ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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2話 崩れて終わる日常

 PM9:00 小松基地 道中

 

 「慧、本当にその赤いJAS39が小松にあるのかよ?」

 

 「だから、ほんとに見たんだってば!! 俺たちが上海沖で助けられた、あの赤いグリペンが!!」

 

 真夜中の小松市を疾走するイオと、慧の二台の自転車。

 夕方、慧が小松基地に赤いグリペンが搬入されるのを見た、と連絡があり、しかもそれが自分が避難する時に助けてもらったどころか、直接接触した事もあるという。

 そこまで聞いたとなれば、イオも自然とその赤いグリペンとやらに興味が沸いてきていた。

 イオは美人だが気の強い慧の幼馴染の明華をどうにか宥めるべく一芝居うち、ちょっと男二人で夜の買い物と言って許可を貰い、家を出てきたのだ。

 夜の小松市を立ちこぎによる全力疾走。気が付けば、周囲から住宅らしき物は見えなくなり、明かりらしい明かりといえば目の前の小松基地の物だけとなっていた。

 

 「……で、この後どーすんだ?」

 

 「…………」

 

 「ノープランかよっ!?」

 

 「し、仕方が無いだろ!! アレが夢じゃないって、自分に言い聞かせたかったんだから……」

 

 「はぁ~……ったく、しょうがねぇ。右に回るぞ、雑木林を抜ければフェンスから格納庫が見える」

 

 「お、おう……!!」

 

 イオは考えなしに突っ走る友人に溜息を吐きながらも、この辺りは以前ウロウロしていた事があったために覗けるポイントは抑えていた。

 指示に従い、基地の周囲を右回りに移動。

 するとコンクリート壁からフェンスへと変わり、二人はスタンドを立てるのももどかしく、自転車を置き去りにした後にフェンスにしがみ付く様にして中を見る。

 

 「クソッ、多分あの格納庫なんだろうけど、中身が見えない。双眼鏡くらい持ってくるんだったな……」

 

 「いっそ肩車で飛び越えてみるか? 間違いなく動体センサーでバレるだろうがな」

 

 「慧!! イオ!!」

 

 その溌剌とした少女の声を聞いて、二人の背筋は震え上がった。

 油の切れたブリキ人形のようにガクガクと震えながら振り向くと、そこに居たのは案の定明華だった。

 余ほど飛ばして来たのだろう、肩を上下に揺らしながら、鬼のような形相で詰め寄る。

 

 「買い物に行くって言ってたくせに慧が財布忘れてたから追いかけて届けに来て見れば……これは一体どういう事なの?」

 

 「え? あ? ホンとだ、財布持って来てない……」

 

 「このお間抜けぇ!!」

 

 「イオもイオだよ。私に嘘までついてこんな所に慧を連れ出して……さ、帰ろう。話は家でゆっくり聞かせてもらうから」

 

 そう言って慧の二の腕を引っ張り、連れ帰ろうとする。

 しかし、慧はその手を思いっきり振り払って彼女との怒鳴り合いが開戦する。

 イオは仲裁に入ろうと「まぁまぁ、俺が誘ったんだし二人とも落ち着いて……」と宥めに入るが………

 

 「ーーーーーいい加減にしろ!! 大体何なんだよその保護者面は!? 俺の面倒を見ろって言ってもそんな物、子供の頃の約束だろ!? 何故そこまで意固地になる必要がある!?」

 

 「……親の約束とか関係ない!! あたし、今この国で慧くらいしか知り合いいないんだよ!? 他の友達や家族とははぐれて生きているかも分からない、なのにっ!! 残った慧まで軍隊に行くなんて……それを心配しちゃ、ダメ、なの……?」

 

 慧は予想外の消え入るような明華の訴えかけに、何も答えられず立ち尽くしていた。

 潤んだ目を、高潮した頬を隠すように両手で顔を多い、崩れ落ちる明華。いつもの気丈な振る舞いからは到底想像の付かない彼女の泣き顔。

 それを見かねたイオは、彼女に自分の上着を掛けてやると…… 

 

 「慧」

 

 「何だよ……っ!?」

 

 「歯ぁ食いしばれッ、クソ野郎ッ!!」

 

 ドゴォッ、と鈍い音を立てて、彼の怒りを乗せた鉄拳を慧の顔面に突き刺さした。 

 

 

 

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 「……何やってんだ、あいつら」

 

 二人の少年が泣き崩れる少女をよそに殴り合う様子を近くから、バンの中で窺っていた拉致担当に回され、スーツとサングラスで変装したドックベアの隊員の一人が、人知れずそう呟いた。

 現在彼らは、二班に分かれて行動している。

 一つ目の班は、イオの自宅周辺の調査と、いかにしてシミュレーターを段取り良く運ぶかの思案。

 そしてもう一つの班は、グリペンが再起動するきっかけとなった少年を拉致し、一芝居打つ事で彼女が本格的に再起動するかどうかを実験する……と言った物なのだが。

 

 「ほとぼりが冷めるまで待つか? 俺は白人の小僧が勝つのに10ドル」

 

 「賛成、じゃあ俺はあの日本人が勝つのに15ドルだ」

 

 「あの少年……」

 

 部下の賭け事を他所に、助手席からバーフォードはじっくりとその白人の少年の顔を見る。

 ざんばらなとんがった金髪、堀の深い顔立ち、バーフォードはその少年確かにどこかで見た事があった。

 あれはそう、彼がいつも自慢げに見せてきた、あの写真の……

 

 「残念ながらその賭けは無効だ。これより突入する」

 

 

 

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 「テメェ……もう少し言い方ってのがあるだろうが!?」

 

 「っ!! 俺だってなぁ!! いつまでもあいつの世話になるわけには行かないんだよ!! 意地があるんだよ、俺にも!!」

 

 「くだらねぇ意地を張ってんじゃ……ねぇ!!」

 

 バキッ、ドカッ、と夜の雑木林に響く打撃音。

 数度に渡る打撃の応酬で二人の顔は所々に痣が出来ており、二人は一度距離をとって肩で息をする。

 

 「ぜぇ……はぁ……次で、分からせてやる……!!」

 

 「上……等……っ!!」

 

 体力的にもお互い限界を迎えていた。同時に踏み込む、両者とも択は右ストレート一択。

 そして、お互いの攻撃が顔面に突き刺さるその寸前。

 

 目の前に黒塗りの高級そうなバンが、激しいスキール音を立てて停止した。

 

 突然現れた車にヘッドライトでこちらを照らされ、眩しさに怯む二人。

 すると中から大柄の男が何人も降車し、三人を拘束しようと襲い掛かる。

 

 「っ!? 逃げろ!! 慧、明華!!」

 

 イオは相手の体格差にも怯まず、座り込んでいてすぐに動けずにいた明華を拘束しようとしていた大男に回し蹴りを浴びせる。

 しかし、大男は難なくそれを手をクロスさせて防御すると、イオの足をつかみ取り、片手で宙へと放り投げた。

 

 「なっ-----」

 

 投げられた事に驚愕し、姿勢を変える余裕も無く、地面に背中を打ち付ける。その先にいた二人の男が両腕と両足を掴むと、そのまま猿轡を噛まされてバンに放り込まれ、イオは完全に無力化された。

 

 

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 「いっ……てぇ……」

 

 イオが目を覚ますと、最初に目に入ったのは知らない天井だった。未だに背中が痛み、消毒液の臭いが鼻を劈く。大男に投げられた後の記憶が無い、どうやら自分は気絶していたらしい。

 

 「ったく、何処なんだよここは……?」 

 

 「君の質問に答えよう。ここは自衛隊小松基地警衛所だ。因みに現在の時刻は22:30。君はざっと、一時間程度気絶していたと言える」

 

 頭を抑えながら起き上がるイオに対して答えたのは、向かいのソファに座っていた少女だった。ゆっくりとした独特なしゃべり方、褐色の肌に室内照明を浴びて光る銀髪。服装こそ昼間と違い、どこかの軍服を短く切り詰めた動きやすさ重視のファッションだったが、間違いない。

 

 「ゾーイ、ちゃん……?」

 

 「やぁ、また会えたね。イオ」

 

 困惑するイオにに対してにこやかに返事をするゾーイに、どうしてここに? 聞く前に部屋に一人の男が入ってきた。 

 空軍迷彩服を着た、いかにも歴戦の勇士といった風貌の男だ。その肩にはM42Squadron(飛行中隊)と記された部隊章を付けている。

 

 「こんな乱雑な連れ込み方をして済まなかったな。私はブレドリック・バーフォード。PMCマーティネズ・セキュリティー社のM42飛行中隊を預かる者、つまりは司令官だ」

 

 「マーティネズ・セキュリティーって……まさか、五年前のゴールデンアクスで一躍有名になったあの?」

 

 イオはその名前を聞いて驚愕し、意識もはっきりしてきた。

 その会社名は、少し軍用兵器やPMCの知識を齧ってさえいれば、知らない者はいないほどの有名な会社だ。

 そんな有名な会社の、しかも飛行中隊の司令官が何故自分に?

 

 「そうだ。そして君の父、グラハム・ケープフォードが勤めていた場所でもある」 

 

 「っ!? あんた、どうして親父の名前を……まさかっ!!」

 

 「彼は私よりも正義感が強く、勇敢な男だった……今こそ話そう、真実を。グラハムが死んだのは事故死ではない。ある作戦中、『ザイ』にやられたのだ」

 

 そう言ってバーフォードは、ノートパソコンを開くと一つの音声ファイルを再生した。

 それは、上海脱出作戦での交信記録の一部だった。

 

 『はっ、俺も遂にヤキが回ったか……』

 

 「親父ぃ!!」

 

 それを聞いて、思わずイオは叫ぶ。それは紛れも無くイオの父親、グラハムの声であった。

 自分の記憶の中にある稀に帰って来た時に聞いた力強い声からは想像のつかないほど、消え入りそうな自嘲気味の声。 

 記録はそのまま再生され、やがて最後の交信の部分に入る。

 

 『アンタレス01よりカノープス、恐らくこれが最後の交信だ。現在弾薬はAAM1、GUN20、TLSは焼き切れた。そして残念な事に燃料も無い』

 

 『だからバーフォードさん……息子に、今から言う言葉を、伝えてくれ。『もし、お前が運命に抗いたいのなら、プレゼントにZ.O.E.とn-------』』

 

 爆発音、ノイズ。

 

 その二つで、彼の遺言は遮られていた。

 

 「うそ、だろ……だって、事故死だって……」

 

 「それについては彼の意志でもある。『自分がもし空で死んだら、その時は事故死だという事にして伝えてくれ。エースの俺が空で負けたと分かっちゃあ、あの世でスレイマニの野郎に笑われるからな』、との事だ。三年前の契約更新書類に、そう書いてあった」

 

 「は、はは……」

 

 エースだけど無駄に自信家で、でも二年前までは毎年自分の誕生日には必ず帰ってきて、豪華な誕生日プレゼントを渡してくれた父親。

 その父親の死の真相を理解したイオは、最早乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

 

 「さて、これで二つある本題のうちの一つは片付いた。もう一つの本題に入ろう、君はグラハムから全周囲モニター型のシミュレーション装置を誕生日プレゼントとして貰っている様だが、それは事実か?」

 

 無慈悲にも二つ目の本題に入るバーフォード。

 しかし、当のイオは父親の死の真実を知ったショックか、言葉に覇気が無く、ふらついた上半身をゾーイが支えている状態だ。

 

 「知って……どうする気なんだよ……?」

 

 「我々はアレに唯一の望みを賭けている。実は我が社で運用しているとある特殊な機体に最適なコックピットブロックが、現在君の持つ物しかこの国やアメリカには無いのだ」

 

 「また作ればいいんじゃないのか……?」 

 

 「そうしたい所だが、我々には時間も予算も無い。現在、いつザイが攻め入ってくるか分からないこの状況下では、一機でも使える戦力が欲しい。勿論、可能な限りの報酬は約束しよう」

 

 イオはそこで少し考えた。

 自分の持っていたシミュレーターに、まさかそんな使い道があるとは思ってもいなかったからだ。

 只の道楽で作られたゲーム筐体だとばかり思っていたものが、父の敵であるザイを討つ為に必要不可欠な物。

 イオはいくらか思案したところで、一つ提案を出した。

 

 「……条件がある」

 

 「言ってみろ」

 

 「金はそんなにはいらない。俺の高校残り二年間の学費が払えればそれで良い。ただし……親父の形見を乗せたその機体が、ザイを墜とす所を間近で見させろ」

 

 「……良いだろう。その条件を飲もう。この書類にサインすれば、君は晴れて我が隊の臨時隊員(パートタイマー)だ」

 

 バーフォードは何かを書き足した書類を机に置き、イオはそれを凝視する。

 そこに書かれていたのは一部斜線が引かれてやや簡略化された契約書類だった。

 イオは迷わずペンを受け取ると、了承の印としてサインを書く。 

 

 「これで決まりだ。マーティネズ・セキュリティー社へようこそ、イオ・ケープフォード君。明日から君のコールサインは、AntaresGhost(幽霊蠍)だ」

 

 「Ghost?」

 

 「パートタイマー扱いだし、まだ正式な頭数には入れられないからな。居たり居なかったりする幽霊と掛け合わせてゴーストだ、悪くないだろう?」

 

 「サー、イエッサー!!」

 

 「良い返事だがそれは明日からで良い。明日は13:00に第三格納庫に集合だ。今日はゆっくり休め、ゾーイ。彼を送ってやれ」

 

 「分かったよ、バーフォード」

 

 調子の戻ってきたイオを見て、かつての部下の姿を思い出したバーフォードは安堵の笑みを浮かべると、部屋を後にする。

 イオもそれに続くようにゾーイの肩を借りて立ち上がると、力強い……とは言い切れないが、確かな歩みで部屋を後にした。

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