Ys -白翼の軌跡-   作:水晶水

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 今作のメインコンセプトは、「アドル君が冒険の度に装備を引き継いでいたら」っていうのを置いてます。この辺りは前作の「赤毛の紀行家」と一緒ですので、多分しばらく同じような展開が続くことになるかと。
 実質加筆版みたいな感じですね。


第一章 失われし古代王国-序章-
Prologue -冒険家の産声-


 よく見知った故郷の人々に惜しまれながらも、アドルは自身の中で渦巻く極大な好奇心に身を委ねて旅に出た。人の身一つで回るにはあまりにも広大なエウロペ地方。幼少の頃より冒険に恋い焦がれてきたアドルにとって、その巨大な盤上は至上の魅力で溢れるものに他ならない。

 旅の始まりは行く当てもなく歩き、父の本に綴られていた場所を見たり、初めて目にする光景を確と記憶に刻むように網膜に焼き付けたりして、アドルが思うがままの旅路を歩んできた。勿論、尊敬する父親のようにアドル自身もその日々を綴ることは忘れていない。文字を習っていたとはいえ、アドルが人生で初めて綴る父の紀行文とまではいかないそれは冒険日誌とでも呼べばよいだろうか。

 

 行き倒れになりかけた時にお世話になった小さな村のために水源を見つけたり、野生の狂暴な獣に家畜を襲われている村で害獣駆除を引き受けたり。はたまた、街道で野盗に襲われていた馬車を助けたりと、アドルは彼なりの小さな冒険を繰り返しながらエウロペの地を南下していく。この歳まで麓の街へと訪れる時にしか山を出ることが無かったアドルは、ロムン帝国へと近付いていくにつれて華やかになっていく街並みにある種の興奮を覚えていた。本で追体験したよりも、自身の想像よりも遥かに雄大な光景に、それを見たいと心から思い続けていたアドルの感動も一入だろう。

 然れど、彼の心の源泉にある冒険心は未だに燻ぶったままだ。そして、確かな感動と渇望を同居させたまま、アドルは遂にエウロペにて最大の国ロムンへと入国を果たす。

 

 東西に長い形のロムン帝国であるが、アドルはまず入国した地からほど近い──位置としては首都から離れた東の地にある──ガルマン地方で情報を集めることにした。街に駐在するロムンの軍隊。他では見なかった厳かな装いの人々は余所者であるアドルに厳しかったが、彼はそれを父から習った処世術と生来の人の好さで、何とか大きな問題は起こさずに情報を収集していく。

 そして、村を発って約一年の月日が流れ、齢も十七に差し掛かろうかという頃。アドルは自身の心を満たしてくれそうな冒険の予感と対面を果たした。紆余曲折あって交流を持つことになったガルマン貴族から齎された──アドルにとっての──吉報に、彼はまたも惜しまれながらも今度はロムンの西へと旅立つこととなる。故郷の外で仲良くなった人と別れることに後ろ髪引かれる思いが無かったわけではないが、それでもアドルは噂の真偽を確かめるために冒険を続けた。抑えきれない好奇心にはアドルも勝てないのだ。

 目指す場所はロムンのほぼ西端にある港町。時に歩き、時に護衛として商隊の馬車に同乗させてもらいながら、アドルは帝国屈指の貿易都市プロマロックへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

「ここがプロマロック……」

 

 商隊と別れて一人になったアドルは、遠くに見える広大な海を眺めながら独り言ちる。一先ずの目的地に辿り着いたことから、アドルは一度大きく息を吐いた。天高くから照りつける陽の光はまるで彼を祝福するように爛々と輝いているようだ。雲一つない蒼空から降り注ぐそれは、白壁の建物群に反射されて視界を明るく染めていた。

 

「そしてアレが噂の"呪われた地"」

 

 反射される日光で瞼が落ちそうになるのを堪えながら、アドルはその視線を海から更に奥へと向ける。陽炎揺らめく視界に映るのは小さな島国だ。プロマロックから北沖に向けて40クリメライに位置する、高い市壁が特徴な首都を擁する国の名はエステリア。アドルが今しがた口にした通り、少し前から"呪われた地"と称される、他国との貿易で成り立っている国であった。勿論、此処プロマロックとも交易はある。尤も、今はその噂──否、今はもう確かな事実のせいで国交は断絶している状態にあるが。

 

「えっと、確か船は今出てないんだったかな」

 

 男爵から聞かされていた情報を反芻しながら、アドルはこれからどうしたものかと思案に耽る。行き交う様々な人種の人々が一様に立ち止まったアドルを不思議そうに眺めて通り過ぎていくが、当の本人は目の前の冒険で頭がいっぱいなようだ。向けられる視線に気付きもせず、彼はエステリアへと渡航する手段を考えた。

 

「……やっぱり船で行くしかなさそうだ」

 

 たっぷり思考に費やすこと数分。結局アドルはどうにかして船を出してもらうことに決めたようだ。まだ交通手段が発達していないこの時代において、取れる選択肢はそう多くはない。流石のアドルも、未来におけるフルマラソンよりも長い距離を泳ぐ気にはなれなかった。

 

「よし、それじゃあ港の方まで行こう」

 

 考えが纏まれば行動は早い。思い立ったが吉日と言わんばかりに、アドルは持ってきていた少ない荷物を背負い直して港へと真っすぐ歩いていく。最悪小舟でもいいから借りられないだろうかとぼんやり考えるアドルは生粋の冒険馬鹿だ。命の危険は動いてから考えるという傍から見れば自殺志願者と見紛う行動を取っていても、当のアドルの瞳は期待と好奇心の眩い輝きで満たされているようだ。長い旅路の疲れも感じさせない軽快な足取りで、アドルは人混みに交じって目的地へと急いだ。

 前人未到の困難さえも越えるべき壁としか思っていない赤毛の少年。後の世界で人々に壮大な夢を与える冒険家の第一歩が今踏み出された。




 アドル君の冒険日誌を追体験するのがYs原作ですが、今作は冒険しているアドル君を追う形で進んでいきますわよ。
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