虹ヶ咲短編集 日常の切れっ端   作:キルメド

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最近、ライフデザイン学科の生徒達がペアになって行動を共にしているところをよく見かける。もちろん近江彼方と朝香果林もそうだ。二人は常に一緒にいる。
そこに流れ始めた不思議な噂は愛の興味を強く引き寄せ、気がつけば視線を集中させる。
勘違いかそれとも真実か。平安の中を駆ける噂をめぐる日常の切れっ端


ライフデザイン学科の噂、果林と彼方の秘密に迫れ!

「ふむふむ……二人揃ってご飯かな?」

両手で双眼鏡を作りながら学園渡り廊下を歩く二人を見つめる。ちょうど今はお昼休み、彼方の手には弁当があるだろう。

「あの行動の中にライフデザインの秘密が」

「ライフデザインの秘密って」

「いやね、愛さんはライフデザイン学科には大きな謎があるって聞いたんだ」

「そうなんだ。それで果林さんと彼方さんを」

「うん……歩夢いつからいたの?」

ナチュラルに独り言を会話に発展させてしまった。かすみならきっと驚きの声を上げるだろうとほくそ笑みながら歩夢に向かい合う。

「愛ちゃんがなんかこんな感じであっち見てたからなんだろうなぁって思って」

愛の真似をして両手で双眼鏡を作る。彼女の様子が怪しいのは間違いないのだが、ここまで自然と会話にできるのは歩夢の力だろう。

「それでライフデザイン学科の謎って?」

歩夢は積極的に話に食いついてきた。同好会メンバーの事なのだから興味がないはずがない。

「いやぁ、愛さんも人づてで聞いたんだけどね。ライフデザイン学科って実はとんでもないことを裏でやってるんじゃないかって」

愛は学内に友人が多く、自然と入ってくる情報も多くなる。そんな中で興味深い内容があった。

「と、とんでもないことって?」

「詳しくは分かんないんだけど……なんか最近学園の内外問わず二人組になってるのを見たって。ずっとそのペアであちこち行ってるみたい」

「そうなんだ。ライフデザイン学科が同じペアで二人で……」

グループワークだとしてもずっと一緒というのはおかしい。よくよく思い返すと、最近の彼方はエマよりも果林と一緒にいることが多い。

「んで、その話してくれた子が言ってたんだけど、ライフデザイン学科ってことはつまり日々の生活をデザインするわけじゃん?」

「まぁそういう学科だからね。うちのサイトの学科紹介でも……あれ?どこだっけ?」

「ここ」

「あ、ありがと。豊かな生活を研究しながら色々な社会のことを学ぶ学科って書いてあるし」

スマホを取り出し調べたところその内容は多岐に渡り、またフォーカスを当てるポイントを変えるだけで全く異なる勉強ができるという幅広いものだった。

「つまりさ……ああやって二人でいるのはお互いの生活をデザインする勉強してるんじゃないかって話」

「それってつまり共同生活ってこと?」

「そうそう」

歩夢の脳は急速に回転する。それは共同している彼方と果林の様子だ。

『彼方ちゃんお手製の肉詰めピーマンだよぉ〜。野菜もしっかり食べようねぇ』

『はいはい。化粧品も新しくしておいたわよ。流行りの服も一緒にね』

『明日の朝は晴れるみたいだから早起きしてジョギングだねぇ』

『うふふ、これで多方面に豊かな生活を送れるわね』

『これぞライフデザイン』

 腕を組んで頷く愛だが、歩夢はそれがどうかしたのかと言った感じだ。妄想の内容もまるで二人の性格から離れて上手くイメージできていない。

「いやまぁ、そうなるよね普通。アタシも最初はそう思ってた」

なぜか愛は頭を撫でた後に思いっきり近付き耳元で囁いた。

「ほら、ライフデザインだからさ。命をデザインしてるとも言えるわけ」

「だ、だからどうしたの?」

「へへ、気付いたでしょ歩夢」

歩夢の脳がまたも高速で回転する。

『果林ちゃぁん、お座敷の準備できたよ』

『良い布団ね。でも今夜はここで寝かせてあげないわよ』

『むふふ、それはこっちのセリフだよ。眠くならない彼方ちゃんの本気、見せてあげるよ』

『さぁ、始めましょう』

『あなたと私でライフをデザイン』

今度はもっと鮮明に浮かび上がり、しかし意図してぼかしたような内容だった。

頬が僅かに赤く染まったのを愛は見逃さない。逃がさないようにと背後に回り込み、どっちに動いても抱き込む準備はできていた。

「いやでも、そんなこと。だって女の子同士だよ?」

「現代科学の進化だよね。この間もネットニュースで不可能じゃないって大学の教授が言ってたし、それにウチならできそうじゃん?」

一歩間違えると納得してしまいそうになる。愛の語り口と人柄、そして虹ヶ咲学園のマルチな校風による説得力によるものだろう。

(にひっ、こうなったら逃がさないからね歩夢〜)

あたふたと頭を振る歩夢を見て舌舐めずりをする。ここまで話したのだから歩夢にも付き合ってもらう、それが愛の思いだ。

「あのさ、二人とも何してるの?」

「あ、璃奈ちゃん!」

そんな二人を見かけた璃奈が声をかけてきた。璃奈ちゃんボードは困惑の色を見せており、目がハテナマークになっている。

「りなりー丁度いいところに!歩夢を説得して欲しいんだよ〜」

「いやだから、何してるの?」

愛の言葉を拒否せずにまずは状況の説明を促した。愛も璃奈が乗り気だと信じて説明をする。

「へえぇ、あんな体勢でそんな話を」

「な、何その顔?アタシ達は別にそういうのじゃないよっ!」

璃奈からするとまるで愛が歩夢に襲いかかっているように見えた為だろう。璃奈のボードは目を伏せて片方の口角を上げた表情をしている。差し詰め「にやにや」といったボードだろう。

「まぁ結局そういう事だよ」

「え?どういうこと?」

璃奈曰く、端的にその噂の内容と愛の思惑がこの場にも集約されているという。

「今だって何気なく愛さんが歩夢さんの後ろに立ってニタァって笑ってたでしょ」

「えええ!愛ちゃんそれはつまり」

「別にニタァまでは行ってないでしょ!そりゃちょっとは悪どい笑い方してたかもしれないけどさ」

だが、璃奈の目からはそう見えた。というよりも大半の目からはそう見えるだろう。

「続けるよ!」

「はい」

「でも実際は愛さんも歩夢さんもそんな気はまるでなかったわけでしょ?結局は私の誤解だったってわけ」

確かに彼方と果林を題目にそんな話をしてはいたが、視点を璃奈に移すと今度は愛と歩夢で同じような話ができるかもしれない。

「つまり、私達が誤解してるだけで実際はそんなことないってこと?」

「かもね。それに私もそのライフデザイン学科の話は聞いたことあるけど、出どころが掴めないし信憑性に欠けるし。だからそうやって妄想を膨らませるのは良くないと思う!」

ボードを強い意志を持った怒りの表情に変えながら、璃奈は強く声を出した。

「そっか……アタシ達のやってることって妄想だったんだ」

「別に妄想を悪いこととは言わないけど、本人に迷惑かけちゃダメだよ。特に風評被害とか」

「私達スクールアイドルだもんね」

璃奈の現実的な意見を二人とも受け入れる。改めて思い返すと自分が考えていたことの全てが記憶から消してしまいたいほど恥ずかしい。

「分かったよ。もうカリンとカナちゃんで妄想はしない!」

「ふぅ〜」

愛の中で一件落着したと思い歩夢は一息ついた。その一息が油断になるとも知らずに。

「じゃあ歩夢!行こっか!」

「え?どこへえええ!?」

言うが早いか歩夢の腕を掴み引っ張りながら走り出した。歩夢の悲鳴が聞こえなくなってから璃奈は思考を回した。

「……まさか、直に聞きに行く気じゃ」

 

璃奈の予想は当たっていた。愛は歩夢を引き連れて学園を走り回る。ターゲットは果林と彼方だ。二人の所在を掴むために日頃の行いで得た人脈を使う。

「カリンとカナちゃん見なかった?視聴覚室か、ありがと!」

「ありがとうございまあああ!」

手早くお礼を言うとまたフルスピードで飛び出す。その度に歩夢は縺れそうな足元をなんとか正して愛に付いて行った。

そして遂に二人の居場所を突き止める。そこは事前に申し込んだ生徒のみが入ることができる自習室。

「ぜぇ、ぜぇ、ここに本当にいるのかな」

「いなかったら探す!」

「うわー、二人にいてほしいなー」

歩夢の膝は生まれたての子鹿の様にガクガクと震えている。既に限界が来ていたのだ。明日は間違いなく筋肉痛だろう。

「むむむ?外が騒がしいと思ったら、愛ちゃんと歩夢ちゃん?」

「カナちゃんいたー!」

「はいはい彼方ちゃんだよ〜」

自習室のドアが開き彼方が姿を現わす。奥には果林の座っている姿も見える。

「ううう、果林さんもいてくれてありがとう」

「ええ!?ちょっとこれどういう状況よ」

祈りが通じたと中に押しかけながら果林の手を掴む。既に膝立ちの状態で涙ながらに全身震えている歩夢、そんな彼女を見て驚かないはずがない。

「どういう状況ってほら、アレだよ……御用?」

「愛に恨まれる様なことしたかしら?」

「私には可愛い妹と家族がいるから逮捕しないで〜」

二人とも愛の唐突な言葉に混乱しながらも柔軟に対応する。特に果林は疲労困憊の歩夢を抱えた状態だ。

「あのさ。最近二人ってずっと一緒にいるじゃん?同じ学科だから?」

「そうだよ。ライフデザイン学科のグループワークで、彼方ちゃんと果林ちゃんはペアで研究してるんだぁ」

彼方は淡々と答える。果林もその後ろで頷く。しかし愛は、こんな事を聞くためだけに来たわけではない。本当の狙いは噂の真偽を確かめるためにある。

「ふーん。じゃああの噂はやっぱ嘘かな」

「噂?なんのこと?」

「あぁ、ライフデザイン学科の裏ってやつ」

「え!?カナちゃん知ってたの?」

ピンと来ていない果林と対照的に彼方は普通に答えた。まさか噂の話題になっている彼方自身が知っているとは思いもしなかった。

「彼方ちゃん達ライフデザイン学科はペアでグループワークしてるんだ。それで深い研究をするためにずっと一緒にいるから、周りからはとっても仲が良いって思われてるって話でしょ〜」

「ちょっと彼方、そんな話は聞いてないわよ」

「聞かれなかったしぃ、果林ちゃんが彼方ちゃんととっても仲良しなのは間違いないでしょ?」

果林を落ち着かせるように振り向いて柔らかに笑う。それを見て果林も言葉を抑えた。

「おおー!マジ!?これマジの方だった!?」

「愛ちゃん落ち着いて」

愛のテンションは上がるが歩夢のテンションはむしろ下がっているように見えた。彼方の言葉もまだ抽象的なものだ。

「まぁ彼方ちゃん的には特に気にならないけど……やってる事はちょっと深く研究するだけだよぉ」

「なるほどねぇ。でも本当にグループワーク?共同生活してるって話もあったけど」

「本当だよ〜。この学科は分野がかなり広くて一点集中で深くやらないとだから、最悪泊まり込みになるけどねえ」

確かにテーブルの上には大量の資料と図書館で借りたと思われる本がいくつも積まれている。

「そんなに大変なんだ」

「そうそう。もうライフデザイン学科のことで変な噂流さないでよ。特に私達スクールアイドルなんだからさ」

「もうって!?いま変な噂まで流れてるの?」

果林は全く噂のことを知らないらしい。それとも彼方が知りすぎているのだろうか。

「んー、分かった。とにかく噂が間違ってたってことね。じゃあアタシがそれを広めとくよ」

「よろしく〜」

愛の力なら少なからず二人の分は広めることができるだろう。それにより飛躍しすぎた噂は消えて二人が仲良しという事実は残る。

「なんだか置いてけぼりくらってるわね。歩夢、もう大丈夫?」

「はい。すみません、急にこんな状態で」

「いいのよ。それって私達にみんなが注目してくれてるってことでしょ?」

果林としてはこの状況をポジティブに受け止めている。それに誤解が解ければプラスの部分だけ残るだろうという算段だ。

「じゃあよろしくね〜。早く出ないと自習室で何してるのー!って怒られるかもしれないし、私達も研究が進まないからね」

「はいはーい。んじゃ行こっか歩夢」

「うん。お邪魔しました〜」

二人はそそくさと自習室を後にする。何事もなかったと胸をなでおろしているように見える歩夢を揶揄う愛の姿が見えなくなった後にドアを閉じた。

 

「ふぅ〜」

大きく息を吐くと共に歩夢がそうした以上に果林が胸をなでおろす。それを見た彼方はヘラヘラと笑っていた。

「ちょっと彼方!なんであんなこと広まってるのよ!これからどうやってあなたを私の部屋に呼べばいいわけ?」

「ええぇ……それを私に言っちゃう?」

「だってあの噂流したの彼方でしょ?」

事実を指摘されると彼方はそっぽを向いて口笛を吹いた。美しい音色が自習室内に響き渡る。

「あなたねぇ!」

「いやいや、こんな広まり方したのは予想外だったよ。やっぱかすみちゃんに『私達ライフデザイン学科はいっぱい研究するからとっても仲良くなれるんだよ〜』って話したのはまずかったかな?」

「なんでそんな目に見えてる爆弾に着火してるのよ!」

「リアクションが面白そうだったから〜、実際顔真っ赤にしてすごくかわいかったよ」

確かにかすみなら伝え方によってはとても面白い反応をしてくれるだろう。果林も度々弄んでいる。だが彼女の性格を忘れてはならない。

「どんな伝え方したわけ?そんな言葉でかすみちゃんを真っ赤にさせるなんて、相当セクシーな言い方したんじゃない?」

「知りたい?」

「ちょっ、いきなり」

普段からは考えつかぬほど素早く彼方が詰め寄った。果林も一歩後ろに退いたが、それだけでは逃げ切れない。

「むふふ、教えてあーげない。課題の途中だしね」

「……思わせぶりね」

彼方がテーブルに戻ると果林も元いた場所に戻る。事前に積み上がった資料から大体のテーマを練っている事もあって作業自体はスムーズに進む。

「ねぇ果林ちゃん……ドキドキした?」

「ええ、すごくドキドキしたわ」

「そう……私も」

二人は作業の手を休めなかった。




今回は少しだけ百合要素強めになりました〜。果林と彼方の互いに弱点を知り合った持ちつ持たれつ感が好きです。三年生組はエマも含めた絶妙なバランスがスクスタでもどんどん明かされて楽しいです
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