虹ヶ咲短編集 日常の切れっ端   作:キルメド

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同好会の部室に突如メンバー9人が集められた。呼び出した愛はみんなの新たな可能性を探したいとユニット編成会を企画する。
ノリと勢いに乗せられて全員が自分の可能性を探して動き回る中、1人かすみが待機していると……

皆が思いと希望をぶつけ合う、そんな少し変わった日常の切れっ端


ユニット大編成企画!みんな大好きかすみん争奪戦!

「えーっおっほん!みんな注目ー!」

 9人が集まった部室のホワイトボードの前で愛が声を上げる。わざとらしい咳払いも注目を集めるためだろう。

「なに〜?面白いダジャレでも思いついた?」

「いえ彼方さん、面白いギャグを思いついたらきっとその場で言ってます」

「あ、アタシそういう扱いなんだ」

 彼方に話題を逸らされつつもせつ菜に軌道修正され愛は話を続ける。

「愛さんね、みんなの可能性ってやつを見たいんだよね。んでそれを何気な〜く呟いたらファンのみんなもそれっぽい感じで反応したんだよ。だから今から即席ユニットってのを作ろうと思ってね!」

 以前スクールアイドル同好会のメンバーでユニットが結成された。ただそのユニット以外でも絡みがないわけではないのだから、9人が作り出す可能性を色々と見てみたい。その気持ちを抑えられないのだろう。

「それで他の組み合わせを見てみたいというわけね。例えば私だったら愛以外とユニットを組むとか」

「そうそう。DiverDivaは一瞬解散ね」

「解散ってそんな軽いものだっけ?」

 現在虹ヶ咲は愛と果林のコンビユニット『DiverDiva』、歩夢としずくとせつ菜のトリオユニット『A・ZU・NA』、かすみと彼方とエマと璃奈のカルテットユニット『QU4RTZ』が存在する。

 愛が提唱するのはそれ以外のユニットを組んでみようという企画だ。もちろん一時的な企画で正式なユニットではないが、新たな発見が出来ることもあると皆乗り気であった。

「よっしゃ!やるか!新ユニット結成同好会!」

「愛ちゃん、同好会はいらないかも」

「ノリだよノリ!青春なんだからやりたいもんやったもん勝ちだよっ!」

 そして勢いのままに企画は始まった。

 

 QU4RTZの4人が集まると何やらしんみりとした雰囲気になっていた。

「ええ〜、璃奈ちゃんや彼方ちゃんと別れちゃうの?ちょっと寂しいなぁ」

「エマ先輩?かすみんは?」

「大丈夫。一時的なものだから、彼方ちゃんもエマちゃんや璃奈ちゃんと別れるのはちょっと心苦しいよぉ」

「彼方先輩?か・す・み・ん、は?」

 2人は天井が見上げると近くで声を上げるかすみの姿が見えなくなる。

「この企画が終わったらまた一緒だよ。またみんなで璃奈ちゃんボードを描こうね!」

「りな子までええ!皆さんかすみんの方向いてくださいー!!」

 流石に璃奈には見えている。目の前に立って必死の顔で体の芯ごと肩を揺らす。

 ある意味で3人が期待した通りのリアクション過ぎて少しかわいそうとまで思えてきた。

「ごめん。かすみちゃんと一緒じゃないのも寂しいよ。よしよし」

「そうだねぇ。ちょっと遊んじゃってごめんね。よしよし」

「かすみちゃん寂しんぼだもんね。このキュートな璃奈ちゃんボードを私だと思ってね。よしよし」

「よ、よしよしじゃないいい!」

 3人に囲まれながら頭を撫でられるかすみ。自分より背が低い璃奈にすら撫でられて完全に揶揄われている。

 その様子を遠目からA・ZU・NAの3人が見つめる。せつ菜の目がキラキラとしていた。

「いいですね!ああいう一時の別れって感じのやつ!」

「そういう感じなのかな?私はよくわかんないけど」

「私達もやりましょう!一年生のしずくさんをお借りして」

「えええ!?なんで私が!」

「しずくさんってかすみさんっぽいじゃないですか。それに一番年下ですし」

「でもせつ菜さんの方が背が低いですし、すぐに突っ走ってしまうところとかかすみさんっぽいのでは、と」

 A・ZU・NAの中で突如始まるかすみっぽい理論のぶつけ合い。和やかだったムードが急変してしまった。

「な!しずくさんだってすぐにムキになったりするじゃないですか!この間もかすみさんに」

「いえいえ、ムキになっているのはせつ菜さんの方だと思いますが?」

「言葉を遮らないでください!」

「はいはい、よしよし」

 喧嘩を仲裁するように歩夢が2人の間に割って入り頭を撫でる。その行動で2人は急停止した。

「これでいいかな?なんだかギスギスしちゃってるし、この話はこれで終わり」

「まだ終わりませんよ!」

「え?」

 唐突に2人の牙は歩夢の方に向いた。2人に両肩を抑えられ身動きを取れなくなってしまう。

「せつ菜さん……こうなったら歩夢さんを撫でましょう。よしよし」

「はい。よ〜しよしよし」

「うわわ!なんでこうなっちゃうの〜?」

 そんな2人の行動を対して歩夢は拒否していない。満更でもないのだろう。

「ふーん、そんな感じなんだ」

「頭こっちに近づけたってやらないわよ?」

「ぶー!カリンのケチー!撫でてくれたっていいじゃん!グリグリー!」

「頭を擦り付けないの!全く愛もたまに変になるんだから」

 果林が肩に擦り付ける愛頭を抑えることが結果として彼女を撫でていることに気付いたのは少し後だった。

「でも愛さんダバディバ離れるの辛いよぉ〜」

「いやこのユニット企画は愛が提案して」

「愛さん涙がダバダバ出ちゃうよー!」

「ちょっと何してるのよ!」

 またダジャレかと思っていたら本当に号泣しながらしがみつく愛の姿に驚き飛び退いた。

「にひひ、驚いたでしょっ」

「凄いですね愛さん。今のどうやったんですか?」

 けろっと笑顔に戻る愛。そしてそれが嘘泣きだと気付いた頃にはしずくが接近していた。

「ぜひユニットを組んで私にも教えてください!演技の参考にしたいです」

「いいよ。ユニットけっせーい!!」

 流石は企画者にして誰とでも仲良くなれるスクールアイドルと言ったところか。とんでもないスピードでユニットが結成された。

「これは私も早く動いた方がいいかもね。前から組んでみたいとは思ってたし」

 果林も狙いを絞って動き始めた。

 

(さて。かすみんは誰と組もうかな〜)

 かすみはQU4RTZと別れた後は周りの動きを待つことにした。それは自分の中にある圧倒的な自信からの行動だ。

(まぁかすみんは超絶かわいいから、みんなの方からかすみんが寄ってくる!そして誰とユニットを組んでもかわいいかすみんにみんな大興奮待った無し!)

 その自信を貼り付けたかのようなドヤ顔で他のメンバーから声をかけられるのを待った。

「あ、果林さん。私と組みますか?」

「ええ。彼方もいれて3人ユニット組みましょう」

「璃奈ちゃんと果林ちゃんが組んで私はその間って感じかな?」

 ちょうど同好会で最高身長の果林と最低身長の璃奈が組み、彼方はその真ん中に位置する。

「まるで電波アンテナだね」

「言われてみればそうね。彼方が寝てなければ」

「立ったまま……寝ればzzz」

「寝るの早っ!」

 立ったまま寝るとは言うものの、隣に立つ果林にもたれかかる。これではアンテナマークというよりもNに近い。

「なるほど。あそこはあの3人で、しず子は愛先輩と……じゃせつ菜先輩か歩夢先輩かエマ先輩かぁ。どんなユニットになるかな」

 周りの動きを見ながらかすみは自分の未来を予想する。

「かすみちゃん」

「かすみさん!」

「「私と一緒にユニット組もう!」」

「え?」

 そんな未来予想図は2人の手によって簡単にぶち抜かれた。同じタイミングで声をかけられた。

「わたしもかすみちゃんと組みたい!」

「エマ先輩まで!?」

 更にエマにも声をかけられた。3人の目がかすみを見つめる。声をかけられるのを待っていたのは事実だが、3人同時に声をかけられるとは思っていなかった。

「じゃあかすみんのとこは4人ユニットで決まり?モッテモテだねかすみん!」

「え?それはもちろん、かわいいかわいいかすみんですから!かすみんの魅力にみんなが引き寄せられて〜」

 煽てる愛の言葉を素直に受けて照れるかすみだったが、3人の表情はどこか苦いものだった。

「あれ?皆さんどうしました?愛しのかすみんですよ〜?」

「かすみちゃん、私はかすみちゃんと組みたいんだよ」

「へ?」

「奇遇だね歩夢ちゃん。わたしもかすみちゃんと組みたいんです!」

「私もです!」

 かすみの前と左右を囲んだ3人が詰め寄る。その言葉の意味にイマイチピンと来ないかすみ。

「あらあら、本当にかすみちゃんモテモテね」

「ちょっと羨ましい……かすみさんの癖に」

「しず子なにか言った?」

「いいえ何も。というか何を呑気な顔してるの!」

「大物の余裕ってやつかなぁ?」

 しずくの警告する様な言葉も彼方の茶化しも意味が理解できていない。

「かすみちゃん!」

「私と!」

「ユニット組もう!」

「だから皆さんと……え?私と?まさか」

 ようやく気付いた。3人はかすみとユニットを組みたいと言い続けている。それはかすみとコンビユニットを組みたいという事だった。

「かすみちゃんと2人でユニット活動しながらパン作りするの!」

「ダメです!かわいいかすみさんと一緒に私がステージに立つんです!」

「私もかすみちゃんと一緒にやりたい事いっぱいあるんだよ!」

 3人に迫られて壁を背にするかすみ。いつもはマイナスイオンを放つエマも、ほのぼのとした雰囲気を作る歩夢も、情熱を燃やすせつ菜も、今はまるで敵同士の様に火花を散らしている。

 そして火花を散らすあまり肝心のかすみんのことが視界に入っていない。

「かすみちゃーん、押しつぶされてない?」

「だ、だいぶ……ぐるじぃ」

「あぁかすみーん!!みんなブレイクブレイク!」

 その尋常ならざる状況に危険シグナルを出した愛が3人の間に入ってかすみを救出する。しかし一向に空気は穏やかにならない。

「なんというか皆さんとても必死ですね。そんなにかすみさんと組みたいんですか?ひっ!」

 ポツリと呟いたしずくを一斉に睨み近くにいた果林の陰に隠れる。その剣幕には果林も異常性を感じた。

「これは相当ね。モテモテどころじゃないわ」

 空気は重くなる一方でかすみも愛の陰に隠れて出てこない。ユニットを組むどころではなく、このままでは進展しない。

「でもコンビで組みたいんだよね。愛さんどうするの?」

「待って、今考えてる。ナイスなアイデア無いっすか?なんちゃって」

「二人の相性を見るために、一緒に寝て寝心地で決めるとか?」

 愛のダジャレでも冗談めかしの彼方の発言でも3人の空気は和まない。そんな中、せつ菜が一歩前に出た。

「愛さん!私に提案があります!各自でどんなユニットにしたいのかを、かすみさんにアピールするのはどうでしょうか?」

「なるほど。選挙の演説みたいな感じだね。それでかすみんに選んでもらうと」

「だったらわたしも負けないよ!かすみちゃんと一緒になるのはわたしだもん!」

「私も!!エマさんとせつ菜ちゃんに負けないくらいの理由があるんだよ!」

 かすみはまだビクビクしながら愛の陰に隠れている。自分を巡って争う、そんな絵空事ことが想像の何倍の厳しさで実現していることに全く喜べないからだろう。

(ううん!こういう時こそ思考の転換!かわいいかすみんは迷わない!悩まない!ポジティブシンキング!)

「このユニット企画、思った以上の熾烈さになりそうだなぁ」

「ごめんなさぁい愛先輩……かすみんが可愛すぎるばっかりに」

「だからかすみさんは何でそんなに呑気なの」

 しずくの辛辣なツッコミはかすみに無視される。それだけなんとかいつもどおりに振る舞おうと必死な彼女の精神状態の表れかもしれない。

 

「はいはーい。それじゃあかすみんとのコンビユニット決選演説始めるよっ。ホワイトボードにアピールポイントを書いて喋る……んで最後はかすみんに決めてもらう」

 愛が場を仕切りホワイトボードの前に学習机と空の本棚を置いてあたかも演台のようなものを作った。そしてその前の椅子にはかすみが座らされる。

「順番はエマっち、せっつー、歩夢ね。全員恨みっこなしだよ!」

「はい!」

「うん、良い返事!」

 その返事に込められた熱さに愛は好感触を覚えた。一方でその光景を少し距離を開けて見ている他の虹ヶ咲メンバーはどことなく嫌な予感がしていた。

「なんだか妙な事になっちゃった。もしかすみちゃんに選ばれなかったら、その2人でユニット結成するのかな?」

「どうだろう?もしエマさんが選ばれたら、余ってしまう歩夢さんとせつ菜さんは同じA・ZU・NAのメンバーだし」

「そうなったらエマとかすみちゃんだって同じQU4RTZのメンバーでしょ」

 今回のユニット企画には虹ヶ咲メンバーの新たな可能性を見るためのものでもある。既にユニットを組んでいるメンバー同士だと少々その意外性は半減してしまうことも考えられる。

「そんなこと関係ないよ!わたしがかすみちゃんと一緒にやりたい事は絶対QU4RTZじゃできない事だから!!」

 しずく達の話が聞こえたのかエマは大きな声で宣言した。ハイトーンで透き通る声を持つエマだけにその声量と感情で普段とは全く異なるメッセージ性が生まれる。

「エマっちやる気満々じゃん!楽しみだね〜」

「愛ちゃんはいつもの調子なんだねぇ。かすみちゃんの方は大丈夫かな?」

「さっき可愛くてごめんねって言ってたし大丈夫だと思う……多分」

 否、大丈夫であるはずがない。かすみの楽観的な妄想とはかけ離れたこの空気に完全に飲まれている。必死に笑顔を作り演説を待ってはいるが、膝に置いた手の震えは誤魔化すことができない。

(大丈夫だよねこれ。かすみんが誰か選んでコンビユニット組んで、それでハッピーエンドですよね?なんというか凄く大変なところのど真ん中にかすみんいる気がするんですけど大丈夫ですよねこれ?)

 誰もそんなかすみの心境に気付かずにいる中、エマが演台に立つ。かすみには彼女の大きな体がいつもより何倍も大きく見えた。

「それじゃ1人目、エマっち!どうぞ!」

 エマがホワイトボードにペンで絵を描き始める。四角を描き、上の輪郭を膨らませて、見覚えのあるシルエットになってきた。

「かすみちゃん、これがなんだか分かるよね」

「えっ……食パンですよね?」

「正解!私のアイコンにもなってる食パンだよ!」

 エマは手を叩きにこやかにアピールを始める。その笑顔の中にある闘争心に気付いているのはせつ菜と歩夢、そして間近で見ているかすみくらいだろう。

「かすみちゃん前にコッペパン作ってきてたよね。わたしもパンとかお菓子とか作れるし、そういう活動をかすみちゃんと一緒にしたい!」

 普段のスクールアイドル活動とは主題が違う。ユニットを組むからこそできる互いの特技を存分に生かしたユニット活動だとエマは主張した。

「新しい可能性ってきっとこういうのを言うと思うんだ!だからかすみちゃん、わたしとユニットを組もう!」

 最後に力強く締めくくるとエマは演台から離れた。聞いていたメンバーはその本気ぶりに圧倒され「おお」と声を上げたり拍手をした。

「凄いねエマっち。短くしっかりまとまってたよ!さぁ次はせっつーの番だね」

「はい!負けませんよ!」

 エマのアピールのクオリティが高かったことがせつ菜をさらにヒートアップさせる。その目に灯る炎は彼女の心の炎の一端に過ぎない。

(パン作りユニット……確かにかすみんとエマさんの共通の特技だし、それをみんなに振舞ってお腹も心もいっぱいにしてあげるかすみん。楽しそう!)

 エマのアピールをしかと受け止めたかすみ。脳内で組み立てた未来のビジョンに保留のハンコを押して2人目のせつ菜のアピールに意識を集中した。

 続いてせつ菜が登壇する。そしてホワイトボードに描かれたのは人の顔だった。デフォルメされた大きな目をウインクさせて舌を出すショートカットの少女。月と星の髪飾りがアクセントであると共に誰であるかを分からせる。

「かすみんですか?」

「そう!かすみさんです!」

 やや食い気味にせつ菜か返事をする。エマの熱意も相当なものだが、その影響を受けてか元々せつ菜が持っている熱意も普段以上に高まっている。

「私はかすみさんとユニットを組むことによってかわいいかすみさんを特に目立たせて更に私のかっこよさも際立たせる!完璧なコンビニユニットとしてステージに立つんです!」

 せつ菜のステージは確かにかすみとは違う色をしたかっこよさがある。ある意味でかすみの対極と言えるかもしれない。

「皆さんに大好きになってもらうステージが私達なら作れるはずです!かすみさん!私と一緒にユニット組みましょう!」

 こちらに手を指し延ばす仕草、それを掴んだらユニット結成なのだろう。ならばまだ掴むわけにはいかないが、その手を掴ませようと体が動く。

 演台から離れたせつ菜にまた拍手と歓声が浴びせられる。堂々とした表情で下がるせつ菜の表情はまるでライブ後の様だった。

 ある意味思いを表現するというのはライブステージと同じかもしれない。

(せつ菜先輩とのライブステージ……キラキラ輝くかすみんとメラメラ燃えるせつ菜先輩。一緒に一つのステージを作るのは楽しいし、新しい発見ができるかも?それにせつ菜先輩人気だし)

 生まれたのは期待感だった。ステージに立つ自分がより輝けるように互いに切磋琢磨するコンビにしてライバルなペアユニット。自然と心が踊った。

「はいせっつーありがとー!それじゃ最後は歩夢ね」

 愛が手慣れた感覚で司会進行をする。歩夢はゆっくりと演台へと向かった。

(最後は歩夢先輩。どんなことがやりたいんだろう)

 心なしか歩夢の表情には緊張が見える。せつ菜は2人にしか見えない角度の時に物凄いドヤ顔をしていた。勝ち誇っていたとも言える。

(私だって……私だって!)

 それが自然とプレッシャーになり高いハードルにもなっていた。しかし歩夢の主張したいことは全くブレていない。

「え?」

 歩夢の行動に皆は驚いていた。2人と同じ様に歩夢もホワイトボードに自分の意思を描いた……この場合は書いたというべきだろう。

「これが私の思いだよ!」

 ホワイトボードには「一緒にやりたい!」という文字のみ大きく書かれていた。そのインパクトに皆絶句する。

「私はね。まだ具体的なことは何も言えないんだ。エマさんもせつ菜ちゃんもやりたい事を決めてたけど、私にはまだそういうのはないんだ」

 誰もがその言葉に驚いていた。歩夢にかすみとコンビユニットを組みたいという強い思いがあるのは確かなだけに、そのビジョンが曖昧なことが信じられなかった。

「本当はアピールってもっとこういうのを一緒にやろう!とか言うべきなんだけど、全然私一人じゃ作れなくって……だからかすみちゃんと一緒に作っていきたいなぁって」

 恥ずかしそうに歩夢は笑う。しかしその赤くなる頬と傾げる首の角度が歩夢のらしさをよく見せてくれる。

「だからかすみちゃん!私と一緒に色んなことをしよう!2人で何やるかを決めるところからになるけど、ちょっとめんどくさいかもしれないけど、私はかすみちゃんとユニット組みたいんだ。一緒に作りたいの。だから」

 一度大きく息を吸って吐く。意図して作った間が空いて、演台に両手をつく際に大きな音が上がる。

「私と一緒にユニット組んでください!!」

 まるで愛の告白のような飾り気のないストレートな言葉……歩夢の想いの全てがそこにあった。

「い、以上でいいかな?」

「うん!私が言いたいことは全部伝えたよ!」

 少しタジタジになっている愛に対して歩夢はスカッとした表情をしていた。後はかすみが選択するだけとなった。

(歩夢先輩……まさかここまでなんて)

 以前から歩夢の純粋さには押されることがあったかすみだったが、今回はその100%を自分に向けられた。

 その言葉は重く感じることもあり、同時にそれだけの想いを向けられていることが嬉しかった。考え込むふりをして少しだけ上がった口元を隠していた。

 

 かすみが椅子を離れると自然と顔は3人の方へと向いた。期待よりもお願いと言ったように想いを向ける表情がかすみに向かって集中した。

「かすみん、決まった?」

「はい」

 短い返事とともに3人は目を閉じる。祈るように両手を握りかすみの言葉を待った。

「かすみんが組むのは〜」

 ゆっくりと歩み寄りながら魔法の呪文を唱えるようにゆっくりと言葉を並べる。心臓が高鳴る。それは3人だけではなくかすみも、それらを見ているメンバー達もそうなのだった。隣にいる誰かの鼓動が聞こえていたかもしれない。

「あなたです!」

 硬く握られた両手を小さな手で包み込んだ。目の前にある表情は想像以上に赤く染まる。

「歩夢先輩、私と一緒に色んなことをしましょう!」

「……うん!!まずはどんな事したいかの企画会議からだね」

 包み込まれた手が震えている中で少しだけ硬くなる。ゆっくりと指を解いて握り直すと歩夢は思ったよりも強く握り返す。

「力強いですね歩夢先輩」

「ご、ごめん!嬉しかったからつい」

 握力を自覚したらすぐに手を離し、おどおどし始める。それを見るとまた口角が上がってしまう。

「ふーん……ふーん!」

 それを間近で見ていたせつ菜は憮然とした声を上げる。この結果にイマイチ納得できていないのだろう。かすみなら絶対に自分を選ぶと思っていただけに隠そうとしても態度に出てしまう。

「ねえ、かすみちゃん。なんで歩夢ちゃんを選んだの?せつ菜ちゃんもそうなんだけど、わたしとっても悔しいんだ。だから何が決め手だったのかなって教えて欲しくて」

「教えてください!かすみさん!」

 物理的に迫ってきた。エマも自分なりの納得できる部分を探したいのだろう。せつ菜も便乗する形でかすみと歩夢の間に入り迫る。

「なんでって『やりたかったから』だけですよ?歩夢先輩の言葉を聞いて1番一緒にやりたいって思ったから……それだけです」

 かすみの言葉は確信に迫っている様でどこか抽象的にも感じる。しかしそれが答えなのだ。

「エマ先輩とのパン作りユニットもせつ菜先輩とのかわいい&かっこいいユニットもやりたいと思いました。でも歩夢先輩が一緒に作っていきたいって言われた時に1番心が動いたんです」

 2人の間を通り抜けて歩夢の隣に着いた。イメージカラーのように柔らかで淡い笑顔の歩夢とかすみのキラキラと輝く笑顔が並ぶ。

「完全敗北だね、せつ菜ちゃん」

「そうですね……また機会があれば次こそは」

 握りこぶしを解いたせつ菜はふぅーと息を吐く。ため息と呼ぶにはあまり澱みのないそれを感じたエマがそっと頭を撫でる。

「わたし、せつ菜ちゃんのかっこいいステージって興味あるんだ」

「じゃあエマさんの色んな要素を引き出せる様に練り直しですね。私達も2人で作っていきましょう」

 何だかんだでエマとせつ菜もコンビユニットを組むに至った。特に普段見せないエマの気迫に少し怯えていたかすみはホッとする。

「しっかし、かすみちゃんは本当に人気だねぇ。次ユニット企画があったら彼方ちゃんもかすみちゃんと組んでみたいなぁ」

「うーんまぁ、かすみちゃん色々と凄いからね。私もあの表情豊かさには少し興味あるかも」

「ちょっと2人とも……気持ちは分かるけど今は自分のユニットに集中して」

「わかってるわかってる。でも果林ちゃんもわかってるんだねぇ、ふふふ」

 果林達の言葉が耳に入ると、自然としずくが反応する。かすみがチヤホヤされるのが少し悔しいのだろうか。

「ふーん……皆さんそうなんですねぇ」

「まあねえ。かすみん面白いし」

「愛さんまで!」

「ははは、しずくだって狙ってるくせに〜さっきからずっとかすみんの方ばっかり見てるぞっと!」

 実際にはその悔しさの方向が異なっていた。対抗意識はあるが、それと同じくらいにしずくもかすみと組んでみたいという気持ちがあった。

「おやおや〜?もしかして皆さんかすみんに夢中なんですか〜?」

「え!そうなの?ダメだよ!かすみちゃんは私とユニット組むって決めたんだもん!」

「えへへ、かすみん人気者だなぁ」

 がっしりと歩夢に抱きしめられながらみんなの注目を浴びる。本来なら恥ずかしいはずだが、自分のことを見ていると考えると自惚れの方が上回る。

「そうだね。かすみちゃんは大人気スクールアイドルだもん!」

「流石はみんなのプリンセス!ですね!」

「いやあ〜それほどでも〜」

「かすみちゃんもっと笑って」

「かすみん、ええ顔してるよ!笑顔だけに!」

「彼方ちゃんにもちょうだーい」

 皆がかすみを囲んで褒め称える。四方八方から聞こえてくる自分を呼ぶ声にかすみはアイドルらしく答えた。

「かすみさん素敵だよ」

「かすみちゃんは最高ね」

「ええ〜果林先輩としず子まで〜」

 普段なら聞けることがないであろう2人の言葉とテンションに違和感を覚えながらもニヤニヤしている自分がいる。結局はそうやって褒められている事が嬉しくて仕方ないかすみであった。

 

「かすみちゃん!かすみちゃん!」

「……ん〜zzz」

 部室で1人熟睡しているかすみに声をかけるスクスタ。かすみがそれに反応する事はない。

「かすみん!起きてかすみん!」

「んへへ、かすみんですよ〜……ンスゥー」

 かすみんと呼ばれると言葉を返しているのだが、寝ぼけているのではなく完全に寝言ということが分かる。

 もはや奥の手を使うしかなかった。

「おーい、かすかすー!」

「かすみんです!!」

「あ、起きた」

 もはや体が覚えているのだろう。見事な反応力でかすみの上半身は持ち上がる。両目はパッチリと開いているが、少々見開きすぎているようにも見えた。

「あれ?みんなは?かすみんとユニット組みたいんじゃ?」

「ユニット?かすみちゃんのユニットはQU4RTZでしょ?」

 この部屋にはかすみとスクスタしかいない。ホワイトボードは真っ白で、かすみは大体のことを察する。

「もしかして……夢?うそうそうそ!みんなかすみんのこと大好きで、かすみん大人気だったのに!」

 立ち上がったかすみはとりあえず用具箱やロッカーを開けたり、窓から周りを見渡してひたすらメンバーを探していた。

「おーいみなさーん?どこですかー?みなさんが大好きなかすみんはここにいますよー?は、早く出てきてくださいよ〜ぉ」

 完全に平静を保てられていないその表情と言動と行動。とても深刻そうで、しかしスクスタの中では笑いがこみ上げてきていた。

「ちょっと先輩!なにボーッとしてるんですか!みなさんを探してくださいよ!」

「え?いや今日は活動休みだからみんな来ないはずなんだけど」

「へ?お休み……あ!」

 ようやっと夢から覚めた。そして休みの日であるにも関わらず部室で眠っていたのか思い出した。

(そうだ。みんながいない時に練習したりイタズラ仕込む為に来たのに……ポカポカしてたからついウトウトして)

 最近は練習続きな上に自主練もしていただけに疲労が溜まっていたのだ。そこに適度な日差しが差し込む部室、彼方じゃなくても眠ってしまうだろう。

「それで部室が開いてるから誰か来てるのかなって思ったら、かすみちゃんが一人で寝てたから」

「はぁ……結局無駄な時間を過ごしちゃった。しかもあんな夢見て」

 思わず頭を抱える。夢と分かると自惚れた自分が露呈したようでとても恥ずかしい。

「でもみんながかすみちゃんのことが大好きで、かすみちゃんが大人気なのは夢じゃないと思うけど」

「そ、それは当然じゃないですか〜。かすみんが一番かわいいんですから!」

 スクスタの言葉で少しだけいつもの調子を取り戻す。なんだかんだ言いながらも煽てには弱いかすみであった。

「だから、かわいいかすみんに何か奢ってくださいよ〜先輩」

「はいはい。そういうところがかすかすなんだよ」

「かすみんです!奢り二回分追加!」

「ええぇ……」

 かすみの横暴な言葉に苦い笑いを浮かべながらも拒否しないスクスタ。脳裏に浮かぶのは彼女を諌める事よりも財布の中身だった。

「ふっふっふ、かすみんに付き合ってもらいますよ!先輩もかすみんのこと大好きなんですよね?」

「分かった。行こっか」

「わーい!先輩大好きー!」

 あざとく飛び跳ねるかすみに手を引かれる。同好会メンバーがそんな彼女のことが大好きなのは間違いないのだ。もちろんスクスタも。

(えへへ、みんながかすみんのこと大好きだなんて知ってますもーん)

 上機嫌なスキップで刻まれるリズムを聴きながら2人は学園を後にした。




久しぶりに9人+1人を出した内容でした。書いてる途中にオールスターズ配信発表されて、こんなことがあればな〜というのが少し強く出てしまいました。
かすみんの事がみんな大好きで、みんなの事が大好きなかすみん、これは揺るがない事実でしょう。ソロ9人とはいえなんだかんだみんなとの絆が強いかすみんが好きです。

あと公式の"あなた"が思ったよりも喋っていたのでうちのスクスタも喋らせてみました。これからどうするかはまた追い追い考えていきます。
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