ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~ 作:零八式
都合により最終回となってしまった……
「慧、後ろに付かれた」
「分かってる!! 何なんだあの速さは!? もうザイその物じゃないか!!」
海上の低高度でグリペンの後方から迫る青紫の機影。全身を紫色のガラスで覆い、変質した可変式スラスターノズルを用いて旋回戦では有利を取られ、全く振り払える気がしない。そして、オープンになっているチャンネルからはロックオンアラートと共に軽快な音楽が鳴り響く。
ミサイルが発射される前に急降下してブレイク、照準を外させたが既にこちらの高度は海上ギリギリだ。
『ぐっ……おおおっ!?』
『もう鬼ごっこじゃ負けないよ~!!』
左右に機体を振り、フェイントを繰り出すグリペンの動きに超反応で追従する青紫色のスーパーホーネット、いや、今のペットネームはシンホーネットだったか。何でも、日本語の「新」と「罪」の英語読みの「SIN」を掛けたダブルミーニングらしい。通信から聞こえてくるライノの声は前よりも明るく、一方その後ろに乗せられているイオは慣れていない機体のせいか完全に振り回されていた。勝機があるとすれば、そこに賭けるしかない。
「ミサイルの照準、出来るか!?」
「流石にこの距離だと……厳しい。もう少し近づかないと」
「近づく? ライノにか?」
背後を取られている以上、ミサイルの誘導に必要な距離は向こうの方が少ない。しかし、そもそも相手はこちらがミサイルを後方に向けて撃てることを知っている。手の内を知っている相手が、こちらの減速に合わせてそうそう接近を許すとは思えない。減速性能も相手の方が上なのだから。距離を詰めないで射程圏内に入れるなんて……いや、
「出し惜しみはしない!!」
慧は操縦桿を一杯引くと機体を急上昇させた。それから反転し、ライノとヘッドオンで向かい合う。イオの単純な性格を加味すれば、この動きには乗っかってくるはずだ。
『正面からやり合おうってか? 面白れぇ、チキンレースだ!!』
案の定乗って来た。操縦技術は高いくせに挑発には乗せられ易い単純な性格なのは友人である自分が分かり切っている。機銃を撃ちながら正面から交差する二機。シンホーネットの尾翼が、グリペンの胴体を掠る。本当にチキンレースのつもりだったのだろう。ギリギリすぎる。
そのまま再び急上昇、シンホーネットは可変式ノズルを生かして信じられない速度でその場で機体の向きを180度変え、こちらを追ってくる。そうだ、それでいい……っ!!
「慧、捕捉される」
確かにこちらのスピードが落ちた分、速度の勝る相手に距離を詰められるのは分かり切っていたことだ。だがお互いにまだミサイルのロックオン圏内じゃない。
とは言えそんなものは一瞬で詰められる。だが、あの機動力自体は驚くものじゃない。社長秘書戦で見慣れている。
距離が近づく。使うなら今だ、本当なら社長秘書に一泡吹かせる為にとっておいたあの戦法を、ここで試す。この勝負には、負けられない訳がある。
「慧!!」
「ミサイル1をリリース!! イオの目の前に落とせ!!」
混乱が伝わるも、グリペンは指示通りミサイルを発射では無くラックから切り離し投下した。重力に従い落ちてくるミサイル。シンホーネットもミサイルを放って空中炸裂させて迎撃するが、その奇抜な攻撃方法は流石に予測していなかったのか、爆炎から離脱する機体の動きの精細さが一気に欠けた。
そのまま急反転して追撃、グリペンがロックオンを行い、引き金を慧が引く。放った機銃弾がシンホーネットに命中し、爆発を起こす。勝てた。しかもFALKENより速い機体に乗っているイオに。
「やった!!」
『気を抜くでないわ、小僧』
しかし、問題の社長秘書の声で一気に現実に引き戻される。爆発の中から青紫色の機体が姿を現した。撃墜判定は下されていなかったのだ。試合続行。装甲表面から煙を吹いてはいるが、ダメージには至っていない。そんな、どうして……
『
「何だよそりゃ!?」
「あんなの、反則」
聞いた事ぐらいはある。本来なら戦車に搭載されている筈の追加装甲の類だ。2枚の鋼板(ライノの場合はガラス板か?)の間に爆発性の物質を挟んだ構造をしており、爆発反応装甲に敵弾が命中すると、爆発反応装甲が浮き上がり、敵弾の爆発が分散されて本体の装甲には傷が付く程度にダメージを下げる物である。
そんな代物がよもや戦闘機に搭載されているとは……
『今度はこっちの番!!』
「……なーんてな!!」
しかし、直後アラートが鳴り響いたのはライノの方だった。慧が後詰めで放っていたミサイルが、グリペンの制御でわざわざ遠回りしてから時間差でライノを詰めに来ていたのだ。
ギョッとしたのか機体が捻じれんばかりの急機動を繰り返して射線から逃れようとするライノ。イオの方は大丈夫なんだろうか、心配になるほどの機動性だ。
だが、どれだけ早い機体だろうと、往々として戦闘機はミサイルより早く飛べない物だ。それがザイだとしても、ザイ由来の何かだとしても変わらない。
『コックピット直撃は無しだろぉ!!』
ミサイルが着弾する刹那、イオの悲鳴が響き渡り、シンホーネットに撃墜判定が下されて慧達は勝利した。
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那覇基地 格納庫
「火力が足りねぇんだよ!! FALKENみたいな火力が!!」
模擬戦闘から帰ってきたイオは、シンホーネットの想定外の機動性に翻弄され、体をふらつかせながらも降りてから開口一番そう叫んだ。
これまで模擬戦では一度も慧に負けた事の無かったイオだが、ここ最近、最弱の地位から脱却しつつある慧とグリペンのペアに初めて黒星を付けられたのが余程悔しかったらしい。
とは言え、今までファルケンにしか乗ってこなかったイオにとっては、通常のミサイルと機銃しかない戦闘機の火力では物足りない状態だった。長射程、一撃必殺の攻撃力を持つTLSの有無はかなりの差だったのだろう。
「鳴谷慧もグリペンも強くなったよね~」
「そうだ、ライノォ!! あの時俺にかましてきた板野サーカスもびっくりのマイクロミサイルはもう出せねぇのか!?」
「いやー、何と言うか、反応装甲もだけど気が付いたらあるって感じで、あたしでも良く分かんないんだよね~」
あはは、と笑いながらも頬をかくライノ。本人曰く、爪や髪の毛が伸びるのと同じ感覚なんだとか。その服装は以前までの物とは全くの別物で、上はキャミソールをインナーに左右で袖の長さが違う薄手のオフショルダー、スカートの丈は中央で分割され左右で長さが違うアシンメトリータイプで、レザーのブーツを履いており、紫色に変色した右目を隠すように眼帯が宛がわれている。所謂パンク系ファッションと言う奴で、その手にはポータブルプレイヤーが握られている。
イオ達はここ数日は那覇に入り浸っての防空の任や変質したライノの模擬戦でのテストを行っていた。MS社からはメンテナンススタッフとドーター二機が、現在この基地に残されている。それも明日までの話で、明日の昼にはここを去るのだが。
ちなみにライノの処遇だが、どうやら社長秘書と社長の徹底された根回しにより、最終的には『暴走の危険を孕む試作機の運用実験』なるお題目で、アメリカへのデータの提出を条件に向こうしばらくはMS社に置かれることになったそうだ。それから、DARPAをクビになったシャンケル博士はデミ・アニマ技術に関わった者としての知識を買われ、MS社で雇用する事になったらしい。とは言え、アメリカの事務所での勤務らしいので、実際に顔合わせする事は無さそうだが。
ちなみにイオが生まれ変わったスーパーホーネットことシンホーネットに同乗していた理由は、以前と異なり『イオが近くにいる程ライノの動作安定性が増す』様になったらしいからである。
どうやら中国本土でライノが自身に施されたリミッターから解き放たれてから、色々と変わったようだ。
「ったく、機動力は信じられないくらい軽いんだけどな~、あ~っ!! やっぱり火力が足りねぇ!!」
「俺達の勝ちだぜ、イオ」
「約束は果たしてもらう」
頭をワシャワシャとかきながら叫ぶイオに、機体から降りて来た慧とグリペンが声を掛ける。今まで自分より下だと思っていたが、今日初めて黒星を付けられた。
目を輝かせるグリペンに対し、イオはちくしょうと呟くと、封筒を取り出して手渡す。
「約束は約束だ、これで何でも好きな物食って来やがれ!!」
「こ、こんなに沢山……」
グリペンは万札が数枚と飲食店の割引クーポンが入っているのを確認すると、今すぐ行こうと口の端から涎を垂らしながら慧の首根っこを引っ掴んで引き摺る勢いだ。社長秘書の計らいで、慧がイオに那覇での待機任務中に一勝でも勝てたら慧に、守り切ればイオにお小遣いを出すという勝負事をしていたのだが、よりによって最終日に打ち破られたのだ。
慧はグリペンに分かった分かったと、一度落ち着かせると、二人揃って格納庫を後にする。
「ごめんね、イオ。やっぱりあたしよりゾーイの方が良いよね?」
「だから気にすんなって。そりゃ慧の奴に負けたのは悔しいけど、お前と合わなかったからじゃねぇよ」
確かにシンホーネットは今まで乗って来たFALKENとは運動性能が桁違いに高く、操作感覚も全くの別物だ。ライノによる補正が無ければイオが操縦する事もままならないだろう。とは言え、不思議なことに慣らし運転もせず戦った割には妙にしっくりと来てはいたのだが。
イオはライノの頭をそっと撫でてやると、ドーターの入った格納庫を後にしてその奥の静かな空間へと向かう。
そこには誰が置いたのかドラムセットとキーボード一式と、ラベンダーパープル色の装甲を持つ所々にチューニングが加えられたF-2Aが鎮座していた。
バイパーゼロ、日本における四機目のドーターにして、イーグルの元同僚。聞けば、社長秘書とはメル友らしいが、極度の恥ずかしがり屋で人見知りのせいか、ここ数日その姿を見た事は無い。
「ちょっくら借りるぜ」
イオはそう言うとドラムセットに座り込み、ステックの具合を確かめてから演奏を始めた。隣の格納庫は整備中で今でも喧騒が響き渡っているおかげで、ここでなら音漏れも気にせず叩ける。この基地にいる間のイオのひそかな楽しみだった。譜面は必要ない、イオは感情の赴くがままに旋律を刻んでいく。
ひとしきり演奏が終わった後、汗だくになっていたイオは差し出されたタオルを受け取るとそれで汗を拭った。程よく濡れていて、稼働していない格納庫特有のひんやりとした空気も相まって気持ちが良い。……ん?
「あれ? 俺一人だったよなぁ……?」
辺りを見回すが、人らしき影は見当たらない。しかし、手渡されたタオルには僅かながら人の手の温もりを感じた。間違いなく人の手で渡されたものの筈だが、渡したであろう人物がどこにも見当たらない。何度見てもこの格納庫にあるのは、ラベンダーパープルのF-2Aと、積み上げられた弾薬箱だけ。
悪寒が走った。まさか、本当に幽霊――――――――
「ここにいたか、
そんな事を考えていると、いつものホワイトロリータファッションに身を包んだ灰色髪のアニマ、リューコに声を掛けられた。その愛くるしい見た目からは、彼女を現時点で最強のアニマだとは誰もが思わないだろう。リューコは、フンと鼻を鳴らすと、
「小僧に負けた憂さ晴らしか? まぁ、憂さ晴らしするなとは言わんがあんまりサボると監督の立場上、儂もお主を減給せざるを得なくなるぞ?」
「それよりも社長秘書!! この格納庫絶対幽霊いるって!!」
「ほぉん。お主、意外と幽霊嫌いか? そんなもの居る訳が無かろうが」
小馬鹿にしたように笑うと、リューコはポーチから携帯を取り出して何か文字を打ち込んでから送信、すると程無くして積み上げられた弾薬箱の影辺りに何かが動いた気配を感じた。
イオは一層その身を震わせるが、リューコはその方向を見ると呼びかける。
「出てこい、バイパー。安心してよい、こやつは儂の部下じゃ」
呼びかけてから数秒後、弾薬箱の影からひょっこりと少女が姿を現した。非常に派手な服装だった。フリルのあしらわれた姫袖のワンピースと厚底のブーツ、背は低く小学生ほどで髪はやや紫がかった灰色髪で……え?
「いたぞぉ!! いたぞぉおおおおおおおおおっ!! ……って、社長秘書が、二人!?」
本当に幽霊がいたと思い、今にもチェーンガンをバックから出しそうな勢いのイオだったが、改めてその正体を見て目を丸くする。服装こそ違うが、そこにいたのは今しがた目の前にいる筈のリューコと髪の色以外瓜二つの少女だった。とは言え、僅かに髪が紫がかっているくらいでパッと見では完全に同一人物と見紛うほどだ。強いて他に違いを挙げるなら、リューコの様な自信に満ち溢れた笑みを携えていないくらいであろう。
「お主にはバイパーが儂に見えるのか?」
「あ、あぁ……って、え? 社長秘書がバイパーゼロでバイパーゼロが社長秘書で? え?」
混乱に陥り、頭を抱えるイオ。
それを見かねてか、リューコの姿をしたバイパーゼロが携帯のメモ帳を起動させると、そこに何やら書き込んではイオにそれを見せる。
『私のEGG波はとても不安定。材料となったザイのコアが不完全、もしくは損耗が酷かった等様々な要因が考えられる。人間が私を見る時の姿は千差万別。私の明確な本質を並の人間が捉えることが難しい為、相対した人物の心象風景にある人間を具現化しているものと思われる。私の本来の姿を認識出来るのはリューちゃんやイーグル等の同じアニマだけ』
「まぁ、要するにお主の場合は単純じゃから記憶に新しい儂に見えておるんじゃろうな」
どうやら何か複雑な事情の有るアニマの様だ。
しかし、こうやって並んで立たれると服装が同系統な事もあって本当に見分けが付かない。リューコ曰く、髪の色が僅かに違って見えるのは、深層意識のどこかでは違いを認識しているかららしい。
バイパーは再び何かを打ち込むと、イオにそれを見せる。どうやら筆談でしか会話しない主義の様だ。
『驚かせてしまってごめんなさい。でも、あなたの演奏は聞いていて心地が良かった』
「アマチュアのアドリブだけどな。と言うか、もしかして初日からいたのか?」
『YES』
参ったな、とイオは苦笑いを浮かべる。ずっと観客がいた事には全く気が付かなかった。それに、自分の演奏も付け焼刃の二つ覚えのそれで、プロと言う訳でも無く拙かったはずだ。そんな自分の演奏を心地よいと言われ、イオはどこかむず痒い気持ちになる。
『音楽は譜面通りに弾けばいい物では無い。あなたの演奏には感情が乗っている。だから、聞いていて楽しい』
「バイパーは仕事人じゃが、芸術と手芸には特にご執心でな。ちなみにこやつの服は儂がデザインしてやった図面から自作したものじゃ」
どうりで服の系統が似ている訳だとイオは納得した。しかし、彼女のそれはリューコの物よりもさらに派手だ。恥ずかしがり屋と聞いていた割には随分と恰好は派手好きの様である。
『リューちゃんからあなたの事は色々と聞いている。アメリカのアニマをザイの同化から救った事も』
「俺は大したことをやったつもりはねぇよ。ただ自分に出来る事をしただけさ」
「無駄じゃ、バイパー。こやつはイーグル並みの単純阿呆じゃからな。議論の展開にはちぃと骨が折れるぞ?」
『構わない。ただ、私はもう少しこの人と話してみたい』
「お主が他人に興味を持つとは珍しい事もあるよのぉ。分かった、
リューコはイオにあんまり長時間サボるなよ? とだけ念を押すと手をヒラヒラ振って、格納庫を後にした。どうやらバイパーゼロがあまり大勢人がいる状況が嫌いなのを知ってか、人払いをしてくれるようだ。
「さて……どこから話した方が良いんだ?」
『あなたがMS社に入る事になってから全部』
「そうだなぁ……じゃ、俺とゾーイ、ライノとの馴れ初めからにするか」
イオは空になった弾薬箱に腰掛けると、これまで自分が過ごして来た事を順序立てて目の前の甘ロリファッションを身に纏ったリューコの姿をしたアニマ、バイパーゼロに話した。
ザイに父親を殺された事、無理やり初出撃を勝ち取るも醜態を晒した事、出会った初日にリューコの家来にされた事、ファントム主導の特訓で死ぬほど走らされた事、そして中国本土でのライノとの戦闘と、空港の形をしたザイの中で過ごしていた事……話題はまだまだ尽きない。
バイパーゼロは時折質問を交え、こくこくと可愛らしく相槌を打ちながらイオの話を聞いてくれていた。かなりの聞き上手だ。気が付けば日が沈みかけていた。イオは彼女に礼を告げ、メールアドレスを交換してから別れを告げると、手を振っていた彼女は数秒後には景色に同化するかのようにその姿を消していた。
「プレデターじゃねぇか……」
そんな事を呟きつつもイオは格納庫を後にすると、そこでは相変わらずリューコに頬ずりを食らわせているライノの姿があったが、彼女はこちらを見ると、彼女を抱えたままこちらにすごい勢いで歩み寄り、イオに近づくと鼻を鳴らす。
「すん……すん……他の女の匂いがする」
「なっ!?」
「ねぇ~えぇ~、イ~オ~? 整備で忙しいあたしをほっぽり出して、誰といたのかな~?」
「前言撤回!! プレデターはこっちだ!!」
その後、外出から帰って来た慧とグリペンに助け船を出されるまで、イオはひたすらライノの質問攻めにあった。
単純馬鹿だけど勘は鋭いというイオの性質上、バイパーゼロの見え方については若干の独自解釈が含まれてます。
と言うか、ようやくライノと同乗するイオを書けた……撃墜直前のイオの叫びは12話見て思わず自分が叫んだ言葉だったりしますww
ライノに制服系では無くパンクファッションを選んだのは、みんなと同じ制服よりも『強い個性』を持ちたいと言う心象の変化の現れのつもりです。