虹ヶ咲短編集 日常の切れっ端   作:キルメド

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時はすでに真冬。クリスマスパーティーの準備を進めるニジガクメンバー。その中でも歩夢は並々ならぬ思いで臨むようだが……?

楽しいクリスマスパーティー、そして"あなた"への感謝を伝える日常の1ページ。


クリスマスパーティー with You!

 冬、もはや冬至の真冬。どんなに上着を着ても動かなければすぐに人の体は冷え込んでしまう。両手には分厚い手袋、首回りには濃い色のマフラー、上着のポケットにはカイロを仕込んでいる。

「うーん、この辺だったかな?」

 ショーウィンドウが並び、クリスマスらしいネオンが光る商店街の中から意中の店を探す。

「あれ?こっちの方だっけ?でもさっき行ったらなかったし」

 慌てて取り出したスマホを起動するが、手袋でタップできないことに気付く。また慌てて外してマップを開いて店を探す。

「あの〜、大丈夫ですか?」

「大丈夫!」

 一連の動作を隣で見ていたかすみからすれば全然大丈夫には見えない。即答するのに全くそれを信用できなかった。

「この辺なんだけど」

「歩夢先輩が探してる店って多分通りの向こう側だと思うんですけど」

「え?あ……そうなんだ」

 結局かすみに言われるがままに進み目当ての店に辿り着く。

「ここ!ありがとうかすみちゃん」

 やっと見つけてその店に入る。嬉々とした表情をかすみは追いかけた。目的はアクセサリーの材料になるビーズだろう。

「へぇ〜、ハンドメイドとレジンをやるんですか?」

「うん。クリスマスパーティーに飾るアクセサリー、テーブルの上に置くのとか良いかなって」

 メンバー色に合わせたビーズ材料を選ぶ歩夢。付き合わされた身のかすみも髪飾りに似合いそうなアクセサリーを探す。

「歩夢先輩、どんな感じですか?」

「いいの見たかったよ。こんな感じで」

 満面の笑みで買い物カゴに入ったアクセサリー達を見せる。

「多くないです?」

「そ、そうかな?失敗した時のためもあるけど」

 明らかにその量はアクセサリーを作るだけでは余る。かすみの方は片手で持てるだけにその多さが際立つ。

「一応言っておきますけど、自分のは自分で払ってくださいよ。割に合いませんから」

「分かってる」

 カゴいっぱいに入ったアクセサリーに少し驚きながらもレジの店員はにこやかに会計を進める。

「誰かへのクリスマスプレゼントですか?」

「え?ええっと、クリスマスパーティーのアクセサリー作りに使います」

 この時期なのだから話題には上がるだろう。隣のレジにいたかすみにも同じ事が聞かれているだろう。

(かすみちゃんはどうなのかな?)

 気になってしまう。図星だったのは自分だけなのかと意識を集中させてしまう。

(もしもそうだったら、あげるのは"あなた"にだよね)

 歩夢はそうする。アクセサリーは何もパーティーだけに使うわけではない。自分の手で作ったプレゼントをスクスタにこっそりと渡す、そんな計画を練っていた。

「ありがとうございましたー」

「遅いですよ」

 会計を終えると出口でかすみが待ち構えていた。買ってる物の数が違うのだから当然だ。

「ごめんね」

「まぁいいですけど」

 特にその目に不満げな様子はない。かすみの対応も含めてほとんど形ばかりのもので、かすみも本気で責めているわけではない。かすみの基本的なコミュニケーション方法だ。

「本当にいっぱい買いましたねぇ。持てますか?」

「うん。ちょっと重たいけどこれくらいは大丈夫」

 少しだけ心配そうに買い物袋の中を覗き込むかすみ。中はアクセサリーの材料でいっぱいだ。かすみの大きな瞳がアクセサリーの輝きを吸収して更に光を増す。彼女の中にある期待が光っているようだ。

「楽しみだね、クリスマスパーティー」

「そうですね。先輩も当日には色々準備してやる気満々って感じでしたし」

「そうなの?じゃあアクセサリー作りも気合入れないと」

「かすみんもお菓子作り頑張ります。先輩とみんなのほっぺたが落ちちゃうくらいに甘くて美味しいやつ、作りますね」

 もちろんかすみのことだからただお菓子を作るわけではない。あわよくばカロリーコントロールを狂わせるといった狙いもあるだろう。それもいつもの事なので大きな問題になることは滅多に無かった。

「じゃあ早速……かすみんはぁ、準備に取り掛かるので」

「クリスマスのお菓子どんなのになるかなぁ」

 今回の料理担当はエマとかすみ、そして彼方だ。彼方の料理の腕、そしてエマとかすみのお菓子作りの腕はまさしく同好会のトップ3の物。期待と安心が胸を満たしてお腹を空かせる。

 率先してやりたいと手を挙げたせつ菜を抑えて内装担当にして良かったと心の底から思った。

「よし!私も!」

 大量の材料を見つめ直す。パンッと手を叩いて歩夢は気合を入れ直した。

 

 日付は12月28日、パーティーはクリスマスから少し経って開かれた。スクールアイドルとして、一人の女子高生として、25日やその前日はイベント尽くめだ。28日にもなってようやく10人集まることができたが、年末年始もまた用事が入っている。今日は年内で10人が集まれる唯一の日だった。

「おおー!」

 部室はこの日のために飾り付けられていた。

「凄く煌びやかな飾り付け……ブリッラーレって感じですね」

「よく知ってるね、しずくちゃん」

 内装を担当したせつ菜と愛が自慢気に鼻を高くして胸を張る。そんな姿を見るともっと褒めたくなるのがエマの母性だ。

「ここのリースにくっつけた金色の飾りは愛さんが思いついたんです」

「そうそう。愛さん的には入り口からリースがリレーを繋いでクリスマスツリーをゴールというイメージで作ったんだ!ゴールドだけに!」

 部室の壁に付けられた飾りとリースが照明の光を反射する。部屋全体が輝いているようだった。

「ツリーを担当したのは私と璃奈よ。寒色系で落ち着きがあるのも素敵でしょ?」

「あえて暖かさというイメージを外してみた。この銀色の星も拘りのポイント」

 二人のパーソナルカラーでもある青系色の光を放つペッパーランプと所々に飾り付けられた雪をイメージさせる白い綿、そしてツリーの頂上に立つシルバースター。その美しさに思わず見惚れていた。

「あれ?この雛壇は?」

 しかし部室では見たことがない物が置いてあった。一つは人3人分ほどが乗りそうな雛壇。その脇の机に置かれたキーボード。

「それは私が準備したんだ。ちょっと運ぶのは演劇部の人達に手伝ってもらったけど」

「私も手配する時に手伝いました。演劇部の年内活動はもう終了しているので、年明け最初の活動日に返してもらえれば構わないと」

 そしてスクスタは部屋の隅に置いてあったマイクスタンドを拭き、雛壇の上に置くとキーボードの前に腰掛けた。

「まずはスクールアイドルらしく歌おう!」

「はぁ〜い!」

 そう言い切る前に動きを先読みしていたかすみがステージに立ってスタンドからマイクを取り上げる。出遅れたメンバー達は悔しそうな顔をし、かすみのドヤ顔を見上げる。

「ちぇっ、かすみん早すぎ……まさかかすかすじゃなくて、かさかさ動いてた?」

「そんなわけないでしょう!!」

 どう文句をつけてもかすみのステージが始まることに変わりはない。

「かすみんのクリスマスソングはもちろん」

「赤鼻のトナカイがいいわね」

「っぽいよね〜」

 かすみがいつものノリで飛び出し出鼻を挫かれる。クスクスと果林達が笑い、壇上で頬を膨らませた。

「じゃあそれにしよっか」

「ちょ、先輩!!」

 スクスタも悪ノリしてピアノを弾く。伴奏が始められて歌わなければならない空気になる。これにはもはや抗えない。

「真っ赤なお鼻の〜トナカイさんはぁ〜☆いっつもみんなの〜笑いもの〜☆」

 かすみのスイッチが切り替わった。あざとい即興の身振り手振り、合いの手への対応も速い。

「いよっ!かすかすー!」

「かすみんです!」

 なんだかんだかすみらしいステージになって盛り上げてしまう。ある意味でかすみの持つ力が大きい。

「あはは、さすがかすみさんですね!」

「付け鼻がめっちゃ似合ってる」

「かすみんはお鼻が真っ赤でも可愛いんですよ〜」

 何気なく果林が放り投げられた付け鼻をキャッチして即装着。そのままトナカイのカチューシャも付けて可愛らしいルドルフが誕生した。

 かすみはノリノリで赤鼻のトナカイを歌い終えた。

「サーカスみたいだったよっ、かすみだけに!ぷっふふ」

「誰がピエロですか!」

 かすみが歌い終えて拍手が止まった後は

「では次は私が行きます!」

 せつ菜が気合い十分といった表情でステージへと向かう。

「まぁまぁせつ菜さん!ここは学年順に私から行かせてもらいますね」

「いやいや、だったら次は私が歌う!」

 しずくと璃奈がしがみついて止めた。その隙を見てエマが横を通り過ぎる。

「童謡だったらわたし自信あるよ!みんなバタバタしちゃってるしわたしが癒してあげるね」

 しかしそれを追い越した彼方がブロックした。

「おっと〜。癒しなら彼方ちゃんにお任せでしょ。遥ちゃんも絶賛したクリスマスソングメドレーを披露しましょ〜」

 エマを止めながら前へと進むが、ステージ最前には既に果林がいる。

「残念ね!待機場所は私が立っているここよ。さぁかすみちゃん、次は私が」

「何言ってんの!次は愛さんが歌うんだよ!かすみん、こっちにマイクちょーだいな!」

 反対側から愛がかすみの方へと手を伸ばす。

「ダメです!今日はかすみんオンステージ!皆さんは観客でもしていてください!」

 もちろんかすみもこの程度では満足しない。すぐさま2曲目を"あなた"にリクエストしようとする。

「先輩、次の曲は」

「いやぁ、次のリクエストはもうされてるんだよねぇ」

「はい、かすみちゃん選手交代だよ」

「あ、歩夢先輩!?」

 かすみ達がステージに気を取られている間に歩夢はスクスタに近づいて次の曲をリクエストをしていた。

「いや、これは裏技だね。直接君のところに行くなんて……んじゃあ次は愛さんが」

「いいえ、次にリクエストするのは私です!優木せつ菜、最高のクリスマスソングを皆さんにお送りします!」

 今度は次々にスクスタの方へとメンバーが向かい、少し遠くにいるかすみが不服そうにしている。それを見て歩夢は微笑んでいた。

「あら歩夢。もしかして次は自分だと油断してない?」

「え?ゆ、油断って」

 しかし果林はそれに囚われることなく壇上に立った。そしてかすみにマイクを渡すように促した。

「歩夢はリクエストをしたけど、誰が歌うとかは言ってなかったんじゃない?」

「あ、確かに!歩夢ちゃんは曲だけこっそりリクエストしてくれた」

 真っ先にスクスタが納得の声を出してしまった。シラを切ればなんとかなったかもしれないが、アドリブでそういうことができる性格ではない。

「ふふふ、じゃあその曲を私が歌ってもいいわね」

「だったらかすみんが歌います!」

「かすみちゃんは交代って言われたから交代」

 ブーイングをしながら背中を押されステージを降りるかすみ。その行き着く先はステージの前に立ち観客になることだった。

「まぁ一回歌いましたし、仕方ないですね」

 一方、歩夢は自信満々といった表情の果林に対して苦い笑みを向けていた。果林はそれを悔しがっているのかと思っていた。

「はいじゃあ果林さんに歌ってもらおう!」

 軽快にスクスタが鍵盤を叩く。そのリズムは果林の表情を見る見るうちに沈ませていく。

「このイントロって」

 そう思うこともステージから降りることも許されないほど短い前奏、諦めという言葉を果林は一瞬だけ表に出して引っ込めた。

「慌てんぼうの、サンタクロース、クリスマス前にやってきた♪」

 言葉巧みに割り込んだステージ、降りるわけにはいかない。

「急いでリンリンリン、急いでリンリンリン、鳴らしておくれよ鐘を〜♪」

 顔が真っ赤になるのを抑えて歌い踊る。たとえ目の前にいるかすみが動画を撮っていたとしても、エマや彼方がこっちを見て微笑んでいても、愛が爆笑していたとしても。

「歩夢さんが歌うはずだった曲と考えると納得ですが」

「果林さんが歌うとそれはそれで」

「ある意味慌てんぼうな果林ちゃんだよねぇ」

 しずくが少しだけ同情しながらも新しい発見だと関心の目を向ける。璃奈もニヤニヤとしたボードを掲げる。意図せず果林に恥ずかしい思いをさせた歩夢だが、和やかな雰囲気から結果的に良かったとさえ思っている。

「ほらほら果林せんぱ〜い、もっとかわいく!」

「そうだぞカリン!もっと楽しくチャチャチャだよ!」

 恥ずかしそうに、それでも全力で歌い踊る果林。そんな彼女をステージ前で茶化す愛とかすみ。部室内は彼女たちらしい盛り上がりを見せていた。皆、そのパーティーを楽しんでいた。

 

 全員が歌い終えてステージからテーブルに注目が移った。一通りの伴奏を終えて適度な疲労感がある腕をぶら下げてお菓子とジュースを味わい会話の花が咲くところに耳を傾けていた。

 果林のステージの流れで歌を歌うメンバーとスクスタに曲をリクエストするメンバーを分けることにした。

「エマっちのジングルベル、めっちゃ楽しかったけど同時に感動したー!きっと教会の鐘も鳴ったよ!ヴェルデだけに!」

「わたしは彼方ちゃんのきよしこの夜が好きだった。フーって全く違う世界に飛んでくんじゃないかなって思った。彼方だけに?」

「かかってないよエマちゃん。彼方ちゃんは璃奈ちゃんのもみの木がお気に入りだよ。ファララララ〜ン、ラランランラン」

「歩夢さんのサンタが町にやってくる、すっごいかわいかったよ!」

「本当に!?やっぱりかすみちゃんのリクエストに間違いはないね」

 順番の都合で最後に歌った歩夢の曲をリクエストしたのはかすみだった。しっかりと歩夢のイメージをあてがった曲だったことに間違いはない。

「まぁかすみんが一番かわいいんですけどね!」

「そうねぇ……かわいかったわ、かすみちゃんトナカイ」

「そう言う果林さんサンタもすごく素敵でしたよ。先輩の伴奏にもすぐに対応してましたし」

「しずくさんのもろびとこぞりて、最高でした。とても神聖な空気が出てましたよ」

 9人の想い想いの歌を堪能したこともあって、一曲一曲を鮮明に思い出せる。

「うん!みんなのステージ楽しかったよ!ライブステージも素敵だけど、たまにはこういうのも良いね」

 この一年を振り返るようなクリスマスソングメドレーだった。ジャムを閉じ込んだクッキーを頬張りながらみんなの笑顔を見ると幸せな気持ちになった。

「あ、このボックスは?歩夢ちゃんが作るって言ってたやつ?」

 テーブルの真ん中、輪を描くように置かれた皿達が囲むのは10個の小さな箱。

「これって私達のキーホルダーですか?しかもビーズでキラキラしてる」

「そうだよ!みんなのことをイメージして作ったんだ」

「へー。よくできてるねぇ」

 それぞれがパーソナルカラーに合わせた色のビーズをアクセントにして、アイコンに合わせた形をしている。

 かすみなら黄色ビーズの王冠、愛ならオレンジ色ビーズのハイタッチをしている手、彼方なら紫色ビーズの羊、しずくなら水色ビーズの水滴、せつ菜なら濃い赤色ビーズのマイク、エマなら薄緑色ビーズの食パン、璃奈なら白色ビーズのアンテナ、歩夢ならピンク色ビーズのリボン、果林なら青色ビーズのハイヒール。

 どれもキラキラと輝き、自分を見てと言うように自己主張する。

 歩夢が一つ一つ開けて中身を見せる度に感嘆の声が上がる。一つ一つの出来の良さもあるが、歩夢がここまでの物を作れるといったイメージがなかったのかもしれない。

「じゃあこれは私の?」

「そうだよ!」

 10個目の箱の中に入っていたのは金色、というよりは少し濃い目のビーズが散りばめられたト音記号。それが歩夢が考えたスクスタのイメージだった。

「へー、君のイメージかぁ。いいね!歩夢グッジョブ!」

「先輩の……凄いキラキラしてる。私のと並べてもいいですか?」

「しず子ずるい!かすみんも並べますよ〜」

「じゃあ私も並べてみようかな」

「彼方ちゃんのも置いて、後はみんなで囲むようにね」

 ト音記号を囲む9つのアクセサリー達。まさしくスクールアイドル同好会のことを表したその構図に笑みが漏れる。

「ありがとう歩夢ちゃん!最っ高のプレゼントだよ!」

「こっちこそありがとう。こうやって"あなた"に褒めてもらうの、私大好きなんだ」

 さっそくカバンに付けられたそれを見て歩夢も照れ臭そうに笑った。

「せんぱぁ〜い!キーホルダーもいいですけど、こっちのお菓子はどうですか?特にこのクッキーはかすみんお手製のパン粉で作ったクッキーなんですよ〜」

 二人の間に割り込んでスクスタに自分が作ったクッキーを勧める。

(かすみさん必死だなぁ)

(あんなの作られたらねぇ)

 それを第三者達は微笑ましく見守っていた。

「ん!美味しい!チョコチップが入ってる上にサクサクしてる!」

「ミルクと一緒に食べると美味しいんですよ〜」

 スクスタはそんなかすみの内面のことなど露知らず、素直に反応する。パン粉クッキーを食べた後ミルクで流し込み、またクッキーを口に含む。すると口内に残ったミルクの跡をクッキーが吸収して絶妙な食感を作り出す。

「はい、歩夢先輩もどうぞ〜」

「ありがとうかすみちゃん」

 歩夢にも勝ち誇った顔でクッキーを勧めるが、彼女はものともしない。或いはスクスタと同じく気付いていないのか。その微笑みを見て精神の内側にいるかすみは歯軋りしていた。

(かすみさん、それもう完全敗北なのでは)

 内情を察したせつ菜は心の奥底で一人ツッコミを入れた。

 

 クリスマスパーティーは順調に進む。テーブル上のお菓子もジュースも無くなってきた。

(そろそろお開きかな?)

 誰もがそう思った。そして行動に移る。

「あれ?」

 自分のテーブルの皿やコップを重ねて片付ける準備をしていたのはスクスタのみ。9人はステージに上がり並んでいた。

「えっと、何かあるの?」

「うん、あるよ」

 状況が飲み込めないスクスタに対して満面の笑みを見せる9人。何か歌うのかと思いキーボードの方へと向かうがそれも止められた。

「今回はアカペラです!先輩は聞いていてください!」

「私達だけで先輩に対して伝えたい思いがあります」

「それを聖歌隊みたいな感じで歌おうってみんなで決めたんだ」

 9人の手に楽器らしき物はない。本当にただアカペラで歌うらしい。

「ふふふ、驚いているようね」

「わたし達はいつも"あなた"に支えられてきたからね」

「いつも感謝してるし恩返ししてるつもりだけど、こういう日にちゃんと形にしなくちゃね」

 ステージの前に椅子を持ってきて座る。ここは今年最後のニジガク特別ステージだ。いつもは舞台袖で聞いていた、たまに特別で一人目のファンとして聞いていた。しかし9人の、しかも自分が知らない歌を聞くのは初めてだ。

「それじゃ、始めちゃおう!」

「私達から"あなた"に贈るクリスマスプレゼント!」

「Love U my friends 〜アカペラバージョン〜」

 拍子を付けるクラップと共に曲が始まる。いつもよりスローペースで、それでいて9人全員の深みが倍増したかのような不思議なイメージ。既に何度も聞いていたはずなのに、練習とも本番とも異なる今日限りの一曲。

(すごい……いつ練習してたんだろう)

 スクスタに隠れて普段のレッスンでは決して見せる事ができないだろう。だとすればその後かその前だろうか。中々9人集まることがなかったはずなのに、歌唱は全くぶれない。

「キラキラ繋がって〜、YES! 虹色があふれる」

「出会えた奇跡は、何より宝もの〜」

 脳裏にこれまでの軌跡が蘇る。スクールアイドル同好会との出会い、まだ一年にも満たないこの間に色々な事があった。

「大好きが咲いている〜、YES! この先のドリームワールド」

「一緒に楽しもう!とびきりの明日へ行こう!」

 感謝をしているのはむしろこっちの方だった。憧れのスクールアイドル、そんな彼女達の力になること、同好会を復活させたのも全ては彼女達の実力なのだから。

(私はその後押しをしただけ)

 きっとそれを言ったら怒るだろうか。彼女達の感謝の気持ちを込めた歌は力強く、そして暖かだった。

「Love U my friends」

 最後の一節を歌いきり全員がこちらを見つめる。こういった事に応えられるのはやはり拍手と歓声だろう。

「最高だよ!みんな!」

 その声を聞いて皆ステージを降りる。ホッとした表情、自慢気な表情、少しだけ泣きそうな表情、それぞれの表情が魅力的だ。

「ふぅー、じゃあこのステージも終わったし今日やることは全部終わったかな?」

「そうね。後片付けをしましょう。時間も遅くなってきてるし」

 すぐに切り替える。時計は既に22時を過ぎていた。楽しいパーティー時間は終わりを迎える。

 もし24時に魔法が切れるならば大体この時間に帰るのが一番建設的なのではないだろうか。そんな夢のないシンデレラを思い起こさせるほど彼女達の動きは速く的確だった。

「食器はかすみんが持って帰りますね〜」

「ゴミ捨ては私が帰るついでに行きます」

 チームワークの良さはこういった時にも際立つ。すんなりと後片付けは進行していった。

「ふぅー、これで全部かな?」

「忘れ物はない〜?」

「ありません」

「よ〜し」

 そして完了した……完了したのだが。

「あれ?」

 その場の流れが止まった。このまま空気的に解散になるか、それとも部長らしく解散の号令をかけてくれと頼まれる気でいたのだが、全員不自然に停止した。

「えっと、どしたの?片付け終わったんだよね?このまんま解散で」

「え?あ、そ、そうだね〜。この後やる事なんて特にない……はずだし?」

 歩夢の目が泳いでいる。しかもそれは誰かに助けを願うようなものではなく、誰にも目を合わせようとしていない動きだ。

 そして気が付いた。それはこの部内の誰に対しても言える事だった。つい十数分前の浮ついたパーティーとはかけ離れた空気の冷たさ、決してこの時期この時間の寒気のみが原因ではないだろう。

「そのまんま帰ったほうがいいと思うけど。寒くなって風邪とか流行り病になったら私心配だし」

「……みんな、隠すのにも限界があるよ」

 そうなった原因を理解したエマがいち早く動いた。カバンから何やらラッピングされた小さな箱を取り出す。

「あ、一歩遅れちゃいました……こういう時に切り出せるエマさんは凄いですね」

「何を他人事みたいに言ってるの〜、しずくちゃんもあるんでしょ」

「うわわっ、引っ張らないでくださいー!」

 エマに反応した様子を見逃さず、彼方がしずくを引っ張り出す。もちろん二人の手にも同じようにプレゼントが入った箱がある。

「どうやら考えていることは皆さん同じようですね!行きますよ果林さん!かすみさん!」

「ええー!先輩達で行けばいいじゃないですかぁ!かすみんは後で二人っきりの時に」

「そんなことさせないわよ、かすかす。むしろここで渡さないと最高のタイミングを逃すわ」

「言われてみれば!仕方ありません!かすみん突撃ですー!」

「あはは、切り替えが早いですね」

 遅れながらもせつ菜、かすみ、果林の三人もスクスタの元に駆け寄る。

「さて……歩夢さん、もう隠さなくていいよ」

 "あなた"に渡すためと秘密に用意したもう一つのプレゼントボックス。背後に両手を使って隠していたが、上から璃奈に握られた。そして挟むように立った愛が肩を掴む。

「……もしかして私のみんなにバレてた?」

「んー、というかみんなやってくるだろうなぁと思ってた。もちろん愛さんも持ってきてるよっ」

 先を行く二人の手にももちろんプレゼントボックスがある。後は歩夢だけ、そんな期待の目に応えるように歩夢も前に踏み出した。

「そうだよね。みんな……"あなた"のことが大好きだもんね!」

 

 歩夢を最後尾に9人全員が再びスクスタの前に集結する。ステージの上に立つような華やかさではなく、レッスン中のような汗臭さもない。そこにあるのは日々を過ごしてきた9人の笑顔、スクスタに対する大好きの感情であった。

「さっきのは皆からのクリスマスプレゼントで、これは私個人からのクリスマスプレゼント」

「本当は二人の時に渡したかったんですけど、もう今しかないので……先輩にもう一つ感謝の意を込めて!」

「先輩に会って、私達はいっぱい成長しました」

「いつも私達の事を助けて、支えてくれて」

「色んな人と協力で、アタシ達やみんなのことを笑顔にしてくれて」

「曲を作るだけじゃなくて、悩みを聞いてくれたし」

「一歩、いいえ、もっと未来へと踏み出す勇気をくれました」

「どんな人にも優しくて、どんな事でも力になってくれる"あなた"に」

「どんな私達も受け入れて、いつも背中を押してくれる先輩に」

 並んだ9人が同時に腕を伸ばす。その手の中にはカラフルで多種多様な模様でラッピングされて、そして綺麗に結ばれたリボンが施されたプレゼントボックス9個がある。

 まるで彼女達が作り出す花畑のようであった。

「メリークリスマス!いつもありがとう!これからもよろしくお願いします!」

 意図せず合わせられた言葉。普段は絶対にバラバラになるだけに、思わず見合わせて笑っている。

「ありがとうみんな!メリークリスマス!」

 溢れそうになる涙を堪え、全員のプレゼントボックスを笑顔で受け取る。それがスクスタにできる精一杯だった。

「本当に……ありがとう!私もスクールアイドル同好会に入れて良かった!」

 不思議と部屋の中は温もりで溢れていた。




一年の終わりという事で集大成?っぽくしてみたやつです。あと虹ヶ咲1stライブでLove U my friends歌唱前のドラマパートてガン泣きした自分が見えますね。本当に最高のライブでした

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会はこれからも色んな展開が待っていると思うと楽しみで仕方ありません!これからもそんな作品への大好きを伝える方法としてこういう物書きが出来ればなぁと思います
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