「いや〜、一時はどうなるかと思ったけど、結果的には今日も快勝だったね!さすがはブラッド!ってやつだね!」
「自分で言ってりゃ世話ねぇな」
「も〜、ギルってばノリ悪〜い。そこは黙って『そうだな、さすがブラッドだよな』って乗るところじゃないの〜?」
「ハイハイ、さすブラ」
「ぶ〜ぶ〜、適当過ぎ〜」
「どうしろって言うんだよ………」
アナグラへの帰投中の車内。今日も今日とて、際限なく発生するアラガミの討伐要請に応える為に俺達ブラッドは駆り出され、一仕事終えての反省兼団欒の時間である。
「それにしても今日のアユムンの一騎駆け、いつも以上にとんでもなかったね!私もちょっと油断してたから、最後はハラハラしちゃったけど結局無傷なんだから!」
「確かに、歩の最後の一撃には目を見張る物があったな。さすがは隊長だぜ。同じチャージスピア使いとして、歩を見てると俺もまだまだだなって思うよ」
「ギルってば、さっきは乗ってくれなかったのに、アユムンを褒める時はさすがって言うんだ。なんかずる〜い」
「だから、俺にどうしろって言うんだよ………」
「ナナさん、ギルをからかうのもそれくらいにしてあげましょう。ギルも言葉にしないだけで、ブラッドを思う気持ちは私達と同じなんですから」
「シエルちゃんは優しいな〜。シエルちゃんに免じて、ギルのツンデレは大目に見てあげるか〜」
「………有難うよ」
つい先程まで命を懸けた戦いをしていたとは思えない程、車内の空気は明るい。今日もメンバー全員無傷で討伐目標を達成したのだから、それも当然か。ここのところ俺達ブラッドは、これまでになく快調に本部からの依頼をこなせている。今回の目標も難敵という訳ではないが決して容易な相手という訳でもなく、実際ヒヤリとする出来事もあった訳なのだが、結果としてはこの通りだ。
「ところでアユムン、さっきから黙りでずーっと腕輪を見てるけど、どうかしたの?」
いつもは隊長として率先して会話を振る俺だが、思うところあって思考に耽っていた。が、さすがに目敏いナナに気付かれてしまった。やれやれ、今日の考察はアナグラに帰投してからゆっくりやるしかないか。
「あ〜、何でもない、何でもないぞ。ちょっと今日の戦いについて個人的な反省点を洗っていただけだ」
「ふ〜ん。反省ね〜。最後も結局いつも通りドガーンと決めてくれたんだから、アユムンは言う事無しだったと思うけど」
「俺は隊長だからな。結果良ければ全て良し。って訳にはいかないんだ。これからも全員無事に任務を達成し続ける為にも、思考停止はいけない。考えなきゃいけない事はいくらでもある」
「まったく、俺達の隊長の向上心には敵わないな。だからこそ、やり甲斐もあるってもんだが」
「ですね。隊長にはいつも助けられてばかりで………私達に力になれる事があれば何でも言ってくださいね。君の助けになる事が、私達の誇りなんですから」
「私だって、あんまり難しい事は分かんないけど、いつだって隊長の味方だよ!」
「俺の方こそ、皆がいるからこその隊長な訳なんだがな。まぁこれからも愛想を尽かされないように頑張るよ。3人共、有難うな」
三者三様ながら、肯定の意を示してくれる皆に思わず頭が下がる。本当に俺には勿体無いくらいの仲間達だ。今日の個人反省会はみっちりやらないと。決意を込めて戦闘後から疼く腕輪を見やる。
「ん?また腕輪?やっぱり歩、調子悪いのか?大丈夫なのか?」
ついつい視線を送ってしまった動きを今度はギルに見咎められた。気になっているのは確かだが、不調というよりは………確証も持てない推測の話だし、今日の出来事をリッカに報告してから皆には改めて話そうと思ってたんだが、感覚だけでも伝えておくべきか。
「いや、本当にそんなんじゃない。むしろ調子は良くなってるくらい………」
「もしかして………隊長、やっぱり、あの時に怪我を!?ごめんなさい!私の援護が遅かったばかりに!見、見せてください!」
さあ、どう説明したものかと言葉を舌で転がしていたところで唐突に血相を変えたシエルに右手を掴まれた。野郎どもとは違う、滑らかな指先にドキリとした。
「シ、シエル?」
「目立った外傷は見えませんが………もしかして、腕輪の機構の方に損傷が………!?隊長を助けないと、と無我夢中で撃った支援弾でしたし、調整をミスしていたのでしょうか………君に何かあったら、私は………」
俺の右手をまるで壊れ物を扱うように触りながら触診を始めるシエルに圧倒される。それにしても、やはり最後の支援弾はシエルの物だったか。
「シエル、大丈夫、大丈夫だから。お前の支援弾のお陰で俺は今日も生きて帰れて、腕にも腕輪にも傷一つない。今説明しようと思っていたんだが、調子が悪いどころかむしろ絶好調だ。今すぐにでももう一討伐いけるくらいにはな」
「隊長………」
シエルの両手を逆に優しく握り返す。不安に揺れる眼を見つめ、一言一言言い聞かせるように言葉を紡ぐ。まさかここまで過剰に反応されるとは、予想外だった。仲間に無用な心配をかけるようじゃ、俺もまだまだだな。
「最後の支援弾はいつになく俺の力になってくれて、あれがなければおそらく今こうして五体満足ではいられなかったと思う。それだけの効果があったからな、ちょっと考えを纏めていただけなんだ。そういう訳だから、ナナもギルも、心配は無用だ」
「ほう、最後の一撃にはそういうカラクリがあったのか。俺はてっきり土壇場で歩のブラッドアーツが進化したもんかと思ってたんだが」
「それなんだよな。きっかけは確かにシエルの支援弾だったと思うんだが、俺のブラッドアーツも今までにない効果が発揮されてたように思う。皆に説明するにも俺自身にも分からない事だらけだったもんでな」
「なるほど。了解した。もしシエルの支援弾の効果って事ならバレットの方に何かしらの変化があったのかもしれないな。それなら俺達にも適用出来るかもしれないし、技術班の解析に期待ってところか」
さすが、ギルは理解が早い。こんな事ならとっとと分かっている事だけ話しておけば良かったか。まずは自分で考えてからってのは悪い癖だな。戦闘時はむしろ感覚派な方なんだが、余裕がある時はついつい自分の内に籠りがちになるんだよな………
「ちょっとビックリしちゃったけど、さすがシエルちゃんだね!私も負けてられないな〜」
「まぁ、そういう事だ。そろそろシエルも落ち着いたか?」
「は、はい。取り乱してしまってすいませんでした」
大分気持ちも落ち着いたようだな。最後に手を包んでいた両手をポンポンと叩いて、そのまま離そうとしてーまた両手を掴まれた。
「………シエルさん?」
「す、すいません。隊長と手を繋いでいると、暖かくて、凄く気持ちが落ち着くんです。もう少し、このままでも………いいでしょうか?」
先程の焦燥がウソのように、穏やかな表情でのお願い。また手を掴まれた瞬間は驚いたが、いつもは一歩引いた姿勢で我儘一つ言わないシエルの珍しいお願いだ。俺の手なんかで良ければ何本だって貸してやるさ。1度両手を離してもらって、改めて握手の形で握り直した。
「これで、いいか?」
「………!あ、有難うございます!」
花が咲くような満開の笑顔で、シエルの方からもぎゅっと手を握りしめられた。ある意味、役得だな、これは。しかし、こうしていると、サテライト拠点に残した妹を思い出す。元気にしているだろうか………
「ふふっ、2人は仲良しさんだね〜」
「………まぁ、俺達チームは家族みたいなもんだからな。さしずめ隊長は、お兄さんってところか」
「そういう台詞がサラッと出るところ、ギルらしいな。でも俺よりギルの方が兄って感じだと思うんだが」
「シエルならいいんだが、ナナみたいなじゃじゃ馬の兄貴分は俺には荷が重いからな。俺は親戚のお兄さんくらいで、皆の兄貴分は隊長に任せるよ」
「何ソレ!ギル酷い!」
「ふふっ、私はナナさんみたいな姉妹がいたら嬉しいですけどね。いつも明るくて、皆に元気をくれるナナさんみたいな人がお姉さんなら素敵だと思います」
「シエルちゃん………!私もシエルちゃん大好き〜!」
「ふっ………やれやれだな」
その後は終始家族談義で車内は明るい雰囲気だった。結局、繋いだ手はアナグラに着くまで繋ぎっぱなしだったが、俺の手、汗とか大丈夫だっただろうか………後でやんわりと手汗を指摘されたりとかしたら、凹むな………
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「こいつでトドメだ!」
腕輪を介して活性化、励起されたオラクルが神機を覆い、その威力を十全に発揮するべく穂先の変形機構が鋭利な刃を露わにする。哀れな獲物を食い破るべく、黒光を帯びたそれを携え目の前のアラガミに突貫した。
今回の討伐目標、ヴァジュラ-雷霆を操る金剛杵の名を冠するアラガミ。巨大な獅子型のアラガミで、その体躯を生かした俊敏な攻撃並びに、敵を寄せ付けない強力な雷撃を得意とする強力なアラガミ-だが、俺達ブラッドは幾度となくこのアラガミを狩っており、今回の個体も危なげなく連携を取って戦い、今や目標は息も絶え絶え。態勢を崩したところにいつものルーティーンである俺の十八番、全力を込めたチャージグライドをお見舞いするところだったのだが………
もはや立ち上がる気力は無いかのように見えたヴァジュラは、ギラリと血走った目でこちらを見据えたかと思うと、地に伏せた状態はそのままに唸り声と共に激しく身体を発光させた。発電体による雷撃の予兆...まさかこのタイミングでの迎撃が可能とは思ってもいなかった俺の目前に、高速回転する雷球が展開された。
機を見て皆を導く隊長たる者にあるまじきミス。完全に突撃態勢に入っていた俺に雷球を躱す手立てはなく、直撃の未来が見えた。
「隊長!」
雷球との接触の寸前、俺の身体を暖かいオラクルの閃光が通り抜けた。瞬間、バリバリと耳を突き刺す雷の音が消え、目の前を視認出来ない程の速度で高速移動をしていたハズの雷球が、止まっているかのように目視出来た。目前に迫るヴァジュラの些細な筋肉の動きすら手に取る様に見える。これ迄に感じた事のない全能感が身体中を満たす。まるで通い慣れた経路を散歩するかの様な気軽さで雷球の隙間を通り抜け、必殺の確信を持って眩いばかりに輝く愛槍を地に伏せる獲物の懐、喉笛に突き立てた。
肉を貫く嫌な手応えを一瞬感じる。しかし、穂先から神機全体を伝いそれでも抑えきれないオラクルが身体を押し進める推力を産み、ヴァジュラの肉体をそのままの勢いで突き抜けた。
生暖かい体内を突き抜けたその先で、薄汚れた廃墟の夕焼けが見えた。振り返った背後には、断末魔を上げる事なく即死したヴァジュラが斃れていた。
「隊長!」
「アユムン!」
「歩!」
そして世界に音が戻った。斃れたヴァジュラの後方に、俺を呼びながら駆けてくる仲間の姿。右手に握り締めた神機はいつも通りの無骨なフォルムに戻っていた………
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「ってな事があってな、技術班としての見解はどう思う?俺としては、データ不足で検証の余地ありってとこなんだが」
雑然と工具や神機パーツが散乱し、鉄と油の匂いが蔓延する個室内。技術班リッカの工房内にて、帰投後にそのままの足で今日の出来事に関しての報告をする事にした。にしても、思い返せば思い返す程不思議な体験だったと感じる。あの時の俺はやろうと思えば、どんなアラガミ相手であろうと、どれほどの猛攻を受けていようと、一刀の元斬り伏せる事が出来ただろう。それだけの力が、あの一瞬の俺には、あった。
「興味深い、実に興味深いね!歩君の新たな力の目覚め。シエルさんの新たなブラッドバレットの発現。はたまた極限の環境下で、第三世代型神機使いとしての力が進化したのか、色々想像は尽きないね!ただ、歩君の言う通りもう少しデータが欲しいかな」
会話をしつつも左手でキーボード操作によるデータ入力を行いながら、右手で紙面に考察をメモするリッカ。相変わらずデタラメな処理能力だ。オペレーターでもやっていけるんじゃないか?
「やっぱりそうだよな。俺としては危険の少ないミッションでもう少し実戦データを取れるといいかなとは思ってるんだが」
「ん〜、実戦データも有難いんだけどそういう話なら………ちょっと待っててね。え〜っと、今日の予定はっと………うん、大丈夫だね。今日は第一演習場が空いてるから、ブラッドの皆の都合さえ良ければ次回以降の任務を待たずとも、模擬戦でデータを取るっていうのはどうかな?任務上がりで疲れてるだろうし、どうするかはお任せするよ」
ふむ、模擬戦、か。