虹ヶ咲短編集 日常の切れっ端   作:キルメド

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生徒会長の菜々は璃奈とかすみを引き連れて電気街へと繰り出す。その目的は壊れてしまった生徒会室のプリンター……なのだが思わぬ方向へと気持ちがズレ始める。

たまには生徒会長のままでも思いっきり楽しみたい。そんなせめぎ合いが発生した日常の切れっ端


高まる衝動抑えきれず!

学園から20分ほどで着く電気街。

「さぁ、行きますよ!」

「はいレッツゴー!」

テンション高く小柄な二人が右手を振り上げて前に進む。その表情には興奮というものが滲み出てきている。

(まぁ片方顔見えない上に、もう片方は普段絶対あんな顔しないんだろうけど)

かすみはそんなテンション高めな菜々と璃奈の二人を呆れながら追いかける。一緒にいると見られたくはないが、離れるわけにはいかない。

「あのー、生徒会長。目的忘れてませんよね?」

「もちろんですかっ……中須さん」

完全にかすみさんと言いそうになったところで体勢を立て直す。すでに彼女が用意した中川菜々という仮面は自ら剥がしてしまっている。今の彼女は見てくれ以外は完全に優木せつ菜だ。

「まずは生徒会室に置くプリンターを注文します」

「まずは?」

それ以外に目的はないはずだ。しかしあたかもその後に目的があるかのように菜々は答えた。璃奈も苦言を呈さない。

「はぁ、なんでかすみんがこんなことに」

ため息と共にひたすらこの状況に至った時のことを回想し始めた。

 

事の発端はつい昨日。スクールアイドル同好会に突然せつ菜が飛び込んできた。しかしその姿はスクールアイドル優木せつ菜ではなく、生徒会長中川菜々だった。

「生徒会室のプリンターが壊れた?」

「今は学務課や事務課の方を使わせてもらっているのですが距離が遠くて、それでここのプリンターを使わせてもらいたいのですが」

切羽詰まった表情を見せるせつ菜にかすみはニヤリと笑みを浮かべる。かすみがこんな顔をする時、ロクなことにならない。

「ふーん、それだけ生徒会に貸しができますねぇ。これはどういったことで返してもらいましょうか」

「こらかすかす!意地悪しないのっ」

「かすみんです!あと痛いです!」

愛に頬をつねられてあっさりと後退した。茶々を入れないように抑えながら果林と歩夢が話を進める。

「使うのは構わないけど、あんまりいいことじゃないかもね。そっちで新しいプリンターは買えないの?」

「かすみちゃんがあんなこと言ってるのも多分そう言うことだと思うんだ」

別にそんなつもりではないのだが、歩夢の良い方向に捉えようとするポジティブな考え方が意図せずかすみの株を上げてしまう。むず痒かった。

「それが、予算は降りてはいるのですが……近場の電気屋よりも電車で行ける電気街の方が安くて質が良い物が買えるという意見がありまして、ですね」

「いいじゃない。あそこなら大体の家電が揃ってるって聞くわ」

「聞いただけなんですね」

「寮に大体揃ってるから」

聞いただけだというのに堂々としている果林。人を揶揄い慣れているだけにこういった姿勢で嘘をつくこともある。

「じゃあそこに行けばいいんじゃない?アタシもばーちゃんと電化製品買いに行ったことあるしオススメだよ、っと話を進める愛さんなのであった。オススメだけに」

「語り風のダジャレなんだね」

庶民感あふれる愛のオススメということもあり、より説得力が湧いた。しかしそれだけにせつ菜の顔色は良くならない。

「どうしたんですかぁ?買いに行かなくていいんですか?それともスクールアイドル同好会にプリンター代として部費を上げてもらっても」

「ぐぬぬぬぬ!」

「本気で悩んでるわね」

かすみの安い挑発に悩んでしまうほど今のせつ菜は追い詰められている。それだけ買いに行きたくないのだろうか。

「せつ菜さん、そんなに買いに行きたくないの?そもそもあの場所ってせつ菜さんならむしろめちゃくちゃ行きたい所だと思ったんだけど」

こういったことをよく知っている璃奈が聞いた。そしてついにせつ菜も耐えられないといった表情をしている。

「ええ、正直なところめちゃくちゃ行きたいです。めちゃっくちゃっ行きたいっです!しかしそこに行ってしまうと私は自分を抑えられなくなってしまうんです!!」

強くテーブルを叩いたせつ菜の悲痛な叫び。大体の者は納得するような声を上げた。

「じゃあ生徒会の他の誰かに行かせたら?わざわざ生徒会長が行く必要もないじゃない」

「頼まれてしまった以上断るわけには、生徒会長のメンツというものがありまして」

「生徒会長って大変なんだね……」

その潤った瞳を見て思わず歩夢も同情する。何事も完璧にこなしているが、それ故に完璧な一面が強調されてしまう。

そこに救いの手が現れた。

「じゃあ私が付いていく。一人じゃなくて誰かと一緒にいたら抑えられるでしょ。それに同好会の繋がりじゃなくて一般生徒として一緒にいればいいわけだし」

「璃奈さん!!ありがとうございます!!」

思わず璃奈ちゃんボードごと璃奈の手を強く握りしめる。璃奈にしては珍しく積極的だ。

「では早速、明日の放課後に行きましょう!」

「オー!」

むしろテンションの高さが際立っている。思わず果林と愛がかすみの肩を叩いた。

「なんですかいきなり!」

「シーッ」

興奮状態の二人に悟られない様に身を低くして声を潜めた。

「かすみちゃん。二人のお目付役お願いできるかしら」

「え?二人?お目付役はりな子なんじゃ」

「いや、りなりーも暴走するかもしれない。言っちゃなんだけどりなりーも大分オタクだし、エマっちの次に危ういんだよね」

璃奈もせつ菜に負けず劣らずアニメや漫画や小説が大好きなのだ。積極的に手を挙げたのもおそらくはその電気街に行きたいがためだろう。

「だからってなんでかすみんが……他にいるじゃないですか」

「しずくちゃんは明日は演劇のリハーサルで忙しいし、彼方や歩夢であの二人を抑えられるか自信ないわ。エマは……ヘタをすると一緒に同調しかねないし」

「アタシ達もDiver Divaの打ち合わせがあるし、かすみんしかいないんだよ〜頼むよ〜」

かすみも決して二人を抑えられる力があるわけではない。しかしかすみは真面目かつ物事を伝える力がある。歩夢は押されてしまいがちな上、彼方は抑え続けられるほどに目が覚めているか怪しい。

結果的にかすみが適任ということに収まった。

「そこまで言うんでしたら仕方ないですねぇ〜。かすみんがしっかり抑え込んでプリンターを買わせてあげますよ!」

「頼むわよかすみちゃん」

「本当にかすみんが頼りだよ」

普段ならかすみのチョロさに笑うこともあるが、今回ばかりは本当にかすみ頼りになってしまうのだ。

心を弾ませて承諾したかすみだったが、彼女が後悔したのは翌日集合した二人の様子を見た時だった。

 

現在、世間的に言う煌びやかさとはまた違う煌びやかさに目を焼かれながら歩みを進める。割とその足並みは速いのだが、時折スキップが混ざることを見逃すわけにはいかない。

「おほん。生徒会長、りな子、目的の電気屋さんはあっちですよ」

「この辺りは歩き慣れてますから、私達にお任せください」

「この時間にそっちの方からだとイベント終わりのファンの方達の流れに逆らっちゃうんだ。だからここはこっちの道を行くのが正解」

少しだけ懐疑的であるが、たしかに人の流れが見える。あの流れに逆らうのは華奢な体が持たないだろう。

「さぁこっちです。ここから回り道をして」

しかし言動通りに進んだのはそこまでだった。指を差す方向と歩く方向が一致しない。

「菜々会長〜?歩き慣れてるんじゃないんですか〜?」

「もちろんですよ。いつもはこのままあそこのカフェに」

「がっつりアニメコラボカフェ行く気満々じゃないですか!」

なんとか腕を引っ張って菜々の動きを止める。そして無理矢理方向転換させた。

「ぜぇ、ぜぇ、りな子も手伝ってよ……りな子?」

「私もちょうどポイントカードが溜まってたんだよねぇ」

「そっちは漫画喫茶!」

菜々と同じように引っ張って方向転換させる。こちらは菜々より小さいため幾分か楽だった。そして二人の手を引っ張りながら目的の電気店に向かった。

「はい!到着しました!先輩!今は生徒会長なんですよ!」

「は、はい。気を引き締めます」

「りな子も先輩を抑えるためにいるんだからまずは自分を抑える!」

「はい。がんばります」

三人の目標が当初のものに定められた。学校側から与えられた予算を使ってプリンターの購入を手続きし、後日学園に届けてもらう。

本日の買い物という名のミッションが下された。

「コピー機付きのものは当然として置く机の関係上、あまり大きいものは買えません。大体これくらいの大きさで予算に収まる良い物を」

「購入費ケチって余った予算を帰りに使わないでくださいよ」

「そ、そんなことするわけないじゃないですか!いくら私でもそこまではしません」

その反応を見て菜々の脳内を読み取る。今の彼女はかすみ以上に単純だが流石にそこまではいかない。

「でも少し考えてたでしょう?」

「そ、それは……ちょろっとだけ考えたりはしましたけど」

「ほらー!」

「考えただけです!絶対しません!」

普段優位に立つことができないせつ菜、ましてや中川菜々状態の彼女に対してひたすらドヤ顔をかましていた。

「そういえば璃奈さ、天王寺さんはどこに行ったのでしょうか?」

「はっ!まさか逃げて」

「そんなわけないでしょ」

商品棚の向こうから声がした。流石に逃亡しているわけではないようだ。

「こっちに良さげなのあるよ」

「本当ですか!」

すぐにせつ菜が裏周りかすみが追いかける。機械系の手際の良さや見つける目はやはり璃奈が上手だ。この手の物に慣れている。

「これ。カラーインクの対応数が多いしカセットも多い。あとパソコンに連動して印刷できるし」

まさに菜々が求めていたプリンターの理想型だろう。プリンターコーナーに入ってすぐに見つかった。

「さすが璃奈さんです!予算内にも十分収まりますし、これを買いましょう!」

これには菜々も大喜びで即決する。早くも購入が決まったかと思われた。

「いいえまだです!」

かすみが二人の前に立ちはだかった。

「まだ一軒目じゃないですか。他の店にもっと良い物があるかもしれませんし、見ていきましょうよ」

「ええ〜、これ以上はないと思うんだけどなぁ。値段も安いし」

「そうですよ中須さん。このプリンターの何がいけないのでしょうか」

当然二人は反論した。特に菜々はさっきまでほとんど剥がれていた生徒会長の雰囲気を取り戻す。それだけ必死だということがわかる。

「二人ともさっさと買って、ここで遊ぼうとしてるんじゃないかな〜って思いまして」

「な、何を言ってるんですか」

図星を突かれた菜々は先ほどまでの雰囲気がかき消され目を逸らした。

「私もそんなこと考えてないよ。この純粋な目を見て!璃奈ちゃんボード『キラキラ』だよ」

璃奈もあたふたとボードを探してごまかそうとする。逆にここまで分かりやすい二人というのも珍しかった。

「はぁ、次行きますよ〜」

「ちょおっと待ってください!」

次の店に向かおうとするかすみを菜々が呼び止める。その言葉には先ほどの様な動揺もその前にあった生徒会長の圧もない。あったのはせつ菜としての熱だった。

そして持ってきたスクールバッグから虹ヶ咲学園の校章が印刷された封筒を取り出した。

「私の手にはこれがあります!」

「なっ、それは!」

「そう、これは学園から生徒会に与えられた予算!そしてこの予算を使うことができるのは生徒会の人間、この中では私のみ!」

確かに今回のプリンター購入費は生徒会長である菜々の手中にある。

「つまりプリンターの購入権限はこの私にあります!かすみさんのより良い物を求める思想は称賛しますが、今回は私に従ってもらいます!!」

もはや口ぶりは完全にせつ菜のそれだ。いま目の前にいるのは眼鏡をかけ髪を三つ編みにして虹ヶ咲学園の制服を着ているせつ菜だ。

しかし彼女の言うことは正しい。本来は生徒会に向けて渡された予算なのだ。それを使うことが許されているのは生徒会役員だけとなる。

「さぁ、諦めてこっちに来てください」

勝利を確信したせつ菜の笑み。これにはかすみも打つ手はないだろうと笑っている。

「ふっふっふっふっふ……」

「な、何がおかしいんですか!」

しかしかすみもまた不敵に笑っていた。空元気にしては雰囲気がありすぎるそれを菜々は無視できなかった。

「その封筒の中身は本当に予算なんですか〜?なんとかすみんの手元にも同じ封筒があるんですけど〜」

「な、なんですってー!」

かすみもスクールバッグから虹ヶ咲学園の校章が入った封筒を取り出した。そしてその中身は心なしか分厚い。

「そ、そんな!確かに私が」

「落ち着いてせ、生徒会長!かすみちゃんは偽の封筒との交換を要求するはずです!」

「なるほどそういう作戦だったのですね。コソずるい真似を」

なんとか冷静さを取り戻す。先ほどから菜々の生徒会長スイッチがオンになったりオフになったりと非常に忙しい。

「でも向こうのほうがなんか分厚いし、私のこの薄い封筒は本当に予算が入った物なのか怪しく思えてきてしまいました」

おまけにかすみが余裕綽々といった表情で封筒を見せびらかしているのが気になって仕方ない。

「だったら中身を確認すればいいんですよ!」

「そ、そうですね。肝心なのは外見ではなく中身!これはあらゆる物に精通します」

中身を確認して確固たる物だと証明できることさえできればこのモヤモヤも消えてなくなる。あとは生徒会長権限でプリンターを購入し、余った時間は己のために費やせばいい。

「このテープを剥がして」

「今だ!」

かすみはこの瞬間を狙っていた。

「え?」

「あ……あー!!」

「ふっふーん!予算は頂きましたよ会長!」

先ほどまで菜々の手の中にあった薄い封筒はかすみの手中に収まっている。

菜々が封筒のテープを剥がそうとした一瞬の隙を突いたのだ。この一連の動作をする間だけは菜々の片手は必ず封筒から離れてしまう。片手持ちの状態の封筒を引ったくってみせた。

おまけに二人とも封筒の中身に気を取られていたため、かすみの動きに反応することができなかった。

「かすみちゃんなのになんて頭のいい作戦なんだ!」

「いつもは途中でドシをしたり時には計画そのものがおかしな事さえあるかすみさんなのに」

「全っ然褒められてる気がしない……とにかくこれはかすみんが管理させていただきます」

かすみが菜々から奪った予算入り封筒をスクールバッグの中に仕舞う。この場を持ってかすみの一存によって何を買うかが決まってしまう状態になった。阻止するにはその権利を物理的に奪うしかない。

「異議あり!異議ありです!」

「そもそもそれは生徒会の予算なんだからかすみちゃんが奪ったこと自体がダメなんだよ!」

ブーイングを吐き出す二人だが、かすみは全く意に介さない。彼女の中には二人を打ち倒す必殺の言葉があった。

「別に生徒会長に、なんならりな子に持ってもらっても構いませんよ〜。ちゃんと買い終わったらまっすぐ学園か家に帰るってかすみんに約束するなら、ですけどね」

「なー!」

「そ、それは」

予想通りブレーキがかかった。かすみには二人の魂胆が見えている。そして約束を守る人でもある。口約束とはいえ一度してしまうと破ろうとすれば罪悪感が痛みを与えるタイプの人間なのだ。

「ほらほら、かすみんと約束してくださいよ。私達は寄り道しませんって」

静寂が返事となって帰ってきた。やはりそう簡単には言ってくれない。だがかすみの優位は揺るがなかった。

「じゃあ次の店行きますよ」

背中を向けるかすみ。今その無防備な背後から襲えばなんとかなるぞと呟く悪魔の囁きを抑え込む。

(せつ菜さん)

小さな声で璃奈が呼びかける。この状態でせつ菜と呼ばれることがなんだか情けない気がした。

(こうなったらかすみちゃんも沼に沈めよう)

(な、何を言っているんですか。そんなことかすみさんにできるわけ)

(沼に沈めるって言うと変な響きだけど、つまりは良さを知ってもらうってことだから大丈夫だよ)

(なるほど。かすみさんに私の『大好き』を知ってもらうんですね)

璃奈の案はまさに逆転の一手とも言えるだろう。あのチョロいかすみを納得させれば良いのだから難易度は低いはず。何よりこの場にはそれができるだけの素敵な文化が形成されていた。

「分かりました……では私達が知っている店をオススメします」

「最初からそう言えばいいんですよ」

「さぁかすみちゃん、こっちこっち」

先導する形で前に立つが、逃げ出さないようにその手はガッシリとかすみに握られている。しかし菜々は動揺することなく歩みを進めた。

 

「ここです」

菜々が案内した場所は一見普通の電器店だった。かすみは警戒することなく入ってゆく。

「確かプリンターは奥の方です」

掴まれた腕を逆に引っ張りながら奥へ奥へと進んでゆく。もちろん目的はプリンターコーナーではない。

(ふっふっふ、一見するとただの電器店。しかしその奥にはアニメ系の小さなコーナーがある!小さなコーナーながらその品揃えは流行の物を揃えた的確な物!)

(しかもかすみちゃんもなんだんだ漫画の話は好きだし、人気のポイントも抑えたこのコーナーなら行ける!)

的確にかすみを落とし込むためのコーナーとなっていた。二人とも身長で負けているとはいえ二人と一人、案内する側とされる側、力で持っていくことも不可能ではない。

「へえ、確かにお手頃な価格かも。生徒会長いい店知ってるんですね」

店頭にある家電は他の店よりも少し安い。確かに普通に電化製品を買う分にもここは良い所ではある。しかし本当の狙いはそこではない。

「さぁ行きますよ」

かすみの信頼を得て奥へ奥へと着実に進んでゆく。すると、何故か二人の足取りが重くなった気がした。

「どうかしましたか?」

「……なんでも」

同じタイミングで振り返り不思議がるかすみに抽象的な返事をして誤魔化す。かすみが後ろに引っ張っているわけではないことなどわかっていた。

(周りを見ているかすみちゃんを見ると何故か罪悪感が湧き上がる)

(確かに良い店なんです。家電製品を買うにも良い店なんです。でも私達はそんなつもりで来たわけじゃなくて)

純粋に商品の安さや品質の良さを見るかすみに対して騙しているような気さえした。このまま本命のコーナーに着いたら何をしようとしていたのかを思い出す。

「凄いですね。さっきのお店と品揃えは同じなはずなのに安い!ちょっとりな子と先輩のこと見直しました」

普段のかすみなら何か裏にあると疑わしく見えるのだが、何故か今日はそうはいかない。

(チョロいかすみちゃんをこっちに引き摺り込むのは簡単だと思ったけど)

(なんか、かすみさんの目がキラキラして見える)

かすみが純粋に自分達の事を見直していることに気付くと更に辛くなった。普段なら弄ったりもできるのだが、自分の中で後ろめたさが強くなってしまう。

「そ、そうなんですよ中須さん。いいでしょう」

全身を震わせながら菜々は方向転換する。その方向に何があるか、間違いなく当初の目的のものではない。

(先輩完全に罪悪感に折られちゃってる……かすみちゃんの猫被りのはずなのに、いやアレは本心かな?ちょっと私もやられそう)

チョロいと思っていた。簡単に騙せると思っていた。むしろそれが仇となってしまった。

「ほら、ここがプリンターのコーナーですよ。どうですか?」

「へえ〜さっきのお店より安いですね。これにしましょうか」

「あはは、そうでしょう。天王寺さんもいいですよね?」

「ここの奴がベストだと思います」

璃奈もこれ以上突っ込めなかった。もうかすみの「見直した」という言葉に耐えきれなかった。

「じゃあこれを買いましょうか。はい封筒」

かすみが封筒を返した。菜々がそのまま店員を呼び出して購入の手続きをする。物が大きいため翌日に学園に運送されることになる。

存外購入自体はあっさりと終わった。そして二人は謎の清々しさを感じていた。

(さて……あとはこの場所を脱出するだけです。後ろ髪を引かれる思いはありますが、また来ればいいわけですし)

この場に来て殆ど何もしていないという思いを抑えて菜々は店を出る。璃奈も同じ気持ちだった。

「じゃあかすみちゃんに言われた通り帰るね」

二人揃って駅へと向かう。もちろんその後ろからかすみが付いてくる。

(無心、無心、こんな日だってあるよ)

(こんな日だってあります。別に遠くて年に何回かしか行けないわけではないのですし)

しかし、何故かかすみに追いつかれる。徐々に足取りが重くなってきているのを感じた。

「何してるんですか?」

「え?えっとこれはですね。歩きすぎて疲れたなーと」

「二人揃って?」

「そ、そうだよー」

かすみがニヤニヤとこちらを覗き込む。目は口ほどに物を言う。菜々の瞳があちらこちらへと泳いでしまう。

「仕方ないですねぇ。ちょっとくらい寄り道してもいいでしょう」

「え?」

「生徒会長、りな子、行きますよ!またいい店教えてくださいね」

かすみが180度方向転換する。しかしどの店がどういう店なのかを彼女は詳しく知らない。

「分かった!一緒に行きますよ会長!」

「はい!私達のオススメをいっぱい教えてあげましょうね」

二人揃ってニコニコと笑い、かすみに並ぶ。また両手を取ってぐいぐいと引っ張る。彼女達の夢の世界へと飛び込んでいった。

その後かすみの口から今日のことが同好会に語られた。楽しかった思い出としてこの買い出しは忘れられないものになったのだった。




多分最弱の菜々さんだと思います。別にこんなもの圧で制してしまえるのだが、それができないほど混乱している状況にありました。生徒会長の状態でも菜々が楽しみたくなる時もあるんじゃないかなと
たまには息抜きしないとね
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