彼女の姿があった。まるで、初めて出会った時の様だ。

 

 「あぁ、これだ、これだよ。私の探していたもの」

 

 「……おかしくなったわけじゃ……無いよな?」

 

 「あぁ、済まない。ただ、今の私は何だか生まれ故郷に帰って来た気分なんだ。私が本来あるべき場所、と言うべきかな。さて、APUは動くだろうか……」

 

 手慣れた手つきでコンソールに配された計器類を弄り、機体の再起動を試みる。コックピットの中身はイオが父親からプレゼントされたシミュレーターのコックピットと全く同じ形の計器類だったが、見た限り手伝える事は無さそうでイオは機体の縁に腰を預けると、外の警戒を続ける。それから数十秒待つと、低い何かの唸り声と共にコンソールと何枚かのひび割れた六角形型モニターが点灯した。

 

 「奇跡的にAPUは生きていたよ。エンジンユニットが無いから飛ぶ事は叶わないだろうけどね。何か使えそうなデータは……」

 

 コンソールを弄り、中身を探るゾーイ。いくつかの項目を選択するとコンソールの中央に見慣れない筈の、それでいてどこか親近感のある文字列が浮かび上がる。

 

 「System Z.O.E.……?」

 

 「Zone Of the Endersの略だよ。悠遠に立つ者、と呼ばれていた。この機体に使われている専用の制御OS……と言うのは表向きの仮の姿だ。その正体は学習型戦術戦闘用AIで戦闘経験を重ねる度に学習し、進化する。やがて人類の手に負えない、悠遠に立つ者となる為に」

 

 「どう言う……事だ……?」

 

 「恐らく、有人型の機体に搭載して戦闘経験の学習を積んでいた所だったのだろう。()()()()()()である私には分かる」

 

 「バックアップ? お前、一体何を……?」

 

 そう言うとゾーイは長い銀髪をかき上げ、普段見えないそこに隠されていた首筋に施されたコネクタに、機体から伸ばしたケーブルを接続させた。コンソールにファイルのダウンロードのパーセンテージを表示。じりじりとゲージが増えていく。

 20%ぐらい進んだところでゾーイは深呼吸すると、イオに白状した。

 

 「少し、色々と思い出せた。イオ、君には知る権利がある。私が何者であるのか。私はゾーイ。SyastemZ.O.E.のバックアップデータを基に作り出された、アニマの原形、プロトタイプアニマだ」

 

 「プロトタイプ……アニマ……?」

 

 「人類は何も得体の知れないザイのコアを始めからアテにしていた訳じゃない。かつてクーデターを目論んでいたとある一派から押収された機体に搭載されていたOS、Z.O.E.を元にザイのコアを補助ユニットとしてアニマを作り出した。これならザイ側の機能が使えなくても、Z.O.E.側の機能で賄えるからね」

 

 まぁ、Z.O.E.だけだとEPCMに弱いっていう弱点は最後まで解消されなかったけども、と付け加える。ザイのコアからもEPCMは発生する為、元々が唯の電子機器に過ぎないAIユニットではその対処に限界があった。戦闘時間が延びると彼女に発生する気持ち悪さの原因はここにあったらしい。データのダウンロードは50%まで完了。 

 

 「私は元々機体を動かすAIだからね。君のサポートに徹している間は楽でいられた。それは、本来私が取るべき形だったからかもしれない。ちなみにこの体はロシアの実験室で得たよ。そう言えば、ジュラーヴリクとも久しく会っていないな。是非とも君と会わせたいよ」

 

 「その、首のコネクタは何なんだ?」

 

 「これかい? 元々は私と同時期に研究が進められていた所謂強化人間の機能を一部流用したものだよ。もしザイのコアが使えなくてNFIで機体とダイレクトリンク出来なかったとしても、このケーブルで機体と直結させればZ.O.E.の機能で機体を動かせる。その為のフェイル・セーフティーみたいな物だ。そして私の稼働データを基にアニマが作られ、強化人間は闇に葬られた……筈だった」

 

 「その代わりが、デミ・アニマ……」

 

 「恐らくは強化人間のデータが使われていると見て良いだろうね」

 

 イオは驚愕に目を見開く以外に出来る事が無かった。彼女がおかしくなった訳では無い様だが、少なくとも今までの彼女とは何かが少し違う。そしてデータのダウンロードを行いながらも淡々と述べていく自身の開発経緯、その内容、そして所属不明機の正体の背景。その全てが、ただ一人の少年には余りにもスケールが大き過ぎた。

 

 「これが私という存在だよ。どうだい、幻滅したかな?」

 

 「何と言うか……俺がお前の話に対して意見できる箇所があると思ってるのか? 一介の高校生だぜ俺は? そんなこと急に言われてもピンとこねぇよ。本当のお前を思い出せたってんなら、別にそれでいいじゃねぇか」

 

 「あはは、実に君らしい答えだ。やはり君は、先生の言う通り()鹿()なんだな」

 

 「んだとぉ? と、言いたい所だが、違ぇねぇ」

 

 壮大な話を前にしても、難しい事を考えるのが苦手なイオはそう言われて肩を竦めて笑う。けど、だからこそなのかもしれない。彼がアニマに偏見を持たないのも、ただ己の衝動のままに空を飛べるのも。考えず感じる、その生き方こそが、彼を彼たらしめている所以かもしれない。

 そんな事を考えていると、データのダウンロードが完了した。コンソールに繋いでいたケーブルを切り離し、イオの手を借りて機体の外に降りると、そこには黄色いパーカーを羽織ったライノが立っていた。

 

 「あ、いたいた~。何やってたの~? こんな何も無い所で秘密の密会? もしかしてあたし、お邪魔だった?」

 

 「密会って、お前なぁ……つか、後ろにあるだろ。ファルケンの残骸」

 

 改めて後ろを振り向くと、つい先程まで有った筈の赤いファルケンの残骸はどこにも無かった。不時着の形跡も、飛び散った破片すらも無い。まるで、最初からそこに無かったと言わんばかりに。

 狐に化かされた気分、とはこの事を言うのだろう。イオは不思議がりながらも首を傾げるゾーイとライノの背中を押し、慧とグリペンの待つ旅客ターミナルへと向かうのだった。

 

 

 




と言う訳でゾーイの正体でした。
流石に得体の知れない勢力の兵器をいきなり流用するのは危険だと思うんですけど……という事でエスコン世界の無人機のOSとアニマを掛け合わせた折衷案が元です。
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