新年度の忙しさにやられてしまい、作業が進まず、気づけば中旬になっていました。
しかし大分ストックが溜まりましたので投稿となります。
加えてTwitterを始めてみました。
流石に次話投稿までの間黙っているのはあれなので、進捗や日常などを呟いてみようと思います。
なので良ければフォローの片隅に置いていただき、尚且つこの私的鉄心ENDを拡散などしていただければ、僕はすごい嬉しいです。
是非お願いします。
では皆様、新年度頑張りましょう!僕も投稿頻度を上げれるよう頑張ります!!
陽が落ちた。
夜の帳が町全体に降りていく。
昼頃の晴天を引き継ぎ、空には雲一つなく、月明かりが闇を照らしていた。
現在は午後20時30分。
そんな月明かりに照らされた街へ、1人の少年が歩を進めている。
衛宮士郎。今夜起こりうる惨劇の主役である。
今宵の夜とは対照的に、彼の眼には光1つない。
背中には竹刀袋を背負い、腰にはポーチのようなものをつけている。
そんな彼が足を止める。
到着したのは言峰教会。
今夜の襲撃に備え、1度集まるために来ていた。
「ふぅ…」
彼は基本的にここが苦手だ。
重苦しいというか、息が詰まるような独特な雰囲気がある。
それは言峰と共闘をすることになっても変わってはいなかった。
全く、こんなことにならなきゃ一生ここには寄り付かないんだがな。
そう思って夜空を見上げる。
教会の丁度上方。
今夜は満月だ。
まるで自分が主役だと言わんばかりにそこにある光。
それがこちらを観ている。
いつもなら風情がある、と思うはずだが、今は目に痛かった。
今夜自分が行うのは、こんなに綺麗なことじゃない。
暗くて、澱んでいて、美しさの欠片もない所業だ。
なのに、お月様にこうも立派に輝かれちゃやりにくい。
そう、なんだか後ろめたく感じるほどに立派だった。
それを憎々しげに睨んで、教会に入る。
重いドアを開け、中を見渡す。
教会内も月明かりに照らされていた。
神の御座。そこを照らす月輪。
神を信ずるものから見れば、思わず祈りたくなるような神秘的な光景。
そこに、不釣り合いな影が1つ。
「来たか、時間通りだな。」
教会の中央、祭壇の目の前に言峰綺礼が佇んでいた。
昨日と違い、顔は真剣そのものだった。
彼は士郎の様子を少し眺めて言う。
「…ほう。流石に今回はナイフ1本と言う訳ではないのだな。」
「当たり前だろ。昨日とは状況が違う。」
今回の士郎を武装は、竹刀袋に入った木刀、袖の中に仕込んだナイフ、ポーチに居れた手榴弾やワイヤー、火炎瓶や爆薬など。
そして懐のホルスターには
彼の現状を顧みても、万全としか言えない装備だ。
「そう言うアンタこそ丸腰か?まさか徒手空拳じゃないだろうな。」
一方の言峰は士郎と比べると些か身軽に見える。
「まさか、それほど楽観的ではないさ。」
そう言って、言峰は両手を軽く振るう。
するとそこには
「!」
片手に3本ずつ、合計6本の剣が握られていた。
しかしそれは、剣と呼ぶには弱弱しく、まるで投擲に使うような見た目だった。
「これは教会の代行者が使う概念武装。名を黒鍵と言ってな。簡単に言うならば、死霊に特化した浄化の剣だ。あの死に損ないのご老公にはたいそう効果があるだろうな。」
概念武装。
士郎の武装のように人間を傷つけることに特化したものでは無く、意味や概念などに守られた存在に傷をつける魔術兵器。
例えば、相手が死霊まがいの存在ならば、普通の武器では干渉できないが、黒鍵などならば、触れただけで強制的に成仏させてしまう、など強力な浄化の祈りが込められている。
これが聖堂教会、代行者の武装だった。
「まぁ、今は未熟者に教える時間もない。簡単に計画の確認を行おう。」
いつもならば、士郎の無知に対して皮肉を投げる言峰も、今日に限ってはおとなしかった。
「あぁ、じゃあ改めて説明するぞ。」
そう言って、士郎が説明を始めた。
士郎が考えた作戦はいたってシンプルなものだった。
間桐臓硯。疑似的ではあれ、不死を体現しかけている男。
しかし彼には、彼であるが故に致命的に弱点がある。
それは、良くも悪くも彼の使い魔が
彼は蟲を使い魔にすることによって自らが赴かずとも諜報や索敵などを行える。
これにより他の参加者よりも早くマスターとサーヴァントの正体を掴むことができる。
さらに言えば、戦闘面でも強みが多い。
視蟲や翅刃蟲など、単体では魔術師戦に向いている虫達。
それらが束になれば、並の魔術師でも苦戦するだろう。
しかし反面、どうしても拭えない弱点もある。
それは
「しかしまぁ、改めて聞いても大胆な作戦だ。お前もそうだが間桐慎二も正気では無いな。まさか
そう、それは炎。
今は昔、太古の時代。
人類が初めて手にした叡智であり武器。
それまで神の権能だったものが、初めて人の手に落とし込められた。
それにより人が知識を持つ時代になるのだが、それはまた別の話。
兎に角、臓硯が蟲を使い魔としている時点で、弱点は火となってしまう。
実際に第4次聖杯戦争において、間桐からの参加者が、火を扱う魔術師に大敗したという前例もある。
炎による火攻め。慎二が用意した必勝の策。
慎二は魔術師ではない。故に彼に魔術は使えない。
ならばこそ、魔術によってではなく、人が生み出す火炎によって間桐の歴史を焼却する。
当初の士郎の計画では、慎二に間桐邸侵入の手引きをしてもらう予定だったが、慎二がそれを拒みこちらを提案した。
魔術師ではなく、一部たりとも警戒のされていない。
しかし、警戒が無いからこそ、決行のその瞬間まで気づかれることが無い。
そんな慎二だからこそできる作戦だ。
「…正直、そこまでやるとは思ってなかった。」
士郎はかすかに苦笑して言う。
「それが彼なりの君への敬意なのだろうよ。ここにして彼も成ったと言う訳だ。」
一方の言峰はさもありなんとばかりに言う。
「彼は自らが犯した罪と、自らを縛り付ける呪縛。それら2つを文字通り灰に帰そうとしている。その覚悟を笑うことなど私にはできんよ。これは紛れもなくお前と彼の戦いだ。私などあくまで端役にすぎん。」
「……………」
友の覚悟に静かに感謝する士郎。
しかし感謝に浸る時間は無い。
確認を続ける士郎。
「今は20時40分。これが22時になった時、慎二が火をつける。それと同時にアンタは間桐邸に突入。」
しかし、その決死の特攻を試みるのは士郎ではなかった。
「そして、俺は
これが彼の役割。
間桐邸に突入が成功しても、そこにアサシンが居ては話にならない。
だからこそ、士郎は昨日わざわざ間桐邸に行き、計算外とはいえ宣戦布告までして、臓硯を警戒させた。
慎重なあの老人ならば、それで必ずアサシンを自分に向けるだろう。
あれは、そのための布石だった。
「いいのか?自らの手で臓硯を殺さなくて。」
神父の疑問は尤もだ。
臓硯を何よりも目の敵にしているのは紛れもなく士郎。
あの影と繋がり、善良な人々を次々と食い物にしている。
彼が誰よりも許せないはずの存在。
しかしそれを彼は拒んだ。
「そりゃあ、自分で決着はつけたいさ。けど、アンタの方が確実だ。ただでさえ綱渡りなんだ。私怨を気にしていたら真っ逆さま、っていうのはごめんだ。」
自らの怒りよりも計画の確実性を通す。
自分の感情をまっすぐにぶつける。
言葉であれ戦いであれ、不器用なまでのまっすぐさ。
それが彼の人柄の良い点でもあり、彼の今までの戦いの悪い点だった。
しかしここ数日で彼は変わってしまった。
感情ではなく、状況で自らを変化させる。
余計なものはいらない。自分の想いなど重しに過ぎない。
それは、今までの彼が消えてしまった何よりの証拠だった。
「…良かろう。ただ気を抜くなよ。生身でサーヴァントの相手をする方がはるかに綱渡りだ。それに、アサシンの有無によりこの計画の是非が決まる。お前が奴に殺されれば、その瞬間敗北は確定だ。私も間桐慎二も殺される。」
「分かってる。これでも1度あいつとは戦ってる。出来るだけ動き回って時間を稼ぐさ。」
口調は軽いも、目は真剣そのものだ。
士郎が1秒でも時間を稼げば、それで計画の成功率は上がる。
士郎が時間を稼ぐ間に、言峰が臓硯を殺す。
これが彼らの唯一の道だった。
「しかしまぁ、死に急ぐとしか思えん作戦だな。」
自嘲気味に笑う言峰。
それもそのはず。
1人は火の海を作り出し、もう1人はそこに自ら飛び込む。残った1人は正面から英霊と斬り合う。
1人1人が死にギリギリまで接近することで、初めて活路を見出す背水の陣。
「それでも、やらなくちゃ。」
しかし最早彼は死など恐れない。
彼が恐れるのはその先、自らの失敗で傷つく無辜の民の姿だ。
それの救うためなら、喜んでこの命を差し出そう。
元より自分の命など勘定外。天秤なんてとっくに壊れている。
時計の針はあと数刻で21時を刺そうとしている。
「そろそろ時間だ。行くぞ。」
そう言って、扉の方に振り返る士郎。
それに黙ってついていこうとする言峰。
開戦の火蓋が人知れず切られようとする。
外に出ればその時点で死地へと誘われる。
漆黒の夜空に嗤う月。
隠れる場所など無い。常にこれが目を光らせる。
この教会は最後の安置。死に急ぐ少年を繋ぎ止める楔。
しかし最早、それも断ち切られた。
士郎が扉に手をかけて外へ出ようとする。
その時だった。
「待て。」
「!?」
虚空からの声にとっさに振り返る士郎。
するとさっきまで何もなかった空間に、黄金の粒子が集まっている。
それは次第に束なり、人の姿を形作る。
薄暗かった教会に、まばゆいばかりの黄金が顕現する。
そしてその黄金の中から、1人の男が現れた。
「……………!!」
透き通るような金色の髪に、すべてを見下す紅色の瞳。
纏ったオーラが、他者を寄せ付けぬ風格を表している
服装こそ現代風だが、明らかに人間離れしている男。
間違いない。こいつは
「サーヴァント…!!」
すぐさま戦闘態勢に入る士郎。
しかし、それとは対照的に言峰の様子は落ち着いていた。
まるで旧友との再会のように眼前の英霊に話しかける。
「…驚いたな。来ていたのか。ギルガメッシュ。」
ギルガメッシュだって?
驚愕の表情の士郎。
ギルガメッシュ。
遥かな神代。人と神が共存していた最後の時代。
シュメルの都ウルクを治めていた、人類最古の英雄王。
紛れもなく超級のサーヴァントが目の前にいた。
「おい、どうゆうことだ言峰。アンタ、ランサー以外にも契約をしていたのか。」
不信感を募らせる士郎。
言峰がランサーを使役し、聖杯戦争を裏から監視していたのは知っていたが、まさか2人目が居たなど聞いていなかった。
しかし言峰は悪びれる様子もなく、いけしゃあしゃあと答えた。
「彼は私のサーヴァントでは無い。前回の聖杯戦争において聖杯を勝ち取り受肉を果たした英霊だ。その後、協力者という形で一緒にいるに過ぎん。」
「聖杯を勝ち取った?聖杯を取ったのは切嗣じゃないのか!?」
「確かにやつは聖杯を勝ち取ったとも。しかしそれは空の器にすぎん。中身はあいつ自身が破壊し、すべて零れ落ちたからな。その真下に居たのがこいつだ。」
そう言ってギルガメッシュの方に向き直る言峰。
「それで何の用だ。生憎と時間が無い。お前の道楽に付き合う時間は無いぞ。」
「ハッ、随分と辛らつではないか言峰。よほどそこの小僧に入れ込んでいると見える。」
言峰の冷たい言葉を易々と受けながすギルガメッシュ。
「…………否定はせん。互いの目的のために利用し合っているに過ぎんがな。」
その言葉に言峰の表情が微かに曇る。
「まぁ良い。そちらの状況はあらかた分かっている。あの老獪めを討つのであろう?」
老獪、とくれば指すのは間違いなく臓硯の事だ。
現時点では士郎と慎二、そして言峰しか知らないはずの事をこの男はさも当然のように言った。
「……………それがお前に何の関係がある。」
そのことに驚くも驚愕の色は出さない。
何を言われようと、あくまで頭は冷静に。
それがここ数日間に強敵たちと舌戦を繰り広げてきた士郎が学んだことだった。
ギルガメッシュを睨んだまま、警戒を続ける士郎。
「そう睨むな。あの老獪には以前一杯食わされてな。王としてその礼をせねばと思っていたのだ。だからな、貴様らに助力してやろうと思ってな。」
しかしそれでも、王は余裕を崩さない。
警戒なぞ彼にとっては小さき事。
「…本気か。どうゆう風の吹き回しだ。此度の争いには最早興味を失くしたのではないのか」
その言葉に士郎よりも驚く言峰。
実際にギルガメッシュはこれ以上聖杯戦争に関わることを避けていた。
理由は簡単にして、彼にとっては至極当然の事。
生前、この世の財全てを手に入れ、この世の悦のすべてを極めたこの男にとって、退屈とは何よりも耐えがたき苦痛。
受肉したことで多少の現代に触れ、多少の刺激は得たものの、それも10年続けば退屈へと変貌する。
故に、彼はこの聖杯戦争で退屈を紛らわそうとしてたのだ。
しかし、あの黒い影が出てきた時点で、彼にとってはこれは児戯にも等しい事柄になった。
勝者が出る前に中身が出るなど、あってはならない。
「確かにあの醜悪な影が表に出てきたときは白けたものだ。あいつが居ては最早儀式として成立せん。せめてもの慈悲として自害を勧めたのだがな。あやつには些か度胸というものが足りなかったらしい。いや、それとも喪うもの方が多かったのかもな。」
しかし、
「だが、捨てる神あればというが、なかなかに面白いものが残っておるではないか。」
そう言って士郎を眺めるギルガメッシュ。
その眼は、新しい玩具を見つけた幼子の様で、
確かな興味と、嗜虐に満ちていた。
しかし、士郎にとってはそれよりも、彼の放った言葉の方が気にかかっていた。
「待て、お前あの影について何か知っているのか。」
それを問うた瞬間、場の雰囲気が一変した。
死の気配。
眼前の男から色濃く発せられるそれが、この空間を満たす。
「己惚れるなよ。雑種の分際で
「ッ!!」
目の前で突如沸き上がった怒りに、僅かに体をこわばらせる士郎。
だが、そこに助け船が出る。
「やめろ、ギルガメッシュ。こいつが死ねばそれこそ貴様の見たいものも見れなくなるぞ。」
「…ほう。貴様如きの忠言で我が立ち止まるとでも?大きく出たな、言峰。」
「……………」
言峰はそれだけ言うと黙り込んでしまう。
「………………………まぁ良い。ここまで貴様が入れ込むこやつに興味があるのは事実だからな。」
そう言って、殺意を収める英雄王。
「して、なんだ、説明をしてなかったのか。」
「私はあくまで監督役だ。その真実は彼自身が辿り着くべきだろう。」
「……………まぁ、お前がそう言うのならば良いか。」
納得したように士郎に向き直る。
「あぁ、知っているとも。語ってやってもよいが、それだけの時間が貴様にはないのであろう?それでどうする。おとなしく
「…信用ができない。せめてお前の目的を教えろ。」
先ほどまでの震えを隠すように警戒して士郎が言う。
「戯けが。そもそも貴様と言峰の間にも信用などあるまい。ならばおとなしく助力を乞うのが道理であろう。それとも、王の顔に泥を塗ろうというのか?」
「……………」
彼にとって、士郎の死はおろか、聖杯戦争の動向など些事に過ぎない。
それは先刻の1連の行動ですでに痛いほど身に染みた。
ここで彼の逆鱗に触れては、この後の姦計など全てが無に帰す。
全細胞がこぞって赤信号でそう叫んでいる
故に、問う形ではあるものの、士郎に拒否権など無かった。
しかしそれでも、
「…分かった。それで、お前は具体的に何をしてくれるんだ?生憎、役者は揃っているんだが。」
殺意による脅しなど、衛宮士郎には意味を成さない。
彼はあくまで、効率の良い計画の遂行を望むのみ。
ならばそれが、悪魔の誘いだろうとそれすらも超えてみせる。
自己犠牲の化身、聖者のような寛大さに見せかけて、ただ周囲を信用していないだけ。
そのような男に口先の脅しなど通用はしない。
「……………ほう。これでも気圧せん気概は誉めてやろう。」
感心したように士郎を眺めるギルガメッシュ。
「しかしだな。役者は揃った、というのは些か驕り過ぎではないか小僧。いくらアサシンが羽虫に過ぎんとはいえ、貴様ら脆弱な人間にすれば、あれは最悪の相手だ。」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないだろ。」
ギルガメッシュの言葉にカチンときたのか、士郎が勢いよく言葉を返す。
しかし、王は紛れもないこの計画の脆さを指摘する。
「阿呆が。勇気と蛮勇は全くの別物だ。自らの弱さを自覚せんものが、大局において果敢に戦えるわけが無かろう。」
この計画の脆さ。やはりそれは戦力不足。
そも、英霊相手に時間稼ぎなどおこがましい。
彼らは死そのもの。
人を超越し、人に使える過去の影。
たかが人間が、一朝一夕でかなう相手ではない。
士郎自身、それを理解していても、それでもそれしか無かったのだ。
「だったらどうしろって」
士郎が言葉を発するのを遮って
「だからな。業腹だが
「なっ!」
驚いたのは言峰だった。
「本当にどうしたのだ。貴様らしくない。」
その驚愕に対し、熱を帯びた言葉を返す英雄王
「言峰よ。共に嗜虐の愉悦を最上とする者として1つ教えてやろう。」
「確かに人間が堕落し、破滅していく様を盤上から眺めるのも良い。何しろこちらが手を加えずとも勝手に踊り、堕ちていくのだからな。効率化を極める当世ではこれほど手軽で面白味のあるものはそうそうあるまい。」
まるで趣味を語るように、人の転落するさまを語る。
善も悪も等しく、人が積み上げて来たものを裁定する。
そんなギルガメッシュだからこそ辿り着いた真の悦。
「だがな、それはあくまで当世の話。そも人の営みとは確かな時間と手間に裏付けされている。こちらが苦労すれば、それに比例するようにその後の悦も確かなものとなる。まぁ、退屈だというのが本心ではあるのだがな。」
「覚えておけ言峰。ただ盤を見つめ、時折手を加えるだけでは推し量れんものもある。貴様には理解できんだろうが、それは善も悪も等しく同じことよ。ならば時には駒となり、大局を動かすのも一興よ。」
「……………」
珍しく言峰が言葉を失う。
退廃の英雄王。
彼にとって聖杯戦争は愚か、このような小競り合いなどただの戯れに過ぎない。
しかし、戯れだからこそ、そこに悦と浪漫を求める。
分かり切った結末を前に、自らという変数をもってその結果を覆し、その動向を肴とする。
さながら他人の脚本に、自分という異端をもって自らの望む結末に変えるかのように
どこまでも傍若無人。人類最高峰の我欲。
この王の前に、少年の運命もまた歪もうとしていた。
「……………いいのか。」
「応とも。精々遊んでやるとしよう。」
しかし、今はそのことに気づくはずもない。
「分かった。なら変更だ。言峰、俺も一緒に間桐の家に行く。正直、あの老害には1発喰らわせたかったんだ。」
「………………良いだろう。ギルガメッシュ、あまり遊びすぎるなよ。」
士郎の決定に渋々、といった雰囲気だが、言峰も了承する。
「それはあの虫けら次第だな。興が乗れば我が威光の一端を見せてやらんでもない。」
契約は為される。
英雄王ギルガメッシュ
暴虐の嵐そのものは、彼の戦いにどのような影響を与えるのか。
およそ余人では測れないこの道行き。
「では行くぞ。無駄な時間ではないが、それでもロスには変わりない。少々急ぐとしよう。
遅れずについて来いよ?」
「あぁ、体力なら有り余ってる。すぐにでも走りだせる。」
そう言って、今度こそ扉を開けて死地へと赴く2人の愚者。
そんな愚かなる勇者に王は告げる。
「存分に己を示せよエミヤシロウ。貴様の罪深きその在り方は俺が裁定するに値する。間違っても、このような下らん場で野垂れ死ぬなよ。」
激励とも挑発ともとれる言葉を背に少年は走りだす。
彼の戦い、その最初の夜がいよいよ始まろうとしていた。
……………尤も
「お前らの在り方は、一生理解できないよ。」
「?、何か言ったか。」
眼前を走る言峰に聞こえない声で呟く士郎。
先ほどのギルガメッシュの語りで、彼は理解した。
正確には、ギルガメッシュが唱えたものを、1つも理解できなかった自分を理解した。
人を貶めるものと、それを救い上げるもの。
ならば自らが本当に討つべきは。
真の悪とは、いったい誰なのかを。
「……………さて」
人気が消えた薄暗い教会から月明かりが照らす外に移動する。
士郎と言峰が消えた後、王は静かに神の御前を後にした。
尤も、彼にとって神とは忌むべき存在。そこに尊敬の念など1つたりとも無いのだが。
外は閑寂としており、風の音さえ今にも掻き消えそうなほどの静謐に包まれていた
王の足音のみが静寂の中で木霊する。
こつ、こつ、こつ。
歩きながらも彼は周囲を観察する。
睨みつけるようにあたりを眺め、歩を進める。
こつ、こつ、こつ、こつ。
「そこか。」
突然、その足音が止まる。
教会の入口より数歩歩いたところ。
そこに鎮座する人工の明かり。
月明かりの雅さとは対照的に、容赦なく地面を照らす街頭。
その丁度てっぺん。人口の光も照らせぬ盲点。
そこを睨みつけたまま軽く腕を上げる。
すると、そこに現れる黄金の波紋。
そこより出でる、又もや黄金の三叉鎗。
弓を引き絞るかのように、正確に照準が合わせられ、
そして
それは容赦なく、何もない虚空へと発射される。
無論そこには何もない。
黄金の槍は、さらに深い闇へと吸い込まれてしまう。
――――――――――かと思えた。
「ギ、ガアアアアアアアア!!!??」
静けさを破る異形の叫び。
街頭の頂点より、黒い影が飛び出し、住んでのところで槍を躱す。
しかし体制を崩したのか、そのまま地面へと転げ落ちる黒い影。
「ギィィ…貴様…何故分かった……………」
その影の正体こそ、今宵の王の標的。
サーヴァント、アサシン。
間桐臓硯に仕えし、暗殺者のサーヴァント。
彼は臓硯に命じられ、昨日から士郎の監視をしていた。
そして今日、彼に動きがあったので、臓硯へ報告しようとしてたその矢先に、黄金に狙撃されたのだ。
アサシンのサーヴァントには、気配遮断という特殊なスキルが存在する。
これにより、攻撃のその瞬間まで気配を断ち、速やかに暗殺を実行できる。
そしてそれは暗殺以外、無論今回のような諜報にも役に立つ。
しかしそれを、かの英雄王はあっさりと見破った。
「はっ!虫を見つけるのなど造作もないこと、と言いたいところだがな。」
そう言って、ギルガメッシュは懐から1枚の鏡を取り出す。
掌に収まるほどのサイズでありながらも、纏う神秘がただの品ではないと告げている
「これはな、各地に伝わる真実を映し出す鏡。その原型でな。いくら貴様が巧妙に気配を断とうとも、その存在まで消すのは不可能であろう?それならば、見つけ出すのは容易いことよ。」
英雄王ギルガメッシュ
彼が扱う宝具。「
古今東西のみならず、あらゆる時、あらゆる時代において英雄たちが振るったとされる数多の武具。
その原型。雛形すべてを納め、それを保管する宝物庫。
それこそが彼の宝具だ。
先ほどアサシンを射抜いた三叉鎗もその1つを発射したに過ぎない。
無数の宝具ではなく、無数の宝具を収納し、自在に操る事こそが英雄王たる証だった。
「グゥゥ……………」
低く唸り、退避に入ろうと後方に跳躍しようとするアサシン。
しかし
「おっと、」
ギルガメッシュが再び手を掲げる。
丁度アサシンが飛び退こうとした先。そこに再び現れる黄金の波紋。しかも今度はそれが3つある。
開かれる門。そこから現れ、発射される黄金の武具。
「ギッ!!」
済んでのところでそれに気づき回避するアサシン。
ギルガメッシュはそれを楽しそうに眺める。
「ふん。そうでなくてはな。多少の反撃が無くてはいくら遊びとはいえ興が逸れるというもの。精々楽しませろよ?」
そう言って、自らの後ろに門を展開する。
しかし今度は数が違う。
20は下らないだろう。数え切れんほどの黄金の波紋が闇夜を明るく照らす。
無数の武具の切っ先が、暗殺者へと向けられる。
影となり闇に潜むこの者を照らすかのように。
ここでついにアサシンは理解する。
自らに逃げ場など無い。ここはどん詰まりの終着点。
眼前の男を倒さない限り、ここから逃げ出すことなど不可能。
狩人と獣?いや、そんな明確に分かれた捕食関係など生ぬるい。
これは蹂躙だ。絶対的な強者の気まぐれで、自分はここに居ることができる。
「言峰らが戻るまで2時間と言ったところか、喜べよ暗殺者。それまでの間に
金の引き金が絞られる。
一方的な虐殺が始まろうとする。
「前座にしては些か派手が過ぎるが、まぁ良い。そこは主役の腕の見せ所だろうよ。」
愉快気な高笑いこそ、彼の
奇しくも