私的鉄心END   作:たまごぼうろ

10 / 48
隻狼のせいで全然更新できなくて、気づいたらpixivに追いついてしまいました。
なので次からは同時投稿にしていこうと思います。
やっと前書きしっかり書ける。嬉しいです。
今頑張ってストック作っているのでもうしばらくお待ちを・・・

本編の話をすると今回から第3夜となります。
ようやく鉄心士郎の戦いが始まりますね。
ストーリーもようやく中盤に差し掛かります。
是非、最後まで見ていただければと思います。
では、どうぞ。


2月10日 第3夜
鉄心 戦いの始まり①


「ん…うぅぅ……………」」

柔らかな光が目に入る。

それは自室の窓から差し込んでいた。

眠い。体が布団に縛り付けられるみたいだ。

もう少し、もう少しだけ、この楽園の中で微睡んでいたい。

そう思って時計をちらり

「……………って、え!?」

体を起こし、頭をぶんぶんと振る。

時刻は朝8時。

寝坊である。

世間の皆様が動き出す時間帯。

なんと、その時間に目覚めた怠け者がここに居た。

「あちゃぁ…目覚ましかけてなかったかぁ…」

寝坊なんていつぶりだろう。

気持ちが緩んでいるのか。今まででは考えられないことだった。

しかし言い訳をさせてくれ。こうなったのには理由がある。

昨日の事だ。家に帰った後、藤ねえ達とご飯を食べた。

昨日の夕飯は鍋。野菜にきのこに鱈に海老に、珍しくあさりなんかも入れて、しっかりおじやまで楽しんで、大変贅沢な食事だった。

心もお腹も満たされて、満足満足。偶にはこんなのも悪くない。

ここまでは良かった。

問題はその後、食事をして気が大きくなったのか、藤ねえと雷画さんが酒盛りし始めた。

別に、それ自体は予想していたので、さしたる問題じゃない。

問題はその量だった。

飲むのであれば何か肴が居るだろうと思って、台所に立ち、数十分して、振り返ってみたら

「し~~~~~ろ~~~~~、お酒足りなぁ~~~い」

何て言って、酒瓶抱えた虎がいて、

その隣には

「よし、坊主!……………相撲だ、相撲取るぞ。表出ろ。」

何て言う、強面の虎もいた

前門の虎、後門にも虎。

それらに挟まれた俺は、まさしく食べられるだけの兎。

 

そこからは、もはや地獄の再現にも等しかった。

騒ぐわ、暴れるわ、散らかすわで、奇行を止めるだけで精一杯。

最終的には2人して酒を飲ませようとしてくるし、もう大変だったのだ。

結局藤村組の若い方々が助けに来てくれて、それでようやく事なきを得た。

あれが帰宅しただけで収まるとは到底思えなかったが、それはそれ。

こうして、哀れなラビットは、肉食獣の魔の手から逃れ、平穏を得ることができましたとさ。めでたしめでたし。

なんて、そんな簡単に追われる筈はなかった。

彼らが汚しに汚し、散らかしつくした居間の片づけ。

俺にはそれが待ち構えていたのだ。

藤村組の方が手伝うと言ってくれたが、そのビースト2人を引き取ってくれるだけでもありがたいのに、さらに掃除まで手伝わせるわけにはいかなかった。

と言う訳で、1人で黙々と部屋の掃除をしていれば、気づけば日を跨いでいて、

その頃には、自らも疲れ切っていて、自室に戻るなりすぐに眠ってしまったのだ。

これが事の顛末、という名の言い訳だ。

とにかく起きて準備をしないと

さようなら、また今日の夜、待っていてくれ。

断腸の思いで布団に別れを告げ、自室を後にした。

 

 

 

簡単に朝食を済ませる。

時刻は10時前。

今日の天気は快晴の一言で、日が日なら新都なんかにでも出かけて、1日遊び倒したくなるような、

主婦の方々にとっては絶好の洗濯日和と言えるような、

とにかく、2月の頭には珍しい、ポカポカした陽気が差し込んでいた。

天気が良い、というのは、それだけで何だか嬉しくなる。

憂鬱な1日にも、たったそれだけで一気に色が付く。

だけど、そんな最高の天気とは裏腹に、俺の胸中には真っ黒な雲が埋め尽くしていた。

窓から差し込む光が眩しい。

遠くから聞こえる小鳥の囀りがひどくうるさく感じる。

そう思えるくらいに、心の中には暗雲が渦巻いていた。

今日の夜、間桐邸を襲撃し、間桐臓硯を殺す。

俺の頭はそれでいっぱいだった。

その為に、昼間の時間はすべてその準備に当てなければならない。

柔らかな日差しも、頬を撫でる心地よい風も今の俺には不要だ。

太陽に別れを告げて、薄暗い土蔵に入る。

切嗣が遺した武器は、すべてここに隠してある。

取りあえず、今はこれらの整備と、あとは使い方を覚えよう。

そう思い、死の塊たちに向き合った。

 

 

 

1時間ほど武器に触れたりして、大分使い方が分かってきた。

まず、これらはとても強力なものではあるが、どれも魔術師に対しての決定打とはならない。

彼らがもっているのは、これら最新の叡智を真っ向から否定する最古の異能だ。

魔術というのは人類の進歩とともに薄れていき、最終的には消えてしまうものだが、ならば科学の方が優秀かと言われれば、それは違う。

神代の魔術のような反則じみたものこそ無いものも、未だ魔術の方がそれを上回っている。

なので、基本的には牽制程度にしかならない。

ただ1つ。この大型の銃を除けば

起源弾。

対魔術師において、必殺となる魔の弾丸。

この弾丸に対して、魔術的干渉をすれば、その使用者の魔術回路はたちまちに切断、そして再び繋ぎ直される。

そのどれもがでたらめに、めちゃくちゃに、

人間で例えるなら、神経全てを一本一本断ち切られるようなもの。

これを使われて、生きていられる魔術師なんていないだろう。

しかしそんな絶対の必殺は、わずか1発のみ。

使いどころは考えなくちゃいけない。

「さてと、次はどうするかな。」

昼間のすべてを準備に当てる、と言ったはいいが、案外やることが無い。

正規の魔術師ならば、自らが使う魔術や使い魔の準備や、万が一に備えての魔術回路の保存など、やるべき事は多いはずだが。あいにく俺はただの魔術使い。たいそうな準備なんて必要じゃなかった。

ならば少しでも体を動かして、来るべき戦いに備えよう。

そう思って、今度は道場に向かおうとする。

その時だった。

 

ぴんぽーん

 

玄関で呼び鈴がする。どうやら来客が来たようだ。

「届けものか…?そんな予定あったかな。」

そう呟いて、急いで玄関に向かう。

 

ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん

 

呼び鈴を嵐が聞こえる。どうやら、よほどせっかちな宅配便らしい。

 

ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん、

 

「はいはい!今出まーす!」

そう返して、がらりとドアを開ける。

しかし、そこに居たのは、宅配ではなかった。

待たされたことに腹が立ったのか、仏頂面で目つきの悪い男が1人。

明らかに不機嫌そうな顔で、こちらの歓迎を待っている。

 

「よう、衛宮。邪魔するぜ。」

 

件の計画のキーパーソン。間桐慎二が立っていた。

 

 

 

 

「慎二……………!」

「何だよ衛宮。鳩が豆鉄砲を食ったような顔して、僕がここに来るのがそんなに以外かよ。」

昨日、自分が間桐邸を訪ねた時に言った言葉と同じ言葉をかけてくる慎二。

「意外っていうか、ちょっと突然だったもんで、驚いた。……………えっとそれで…昨日は……………」

そう言って、目線をそらし、言葉を濁す

しかし、慎二の方といえば

「それは昨日の僕も同じだっつーの…まぁいいや。とにかく上がるよ。茶の1つでも出してくれ。」

そう言って、ずかずかと家に上がってくる。

「あ、ちょっと待てって!」

その背中に声をかけるも、止まっちゃあくれない。

「はぁ……………、何考えてんだ。あいつ。

正直、かなり気まずい。

昨日慎二を殺しかけたばかりなのに、今度は慎二の方から俺の家にやってきた。

しかも、いつもと同じ調子で。

まるで昨日とあべこべの構図。なるほど、確かにあれだけ困惑するよな。

「おい!お前の家無駄に広いんだよ。居間どこだよ!」

自分から先に行ったのに、勝手に迷っている慎二。

「あいつらしいな…」

勝手に1人で納得して、自分も居間に向かった。

 

 

 

「分かりにくいんだよ。お前の家。」

ぶつくさ言いながら、居間のテーブルの前にドカッと座る慎二。

結局先に言ったはいいが迷ってしまったので、案内しながら入ってきた。

「えっと…何か飲むか?と言っても日本茶くらいしかないけど…」

取りあえずお茶を勧めてみる。

腰を据えて話すならこいつは欠かせないだろう。

「日本茶はあまり趣味じゃないんだけどね。紅茶とかコーヒーとかないわけ?」

「うちはもう日本茶飲む人しかいないからな。そこまで言って買ってこようか?」

桜やセイバーが居ない今、うちで茶を飲むのは俺と藤ねえくらいだった。

それでも少し前までは買っていたが、それももう必要なくなったので今はもう無い。

「いや、そこまでしなくていいよ。もうそんなに来ることないしね。」

「そっか…」

それきりで会話は止まってしまう。

どうやら慎二の方も緊張しているようだった。

当然と言えば当然だ。昨日殺されかけた相手の家を訪ねるなんて、それこそ自殺に等しい。

「…………」

「…………」

俺達の間に気まずい沈黙が流れる。

ただお茶を淹れているだけなのに、それがひどく長く、そして不自然に感じられた。

 

 

お茶ができたので、それをテーブルに持って行き、簡単なお茶菓子を出す。

「出来たぞ、熱いうちに飲んでくれ。」

そう言って、自分も一口啜る。

うん、悪くない。

いつもより渋めにしたので、気が引き締まる。

慎二も黙って飲んでいる。どうやら機嫌を損ねるほど悪い出来ではなかったらしい。

「ふぅ・・・・・・・」

少し落ち着くことができた。張りつめていた神経がほぐれていく。

「さて、」

しかし、黙っているわけにもいかない。昨日と違って、慎二がうちに来た用件は分かっている。

まっすぐと慎二を見つめて言う。

「返答を聞こう、慎二。お前はどうするんだ?俺に協力するのか、それとも傍観に徹するのか。今日はそれを言いに来たんだろ。」

あくまで自然に、昨日のような殺意は出さず、かといって砕け過ぎず、

努めていつも通りで慎二に問う。

「……………」

慎二も、その問いで意志が固まったのか。こちらを見据えて言葉を返してくる。

「そうだな…お前の言う通り、今日は返答に来たんだ。でもその前にさ、1つ話していいかな。」

「話?なんだよ。今更学校の事とか聞くんじゃないだろうな。」

突拍子もないことを言ってきたので、思わず軽口で返してしまう。

「はは。お前じゃあるまいし、そんなことしないさ。」

それにまっとうな意見を入れられる。

ぐ、今この軽口はミスったか。

仕方なく、慎二の次の言葉を待つ。

今日の慎二はどこか真面目だ。

と言っても、学校で授業を受けているような雰囲気とは違う。

言うなればそう、顔が違う。

何かを決意したような、荘厳なオーラがある。

昨日の出来事が、こいつの何かを変えたのだろうか。

そうして、慎二が口を開いた。

「らしくないとは分かってるけどさ。お前には伝えなきゃなって。まぁ、つまり、ただの虚しい自分語りなんだけど。聞いてもらえるか?」

そう言って、慎二はぽつり、ぽつりと語り始めた。

 

 

「桜の事さ。昨日改めて確かめたんだ。」

最初に挙がったのは意外にも桜の名前だった。

「あいつ、本当に死んだんだってな。」

「…………あぁ、桜は死んだよ。俺が、見殺しにした。」

少し罪悪感がよぎる。

「いや、別に責めてるんじゃない。ただ、そのなんて言うかな…」

申し訳なさそうにしている俺に気づいたのか、フォローをしてくる慎二。

やはりなんだかんだ言っても、こいつはいい奴なのだ。

少し言葉を濁したが、語りを続けてくる。

「僕さ、桜の事ずっと嫌いだったんだ。養子のことは聞いてるだろ?あいつがうちに来てから、僕はいらないものになった。お爺様もお父様も、僕の事なんて見なくなった。あいつは、僕からすべてを奪ったんだ。」

初めて聞いた慎二の過去。

桜は間桐に養子に行ったせいで、まっとうな生活を失ったが、慎二もそれは同じだったのだ。

慎二はいつだって勝ち気で、それ故に空回る事もあるが、自分の弱い部分を口にするタイプじゃない。

基本的に、プライドがそれを許さないからだ。

そんな慎二が、今、自分の弱さについて話そうとしている。

彼もまた、変わろうとしているのだ。

慎二は上を向き、天井をぼう、と見つめながら続ける。

「そのくせあいつ、僕に悪いなんて思ってやがって、顔を合わせたらいつもしおらしくして、

『ごめんなさい。兄さん。』

なんて言うんだよ。笑えるだろ?僕からすべて取っておいて、それに罪悪感持ってるなんてさ。それに増々腹が立って……だから、だから僕も奪ってやった。」

まるで罪を自白する容疑者。

慎二は次第に自嘲気味になっていく。

「だって当然だろ。あいつが僕から奪ったように、僕もあいつからいろいろ奪ってやった。殴ったし、蹴った。叩いて、押し倒して、首を絞めて…そうして動かなくなったあいつをぐちゃぐちゃになるまで犯してやった。」

薄く笑って、狂気的なことを告げてくる慎二。

間桐の家は壊れていた。しかも、俺が想像していたよりずっと昔からばらばらになっていて、それを辛うじて繋いでいたのは、血の繋がりなんていう不確かで曖昧で、空気や水と何ら変わらないものだった。

それぞれが苦しんで、もがいて、でも助けなんて来なかったから、

歪んだ環境に適応するには、自らも歪むしかなかったんだ。

そうやって、自分たちを傷つけながら、自分以外も傷つけて、それでも必死に生きようとしていた。

「それでもあいつ、何も言わないんだ。何も言わないから、どんどんエスカレートしてさ、あいつを何度も傷つけて、傷つけて、傷つけて……………その度にどんどん虚しくなっていった。」

「いつも考えていたよ。もしあいつが居なければってさ。」

「……………慎二、…お前。」

これは自分語りなんて、そんな気持ちのいいものじゃない。

これはただの自傷行為だ。自らの心の傷を自らで開いている。

この傷はまだまだ治ってなくて、今でも生々しく慎二の心を痛めつけてて、

なのに、こいつはそれを開き続けて、あまつさえ俺に見せてくる。

「そう、そうだよ。あいつ、あいつがいなかったら僕はきっと!いや、でもそれすらももう遅くて…そんな自分に腹が立って、またあいつを犯してやって!いくら泣いても、やめてなんかやらなくて、文字通り人形みたいにしてやってそれでーーーーーーー」

見て、いられなかった。

「もういい!やめろ慎二!これ以上言わなくても大丈夫だ!お前の気持ちは分かった。お前は、お前はずっと……………」

壊れたようにしゃべり続ける慎二を身を乗り出して止める。

もういい、もう十分だった。

慎二が今までどれだけ悩んで、痛めつけられてきたか、それは傷を通して俺にも痛みのように伝わってきた。

だが、

 

「離せ!僕は正気だ!これは、僕が言わなくちゃならないことだ!!」

 

「ッ!!」

そう言って、俺の腕を振りほどく。

 

「止めるなよ衛宮。これは僕が言わなきゃならない僕の罪だ。同情して欲しいわけじゃないし、憐れんで欲しいわけでもない。ただ僕は、これをお前に言わなきゃいけない。そうしないとお前と対等になれないからだ!!」

 

そこまで聞いて、自分が愚かなことをしたとようやく自覚できた。

他でもない慎二自身がこれを望んでいる。

苦しむのなんて百も承知。自己嫌悪に押し潰されるのなんて分かっている。

「はぁ、はぁ。」

慎二の息は荒い。

しかし、その眼が決して止まらないと、そう言っていた。

言葉が、出なかった。

……………止められるはずない。

こいつは俺と同じだ。俺と同じく覚悟をもってここに来ている。

ならば止まらない。何度止めようと、こいつは語るのを止めないだろう。

ならば、黙るしかない。その罪を俺は聞いてやることしかできない。それが俺にできる最低限の礼儀だ。

慎二は再び語り始める。

「だからさ、昨日死んだのを聞いたとき、僕はきっと、自分は喜ぶと思ったんだ。これで解放される。もう、これ以上苦しまなくてもいい。……………でも、実際は違くてさ。」

ずっと自分に隠してた、本当の、心からの想いを

 

「……………僕さ、何だかほっとしたんだよ。桜が死んだこと自体にじゃない。あいつが、あいつがまっとうな死に場所で当たり前に死ねたことに。」

 

これがあの時、あいつが語れなかった本心。

もはや桜は居ない。この言葉が届くはずもない。

それでも、

「可笑しいよな。あんなに嫌いで、憎んでたのに、いざ目の当りにしたら、そんなの一瞬で忘れちまった。体中虫に侵されて、お爺様の道具にされて、人としての未来なんて残っちゃいなかったあいつが、それでも、なんでもないただの人間のように眠れたことが、何だか、その…すごく安心したんだよ。」

「慎二………、お前。」

気づけば慎二は泣いていた。

きっと、悲しかったからじゃない。

こいつは気が付いてほしかったんだ。自分の痛みと桜の痛み。その両方に。

いくら暴力を振るっていたとはいえ、いくら憎んでいたとはいえ、慎二と桜は兄妹で、家族で、切り捨てることなんて、出来なかったんだ。

「そして同時にまた不安になった。桜が居なくなったら今度はお爺様は何をするんだろうって、ひょっとしたら、またどこかから養子を取って、桜みたいに拷問して、そんなことを繰り返すかもしれない。」

そしてこいつは、その死を、桜という犠牲を乗り越えて前に進もうとしている。

「それはダメだ。あんな事、繰り返しちゃいけない。桜が命をもって止めたことを無駄にしちゃいけない。だって僕は、あいつの、たった1人の兄貴なんだから。」

決意に満ちた表情。

————あぁ、やっぱりだ。

その顔はどうしようもなく、妹を心配する兄の顔で、

眼をこすって、前を向いて、慎二は今度こそ返答を述べる。

 

「お爺様を止める。あの人は間桐の癌そのものだ。新しい間桐の当主として、僕の手で終わらせるんだ。だからさ衛宮。僕に協力してくれ。一緒に、あの人を殺そう。」

 

これが答え。

自らのために、亡き妹のために、慎二は剣を取る。

そう決めてくれた。

 

「ふふ。」

つい笑ってしまう。

「おい、何がおかしいんだよ。これでも恥を忍んで、」

「いや、悪い悪い。協力を頼んだのは俺の方なのに、結局お前から頼んでくるとか、ほんと、慎二らしいなって。」

そう言うと、顔を赤くする慎二。

「い、いやいやいやいやそれは、その…そう!言葉のあやというか……………、と、とにかく!どうするんだよ、やるのか?やらないのか?」

しどろもどろになりながらも、聞いてくる慎二。

答えなんて、俺の中では最初から決まっていた。

 

「もちろん、協力させてくれ。お前が居れば百人力だ。頼りにしてるぜ、慎二。」

そう言って、手を差し出す。

 

すると慎二は再び赤くなりながらも

 

「あ、あぁ!大船に乗った気でいるといい!なにしろこの僕が協力してやるんだからな!負けなんて、万に一つすらも有り得ないさ。」

 

そう言って、力強く手を握り返してくる慎二。

昨日の自分ならば余分に感じていたであろうその重みが、今は頼もしかった。

桜が死んだ日から、俺はずっと一人で考え行動していた。

迷いもなかったし、寂しくもなかった。

自分がこの理想(正義の味方)を持ってる限り、切嗣が傍に居る気がしたからだ。

……………でも、初めて

初めて、心から通じ合って、俺を助けてくれる奴が現れて

こんな状況だけど、仲間って呼べる奴がいたことが

それが、どうしようもなく嬉しくて。

「ありがとう、慎二。」

思わず礼を言っていた。

すると慎二は

「なんだよ、お前、やっぱり笑えんじゃん。」

そう言って、まるで自分の事のように嬉しそうに笑っていた。

それはとても穏やかで、輝いて見えた。

この時だけは中学の時と同じ

聖杯戦争も魔術も関係なかった、あの時のように

ただの友達として、笑いあった。

そう、思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

たとえ、その平穏が

 

臓硯を殺すという、歪な目的で出来上がったものだとしても。

 

 

 

 

握手を交わした後、1時間ほど作戦会議をした。

慎二はこれから言峰のところに行って、昨日の礼と、協力をすること、そしてその段取りを説明するらしい。

正直、作戦で動くのが苦手な俺にはありがたかった。

「いいか、お爺様は僕の事を何とも思っちゃいない。お前には監視をつけているかもしれないが、僕には何もしていない。僕はそれを逆手に取る。…やるからには派手に行こうぜ。僕たちはどうせ負けてるんだ。聖杯戦争のルールになんて、縛られなくていい。」

俺が昨日、概要だけ説明した作戦に、どんどん色を加えていく慎二。

現実味を帯びていく計画に心が震えた。

「でも、結局僕じゃお爺様を殺せない。僕にできるのはここまでだ。だから、最後はお前と神父さんにかかっている。」

「分かってる。そこまでしてくれるなら十分だ。……………必ず勝つ。」

慎二は俺たちのために最高の状況、臓硯にとっては最悪の展開にするために苦心してくれている。

なら、俺はそれに応えるだけだった。

「じゃあ、話はここまでだ。これから新都に行って、その後準備しないとな。」

そう言って、慎二は玄関に向かおうとする。

時刻はまだまだ昼過ぎだが、慎二にはあまり時間が無い。

「決行は今日の22時だ。それまでに神父さんと合流してくれ。」

「あぁ、気をつけろよ。」

 

扉の前でそう言って、家を出ようとする慎二。

しかし、扉を開けたところで、何かを思い出したのか。

くるりとこちらを向いて、拳を突き出してくる。

「……………ほら。」

「…………………………?」

「いやだから、お前も手を出せって!くそ、なんでこんなこと言わなくちゃいけないんだよ。」

「……………あ、」

そこまで言われてようやく理解する。

セイバーとはこんなのやらなかったからな…

何と言うか、勝つのは当たり前です!みたいな感じだったし

そう思って、自分も拳を突き出す。

「やっと気づいたか。相変わらずノリが悪いな。……………ま、そこがお前らしいけどな。」

拳と拳を合わせる。

これは契約だ。俺たちの最初の共同戦線の契約。

何が起きても裏切らないという友情の証。

「…勝とうぜ、衛宮。」

「…あぁ、もちろんだ。」

2人で決意を交わした。

「邪魔したな。」

そういって、家を出ていく慎二の背中を見送る。

次に会うのは戦闘が始まってからか、それとも終わった時か、

どちらにせよ、お互いが五体満足でいられる保証なんてない。

それでも、俺たちはやるって決めた。

恐怖なんてない。だって1人じゃないから。

きっと慎二も俺と同じ気持ちだろう。

 

さぁ、遅くなったけど、ようやく1歩を踏み出せる。

武器もある。仲間もいる。そして何より、決して揺らがない意志がある。

悪を討つ。

そこにどのような願いが、祈りが、想いがあろうともそれらすべてを踏みにじる。

臓硯を殺し、あの影を止める。

必ず、必ずだ。

じきに日も暮れる。戦いの夜がやってくる。

 

さぁ、聖杯戦争を続けよう。

 

夢を叶える、その日まで。

 

 




今回鉄心ENDのその後を書くにあたって、自分が最も書きたかったのがこの「慎二との共闘」です。
原作でも、有り得たかもしれない幻のルート、なんて呼ばれるくらいなので想像した事がある方も多いのではないでしょうか。
僕自身慎二はすごく好きなキャラで、どこかで報われて欲しいという気持ちも、同時に贖えないことを彼はしていたな、という気持ちもあります。
これでやっとお膳立ては終わりです。
彼らは、1度離れられたはずの聖杯戦争の渦中に再びその身を投じます。
その行く末を、見ていただければと思います。


どうか、彼らにとってこの戦いが、意味のあるものに、なりますように。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。