ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~ 作:零八式
「よっしゃぁ!! 今日も俺の勝ちぃ!!」
「くっそぉ!! 今回は割と良い線行ってたんだけどなぁ!!」
シミュレーターにおける撃墜数は今日もイオの方が多かった。コックピット天蓋を開けて勝利の凱旋。
意気揚々とタラップを降りてくるイオに、悔しがりながらも慧は500円玉を投げつける。
しかし、イオは器用にそれを片手で受け止めた。
「まいどあり、っと」
「しかし、このシミュレーターの想定機体、エンジンパワーは高そうなのに随分重いよな。兵装だって限界ギリギリ積んでいるみたいだし、何より操縦桿を倒しても思い通りに動かないって言うか、もどかしいって言うか……」
「そう言えばお前、セスナの実機飛ばしたことあるんだって? そんなに違う物なのか?」
「100時間くらいだけどな。まぁ、あれは武器も無いし機体も軽いから……」
話をしながらも、イオはタラップを降りており、パソコンからの制御でシミュレーターの電源を主電力から補助電力へと切り替えた。これはパソコンにおける休止モードのような物だ。一度完全に停止させてしまうと、再び起動するのに一時間以上費やしてしまう。
シミュレータの収められた倉庫から出て、イオは慧に裏庭で取れた野菜をいくつか撃墜数に応じた景品として渡すと、彼は夕方の買い物があるからと帰っていった。
「さて、俺も一休みしたらもう少しやるか……」
避難して来たばかりで色々と心細いという友人の帰宅を見届けると、冷めたコーヒーの入ったカップを持ってイオは再び倉庫にへと向かう。先程のシミュレーションにおいて、自分の動きに無駄が無かったかリプレイを見て洗い出すためだ。イオは常時これが出来るから良いが、対して慧はこの洗い出し、もとい一人反省会が開けないのである。そんな中でよくもまぁ11分の1勝を勝ち取ったものだな、とイオは思った。
「やっぱ実機乗ってる奴は違ぇよなぁ……多分、俺がこれの想定機体以外に乗ったら結果逆転するんだろうなぁ……」
機体名と形状こそ記されていないが、この想定機体は確かに彼の言うとおり重武装で重い。
このシミュレーターにおける飛行時間だけなら700時間を越えるイオだが、それでも実機に乗っていたと言う慧の100時間には到底及ばない価値だという事は、重々承知していた。
「一度でいいから飛びてぇなぁ……本物の空を、自分の手……で……?」
「♪~~♪~~~♪♪~~♪~」
そこまで彼が言い掛けた時だった。何処からか少女の鼻歌が聞こえてきたのだ。
耳を澄ます。位置はそう遠くない、多分倉庫内……シミュレーターの中か?
恐る恐るテーブルの下に置いてあるビニール傘で武装し、タラップを慎重に上って中を覗く。
灯の入ったモニターの明りに照らし出された、その歌声の発生源は----------
「……ここは良い、気持ちが安らぐ」
「は?」
一人の少女だった。
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小松基地 特別技術研究室
「COFFINシステム、か……」
その名前を聞いた時、珍しくどこか懐かしむような口調と共に八代通遥は紫煙を吐いた。
「えぇ、『ゾーイ』にはあの操縦系統が必要なんです。そこを、何とかお願い出来ないでしょうか?」
「まず不可能だし、出来たとしてもすぐには無理だな。アレは確かに生体信号の読み取りと言い、NFIのプロトタイプとも言えるから、そちらの方が親和性が高い、と言うのも初期生産のアニマなら納得がいく。俺も広視界モニターやパイロットのモニタリング機構についちゃあ、アレを参考にしたからな」
禁煙と書かれた部屋で、再びタバコを咥える八代通。
バーフォードにも一本どうだい? と訊ねるが、彼は禁煙中ですから、とやんわり断った。
「だが、件のFALKENはドイツのグラインダー社製でパーツも仕入れが豪く難しいし高価、しかもコアユニットであるCOFFINシステムに関しちゃあ、何か後ろめたいイチモツでも抱えているのか、簡単に情報を開示しちゃくれない。一応既存のインターフェイスを加工してそれらしくする事は出来るだろうが、虎の子のTLSとやらの制御には間違いなく支障が出るだろうな」
「そうですか……」
「アレの火力がなきゃ、どれだけ高価なFALKENだろうとそこいらの重戦闘機と変わらないかそれ以下の価値だ。その金で普通の重戦闘機を数機買ったほうがよっぽどコストパフォーマンスも良い。機体もデカくて重いし、あんな代物を、よくもまぁ使いこなす人間がいたもんだ……」
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「失礼」
バーフォードは突然鳴り響いた携帯を確認すべく、ポケットからスマートフォンを取り出す。
そこには、一通のメールが記されていた。差出人は『Z.O.E.』。
メッセージ内容は簡素に一文だけ。
『見つけたよバーフォード 私の居場所 気持ち悪くならない場所』
それの意味を理解したバーフォードは、すぐに技術班にFALKENのコックピットの整備をいつでも出来るよう要請するのであった。
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「ゾーイちゃん、ねぇ……それが君の名前?」
「うん、そう。私はゾーイ、ADF-01ANM FALKENのアニマ」
暇つぶしに中古屋で買ってきたラジオからは、ご機嫌なナンバーがBGMとして流れてくる。
そんな中、いつの間にかシミュレーターに不法侵入していたゾーイと名乗った少女に対して、イオは縁側で食べるスイカで釣ると言う尋問(只の質問?)をしていた。
ADF-01 FALKENなんて形式番号の機体は聞いた事がないし、アニマ、と言うのも何の事かサッパリだ。
只一つ分かった事と言えば……
(やべぇ、滅茶苦茶可愛い)
無邪気にスイカに塩を振って頬ぼる彼女の姿に、今まであまり見た事が無い外見と言う事も相まってか、彼の視線は釘付けだった。
健康的な褐色の肌に、袖の無い純白のワンピースから伸びるスラリと長いスタイルの良い四肢。腰上ほどまで伸びた長い銀髪は、頭頂部で青いシュシュの様な物で彩られている。
やや垢抜けなさの残る堀の深い顔立ちと、ありのままだけを見る無邪気な青い瞳。
正直言って、今の彼の心にはドストライク真っ只中だった。
中学校や小学校時代は、殆ど外国人と変わらないこの見た目ゆえに虐めの対象にもなったが、それ以上に彼は異性からモテた。
しかし彼は知っていたのだ。あいつらが恋してるのは自分自身じゃなくて、ただこの金髪碧眼に恋しているだけだと言う事を、「私は金髪碧眼の彼氏に恋してます」と、自分の存在が只のステータスにしかなっていない事を。そんな女ばかりだった物だから、彼の眼には近づく女は皆貪欲、と言うかギラギラして映って見えた。
しかし、彼女からはそんな気配は一切感じない。
そういった所が、彼の心のオアシスになっていたのかもしれない。
「それで……何で俺のシミュレーターに勝手に入っていたんだ? 俺だから許すけど、普通なら不法侵入だぜ?」
「うーん、そうだな……あれは、良い物だ」
「は?」
「私にとって落ち着ける、最高の場所……な気がしたから、かな?」
先程からずっとこんな感じだ。
見た目は可愛らしい無垢な褐色美少女、と言ったところだが、言葉の端端が疑問系で主語をぼかした抽象的でゆっくりな話し方。それがまたミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
「最高の場所、ねぇ……分かる気がするぜ」
「おぉ、君もか?」
「確かに居心地がいいってのはなんとなく分かるぜ、どう見たってゲームの筐体なのにな。だけど……同時に、俺にとっちゃあ、煮え切らない場所にもなる」
「……それは、どうしてだい?」
「どう頑張っても、俺が今まで飛んできたのは偽りの空だったって事さ。最近こっちに引っ越してきた友達に本物の空をセスナで飛んだことがある奴がいてさ。そいつの話を聞いてると羨ましくて仕方なくて、嘘の世界に満足していた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる」
思いっきり飲み干した缶ジュースを飲み干してから握りつぶすと、イオはノールックでそれを背後の和室の更に向こうの部屋に備えられたゴミ箱に投げ入れた。
「俺の親父は元軍のパイロットでさ。その後、どこぞのPMCにヘッドハンティングされて、あちこちで軍や自衛隊のアグレッサーを引き受けていたらしい。何処の会社かは最後まで教えてくれなかったし、聞こうにもつい最近逝っちまったしな」
「……すまない」
「君が謝る事じゃないよ。俺が勝手に喋っただけだ……スイカまだあるけど食う?」
「是非、頂こう!!」
食べ物の話題となると、途端に目がキラキラと輝くゾーイ。
そんな姿を微笑ましく見ながら、切ってくるから待ってろ、とイオは立ち上がると、氷水に浸けてあった大振りのスイカを一玉手に取り、台所へと引っ込んだ。
「……例えそれが偽りの空でも、君は自由に飛べている。だけど私は……」
呟きながら見上げると、遥か上空を双発の中型旅客機が飛ぶのが見えた。
日本はまだザイによる侵攻がされておらず、平和である。これが現在侵略されている中国本土上空であれば、即刻ザイに撃ち落されていただろう。
イオがスイカを切って持ってくるにはまだ時間が掛かりそうなので、ゾーイはラジオの局を変えて遊んでいると、ふとニュースチャンネルに合った。
『そうですね、ザイと呼ばれる彼らの主張を理解し、柔軟に対話の姿勢を示していく事が重要でしょう。悪戯にテロリスト扱いするのではなく、指導者側とコンタクトを取る必要があるのでh-------』
ブチッ------
その放送を聴いた時、彼女は必要以上の力で電源を切っていた。
内容はザイに対する日本のコメンテーターの意見だったが、彼女はその内容が不快に思えて仕方が無かった。
理由は彼女にも分からない。ただ根底にある何かが突き動かしたとしか思えない、そんな挙動だった。
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同日 20:37 小松基地 第三格納庫内
「本当に間違いないのか、『ゾーイ』?」
「うん、アレが一番私にはしっくり来た。アレでなら、私は自由に飛べるかもしれない」
散歩から帰宅した『ゾーイ』は、この基地に所属するアニマとの顔合わせを済ませた後、事の顛末をバーフォードに話すと、彼だけでなく八代通も驚愕したが、同時に毒吐いた。
「しかし驚いた、COFFINシステムのインターフェイスが一個人の手に渡っているとはな。それも16、7のガキが持っていると来た。そのボンボンは一体どんな金持ちだ?」
「いや……恐らくだが、その一個人とやらは彼の息子かもしれない」
「彼? あぁ、こいつの同型機に乗っていた、アンタレス隊の……」
「可能性は100パーセント……とは言い難いが、かなり高いと思われる。いずれにせよ試す価値はあるはずだ。我々も長時間戦闘ができないアニマのままでは給料分の仕事も出来ない」
「そして俺たちはその技術を元手にグリペンを何とか動けるように出来るかもしれない、と……利害は完全に一致しているな」
八代通はニヤリと笑うと、人員と車を手配してくる、と言って第三格納庫を後にする。
「聞いての通りだ、ドックベア。これより『引越し』を開始する。各員は別命あるまで待機せよ」
「「「イエッサー!!」」」
マーティネズ・セキュリティー社の誇る精鋭地上部隊、通称ドックベアの声が、第三格納庫に強く響き渡った。