虹ヶ咲短編集 日常の切れっ端   作:キルメド

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天王寺璃奈はとある客観的な分析から「自分はいずれ飽きられてしまうのでは?」という不安を感じていた。その事情を聞いたのは同じスクールアイドル同好会のエマ・ヴェルデだった。
そしてエマによって集められた同好会メンバーと共に璃奈のアイデンティティであるりなちゃんボードの新たな開発が始まる…そんな日常の切れっ端



新りなちゃんボード開発会議!

(えーっと確かこっちだっけ?)

 部室で色が出なくなったペンとかなり短くなった色鉛筆を見て、エマは近所の文房具店に買い出しに向かった。日本の店の品並びは種類ごとに細かくまとまっているため、吊られた看板を頼りに目当ての商品を探す。

「むむむ、やっぱりこっちの方が形が良いかなぁ……でもちょっとサイズが小さいか。顎が出ちゃいそう」

 途中、スケッチブックのコーナーを通りかかった時のことだった。独り言を呟きながら小柄な少女が悩んでいるのを目撃した。その姿は見覚えがあり思わず近付き声をかける。

「璃奈ちゃん?何してるの?」

「その声はエマさん!」

 璃奈が振り返り真っ白なスケッチブックを向ける。

「どうかな?」

「のっぺらぼう?日本のモンスターだっけ」

「いやそうじゃなくて」

 売り物なのでまだ何も書き込むことが出来ず、結果的にサイズ合わせのためだけに顔に被せている。

「ちょっと横長かな?髪の毛も少し隠れてるし」

「やっぱり?じゃあこれはなしか」

 待っていたスケッチブックを戻してまた何やら考え込んでいる。その小動物のような姿はエマの放って置けないという感情を引き出させるには十分なものだった。

「エマさん何を?」

「わたしも手伝うね!新しいりなちゃんのボード探し!」

 身を低くして商品棚に並んだスケッチブックの中で記憶にある形状を探す。どれも似たような長方形だが、僅かなサイズと質感の違いを見極める。

「これかな?璃奈ちゃんがいつも使ってるのって」

「そうなんだけど……ちょっと事情があってね」

 確かにエマが手に取ったスケッチブックは璃奈がいつも使っているものと同じだが、彼女の反応は良いものじゃなかった。

「今はこれでいいかな。ありがとうエマさん。また色々考えなきゃ」

 結局その日、璃奈はエマが持ってきたいつものスケッチブックを買って帰った。

(わたしも買うものあるんだった。でもなんで璃奈ちゃんはあんな顔してたんだろう?)

 元々買う予定だったペンと色鉛筆のコーナーへ向かうエマだったが、その思考の中には璃奈の反応が引っかかっていた。

 

 会計を済ませて店を出ると無意識にキョロキョロと周りを見てしまう。璃奈を探しているのだ。

(あ、いた!でもあそこって)

璃奈が消えていったのは別の文房具店だった。先ほど文房具店でエマにアドバイスされてスケッチブックを買ったというのに、また文房具店に入るというのはおかしな話だ。

(気になる)

 無意識に近くの看板に隠れてから店に入る。商品棚の陰から覗き込むと璃奈はまたしゃがみこんで思案していた。

(またスケッチブックの棚?でもさっき買ったんじゃ?)

 1つ取り出して首を傾げると棚に戻し、また別の物を手に取る。そして一瞬の動きから首の回転を予測する。

(隠れなきゃ!)

 ギリギリのところで棚に背を預ける体勢になった。こちらを向いた璃奈に気付かれるわけにはいかない。何しろエマとはさっき別の文房具屋で会っているのだから。

(ふうう〜、危ないところだった。って、あ!)

 改めて棚の陰から璃奈の事を覗く。しかしそこに璃奈の姿はなかった。先程までしゃがみこんでいた場所には誰もいない。

「璃奈ちゃんどこ行ったんだろ?」

「後ろだよ」

「わあああ!」

 振り返ると真っ白なスケッチブックを掲げた璃奈がいた。エマの尾行に気付き回り込んでいたようだ。

「のっぺらぼう、すごく怖かったよ」

「別に怖がらせたいわけじゃ……というかエマさんは何してるんです?」

 本人に気付かれてしまった以上仕方ないので、とりあえずこうなるまでの経緯を説明した。

「それでおかしいなって思って隠れながら見てたんだけど」

「全然隠れられてなかったよ」

 身体的な面において、エマが隠れられる場所は自然と限られてしまう。それでも物陰から僅かに見える一部分だけで分かったのは璃奈の警戒心の表れだろう。

「それで璃奈ちゃんは何してたの?ただスケッチブックを買いに来たんじゃないよね?」

 璃奈の不審な行動を見ていたエマから当然の疑問が帰ってきて思わず言葉が詰まる。

「それは……エマさんだし話してもいいかな。新しいりなちゃんボードを探してるんだ」

「新しいボード?さっき買ってたのは?」

「これは前と同じスケッチブックだから。新しいのが欲しくて」

 だから先ほどスケッチブックの大きさや相手からどう見えるのかを仕切りに調べていたらしい。

「でもなんでそんな事を?璃奈ちゃんのボードはいつも可愛いと思うけど」

「うーん、簡単に言えばマンネリ化対策」

「マンネリ?」

 璃奈が言うには、ただ顔を描くだけではいずれ同じ絵を描き続けるだけで慣れてしまい変わり映えなく飽きられてしまうとのこと。

 そして画力は急激に伸ばすことはできないのでスケッチブックを変えることで対策をしようというわけだ。

「そんなに気にすることかな?わたしは璃奈ちやんの絵かわいくて好きだよ」

「でも、ただ可愛いだけじゃいつか飽きられちゃうかも」

 自分のアイデンティティの1つを飽きられてしまう、その事に危機感を覚えた璃奈はまた別のスケッチブックを探し始める。

「でもスケッチブックを変えるだけじゃ解決は難しいよね。料理でもそうだけど材料を変えるだけじゃ結局同じ料理のままだし」

「私はそれで良いって思うけど」

「ううん!ここは思いっきり変わろう!みんなに飽きてもらわない璃奈ちゃんになろう!」

 どうやら璃奈の行動がエマの中にあるスイッチを入れてしまったようだ。普段は緩めな雰囲気があるが、やるなら徹底的にといったエマの内面がうかがえる。

「じゃあ一旦部室に戻って作戦会議しよう!」

「お、おー」

 流されるまま引っ張られるまま、璃奈は同好会の部室へと向かうのだった。

 

 かくして、部室に戻ったエマと彼女に引っ張られてきた璃奈によるりなちゃんボード会議が始まった。ホワイトボードには先ほど買ってきた赤いペンで『新りなちゃんボード開発会議!』と大きく書かれている。

「それじゃ会議を始めるよ!」

「質問いい?なんでこのメンバーなの?」

 璃奈が質問するのも無理はない。二人が部室に入ると並べられた椅子にはさも当然のようにせつ菜としずくが座っていたのだ。

「エマさんから話を聞いたよ。私だって同好会として何より同じ一年生として璃奈さんの力になりたいし」

 しずくが真剣な表情で向き合うとその奥のせつ菜が強く拳を握りしめる。

「璃奈さん!困った時はお互い様です!こうやって仲間と力を合わせて困難を乗り越えましょう」

「そ、そうだね」

 エマにも言えることだがせつ菜も妙に熱がこもっており璃奈とのテンションの差が出ている。

「じゃあみんなでりなちゃんボードの新しいアイデアを出していこう!」

 エマがホワイトボードをひっくり返して絵を描き始める。どうやら璃奈の似顔絵のようだ。

「この璃奈ちゃんをどうしようかって話なんだ。まずは私からね!」

 エマが璃奈を引っ張っている間にかなり話が進行していたようで、せつ菜もしずくもすでに改善案を考えているらしい。

「璃奈ちゃんはステージに出る時、必ず顔を隠してるよね。飽きられないためにはインパクトが必要!というわけで逆転の発想!」

 エマが璃奈の似顔絵に体を付け足す。しかし心なしか輪郭が雑で顔の部分に比べるとずいぶんチープな絵になった。

「なんで体を?」

「これが『逆りなちゃんボード』だよ!りなちゃんボードは顔を隠すだけじゃない!」

 ペンからイレーザーに持ち替えて顔の部分に被せる。当然璃奈の似顔絵、いや"りなちゃんボードの部分"は消えてしまう。

「なるほど!りなちゃんボードで体を隠してしまうわけですね!」

「まさしく逆転の発想!」

 その意図を理解したしずくとせつ菜が合いの手を入れるとエマが照れながら頭を掻いた。体の部分がチープなのは璃奈の体の周りを「璃奈の体を描いたりなちゃんボード」で覆う表現だったようだ。

「それ、体の部分が全部りなちゃんボードなの?」

「そうだよ!表情を晒す代わりに璃奈ちゃんの見えている部分を隠す事でまた新たな璃奈ちゃんの魅力が生まれて」

「いや無理でしょ」

 璃奈が冷めた否定をしてガクリとエマが崩れる。

「だって体を覆うボードって事は相当な大きさだし、そもそもそんなの覆った状態でアイドル活動なんてどうすればいいの?私まだまだダンスも下手っぴなのにアレ着たまま踊るなんて」

 表情を隠すだけならデジタルりなちゃんボードやスケッチブックがあるが、全身を隠す事になればそれ専用のスーツが、しかもりなちゃんボード製の物がしかもりなちゃんボード製の物が必要になる。

「そもそも、そんなので踊ったらすぐに足の方とか壊れちゃうよ」

「そこは壊れないような素材とかでスーツを作れば!スーパーヒーローなどで使われてる物を参考にすれば」

「いくらかかると思ってるの!却下だよ!」

 せつ菜のフォローも真っ当な正論を持って潰されてしまった。エマの意見は制作の工程を全く考えていないプランだったため却下された。

「行けると思ったんだけどなぁ」

「惜しかったと思います!エマさんの後は私が引き継ぎます!」

 立ち上がったせつ菜がバトンタッチしてホワイトボードに璃奈の全身像を描く。

(やっぱ全身なんだ)

 すでに嫌な予感のするせつ菜の絵を見ながらボードの向こうの璃奈は嫌な顔を浮かべた。

「私のアイディアはこれです!璃奈さんなら絶対出来ます!」

「いや普通に衣装着て璃奈ちゃんボード付けてるだけだけど、というか出来ますって何を?」

「はい!私が提案するものは少々難易度はありますので」

すると絵の上に太い赤のマジックで新たに上に文字を書く。

「題して!『大変身!りなちゃんボードお色直し大作戦!!』です!」

 力の入った文字と声に反して描かれているのは衣装を身に纏った璃奈と少しデコレーションされたりなちゃんボードが描かれているだけだで何の変哲も無い絵だ。

「お色直し?」

「衣装チェンジの事でしょうか?」

「そんな感じです!」

 しずくが推測が当たるとせつ菜は新たにもう1人の璃奈の絵を描く。こちらは璃奈のライブ衣装とは別の衣装を着ている。

「あ、ボードも違うやつなんだ。衣装に合わせてボードをチェンジするって感じ?」

 璃奈の言葉に対して何故か得意げな表情を見せるせつ菜。それだけじゃないと言わんばかりに人差し指を立てる。

「ちっちっち、それだけじゃないんですよ。お色直しですから!大変身ですから!ステージ上で衣装チェンジ&りなちゃんボードチェンジです!」

 2つの絵を矢印で繋いだ。どうやらステージ上で早着替えをして尚且つりなちゃんボードも一緒に帰るというものだった。

「早着替えかぁ。全然自信ないけどパフォーマンスとしてはありかな?」

 早着替えに対しては消極的だが、衣装変えをするごとにりなちゃんボードを変えようという意見は参考になる。

「せつ菜ちゃんって「変身」とか「必殺」とか好きだよね。でも早着替えってどうやるの?」

「着替えるようにカーテンを裏方の人が準備してその中で着替えるイメージがあるけど」

「舞台などではパージできる服を重ね着してますがボード毎となると単に付け替えるだけで済みますかね?」

 3人が悩む顔を並べるとまたせつ菜がドヤ顔で笑った。そして驚きの手段を提示した。

「ずばり!強烈な光です!」

「光?」

「そうです!強烈な光がりなちゃんボードから発せられて全身を包み、その間に専用のBGMが鳴り、光が消える頃には別の衣装とりなちゃんボードを装着した璃奈さんがステージに立っているんです!」

 熱を持って語り出したせつ菜に対して言葉を失う。急速に熱くなるせつ菜とは反比例するように3人の視線は冷ややかになってゆく。

「この『リナリーメタモルフォーゼ』による璃奈さんの変身を目にした観客の皆さんの心は間違いなくドキピポ☆エモーション!どうですか璃奈さん!」

「いや却下だよ」

「何でぇ!?」

 自分の提案は完璧だと思っていたのだろうか、それとも却下されたショックが強かったのか、エマよりも勢いよくバランスを崩しせつ菜は転倒した。

「何でって、出来るわけないでしょ。そんな強い光の中で着替えるとか」

「いいじゃないですか光の中での変身!女性戦士みたいで!」

「私はそんなジャンル求めてないから!そもそももうりなちゃんボードの話じゃないし」

 いい線を突いていると思っただけに勿体なかった。そしてとんでもない方向にズレていた。

「せつ菜ちゃん、これってサングラスかけてる人がいたら全部見られちゃうんじゃないの?」

「それにそんな強い光をお客さんや璃奈さんに向けるのはどうかと」

 エマとしずくの指摘がせつ菜の勢いを完全に止めてしまった。視線を逃がそうにも三方は埋められ背後にはホワイトボードがあり逃げ場がない。

「い、言われてみれば……スクールアイドルだから大丈夫とかそういうのは?」

「せつ菜ちゃん、私はフィクションの存在じゃないんだよ!」

 りなちゃんボードがかつてないほどに怒りに染まり目の前からずいずいと迫ってくる。

「ご、ごめんなさい……璃奈さんのことを傷つけるつもりはなかったんです」

 自分のアイディアが実現すれば理想が現実になるのに一歩近づく、そんな思いが逸りすぎた。改めて思うとせつ菜自身でもそんな事が出来るか怪しいと思えるメチャクチャな提案をしていたのだから。

「んもー!せつ菜さんもエマさんも全然実現できない無理難題ばっかり!こんな調子でしずくちゃんは大丈夫?」

「大丈夫!私の案は現実的なものだよ」

 気がつけばそこまで乗り気ではなかったはずの璃奈はしずくのアイディアに期待している。2人の案のダメな部分を指摘し却下する毎に何か届きそうで届かないむず痒さを感じていた。

「せつ菜さん、エマさん、2人のアイディアは実現と継続することが難しいものでした。しかし私は違いますよ!現実的で璃奈さんの表現力が失われない、そんなりなちゃんボードです」

 自信満々にせつ菜が描いた璃奈の絵を消して新たに璃奈の似顔絵を書き直す。

(なんでみんないちいち描き直すんだろう?)

 そんな些細な疑問に答えが出ることはない。筆圧強めで書いたせつ菜の文字が薄っすらと残るホワイトボードに新たに描かれた璃奈の似顔絵、似顔絵のみである。

 しかし描ききった後もしずくはほんの少し付け足す。何かを絵に書き込んでいるようだ。

「できました!名付けて『ノベりなちゃんボード』です!」

 出来上がった似顔絵を見て思わず絶句する。先程までは綺麗にだった似顔絵にペンで描かれた点が刻まれている。

「し、しずくさん、このブツブツは一体」

「そばかすにしては数が多い気がするけど」

「ぶつぶつでもそばかすでもありません!ちゃんと近付いて見てください!」

 言われるがまま3人はホワイトボードに近付くと、その点の正体が分かった。

「文字?しかも文章?」

「その通りです!これぞ小説と合体したりなちゃんボード!ノベル+りなちゃんボードで『ノベりなちゃんボード』です!」

 その横に更にしずくが絵を描き足した。それはノベりなちゃんボード単体の絵だ。

「もし表情に文字が被ってダメだったとしてもこうやって片方のページに小説を書いてもう片方のページに璃奈さんの表情を描けば、まるで小説の挿絵みたいでしょう。これなら予算をかけることも最低限のアップで済みますし、動きやすく」

「いや動きにくいよこれ」

「え?」

 しずくの言葉を否定すると璃奈が別のスケッチブックを取り出し渡した。

「しずくちゃん、それを開いた状態でどう持つ?」

「開いたままで?えっと片手で真ん中を持つだけで……あれ?」

 真ん中を持つだけではスケッチブックは閉じてしまう。おまけに表情の変化にはスケッチブックの捲る必要があるためページは固定されていない。簡単にページは一枚ずつはためき動きがかなり制限される。

「かと言って両手で両端を抑えてしまうと」

 そうなったら両手が使えない上に手は下から伸びるため、可動域が狭くなってしまう。

「だから私はこうやって片手で持てるように1ページしか出してないんだよ、分かった?」

「はい……ならデジタルの方を」

 なんとか自分の提案をアピールしようと食い下がるしずく、どうやら自分の間違いにまだ気付いていないようだ。

「デジタルだと文字と被って表情が見えなくなっちゃうよ」

「ええ!?だったら歌詞をデジタルりなちゃんボードに出すとか」

「しずくさん、それではりなちゃんボードの意味がないのでは?」

 結局しずくのアイディアも採用には至らなかった。りなちゃんボードの表情と小説の文章を一緒に読ませようとするのがそもそも難しいアイディアだったのだ。

「ていうかさ!しずくちゃんもせつ菜さんも自分がやりたい事を私にやらせようとしてるだけなんじゃないの?」

「ギクッ!」

 しずくの観客に小説を読ませようとするアイディアもせつ菜同様個人的な思いが含まれるアイディアだった。

「すみません……つい邪念が入ってしまいました。璃奈さんの表現方法を見ていると、前からやってみたいと思ってしまい、つい」

「んもー!これじゃあ私はいつもと変わらないじゃん!」

 結局りなちゃんボードの発展には繋がらずエマが突発的に開いた会議は大失敗に終わってしまった。

「こんなのじゃ、私みんなに飽きられちゃうよぉ……」

 ガックリと机にもたれかかる璃奈に3人はなんと言葉をかけていいのか分からなかった。

 その時、ガチャリと音がしてドアが開く。

「あ、先輩!どうしたんですか?」

 今日は活動日ではないというのに部室の方が少し騒がしかった、そんな話を聞いたスクスタが様子を伺いに来たのだ。そしてホワイトボードや3人の話を聞いてもイマイチ内容が飲み込めていないようだ。

「どうかな?"あなた"も何かいいアイディアない?ねえ璃奈ちゃん」

「そうです!きっと"あなた"なら素晴らしいアイディアを出してくれます!」

 思わぬ助っ人の登場で期待の視線を向ける3人だが、璃奈はまだこちらを向かずテーブルに突っ伏せている。

「もういいよ。新しいりなちゃんボードなんて最初から無理だったんだ」

 そんな彼女達の温度差を目の当たりにしてスクスタはホワイトボードではなく、璃奈の方へ向かった。

「先輩?いいんです。私はそのうち誰かに飽きられちゃうスクールアイドルなんだ」

 りなちゃんボードを使わずにテーブルと自分の腕で顔を隠す璃奈の隣にスクスタは座った。そして言葉を伝える。それがスクスタなりの新しいりなちゃんボードのアイディアだった。

「え?私が作りたいりなちゃんボードを作ればいい?でもそんな事したって……私が出来る事とやりたい事を表現すればみんな喜んでくれる?」

 思わず顔を上げそうになり、スクスタは手元の璃奈ちゃんボードを翳した。璃奈とりなちゃんボードが向き合い、璃奈の表情はスクスタから見えなくなる。

(そうだ。私、素顔を見せられないからりなちゃんボードを使ってるんだ。素顔を見せられなくて、でもスクールアイドルがやりたくて……私のこの想いを表現したくて!)

 璃奈がりなちゃんボードを持っているのは自分の絵を見てもらいたいからではなく、自分が晒す事ができない表情を表現するためだった。

 しかし見られる数が増えるごとに観客の事を意識してしまい、その事を忘れてしまっていた。

「そうだよね!私は私のやりたい事をやる!私が良いって思ったりなちゃんボードを作ればいいんだ!」

 スクスタが持っていたりなちゃんボードを手にすると、目の前にいる少女はいつもの様に小さな体で飛び跳ねる。きっとりなちゃんボードの向こうの表情はにっこりんのボードに描かれた以上に明るい表情になっているだろう。

「よーし!こうなったら早速新しいボード作りだー!材料調達ー!」

 そのまま勢いよくドアを開けて飛び出して行った。微笑ましく見送ったスクスタの前にしずくとせつ菜が立ち微笑む。何やら2人とも興奮している様子だ。

「ありがとうございます!先輩の言葉、私達にも響きました!」

「やりたい事を出来る事を表現する!スクールアイドルとして素晴らしいと思います!私の夢の実現は私自身でやるべきでした!」

 いまいち理解できぬうちに2人も部屋から飛び出した。どうやら璃奈の後を追いかけるようだ。

「私達もやりたい事を表現してみせます!」

 そんな言葉だけが部屋の中に残っていた。エマは思わず吹き出し、スクスタも笑った。

「やっぱり"あなた"の言葉は特別だね」

 少し照れくさくなって窓の外を見るとスキップを踏みながら校門へ向かう璃奈とそれを全速力で追いかけるせつ菜としずくの姿が見えた。3人の向かう先にはきっと自分の夢があるのだろう、そう思うとスクスタはまた笑った。




璃奈はなぜ隠してまでスクールアイドルをやるとかという疑問から生まれた話です。根本的に答えは出ていませんが、彼女達はまだスタートラインに立ったばかりのスクールアイドルなのでその答えは己が手で掴み取ってほしいな、的な思いも込めた話でした
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