ガーリー・エアフォースX2 ~蒼き鷹と灰の竜姫~ 作:零八式
小松基地 第三格納庫
「良いか? 基本はシミュレーターとそう変わらん。ただし
「了解了解ぃ~!!」
モニタールームでの一騒動から早数分、出撃準備の最終段階に入っていたイオと慧は、整備員から装備などの説明を受けていた。二人の服は飛行服の上にフライトベストや耐G服を身に着けており、スロットルと操縦桿の感触を確かめる。
突貫工事でタンデム仕様に改修されたFALKENのコックピットは元々やや広めではあったが、所詮は一人乗り用の設計なので、横に駐機している元来二人乗りの設計であるD型グリペンよりもスペースに余裕は無い。何とか増設した後部座席にNFIを中心としたアニマ用インターフェイスを押し込むような形で集中させ、イオの乗る前部座席はどうにかシミュレーターとして使っていた頃と同じ計器の位置や設定に戻すことが出来た。
「済まない、イオ。まさか君に託す事になるとは……」
イオの搭乗と同時に意識が回復したゾーイは、後部座席でNFIに手を置き、イオを同乗させた状態でのドーターとの接続の最適化作業を進めている。意識こそ回復したものの戦闘中の何所で気絶するかは分かった物ではなく、今回は後部座席で照準の補佐やミサイルの誘導制御などのサポートに徹する事にしたのだ。そんな彼女の申し訳なさそうな声に、イオは気にするな、と答える。
それと同時に機体の最終確認が終わったらしく、ベルトと酸素マスクの装着を終えたイオが整備員にサムズアップを送るとタラップが取り外されて天蓋装甲が閉まり、一瞬視界が閉ざされるがすぐに全周囲モニターに灯が入ると、全周囲360度の外の光景が、肉眼で見るのと変わりない程鮮明に映し出される。まるで、自分の座った椅子が宙に浮いているかの様だ。
それもその筈、アニマ用のコックピットインターフェイスの雛形であるCOFFINシステム採用型のコックピットは、座席その物を後方から伸縮するアームで支える形式を取っており、本当の意味で座席が宙に浮いた状態にあるのだ。
伸縮アームで衝撃を緩和する事により、パイロットに掛かるGを軽減しているため、通常のコックピット搭載機体と比べてパイロットの限界値は高い。
「Antres GhostよりBARBIE01。どっちが多くの敵を仕留められるか勝負と行こうじゃねぇか。負けたらランチ奢りな」
『こんな時にも勝負かよ……それに、こっちは俺が直接操縦する訳じゃないんだぞ?』
『だからその勝負、私が受ける。私が勝ったら一週間昼食イオの奢りで』
「了解だ。ま、気楽に行こうぜ」
機体を滑走路に移動させながら軽口を叩くイオだが、その声は僅かに上ずっていた。いくらシミュレーションでは慧より好成績だったとは言え、アレにはGが乗らない。つまり、これから飛ぶ時の感覚は、今までの自分にとっては完全に未知の物だ。
その後誤魔化すかの様にせっせと管制塔とのやり取りを済ませるイオだが、その上ずりを聞き逃さなかった慧は、やや呆れながら返す。
『声が上ずってるぞ、イオ隊員』
「へっ、言ってろ。Antres Ghost クリアード・フォー・テイクオフ!!」
その友人の茶化しに多少調子が戻ったのか、イオは笑ってスロットルレバーを握り締めるとそれを全開に倒して加速した。自重の重いFALKENに満足な機動力を与えるべく搭載された、只でさえ通常戦闘機からすればかなりの大型エンジン、加えてドーター用に更なるチューンナップが施された文字通り化け物級の規格外出力から来る暴力的な加速時のGがイオを襲う。座席に押し付けられるかの様に僅かにのけぞるイオだが、その表情は笑みに満ち溢れている。瑠璃色の鷹が今、飛翔した。
(堪らねぇぜ。コレが本物って奴か……っ!!)
今まで体感した事の無い感覚に、まるで新しい玩具を手に入れた子供のような無邪気な笑顔を浮かべるイオだが、離陸して間もなくレーダーが防衛線を突破してきた敵機を捕捉する。数は1、通常の戦闘機型だ。下に搭載された大型爆弾を除けば。
「そのイチモツで滑走路をぶち抜こうってか? だが遅ぇ!!」
イオはそれを見るや、すぐにTLSを発射体勢に移行。機首を構築するユニットが上にスライドし、大型の化学レーザー砲が姿を見せる。
コンデンサーにチャージは完了している。すぐにトリガーを絞り、発射。空に一筋の光条が描かれる。
ザイはその思わぬ先手に面食らったのか、初撃を回避をするとこちらを通り過ぎて後ろに付こうとする。しかし、それを予測していたイオは先に機首を動かす準備をしており、エアブレーキを全開にして急激に失速、その後に機体を旋回させる、所謂マニューバ・フックを敢行し、その
「一機……撃墜!! そいつをかますなら俺が上がる前にやるんだったな!!」
撃墜したザイに中指を立てて吼えるイオ。
いくらエンジンを強化しているとは言え、FALKENは他の機体と比べると非常に大きく重たいので、どうしても離陸には滑走路を最大限に使わなければならない。
あの爆弾で滑走路に穴でも開けられていたら、短距離離陸の出来るグリペンはともかく、この機体は空に上がる事すら出来なかっただろう。
「さぁ、先を急ごう。もうすぐグリペン達も追いつく筈だ」
リミッターにより自動的に照射の終わったTLSユニットを収納し、インテークから空気を取り込んでのモジュールの空冷を開始。機体を再びマニューバ・フックで旋回させ、ゾーイが残弾とTLSのレンズの不具合が無いかを確認すると、アフターバーナーを全開にして日本海側の防衛戦線へと向かった。
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日本海上空 防衛戦線
「あぁ~もう!! しつこいしつこいしつこい!!」
撃墜される自分と同型の機体である自衛隊のF-15Jを横目に見ながら、イーグルは後方から迫るザイに対し回避行動を取りつつ目の前のザイに機関砲弾を浴びせる。撃破。その背後のザイはライノがカバーに入り、太陽を隠れ蓑にした蜂の如き一刺しが襲い掛かる。
「後ろが疎かだよ~、
「むぅ~!! またイーグルの手柄を横取りする~!!」
「撃墜されたら元も子もないよ。それにしても、この数はちょっとばかり厄介だね」
ライノが改めて戦況を確認する。その声には先程までの余裕は掻き消えていた。
現在こちらの残弾は機銃弾320、AAM三発。イーグルも似たような物で、味方の自衛隊戦闘機の数は既に半分を割ろうとしている。何らかの対策を講じているのか、三機で追い込むようにしてザイを一機づつ倒していくアンタレス隊も、既にEPCMの影響でパイロットの五感に危機が生じ始めている。あまり長時間の戦闘は期待できないだろう。
そんな時だった、この戦場に来る筈のない少年の声が、全チャンネルお構い無しに聞こえてきたのは。
『BARBIE01より出撃中の各機へ!! 合図と同時に一度散開して戦線を後退、編隊を組み直してくれ!!』
「この声は……鳴谷慧?」
『Ghostの馬鹿が
『着弾予測コース、転送』
その直後にグリペンからのデータリンクで生存していた全機体に送られる予測射線のデータ。それは間違い無く現在日本に向けて進行中の重爆撃型ザイに向かって伸びているのだが、問題はその太さだ。威力の効果範囲はレーザー本体よりも広い。レーザー兵器の内包する熱量は伊達ではなく、その本体はおろかその周囲にも膨大な熱を撒き散らす。もし主翼に掠りでもしようものなら、電磁パルスによる加熱で燃料に引火しかねない。通信を聞いてギョッとしたAntares01が、自衛隊各機に「馬鹿っ!? 全機、直ちに散開せよ!!」と大声で訴えている。
その間にも無慈悲に進む着弾までのカウントダウン。
着弾まで、5……4……3……2……1……着弾。
膨大な熱量を持った、一筋の赤い光が先程までの戦場を薙ぎ払う。後退した自衛隊機体を追撃しようとしたザイが五機ほどその熱線に焼かれ、まるで製造途中のガラス細工のように溶けて爆発し、その先にいた重爆撃型ザイにも着弾、横にジリジリとレーザーが動き、ガラスが焼け爛れたような弾痕が穿たれる。それから数拍を置いて内部から爆発、侵攻スピードがガクッと落ちた。
「たった一射で……足を止めやがった……っ!!」
「何アレ!? ずっるーい!! イーグルにも欲しーい!!」
「後方より友軍機接近!!」
その威力に戦慄する自衛隊戦闘機パイロット、羨ましがるイーグル。それに続くかのように後方からの友軍機接近の報告。
機体識別は『BARBIE01』と『Antres Ghost』。青き
先行した瑠璃色のFALKENはアフターバーナーを全開に吹かし、グリペンもそれに追いすがり、その間にも随所にHimatを織り交ぜた機動でザイを撃墜していく。
「隊長!! あれは……っ!!」
「知らん、何も聞いてないぞ!!」
編隊を組み直し、士気を取り戻しかけた自衛隊を他所に、アンタレス隊は今まで見てきたFALKENの動きとは違う事に驚きを隠せずにいた。確かに、今までゾーイに重爆撃型の排除をあの様な形式で任せた事はあったが、それは自分達のようなレーザー兵器がどう言う物かを理解している僚機と組んだ上で、しかもあらかじめ立てられた作戦があるからこそ初めて成せる業だ。つまり、パイロットがゾーイであれば、あの様な味方を巻き込みかねない攻撃は絶対にしない。
と言う事は、あのFALKENには一体誰が……
『いぃぃぃいやっほぉぉぉおおぅ!! 見たか!? 一射で五機撃墜!! デカブツにも大ダメージだぜ!!』
その通信と、同社の機体同士で行われた専用のデータリンクから送られた情報を見て、Antares01は心の中で頭を抱えるのであった。
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「いぃぃぃいやっほぉぉぉおおぅ!! 見たか!? 一射で五機撃墜!! デカブツにも大ダメージだぜ!!」
TLSを遠距離から最大出力で発射し、五機の戦闘機型ザイを巻き込んで撃墜した上に肝心の主要目標である重爆撃型にも大きな損害を与える事が出来た。TLSはオーバーヒートの為20秒ほど冷却が必要だが、大した問題ではない。
イオはその攻撃を、ゾーイが随時更新する戦線にいるアニマとのデータリンクから得られる情報を見てから、撃つならここしかないと直感のみを信じ、友軍に警告する間も無く放っていた。結果的に味方を巻き込む事無く敵に大損害を与えられたが、味方からの顰蹙は買われかねないだろう。
『おい、イオ!! いくら何でもやり過ぎだ!! 自衛隊の人に当たったらどうする気なんだよ!?』
「お行儀良く事前警告でもしろってか? その間に勘付かれて避けられちまうだろうが!!」
彼の言う事も一理はある。敵はこちらが超遠距離からのレーザー攻撃手段を持っている事は知っていると見て間違いなく、ドッグファイトを繰り広げている途中で露骨な散開でも披露すれば、それをザイに勘付かれて回避される事は想像に難くない。いくらドーターが一般の戦闘機より高い戦闘力を持っているとは言え、元々機動力はあちらの方が上なのだから。いずれにせよ手前勝手な意見ではあるのだが。
「メンタルチキンは引っ込んでろ!! 征くぜ!!」
そう言ってアフターバーナーを吹かし、更に先行してしまうイオ。いくらCOFFINシステムを採用したコックピットの耐G性能が高いとは言え、先行しながらも随所にHimatを織り交ぜた急速旋回や上昇を駆使してザイを追い込み撃墜しているのだから驚きだ。一方、慧の乗るグリペンの方はと言うと、まだ最適化処理が終わっていないせいでグリペンの制御による最大スペックが発揮できない状態にある。
「アイツ……戦場で遊んでやがる……っ!!」
「慧……」
慧の操縦桿を握る腕の力が、不意に強くなった。
手前勝手な奴には必ず制裁が入るまでがテンプレだが、はたして……