虹ヶ咲短編集 日常の切れっ端   作:キルメド

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以前活動していた分室の大元からゲームレビューの依頼が届いた。テンションが一気に上がったせつ菜はその箱を勢いよく開ける。そしてゲームをプレイし始めた。
その後、果林の元に血相を変えたエマがやってきて・・・

ゲームで綻びゲームで結び直す、そんな日常の切れっ端


ゲームはみんなで楽しむもの 前編

 腕を引っ張られながら廊下を走る果林。エマは顔を青くしながら部室からやって来て、今はこっちを振り向くことなく彼女なりの全速力で部室へ向かっている。

「エマ!せつ菜に何があったのよ」

「せつ菜ちゃんにじゃなくて、せつ菜ちゃんがなの!」

 どうやら部室でせつ菜が暴れているらしい。どうしても普段のせつ菜からは想像できない言葉である。

(いや、暴走したことはあったわねぇ)

 せつ菜の熱くなりやすい部分は時折とんでもない加速力を生み出して止まらなくなることも多々あった。

「エマさん!あぁ!!」

 エマの様に顔色を変えた歩夢が部室から 飛び出し、そのまま転倒した。

「果林さんを連れてきたんですね!早くお願いします!」

「ごめん歩夢ちゃん!跨ぐね!」

 地面に寝そべりながらも歩夢は果林を部屋に入れることを促しすぐにエマは応えた。事の重大さが伺える。

「ちょっとどうなってるのよ!」

 引っ張られるがままに部室に入った果林。そこに広がっていたのは部室のテレビの前でゲームをしているせつ菜と愛の姿があった。

「なんだゲームしてるだけじゃない。格闘ゲームかしら?」

 愛もせつ菜も必死にレバーをガチャガチャ動かしボタンを叩いている。熱くなりやすい2人のよく見る光景だ。

「それにしても、うちの部室ってテレビなんてあったかしら?」

「呑気な事言ってる場合じゃないんだよ果林ちゃん!せつ菜ちゃんを止めて!」

 声をかけたエマの方を見るとその背後には彼方が眠っている。それだけではない。

「あら?かすみちゃん達も?居眠りなんて、というか"きみ"も居眠り?」

 彼方だけではない、スクスタを含めた同好会メンバー全員が突っ伏している。焦るエマの顔とはミスマッチな光景だ。

「K.O.!!」

「よっしゃああああああ!!」

 システムボイスがゲームの終了を告げるとせつ菜が勝利の咆哮をあげた。

「ぐああ、もう無理ぃ」

 それと同時に愛が背もたれにもたれかかる。その顔からは生気が感じられない。

「愛!?どうしたのよ!ただゲームに負けただけじゃない!」

「あはは、カリンだぁ。後は任せたよ〜」

 視線の先にいた果林に愛が手を伸ばす。それと同時に後ろから呻き声が聞こえた。

「愛さんもダメでしたか。もうせつ菜さんに勝てるのは果林さんしか」

「果林さん、頑張って〜」

 しずくも心なしか窶れた表情をしており、りなちゃんボードの絵も萎れている。

「次は果林さんが相手なんですね!早くコントローラーを!」

 せつ菜だけはただ好戦的な瞳を見開いて果林を見ている。

「なるほど、そういう事ね。みんなせつ菜にやられたわけ」

 状況の大体を把握した全員の期待を背にコントローラーを握った。

「愛!そこどいて!」

「アイアイマーム、愛だけに〜」

 ヨタヨタよろめきながら果林に席を譲ると、皆がそうしているように机に突っ伏した。

 

 時間は少し遡る。事の顛末は以前同好会が活動していたとある分室の大元から、ある物が送られてきた事にある。その時は歩夢としずく、そしてせつ菜が部室にいたので対応した。

「これ、テレビだよね?」

「それだけではありません!ゲーム機とソフト、それにコントローラーが入ってます!」

 事務員達によって運ばれてきた大きなダンボールの中にはハイビジョンテレビとゲーム機周辺のものが一律揃っていた。

 それと一緒に手紙も付いてきた。

『虹ヶ咲スクールアイドル同好会様、以前は分室にお越しいただきありがとうございました。先日プレイして頂いたゲームレビューはユーザーに大変好評であり我々から感謝の言葉を送らせていただきます。その好評を受け是非とも近日販売するゲームのプレイとレビューをして頂きたく、当品をお送り致しました。是非同好会の皆様方でプレイしてください』

 手紙というよりは同好会への依頼にも近い。販売前のゲームを実際に遊んでみてその様子や感想を送ってほしいという話だ。

『なお、ゲームソフト自体はまだ販売前の製作中の製品であるためレビューが終わり次第返却をお願いします。期限としては一週間程で返却していただくと助かります。テレビとゲーム機本体は同好会様に贈呈いたします。何卒これからもご贔屓によろしくお願いします』

 まだ製作中、おそらく最終調整が済んでいないので実際にプレイしてもらいそれを参考に調整を行うつもりなのだろう。

「テレビとゲーム機はそのままプレゼントだって、なんだか物凄く気前のいい話だね」

 歩夢は依頼の内容よりも最後の文に注意が行っているが、せつ菜は別だった。

「これってロケテの依頼じゃないですか!?」

「ロケテ?」

「いや形式的に言うとベータテスト・・・とにかく凄いことです!」

「そ、そうなんですか?」

 せつ菜の言葉の意味はよく分からないがその興奮っぷりから何か凄いことを依頼されていることを理解する。

「とにかくこれは是非プレイしましょう!」

 早速と言わんばかりにテレビとゲーム機の配線を繋げて電源を入れる。あっという間に調整を終えるとソフトを取り出した。

「なるほど!対戦格闘ゲームですね!」

 慣れた手つきでソフトを入れてプレイ画面が映し出されている。

「さぁ始めましょう!」

 コントローラーを手にしたせつ菜は今か今かと言わんばかりに2人を見つめる。

「私こういうのやったことあんまりないんだけど、大事なテストだもんね」

 歩夢がコントローラーを持った時、それが地獄のはじまりだった。

 

(それで来るメンバーは悉くせつ菜に倒されて私が最後の一人ってわけか・・・そりゃ仕方ないわよね)

「K.O.!!」

(めちゃくちゃ強いもの、せつ菜は)

 状況の把握はできたものの、打開までは行えない。果林の操作していたキャラクターは無残に横たわっている。せつ菜の操作キャラがHPバーを3割ほど残してポーズを決めていると彼女も同じように拳を突き上げた。

「やったああ!これで全員から3勝ですね!もう一戦やりますか?」

 そこまで勝ち続けてなおせつ菜の闘志という名の炎は燃え盛っていた。

「ええ、お願いするわ。それにレビューもするんでしょ?数をこなした方がいいものね」

 とりあえず今は止めようがないのでせつ菜が満足するまでやらせればいいだろうと、果林はまたスタートボタンを押した。少しずつ癖を見つけてそこを突こうとするが、操作の技量はせつ菜の方が断然上手で簡単にはいかない。

 結局時間が経ち果林の連敗は10まで続いた。それでもせつ菜は再戦をせがむ。その瞳は純粋な子供と例えるよりも餌を前にした肉食獣のそれだ。

「さ、流石に私も疲れたし交代しようかな」

 肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていた。集中力は途切れ操作性が落ちて来たところだ。

「じゃあかすみんがやります。さっきから2人の動きは見てましたし、対策はバッチリです」

 自信満々に復活したかすみが交代する。とはいえその表情の僅かな違和感が果林にかすみの内面を読み取らせる。

(かすみちゃん、勝てると思ってないわね。いつもの調子が完全に逆効果、これじゃ今のせつ菜の情熱に油を注ぐようなものよ)

 先程よりは善戦こそするもののかすみは敗北した。それでもかすみはせつ菜に食い下がり続け再戦をする。それが5回は続いた頃にはもう随分空が赤くなっていた。

「もうこんな時間ですか!ゲームって時を忘れさせますね!まるでこの周りだけ体感時間を長くさせるような魔法がかかってるみたいです!」

 そんな長い時間勝ち続けていてもせつ菜の勢いが衰えることは全くなかった。

「今日はここまでにしましょう!そうだレビューを書かないといけませんね!」

 とりあえずゲーム自体はこれで終わりのようだ。やっと解放されたと全員が安堵の息を吐く。

「あぁなんて書けばいいんだろう?今はちょっと興奮してて語彙力が足りないし、また明日ぐらいにこの気持ちを落ち着かせて書かないと」

 興奮冷めやらぬせつ菜はゲームを終えてコントローラーを放しても、手を動かし歩き回り落ち着く様子を見せない。

「とにかく楽しかった事を伝えないと!コンボを決めた時の爽快感や起き上がりだけじゃなくてそれ以外での立ち回りの奥深さもそうだし、キャラの個性が必殺技にそのまま活かされてるからキャラ毎に動かしてて楽しさが変わってくるかも。これは私ももっと色んなキャラを使わないと」

 独り言を呟きながら右往左往をしているせつ菜を殆どは呆れた表情で見ている。とりあえず今日のところはこれで収まるだろうと誰もが安心していた。

「せつ菜先輩、楽しそうでいいですねぇ」

「ええ!楽しませていただきました!やっぱりゲームは楽しいものです!」

「それは良かったですねぇ・・・かすみんは楽しくなかったんですけど」

 かすみの言葉で場の空気が凍りついた。もちろんせつ菜も驚きの表情でかすみの方を見る。

「何でそんな顔するんですか?」

「いえ、その、そうですよね。ただ負けるだけじゃ。でももっと強くなるために努力するとか対策を練ったりというのは対戦ゲームの本懐と言いますか」

「あそこまで一方的にボコボコにされて対策とかよりも諦めが来るに決まってるじゃないですか!」

「そ、それはちゃんとプレイすればできるようになります!」

「ちゃんとプレイさせないのはどこの誰ですか!」

 突然ぶつかり合うかすみとせつ菜、ややかすみが押しているだろうか。

「かすみちゃん!せつ菜ちゃん!とりあえず落ち着いて!」

 歩夢が冷や汗をかきながら2人の間に割って入る。少し遅れてエマがかすみの後ろに付いた。

「今日は初めて触ったんだし、これから楽しくなるよ。レビューの期限だって一週間なんだからさ」

「そ、そうですかすみさん!明日からちゃんと色々出来るようにします!絶対大好きにさせます!だから」

「だから明日もサンドバッグになれ、ですか?」

 かすみの鋭い視線と言葉でせつ菜が止まる。そしてその視線は果林の陰に隠れて見えなくなった。

「今日はもうお開きよ。かすみちゃんが悔しいのも分かるし、せつ菜がまだ興奮してるのもよく分かるわ。だから2人とも、今は言い合うんじゃなくて頭を冷やしなさい」

 果林の言葉に2人揃って顔をそっぽに向けた。2人の表情は対照的なものだった。

「すみません。色々考えないといけないことができましたし、今日は帰ります」

 大股に歩いてカバンが置いてある部屋の隅に向かい速足で出入り口へと歩いた。ドアに手をかけた時に一瞬振り返ると、かすみはまだあの目でせつ菜のことを見ていた。そしてほかのメンバーもこちらを見ている。

「お疲れ様でした!」

 その視線から逃げ出すように勢いよく部屋から飛び出す。バタン!という大きなドアの音を随分廊下の端から聞いた気がした。

 

「で、なんでかすみんがお説教されなくちゃいけないんですか!」

 せつ菜が出て行った後にかすみはメンバーに囲まれた。そして誘導されるまま用意された椅子に座り直す。

「何も間違ったこと言ってないじゃないですか!それともあれで楽しかったって言うんですか?」

「それは確かにそうだけど・・・とにかく今はかすみちゃんと話し合う必要があるの」

 そんなことは10戦以上もボコボコにされ続けた果林も分かってはいる。かすみの言い分は間違っているわけではない。

「まぁまぁカリン、そんなに焦ってると肌に悪いよ〜。すぐに喉も渇いちゃうだろうしね」

 そんな感情を察した彼方がとりあえず今は間を開けることを促す。

「じゃあ私飲み物買ってくる!」

 璃奈のボードがむん!と気合いを入れたものに変わる。

「りなりーだけじゃ全員分買えないっしょ?アタシも手伝うよ!みんな飲みたいやつは何かある?ない?なら適当に買ってくるよー!」

 少し暗くなっていた空気を愛が大きな声で無理やり明るくしようとする。それでもまだ全員の気持ちは沈んだままだった。

「2人だけじゃ足りないだろうからわたしも荷物持ちに行くね」

「オッケー。エマっちがいたらきっとスイスイ運べるよ!」

「スイス出身だからね!」

「あはは、いってらっしゃーい」

 エマと愛の協力プレイでも表情に変化があったのは歩夢とスクスタの薄い笑いだけだった。

「私はかすみさんの言ってることは間違ってないとは思うんです」

「ほら、しず子だってこう言ってるじゃないですか」

「ですが!」

「あれっ?」

 同級生の賛同者を得て一瞬だけかすみは飛び上がるがすぐに切り捨てられて落下した。

「あの言い方じゃただのワガママです!そもそも、みなさんが思っていたのに黙ってた事をわざわざ口にする辺り、かすみさんが悪いです!」

 そして地に叩きつけられた。確かにかすみの言い方のみを聞いているとかすみが勝てなくて駄々を捏ねているようにも聞こえる。

「なんで!黙ってるままだったら何の解決にもならないじゃん!かすみんが言ってなかったら今頃せつ菜先輩はバカみたいに上がったテンションでかすみんやみんなをボッコボコにして『楽しかったですね!』とか言うに決まってます!」

 一度口火を切るとかすみが溜め込んでいた物がドロドロと口から溢れ出る。しかしその部分部分は理解できるものがあり、メンバーとしては少し複雑なものでもあった。

「でもあの時のせつ菜ちゃんは凄く楽しそうだったからそんなこと言えなくって」

「せつ菜先輩が1人だけで楽しんで何がレビューですか!そんな子供みたいなこと許されませんよ!せつ菜先輩の方がもっともーっと子供っぽいんだから!」

 かすみは頑なにその姿勢を崩さなかった。せつ菜に負けて悔しいというのもある、楽しくなかったというのもある。だがそれ以前にスクールアイドル同好会に依頼されたレビューを一人で好き勝手やろうとしているせつ菜が許せなかった。

「だいたい今日のせつ菜先輩は自分勝手過ぎるんですよ。あんなの許されるわけないじゃないですか」

 まだまだかすみの不満は収まらなかった。まだまだ垂れ流し続けている時、入口のドアが開いた。

「あら?3人とも早い・・・」

 てっきり飲み物を買いに行っていた3人が帰ってきたのかと思ったが、入ってきたのは

「せつ菜ちゃん!」

 さっき帰ったはずのせつ菜だった。下を向いているため表情はよく見えない。座っているかすみの方なら見えるかもしれないが、当のかすみはせつ菜の表情を覗くどころの状態ではなかった。

「すみません。忘れ物をしてました。すみません」

 声色は落ち着いているが、声量は小さい。小走りに忘れ物らしき筆箱を持っていくとすぐに踵を返す。

「あの、せつ菜さん」

 たまらずしずくが声をかけるが、その言葉を無視してせつ菜はドアを開ける。

「あ」

「あ、せつ菜ちゃん」

 偶然にも飲み物を買って戻ってきたエマ達とぶつかる形になった。

「すみません。忘れ物を」

「お、せっつー!戻ってきたんだ!」

 せつ菜の言葉を意図せず遮って愛が割り込む。

「どしたのさ、辛気臭い顔して〜そんな顔してるせっつーにはこれを上げるぞ!愛さんの奢りだ!」

「いえ、あの、愛さん!そんな悪いです」

 せつ菜の意思も関係なく無理やり自分が持っていたジュース缶をせつ菜に握らせた。

「こんな時こそ笑わなきゃ!ほらこれを飲んで軽ーくピースってね」

 せつ菜が渡されたのは『カルピス』だった。ちょうどそれにかけたダジャレなのだろう。

「すみません」

 結局せつ菜はまた下を向いて逃げ出してしまった。これには流石の愛も困り顔で頭をかいた。

「ダメだったか〜。ちょっと冴えてなかったかな」

 愛なりに気遣ったつもりだったが効果がなかったようだ。状況を把握できていない璃奈とエマはテーブルの上に飲み物を置きながら歩夢達に説明してもらっていた。

「聞こえなかったはずはないわよね。あれを見る限り」

「き、聞かれてもいいじゃないですか。かすみんは間違ったこと言ってませんし」

「別にかすみちゃんを責めてないわよ」

「せつ菜さん・・・」

 どうしようもなくなりまた室内の空気が重くなった。空気が重くなるとみんな口を開かなくなる。

「はいはい。みんなもう何も意見ないね〜」

 唐突に彼方が立ち上がり手を上げる。何も言えなくなって水分補給をしていた皆の行動を見ての発言だ。

「何もないなら今日は帰ろう。ここにいて暗いままじゃ何も浮かばないからね」

「それもそうね。せつ菜にはまた会った時に謝って解決策を探しましょう」

 こういう時に彼方の意見は頼りになる。結局今日はこのまま解散して明日の放課後にやり直すことになった。

「なんですか・・・かすみんは謝りませんよ!」

「分かった、かすみちゃんは今はそれでいいわ。でもせつ菜をいじめたりしないでよ」

「しませんよ!」

 かすみも納得はしていないが解決しない問題はとりあえず保留することにした。

「せつ菜ちゃん、きっと大丈夫だよね」

「大丈夫ですよ!せつ菜さんの熱い心はきっと冷めていません」

「私もそう思う」

「だよね、せつ菜ちゃんだもんね!」

 しずくが言うようにせつ奈の情熱はそう簡単に冷めたりはしない。璃奈も大丈夫だと笑顔のボードを向ける。歩夢達はそのまま先に部屋を出る。部屋の脇でまだブー垂れているかすみも果林が帰らせた。

「絶対!ぜっっっったいに謝りませんよ!かすみん悪くないんですもん!」

 せつ菜の様に小走りに部屋を出て音を立ててドアを閉めた。

「エマ、愛、あなた達はせつ菜の顔を見たでしょ?」

「あはは、やっぱり聞いちゃうか」

 その四人を帰らせたところで果林の顔が変わった。流れに便乗して帰ろうとしていた愛だったが流石に逃げられないことを悟る。

「せつ菜ちゃん、とても悲しい顔してた」

「と言うか、ほぼ泣いてたね。うん」

 エマは重々しく、愛は軽く言った。しかし二人とも真剣な表情をしている。思ったよりも事態は深刻なようだ。

「もしかしたら、明日から来ないかもねぇ」

「ちょっと彼方!縁起でもないこと言わないでよ」

 しかしその可能性を否定できない自分が心中にいる果林はまたしてもどうすればわからなくなる。

「とにかく明日!明日なんとかするわ!」

「別にカリン一人でなんとかさせるつもりはないからね。アタシも何か解決法を考えてくるよ!」

「わたしも、せつ菜ちゃんは大切な友達だもん!」

「彼方ちゃんも何かあったら頼ってね、果林ちゃん」

 四人は決意を固めて部室を出る。それはこの先に待ち構える困難を予想してのことかもしれない。

 

 彼方の不吉な発言は当たってしまった。翌日の放課後、せつ菜は現れなかった。9人はレビューするゲームをプレイすることなくせつ菜を待っていた。

「もしもせつ菜が楽しそうにゲームで遊んでいる自分達を見たら入りにくくなるかもしれない」

 そういったスクスタの意見によるものだ。それでもせつ菜はやって来ないで更に1日過ぎた。

「来ないね、せつ菜ちゃん。学校中探し回ったんだけど」

「私も色々探したんだけど見つからなかった。しずくちゃんが昨日から演劇部の人達に手伝って貰ってるらしいんだけど」

 歩夢がしょんぼりした顔をしており璃奈のボードも元気のないものだった。

「そもそもせっつーって同好会以外で見たことないんだけど、制服着てるとこも授業受けてるとこも見たことないし」

「不思議だよねぇ。もしかしてうちの学校の生徒じゃないとか?」

 愛も彼方も人脈を使って探してはいるが目撃情報はまだない。

「せつ菜ちゃんが来なくなってからかすみちゃんも元気なくなっちゃったし」

「そ、そんなことありませんよ。かすみんは今日も元気いっぱいです」

 せつ菜を傷つけたという自覚があるかすみにもダメージは及んでいる。

「たとえ元気でも気にしてないわけじゃないんでしょ?かすかす」

「かすみんですぅ」

 いつもの返しにも力がない。せつ菜の手がかりは得られず、時間だけが過ぎてゆく。

「もう一回せつ菜ちゃんに連絡してみ」

 歩夢がスマホを取り出すとそれと同時に着信が入った。スクスタからだ。

「もしもし、どうしたの?え?せつ菜ちゃんを見た人がいた?本当に!しずくちゃんも一緒なんだね分かった」

 歩夢の声を聞いて大体の話を聴くと全員立ち上がった。居ても立っても居られないとばかりに目を合わせる。

 すぐにスクスタとしずくがいる場所に向かい詳しい話を聞いた。

「早朝にせつ菜先輩らしき人が部室の前にいた、ですか」

 その生徒は遅刻の罰則として朝の清掃をやっていた際に、偶然部室近くを通りかかり見つけたという。部室の前でただ突っ立っていたらしい。

「演劇部で早朝練習をしてる人が遠目ですが見たという話もあります。確かその時も同好会の部室の方に向かったらしいのですが」

「その後目撃証言はなしってところね」

 どちらも通りかかって見かけただけなのでその後の動向については不明だ。

「でも誰かが入った様な形跡はなかったよ?せつ菜ちゃんが入ったなら何かそれっぽいものがあると思うんだけど」

「そもそも鍵の貸し出しされてませんでしたよ。かすみんは部室の鍵を取りに来た時に見ました」

「私も同行していたので確認しています。それでも放課後の目撃証言がないというのはやっぱり不自然です」

 次々と浮かんでくる疑問に頭を悩ませる面々だったが、彼方はなるほどと手を叩く。

「入りたいけど入りに行けないわけだねぇ」

「そういうことみたい。さすが彼方鋭いわね」

「つまりアタシ達に会う勇気がないってわけだ!優木だけに!」

「愛先輩のダジャレも鋭いですね」

 少なからずまだ希望はある。とはいえせつ菜を部室に呼び出す様なことをしても連絡に出ない以上来るか怪しい。

「だったら直接連れ込めばいいわね。そしてせつ菜と同じステージに立つ!」

 果林は自信満々といった表情で部室へと向かった。全員果林が何をしようとしているのかまだ分からない。

「同じステージってまさか、リベンジマッチですかぁ!?果林先輩あんなにボロボロにされたのに」

「せつ菜を迎え入れるにはあのゲームをもう一度一緒にやる必要があるわ。原因があのゲームなんだから当然よね」

 ただそれだけではなかった。果林の中には今メラメラと燃え上がるある感情があった。かすみは果林の性格をよく思い出す。

「それに負けっぱなしなのは嫌いなのよ。どうせならやり返さないとね!」

 基本的にはマイペースでその場にいて人を揶揄っていることも多い果林だが、こと勝負事に限っては熱くなりやすい。今リベンジマッチを望むのはせつ菜のためでもあり、同好会のためでもあり、何より自分のためでもあるのだ。

「よっしゃ!だったら特訓だね!愛さんがみっちり扱いてやるぞー!」

 果林の熱気に当てられて愛が乗り出せば

「私も格闘ゲームの色んな情報集めてきます」

 奥手な璃奈も積極的に動き出す。りなちゃんボードの瞳もメラメラと燃え上がる。

「では私は経験者から話を聞いてみます。演劇部の人の中には何人かゲームに詳しい人がいたので」

 しずくも自分にしかできない方法で果林の飛躍に努めた。

「えっと、じゃあ私はもう一回せつ菜ちゃんに連絡してみるね!かけられる言葉は何でもかけておくよ!」

 歩夢は果林ではなくせつ菜の方に力を注ぐことにした。どれだけ果林側が努力しても対戦相手が来ないのであれば水泡に帰す。それだけは避けねばならないからだ。スクスタもまた校内を走り回ってせつ菜の目撃証言を探しに出た。

「彼方ちゃんは〜とりあえず見てるねぇ」

「って何もしないんですか!?」

「そういうかすみちゃんは?」

「うぐっ・・・」

 彼方に突っ込んだはいいものの、かすみには明確に果林に手伝えることがなかった。そもそもかすみはさっきまでずっと非協力的な姿勢だった。皆が動き出して自分がどう動けばいいのか分からなくてなっている。

「そうねぇ。かすみちゃんは私の練習相手ね。せつ菜との対戦を見てた時に癖を研究してたんでしょ?お手柔らかにね」

「ええ〜もう暫く格闘ゲームやりたくないんですけど」

「文句言わないの!かすみちゃんも原因の1つなんだから、大人しく私と対戦しなさい!」

 結局かすみは果林の練習試合の相手をすることになった。

「エマはとにかく私とかすみちゃんのケアをお願い。今日はギリギリまでぶっ通しでやるから!」

「わかった。こうなった果林ちゃんは簡単に止まらないもんね」

 呆れたのかそれとも期待しているのか、微笑むエマを尻目に果林はゲーム画面に向き合いコントローラーを握った。

「自覚してるわ。さぁ行くわよかすみちゃん!」

「こうなったら、かすみんの手で返り討ちにしてやりますよ!せつ菜先輩にリベンジしたいのは何も果林先輩だけじゃないんですよ!」

「いいわ!じゃあこの練習試合に勝った方がリベンジマッチの資格を得るってことにしましょう!」

「それずるい!愛さんもせつ菜にリベンジしたいぞっ!」

 こうして練習試合と称したせつ菜リベンジの権利を得るための総当たり戦が始まった。

「ふぅ〜、色々格闘ゲームの情報集めてきたよ!ってあれ?」

「璃奈さん、私も今帰ってきたところなのですが」

 メモ帳を手にしたしずくと璃奈が部室に帰ってきた頃には高く拳を突き上げている果林の姿があった。

「エマさん、何があったの?」

 りなちゃんボードが難しそうな顔になるとエマも難しそうな顔をしてこう呟いたのだった。

「仁義なき闘い、かな?」

 こうしてリベンジマッチは手順通り果林が行うことになった。

 




ハーメルンの形式では長い話は少々見にくいかと思い前後編にしてみました。果たして果林はリベンジを果たせるのか!そしてせつ菜は同好会に戻ることができるのか
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