ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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3話 思い出の品

 グアム アプラ港海軍基地

 

 「♪~~♪~♪~~~♪~~~」

 

 休憩用のベンチに寝そべりながら、音程の外れたアメリカの行進曲「星条旗よ永遠なれ」を口ずさむ少女は、手にしたロケットの写真を開く。

 サファイアブルーのショートカットが特徴の、年頃の少女が持つにはおおよそ似つかわしくない、年季の入った銀細工のロケット。それは、彼女が生まれた(・・・・)時から持っていた物だ。

 その中には、一枚の写真が収められていた。

 それは、自分のではない誰かの家族の集合写真だった。アメリカ軍の飛行服を着た金髪の男と、どこかの研究機関の所属なのか私服の上から白衣を着た少し目つきの悪い女性、その二人の間には年端もいかないヤンチャそうな幼い金髪の少年が映っている。

 それを見ていると、彼女は自然と顔が綻んだ。いつの間にか、暇な時にこの写真を見る事が習慣になっていたのだ。

 理由は何となく、としか言いようが無いくらい曖昧な物だ。彼女曰く、このロケットは『エースパイロットの加護が得られるお守り』らしい。勿論、装備しても体力が回復したりとかの効果は無い。

 

 「ここにいたのか、ライノ」

 

 背こそ高いが、細く痩せこけた男は少女に呼びかける。

 少女はその声を聞くとロケットを慌てて閉じて胸元のポケットに戻し、足を思いっきり振り上げてからその反動で飛び起きる。

 

 「こんにちは~、シャンケル博士~。今日も良い天気だね~」

 

 「全く、こんな所で何をしている……またその首飾りでも見ていたのか?」

 

 「首飾りじゃなくてロケット。違いの分からない男は女の子にモテないよ?」

 

 何か反論を言うシャンケル博士だったが、彼女はそれを無視して手を頭の後ろで交差させると足早にその場を去る。遠くから「自由な奴め……」等と聞こえてきたがそんな事は無視。

 

 「……いつか会えると良いなぁ、この写真の男の子と」

 

 F/A-18 スーパーホーネットのアニマ、ライノは再びロケットを開き、その写真を眺めるのであった。

 そしてその願いは、案外すぐ叶う事となる。

 

 

 

 ----------------------

 

 

 

 小松基地第三格納庫

 

 

 「------へくしっ!!」

 

 「お、隊員見習い。勤務初日から風邪でも引いたかぁ?」

 

 マーティネズ・セキュリティー社、M42飛行中隊の臨時隊員(パートタイマー)として第三格納庫に来ていたイオは、突然のくしゃみに襲われた。格納庫内は鉄や油の臭いこそするものの、それがくしゃみのトリガーになった訳では無さそうだ。

 

 「いや、大丈夫ッスよフナさん。それにしても、何だか感慨深いって言うか……」

 

 「そう言えばそのコックピットブロック、親父さんの形見なんだって? 随分豪華な誕生日プレゼントだなぁ」

 

 「俺が15の時、親父がアレの入った馬鹿デカい箱を家に持って来たんです。あの時は流石の俺もドン引きだったッスよ」

 

 「ハッハッハッ!! そりゃそうだ!! 世界の何処に、最新鋭戦闘機のコックピットブロックを玩具に偽装して息子に渡す親がいるかってんだ!! ……親父さん、良い人だったんだな」

 

 「いつも自信過剰の、ある意味クソ親父だったッスけどね……」

 

 丁度その時、大型のトレーラーが格納庫内に入ってきた。その荷台には幌で包まれたイオが自分の学費と引き換えに譲渡した「COFFINシステム」の採用されたコックピットインターフェイスが載せられている。

 舟戸は問題のコックピットブロックが到着した事を確認すると、「さぁ、仕事だ仕事!!」とそのトレーラーに向かっていく。

 

 「おーい、イオー!!」

 

 コックピットブロックを降ろし、専門外だから休憩に入って良いと言われたその時、格納庫の入り口からイオを呼ぶ声がした。振り向くとそこに居たのは、ペールピンクの長い髪の少女を連れた慧だ。

 

 「慧か、何でお前がここに?」

 

 「あー……そう言えば、お前には話していなかったな。成り行きで調整とか何とかを手伝う事になってさ。今日から通い詰めだ。そう言うお前こそ、何でここにいるんだよ?」

 

 「ちょっとしたバイトだ。多分やる事はお前とそんな変わらないと思う」

 

 実際嘘は言っていない。

 今日は家からシミュレーター装置を如何にかして運び出し、その際にも機材の運搬などちょっとした力仕事を手伝っている。

 ただ、今の彼には二つほど気になる点があった。

 

 「話は変わるが、気になること一つ目。ちゃんと一昨日の事は明華ちゃんに謝っておいたんだろうな?」

 

 「あぁ……昨日の事は、俺も頭が冷めてから流石に言い過ぎたと自覚したよ……」

 

 「ったく、あんな良い女の子泣かせるんじゃねぇぞ? それと二つ目、今度は早々に浮気かぁ? しかも初デートが基地の探索たぁ、随分マニアックな場所選びなこって」

 

 「初デート……?」

 

 その言葉に小首を傾げるペールピンクの髪の少女。

 イオは彼女とは初対面だが、不思議とその雰囲気に愛嬌を覚えた。

 

 「俺とグリペンは、別にそんなんじゃないってば……」

 

 「慧。この人は?」

 

 「あぁ、コイツは俺がこの国に帰ってから出来た友達だよ」

 

 「イオ・ケープフォードだ。よろしくな」

 

 「慧の、友達……私はJAS39‐DANMグリペンのアニマ、グリペン。今後ともよろしく」

 

 「グリペンちゃん、ねぇ……そう言えば、お前が昨日言っていた赤いJAS39って、アレの事か?」

 

 アニマがどういったものなのかは今朝早々に説明されてはいたが、いざこうして改めてみるとちょっとドジくさい女の子にしか見えないのだから不思議だ。

 そう思いながらも、イオは格納庫の一端にある整備途中の赤い機体を指差す。

 各部が解放されて整備中の、鏃のようなシルエットを持つそれは彼女の操るドーター、グリペンだった。元々戦闘機の中でも小型な部類に入る機体ではあるが、隣で整備中の瑠璃色のADF-01ANM FALKENが全長24mクラスの大型機体の為、それと比べると余計に小さく見える。

 参考なまでにF-15で全長19.4m、F/A-18Eで18.4m、ロシアのSu-47でさえ22.4m程度である。これらと比べると、いかにこの機体が大型であるかが分かるだろう。

 

 「あぁ、間違いなく俺はあの機体に助けられたよ。それにしても、SF映画にでも出てきそうな隣の戦闘機は何所の機体だ?」

 

 「俺だって見た事ねぇよ、どこかの実験機じゃないのか?」

 

 「それについては、私から説明しよう」

 

 先程まで作業員と話し、「COFFINシステム」の調整を手伝っていた銀髪褐色肌のアニマ、ゾーイが作業を終えたのか、切り詰めて動きやすくした空軍迷彩服姿でやってきた。何でも、後は技術部の人や八代通なる人物が何とかするから、自分は取り付け作業が終わるまでいなくても大丈夫なのだと言う。ゾーイは慧の顔を見ると、丁寧にお辞儀をした。

 

 「おや? 君とは始めましてだね? 私はゾーイ、あの機体のアニマだよ。よろしく、鳴谷慧」

 

 「よ、よろしく……って、何で俺の名前を?」

 

 「グリペンから少し、ね。あの機体はADF-01ANM FALKENと言う。元々はドイツのグラインダー社で開発が進められていた無人機……にする予定だった機体だよ。公にはされていないから、決して有名な機体ではないけれどね。組み立てはマーティネズ・セキュリティー社が保有していた予備機のパーツから行われている。機体は大型だけど、その内部には……」

 

 ゾーイはそこで整備員に呼びかけると、頷いた後に整備員は何らかのスイッチを押す。

 すると、機首の一部がせり上がり、機体内部に格納されていた大型の砲塔が姿を見せた。そのあまりの太さに、イオは思わず歓喜する。

 

 「すげぇ!? 何口径あるんだあの大砲!? 戦闘機に大砲とか、いくらなんでもロマン有り過ぎるだろドイツ!!」

 

 「『ドイツの科学は、世界一ィイイイ!!』 ってやつ?」

 

 「残念ながらアレは実体弾砲ではないよ。メガワット級化学レーザー砲ユニット、現状私たちの持つ唯一の所謂「ビーム兵器」さ。元々は地上から照射して弾道ミサイルを迎撃する目的で開発されていたらしい。その火力は健在で、通常の戦闘機型ザイであれば一瞬で溶断、撃破が可能だ。私たちはこれを、Tactical Laser System、略してTLSと呼んでいる」

 

 「TLS……それって、俺のシミュレーターにあった奴か!!」

 

 「あのシミュレーターのデータは私も見させてもらったよ。どうやら、この機体を扱う事を前提にした物らしい。確かに図体が大きく自重も重い、しかも扱いづらい武器を積んだFALKENは、普通の感覚じゃあまず飛べないからね。練習も必要だよ」

 

 ゾーイはうんうん、と頷くと、整備員に呼びかけ、再びTLSのユニットを収納させる。

 

 「シミュレーターの想定機体と違って、この機体はエンジンの出力も上がっているし多少の軽量化も施されている。とは言っても、やはり重い機体である事に変わりはないけどね。格闘戦に持ち込まれたら、少し不利ではあるかな」

 

 「だから、機首のレーザー砲で遠距離からの先制攻撃で先に敵にダメージを与える……」 

 

 「ずっとそれだけ出来れば良いんだけどね。現実はそうも上手くいかないよ」

 

 グリペンの言葉に、ゾーイは先程までの自慢げな解説から一転して、少し自嘲気味に肩を竦める。

 

 「私もグリペンと同じで長時間安定して戦えるわけじゃないから、そこはこの機体特性に感謝するよ。あのインターフェイスだと、どうも『気持ち悪く』なるんだ」

 

 「気持ち悪く?」

 

 「済まないが上手く説明できない……ドクター八代通には診てもらっているけど、原因は不明らしい」

 

 「グリペンの症状と似たような物、か……」

 

 そこまで言った所で、グリペンは何かを思いついたのか、ポンと手を打つとイオとゾーイの手を取り、「慧も後で付いて来て」と、第三格納庫を後にするのだった。

 しかし、ここに来て慧は一つの疑問を抱く。

 

 (そう言えばあの機体、確かファルケンって言ったよな? じゃあ、何でそのアニマである彼女の名前は機体名と一致していないんだ?)

 

 

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 小松基地 旧日本空軍 掩体壕

 

 

 「あー……ここは?」

 

 「グリペンの秘密基地さ。私も時折彼女に許可を貰って使わせてもらっているよ。彼女が初対面の人をここに連れてくるとは珍しい」

 

 小松基地の外れにある松林の中。そこにひっそりと佇む旧日本空軍の設備の下で、地面に敷かれたビニールシートの上に座りながらゾーイは答えた。

 座っていた彼女は膝にグリペンの頭を乗せ、当のグリペンは頭を撫でられて心地良さそうに閉じていた目をうっすらと開けて、

 

 「ゾーイと慧の友達なら信頼できる。この場所、ベストスポット」

 

 とだけ答えて、天井にビー玉を透かす。

 辺りを見回して目に入った壁際に詰まれたお菓子や缶バッチの箱を見て、昔の自分を思い出しながらイオは訊ねた。

 

 「確かに格納庫にいた時みたいな喧騒は聞こえてこないな。静か過ぎて耳が痛いくらいだぜ……その箱は?」

 

 「室長がくれた。秘密基地の材料にしろって」

 

 「バレてんじゃねーか……」

 

 「でも、他の皆には黙っていてくれる。ぶっきら棒だけど、時々優しい」

 

 グリペンは仰向けから横に寝返ると、近くに置いてあった箱からまた別のビー玉を取り出してはそれを弄る。

 ゾーイはその間も、只優しく彼女の頭を撫でていた。

 

 「そいつも、お前にとっちゃあ大切な思い出の品って奴か……」

  

 グリペンに許可を貰ってからゾーイの隣に座り込むと、イオは箱から一つ瑠璃色のビー玉を手に取り、天井に翳して見せた。 

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