ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~   作:零八式

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タイトル回収回……?




5話 気まぐれなオーダー

 

 「つまり、今回の米軍のアニマの我が隊への配属はあなたが原因……という事ですか? 『社長』」

 

 評価試験の一件から数日経過したある日の夜、バーフォードは本国にあるマーティネズ・セキュリティー社本社から掛かってきた秘匿回線との通話に応じていた。その面向きは、まるで作戦前かの様にどこか慎重である。そんな彼の心情を知って知らずか、『SOUND ONLY』と記された端末からは、マーティネズ・セキュリティー社現社長の気楽そうな声が響く。

 

 『えぇ、そうよ。とは言っても、私はただドクター・シャンケルに『日本のアニマと行動させた方が面白い研究結果が出る』とアドバイスしただけなのだけれど』

 

 「その発言一つだけで彼や軍が動いたかの真偽はここでは探りませんが……またいつもの『占い』ですか?」

 

 『あら、私が八卦占いを外したことがあったかしら?』

 

 「………」

 

 バーフォードは押し黙るしかなかった。この妙齢の女社長は、五年前のゴールデンアクス計画と多国籍治安維持軍が癒着していた事をいち早く占いで察していたのだ。実際に調査をさせたところ癒着は事実で、それが基で事件収束後にIUPFは解散、計画に出資していた上層部の首がすごい勢いで跳ね跳んだらしい。

 それからも彼女の『占い』は、一度も的を外したことが無かった。お蔭で、MS社はもはや小国の軍隊と変わらないほどの戦力を持つ規模に成長したのだ。今思えば、上海での中国空軍との合同演習の仕事を貰ってきたのも彼女で、旧Antares01ことグラハム・ケープフォードFALKENと言う無視できない犠牲こそ出たものの、そのおかげで実に百数十万人単位の命が救われている。

 

 『一応期間は二か月と言ってあるわ。研究結果によっては多額の報酬も約束するそうよ』

 

 「その二か月間、我々の部隊で面倒を見ろと……? ゾーイの件でまだ四苦八苦している我々に?」

 

 『そうねぇ……あの機体の元が、グラハムの機体だとしても?』

 

 「それは……本当ですか?」

 

 『えぇ、軍の開発部門上層部にちょっとばかりの『お小遣い』をあげて調べさせたわ。そしたらあのドーターの元になった機体、かつての我が社のエースパイロット、グラハム・ケープフォードが海軍所属時代に使っていた物だって言うじゃない』

 

 「因果……ですな。そのアニマは現在、わが隊の臨時隊員(パートタイマー)と非常に懇意にしています。ドクター八代通の検査によると、本国にいた頃より安定していると」

 

 『……その話、詳しく聞かせてもらえる?』

 

 

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 アメリカ合衆国 マーティネズ・セキュリティー社 本社 社長室

 

 

 『-------以上が、私の知る限りの状況です』

 

 「そう……そんな事が……」

 

 街を一望できる高いオフィスビルの最上階、その社長室で社長と呼ばれる妙齢の女性は、高価な革製の椅子にもたれ掛かった。

 まるで胡散臭い占い師のように羽飾りやらを多用した民族衣装を着こみ、左目には眼帯が宛がわれている。

 そんな怪しさ満点の胡散臭い恰好をしている女性こそ、MS社の現社長であった。

 

 「報告ご苦労様、そちらはもう夜遅いのでしょう? おやすみなさい」

 

 社長はそうとだけ告げると、通話を終了し、椅子を180°回転させて空を見上げる。本日のアメリカ本土の空は、生憎の曇り模様で一面が灰色に覆われていた。その彼女の後ろ姿は、どこか気落ちしているようにも見える。

 

 「お主も、妙な因果を引き当てたものよのぅ」

 

 そんな社長に声を掛けた人物がいた。声の主は社長室の机の上に座り、両足をブラブラとバタつかせている。髪は灰色のアッシュブロンドで瞳の色も同様、背は低く体も発育していないが、人形のように愛くるしく可愛らしい姿とは裏腹に口調は尊大、しかもその身に纏うのは那覇のバイパーゼロもびっくりの高級シルク製ホワイトロリータファッションである。どう見ても小学校高学年程度にしか見えないが、不思議と威厳だけは漂ってくるという、なんとも不思議な雰囲気の少女だった。

 

 「別にいいのよ、リューコ。状況は私が『視えた』物より悪くないわ」

 

 「カッカッカッ!! そのまま、儂の出番が最悪な形(・・・・)で来ないことを祈っておるわい。オーレリア(・・・・・)最高戦力、南十字星の力を見せつけられないのは残念じゃがな……そうじゃ!! 儂のドーターはいつになったら調整が終わるのじゃ!?」  

 

 「あと一週間は我慢して頂戴。あなたの機体はオーパーツ同然のワンオフ機体とは言え、基礎設計が40年前のポンコツなことに変わりは無いのだから」

 

 「ムキーっ!! これでも戦闘機一個小隊で国を開放に導いた伝説の一機じゃぞ!! 調整なぞ無くとも、そうそう若僧に遅れは取らんわ!!」

  

 ぷんぷんと言った擬音が似合いそうな可愛らしい形相で怒る、リューコと呼ばれた少女。彼女もまた、アニマの一人だ。

 オーレリア、それは今のEUの母体となった連合国群である。今から40年ほど前、まだドイツという国名が存在しなかった頃、内戦の多いその国の名はレサスと言った。

 隣国群であるオーレリアに食糧購入を目的に支援金を拠出させるが、レサスはそれらを全て軍備の増強に流用したという裏事情がある。内戦終結の翌年、レサスは突如としてオーレリア侵攻を開始、一時はオーレリア領土の95%を制圧するが、一部のオーレリア空軍部隊の蜂起をきっかけに大規模な反攻を受けた。

 その反攻の先陣を切ったのが----------

 

 「グリィフィス隊のX-02 Wyvern……いえ、今はX-02S Strike Wyvernだったわね、リューコ」

 

 「改めてどうした? まさか、今更怖気付いた訳ではあるまいな?」

 

 「それは無いわ。私は最悪(・・)を迎えさせないためにこうしているんだもの。けどね」

 

 社長はそこで一度言葉を切ると、気落ちしていた表情を改めてから、雲の隙間から覗く一筋の太陽の光を見つめる。

 

 「それ以前に私は、自分に都合の悪い運命だの天啓だのを、足掻かず諦めてホイホイ受け入れる奴が大嫌いなのよ」

 

 

 --------------------------

 

 

 

 小松基地 隊員食堂

 

 食事とは、生物が生きる限り決して切り離せない文化である。例えそれが平時でも戦時中でも、それは変わらないであろう。その証拠にお昼時である現在食堂は人間、アニマを問わずに入り乱れている。

 イオもその一角で食事を摂っていた。対面に座る、サファイアブルーの髪色の少女と共に。 

 

 「箸が進んでないぞ~、イオ隊員」

 

 「当たり前だぜ……突然シミュレーターで勝負しようとか言い出すかと思えば、只の人間がドーターの本気のHimat機動に付いていける訳ねぇだろうよ……」

 

 「でもあたし、一回倒されたよ~? レーザーのまぐれ当たりとは言え」

 

 「それでも俺は十戦一勝。まさか慧の時とは立場が逆転するなんて、考えてもみなかったぜ……」

 

 疲れからか食欲の少ないイオを頬杖を突き、悪戯そうな笑みを浮かべながら見つめるライノ。

 アメリカ海軍最高戦力であるはずの彼女はMS社社長の意向で、二か月の期限付きでM42飛行中隊に借り受けたのだという。 

 初対面の彼女にいきなりキスをされてからはや数日、彼女の持ち前の明るさや社交性もあってか、いつの間にかMS社や小松基地の面々の中に自然と溶け込んでおり、特にイオとは自然に交友する仲となっていた。

 子供っぽいイーグルの扱いにも長けており、動作の安定しないゾーイにも気を遣う等アニマ同士のギクシャクも見られない。

 明るさと気遣いを兼ねた、大人っぽい少女。

 気兼ねなく話せる間柄ではあるのだが、そんな事の出来る異性が今現在ほぼアニマしかいない事に気付き、イオは嘆息する。

 しかし、彼の視線は現在、彼女が首から下げている年季の入った銀細工のロケットに注がれていた。

 

 (それにしても……何でこいつは俺の写真を持ってやがるんだ? ありゃあガキの頃、久々に親父が帰ってきた時に撮ったやつの気が-------)

 

 当然、視線の方向の先には彼女の胸もある。それ程大きくはないが、白いシャツの上からでも形が分かる程度にはある方だ。

 イオの懐疑の視線に気が付いたライノは頬を赤らめ、わざとらしく手を交差させて胸を隠すと

 

 「……エッチ」

 

 「なぁっ!?」

 

 イオの脳髄に電撃……いや、雷撃が走った。ショック的な意味で。どうやらいらぬ誤解を招いたらしく、その誤解を解こうとあたふたするが-------------その昼食の喧騒を掻き消すほどの轟音が、小松基地内に響き渡った。

 

 『……こちら小松管制塔、現在スクランブルが発令されています。空港内の全機体は移動を中止しその場に待機してください。繰り返します-------』

 

 それは紛れもなく、ザイの襲撃を示す警報だった。  

 

 

 ---------------------

 

 技本モニタールーム

 

 「現在、本土に向けて多数のザイが進行中。機数確認。重爆クラス2機、戦爆連合(ストライクパッケージ)!!」

 

 「アンタレス隊は自衛隊と共に出撃、これを援護して下さい」

 

 技術棟本部のモニタールームは、日本の持つアニマとアンタレス隊の持つアニマの指示、運用に追われひっきりなしに電子音と確認と指示の声が飛び交う騒然とした空間になっていた。

 途中で出撃するからとライノと別れたイオはそのままモニタールームに向かって走っていると、その途中でグリペンを連れた慧と合流、そのまま三人そろって入室する。

 

 「おう、来たか。小僧二人組も」

 

 「来たか……って、それだけですか」

 

 「お前の行動は大体察しが付く。大方グリペンを連れ出そうと不法侵入でもしたんだろう。別に驚くようなことじゃあない」

 

 さらっと慧の犯罪行為を水に流す八代通。

 その間にも戦況は刻一刻と変化し、海自防衛ラインに迫ったザイに向けて護衛艦隊が対空ミサイルを発射する。しかし、損害は僅か一機のみで、その後のカウンター・アタックで瞬く間に艦艇の反応が消えていった。

 その間にも発進準備が整ったのか、正面大型モニターの右端に二枠のウィンドウが出現する。

 

 『BARBIE02 クリアード・フォー・テイクオフ!!』 

 

 先に飛び出したのは、場違いなほどに明るい声の持ち主の少女、イーグルだった。それに続いて出撃準備の整ったライノが滑走路に移動する。

 

 「Saphir01間もなく離陸に入ります!!」

 

 「こんな形での初仕事になるが、米海軍最大戦力の力を存分に振るってもらえるかな? お嬢ちゃん」

 

 『まっかせてよね~、バーフォード中隊長。あと、イオによろしく~!! Saphir01クリアード・フォー・テイクオフ!!』

 

 その直後に基地を発進するライノの青いF/A-18。

 だが、そこで誰もが疑問に思った。30秒待ってから数え直しても、出撃したドーターの数が一機足りない(・・・・・・)

 その原因を調査しようと、格納庫に呼びかけようとするが……

 

 『こちら第三格納庫!! FALKENのアニマが突然コックピットで意識を失った!! 至急指示を求める!!』

 

 返事は向こうから来た。それも思いがけない物が。

 モニターの一角に示されたFALKENのコックピット内部の映像には、ゾーイが座ったまま意識を失っている。

 

 「くそっ!! こんな時にまた気絶か……!!」

 

 「またって……あれに換装してから戦闘機に乗っても1時間は戦えるようになったんじゃないのかよ!?」

 

 「確かに前よりは大幅に活動時間は伸びている。しかし、気絶のパターンが変化しただけで、今度はグリペンにより近い不安定な物になっちまった」

 

 何という事だ。

 半ば強引に調整に付き合わされた慧とは違い、イオは自分の父親の形見を載せた戦闘機がザイを落とす瞬間をこの目で見るために、自分の意志でここにいるのだ。それ故にその事に対してのショックは人一倍大きかった。

 その間にも自衛隊の損害は広がっており、ドーター二機も善戦してはいるが、戦況は一向に覆らない。

 じゃあ俺は何のために、ここにいるんだ……っ!!

 

 「仕方ない、ゾーイを下ろせ!!」 

 

 「おいおっさん!!」

 

 イオはその内に秘めた衝動から、こんな提案を出した。

 

 

 

 

 「俺をFALKENに乗せろ(・・・・・・・・・・・・)!!」

 

 

 

 

 その言葉に、不意に静かになるモニタールーム。だがその静寂を破ったのは、バーフォードの鉄拳だった。

 その威力に怯えたグリペンは慧に身を隠し、慧もそれを直視できず目を閉じる。

 相当強く殴ったのか、吹き飛んだイオの口の端からは血が出ていた。 

 

 「グラハムの息子だからと大目には見ていたが、ヒーロー気取りも大概にしろよ、小僧。ここはもう戦場なんだ。お前の甘ったれた勘違いヒロイズムが通用する様な空間じゃない。確かに間近で見させてやるとは約束したが、ど素人のお前が出撃した所でどうする気だ?」

 

 「決まってる……奴らを、俺がぶっ倒す!! 俺ならアイツは使える!!」

 

 「その700時間の仮想訓練だけで、戦場を生き残れると? 第一、あれは無人機用にチューンされていてもはや別機体だぞ」

 

 「それこそアレに乗ったことの無えど素人よりマシだろうが!! 前進翼でいくらかマシとは言え、図体はデカいわ自重は重いわ、ドッグファイトするには碌なことがねぇ欠陥機だぞ!! いくらエースパイロットがいようが、慣らしに100時間なんざ掛けてたらその間に全部お釈迦だ!! この基地も、俺が住んできたこの街もな!!」

 

 「………」

 

 一瞬の静寂、だが、彼の言葉は着実に影響を与えていた。

 

 「例え訓練が仮想上でも、この中じゃあ、俺が一番上手くあの機体を使える。その自信はある!!」

 

 口の端をぬぐい、立ち上がって叫ぶイオの姿に、バーフォードは彼の父、グラハムの姿を不意に重ねていた。

 無駄に自信家でお調子者。しかし、やると決めたからにはそれを曲げない確かな意志の強さ。

 どうしたものかと思考を巡らせていた時、彼のそれに賛同したのは意外な人物だった。

 

 「良いじゃないか、バーフォード中隊長。俺も青臭い正義感は嫌いじゃあない」

 

 「ドクター八代通……」

 

 「金髪小僧のシミュレーターのデータは見させてもらった。今日なんか凄いぞ。あの米海軍最強戦力のアニマをTLSのまぐれ当たりとは言え倒しやがった。部の悪い賭けだが、勝機はゼロじゃあない。あとはまぁ、気合と根性で補えば何とかなるだろう」

 

 「科学者と言う割には、随分非科学的な物言いですな」 

 

 「せめてロマンチストと言って貰いたいものだね」

 

 八代通はそう告げると、再び紫煙を吐く。

 すると、今度は慧にその視線を向けた。

 

 「小僧、お前はどうする? グリペンと二人揃って逃げるか?」

 

 「慧。私、飛ぶよ」

 

 そして、ここに確かな意思を秘めた者が、もう一人。

 グリペンは慧の陰から身を出して一歩進む。

 

 「イオも言ってたけど、私もこの基地や町が、思い出が無くなるのは、嫌だから」

 

 「だがお前は不安定だ。空に上がったら確実に死ぬぞ?」

 

 「それでも、だとしても---------」

 

 あぁ、くそっ、一人の女の子がここまで決意しているのに、俺はいったい何をしているんだ……っ!!

 

 「俺も行きます!!」

 

 そしてまた、少女の決意に寄り添った者が一人。 

 

 「俺がグリペンと一緒なら彼女は安定して戦える、そうですよね!? だったら座席の後ろにでも放り込んでおけばいい!! そうすれば例え俺が意識を失っても、ギリギリまで彼女の覚醒時間を延ばせる……違いますか!?」

 

 「慧……」

 

 「お前だけに良いカッコはさせられないからな、イオ」

 

 「ったく、どいつもこいつも……」

 

 八代通は頭をクシャクシャとかき乱すと、再び煙草に火を付ける。

 しかし、その表情はどこか満足げなもので、肉付きの良い頬が歪み、薄く笑っていた。

 

 「お前たち、最後確認として言っておくが、死ぬ覚悟は出来ているんだろうな?」

 

 「あぁ? ねぇよそんなもん。何せ、俺たちは死ぬ気が無いからな!!」

 

 「ガキが調子の良いことを言いやがって……おい、グリペンとFALKENを出すぞ!! コックピットの改修準備、急がせろ!!」

 

 八代通は肩を竦めると、すぐに格納庫に連絡を回すのであった。

 両機のテイクオフまで、あと10分。そして戦況は、再び動き出す。




次回、ようやくまともなドッグファイト突入!!
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