私的鉄心END   作:たまごぼうろ

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割と早めに投稿できた気がします。
続きもかなりいいペースで書けているのでご期待ください。
最近、友人とapex legendsというFPSのゲームをよくやっています。
FPS自体がこれで初めてなので最初はかなり下手でしたが、最近はそこそこできるようになり今では数人キルできるようになりました。
PC版ではチートがひどかったようですが、PS4にはほとんどいないので是非やってみてください。
ではどうぞ。


鉄心 戦いの始まり③

静寂に包まれた夜。

深谷町の丘の頂上にある間桐邸の深部、修練場と呼ばれる場所にその怪物は居た。

間桐臓硯。500年の妄執に憑りつかれた、始まりの御三家の1人。

彼は思案する。内容はもちろん、今後の自分の身の振り方についてだ。

……………ふむ、やはり桜の死体を取り逃したのは惜しいな。

あやつはこの次、第6次においての本命だったのだがな。

しかし、あの者以上の素質を持つ者など、次までの間に誕生するかどうか…

いたとしても、儂が獲得できる確証もない。ここはやはり遠坂に保管されている桜の遺体を確保するしかないだろう。

それにはあのアーチャーが邪魔じゃ。襲撃は戦いが終わってからにするとしよう。

いくら遠坂の娘が優秀とは言えども、アインツベルンのバーサーカーに真っ向から勝てるわけはない。

此度の聖杯はあの器に譲るとするかの。アインツベルンの悲願もようやく形になるというわけじゃ。

遠坂の娘が倒れた後、ゆっくりと回収に向かうか。まだまだ貴様には役に立ってもらわんとな、桜。

死という彼女にとっての唯一の救いを得た後も、桜を使おうとする臓硯。

その魂は腐り果て、もはや体を保つのさえ困難となっている。

しかしそれでも、自らの悲願のために生き続けようとする臓硯。

まさに妄執。次が始まるまで50年という途方もない時間も、彼にとっては瞬きのよう。

「くっくっくっく。かかかかかかか!」

楽しそうに笑い、修練場を後にする。

扉を開け、慎二たちが暮らしている生活用のスペースに出る。

遥か昔。自分がまだマキリだった頃に築いたこの家。

それからかなりの時間が経っているはずだが、家政婦たちの掃除が行き届いているのか、不思議と汚くはない我が家(工房)

 

「むぅ?」

 

しかし、今日に限っては何か様子がおかしかった。

まず最初に違うのは匂い。

鼻の奥にこびりつく様な、重い刺激臭が家全体に充満している。

魔術師が人避けに焚く香の匂いとはまるで違う。

嗅ぐだけで頭がくらくらするような香りだった。

加えて、床がかなり濡れている。

水浸し、とまではいかないまでも、歩けば水音がするほどに濡れている。

湿っている、水が染み込んでいる、と言った方が正しいか。

しかもそれはここだけではない。

どこもかしこも、おそらく家家中の床がこのように湿ったように濡れていた。

—————なんじゃ?何が起こっておる?

あまりの唐突さに事態が呑み込めない臓硯。

外から何者かが侵入した気配はない。

ならば一体これは……………

そこでハッと気が付く臓硯。

月明かりも入らず、真っ暗な室内の階段を上った先。

数日前まで、間桐桜の部屋だった場所。そこに小さな明かりが灯っており、中からは人の気配がする。

すぐさま移動する臓硯。犯人など1人しかいない。

そこらに転がる赤いボトルを無視して部屋へ向かう。

そして、その中にソレは居た。

開け放しの扉の先。片手に小さな光源を構えている男。

逃げも隠れもしない。襲撃者にしては暢気が過ぎる。

そんな男に、臓硯は怒気をもって言葉を投げる。

 

「貴様…一体何のつもりじゃ。慎二。」

 

水浸しの犯人。間桐にて最も力無き者。

道化、面汚し、小物。

そう呼ばれ、虐げられ続けた哀れな人間。

間桐慎二が、そこに立っていた。

 

 

 

「あぁ、お爺様。案外遅かったですね。」

しかし、彼に焦る様子はない。

普段ならば臓硯を見かけただけで怯え、身を竦ませるはずなのに、今は虚ろな目で見つめるだけ。

「貴様何をしている。家中が水浸しじゃ。それに匂いもひどい。早く片付けろ。」

怒気を込めて、しかし声は荒げない。

首を絞めるかのように、ゆっくりと告げる。

いつもならこれでおしまいだ。彼は何も出来なくなる。

だが今日に限って、

いや、今日だからこそ、

「お断りですよ。せっかく仕掛けたんだ。最後まで使います。」

この男は誰よりも冷静だった。

その態度が、通常は狡猾な筈の臓硯の思考をブレさせる。

「貴様…、儂に逆らうというのか。」

警戒よりも先に、思わず怒りをあらわにする。

「というか、これが何だか分からないんですか?…まぁ、魔術師(あなた達)にはあまり縁のないものかもしれないですけどね。」

そう言って、手にしたボトルを振りかざす慎二。

中から残った液体が漏れ、床に新たなシミを生み出す。

「今はそんな事問うてはおらん。死にたいのか?貴様。」

我慢ならん、とばかりに周りに虫達を展開する臓硯。

弱者に対する驕りか、それとも身内の不出来に対する失望か。

どちらにせよ、明らかに冷静さを欠いていた。

周りの観察も、状況の確認も

近づいてくる襲撃者の気配(・・・・・・・・・・・・)にさえ、気が付かないまま。

 

「なら、教えてあげますよ。」

そんな臓硯の殺意に怯まず、無視をして言葉をつづける慎二。

「これはね、揮発油…まぁガソリンですよ。そして……………」

そこまで言って、手にしていたボトルを放り投げ、ポケットから何かを取り出す慎二。

取り出したのは、どこにでもある安物のライター。

人が生み出し、彼ら(魔術師)から奪い取った神秘。

「待て!貴様何のつもりじゃ!」

そこでついに、臓硯も事の重大さに気が付く。

それ自体には、魔術師が行えるような人1人を覆いつくすような炎を生み出すことはできない。

あくまで種火。生み出す火は僅かなもの。

しかし、今の状況においては

 

「ようやく気が付きましたか。どうやら今日は頭が冴えていない様だ。遂にボケましたか。ま、孫としてはそちらの方が安心ですけどね。」

 

この炎は、すべてを焼き尽くす劫火だった。

そこからの臓硯の行動は素早かった。

すぐさま使い魔の虫達に、彼の首元に喰らい付くよう命令する。

弾けそうな羽音と共に飛び掛かる虫達。

眼前に迫る死。いつも以上にリアルに感じる殺意

しかしそれらを受けても、慎二は落ち着いていた。

 

――――――――――こんなの、衛宮に比べたら軽いもんだ。

 

懐からスプレー缶の様なもの取り出し、ライターの火の後ろに構え、発射する。

小さな種火が、スプレーの力で大きな火炎に変わり、飛び掛かる虫達を焼き尽くした。

ぎちぎちと言いながら、丸子げになる使い魔たち。

「なっ!?…慎二…貴様!!」

自らの使い魔が燃やされたことに対し、殺意を表に出す臓硯。

それに対し、慎二はどこか嬉しげだった。

「はは、はははは!なんだよ、ほんとに燃えんじゃん!飛んで火に入るってのは、使い魔でも同じだったんですねぇ!」

そう言って、燃え尽きた虫だったものを踏みつける。

「ほら、見ましたかお爺様!あなたの虫たちはただの人間である僕に、消し炭にされたんですよ!」

「黙れ、面汚しが。今更貴様が間桐の魔術を語るでない。いいからその火を下せ。そうすれば、命だけは助けてやらんでもない。」

老人はようやく認める。目の前の男が自らの、ひいては間桐の敵であることに。

しかし、悲しいかな。老人はその強さ故に、敵を敵だと、認識するのが遅かった。

「嫌ですよ。そろそろ虐げられるのにも飽きたんだ。そっちこそそろそろ黙れよ。間桐には、そんな古臭いもの必要ない。」

きっぱりと、間桐への決別と臓硯への侮辱を告げる慎二。

 

「僕が新しい間桐の当主だ。はっきり言って、アンタ邪魔なんだよ。ここで燃え尽きて、そこの虫たちのように灰になれ、老害。」

 

火が付いたままのライターから手を放す。

死の篝火が、火元だらけの床へ降りていく。

「待て、辞めろぉぉぉぉぉ!!!」

それはスローモーションのようにゆっくりと落ちていく。

そしてそれが床についた時

世界が、赤に変わった。

 

 

 

 

燃える。燃えていく。

間桐の積み上げた歴史が、持たざる者が生み出した人工の炎によって、次々と燃えていく。

何も、それは魔術に限った話ではない。

その中で、僅かにも営まれた人の関わり。

消え入るようだった、なけなしの幸福。

それすらも、炎は容赦なく呑み込んでいく。

家中にまき散らされたガソリンは、火元である慎二が作りだした小さな炎を、効率よく家全体に伝えた。

「慎二ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

切り裂く様な轟音。

怒りに満ちた獣のように叫ぶ臓硯。

「貴様、今更楽に死ねると思うなよ。全身を虫たちの苗床にしてやる。いくら喚こうが容赦はせん。惨めに無残に殺してやろう。」

そう言って、先ほどの倍以上の虫達を呼び出す。

その虫達は、炎に包まれてもなお、その姿を保っていた。

耐火性の虫。

多くの魔力を費やし作り上げた使い魔。

自らの弱点をそのままにしておく男ではなかった。

火を纏い、火球のようになってなお眼前の敵に喰らい付こうとする。

しかし、慎二はそれを向けられも身じろぎ1つしない。

自らも炎に包まれているというのに、表情は涼しげだ。

「なんじゃ、命乞いの1つでもしないのか。」

つまらなそうに臓硯が問う。

「えぇ、僕の役目はこれで終わりですので。あなたに気付かれず、屋敷に火を放てた時点で僕の勝ちです。」

勝ち誇ったかのように言う慎二。

「役目…役目じゃと。………!?まさか貴様ら!!」

 

その時だった。

 

下の階、それも玄関の方から、何かを蹴破ったかのような激しい音がする。

それと同時に、気配が2つ。

今度は紛れもない、魔術師の気配。

 

監視用に玄関の傍に置いておいた虫の瞳が、燃え盛る火炎の中に1人の少年を映し出す。

火の中でもなお、燃えるような赤い髪。

その琥珀色の眼は曇りきり、何も映してはいない。

その表情は無機質。ただ淡々と動くだけの機械のよう。

しかしその姿は紛れもなく

 

「衛宮の…子倅…!」

 

憎々しげに呟く臓硯。

ここでついに彼は理解した。

昨日の謎の訪問。アサシンから伝えられた、日常を演じるかの行動。

その裏で密かに動いていた慎二と、何の因果か、彼に協力した神父。

今この場にいないアサシン。火に焼かれていく己の虫達(肉体)と屋敷。

 

―――――嵌められた。

 

恐らく昨日の段階で、全て始まっていた。

それにしても、行動が早すぎる。

桜が死んでから、まだ3日しか経っていない。

僅か3日。思い人の死を乗り越えるのにはあまりにも短い時間。

故にこそ、何か企むことはあっても直ぐに動いてくることは無いだろうと思っていた。

しかし、その油断こそが最大の致命。

衛宮という男の精神性を、全く把握していなかった。

彼の心は、あの夜からずっと鉄になったまま。

鉄は折れず、傷つかず、故にこそ

 

誰にも、理解など出来ない

 

3日という、彼にとっては長すぎたほどの時間

その間に、自らを殺す算段を整え、協力者を用意し、今現在、彼らはここに居る。

思い付き?怒りによる衝動?桜の復讐?

そんなものでは無い。

ただ彼は、自分を殺すためにここに来た。

この見事なまでの手腕。計画から実行までの速さと、容赦のない作戦。

覚えがないといえば、嘘になる。

 

「それで、僕を殺すんでしたっけ。いいんですか、そんな悠長なことをしていて。」

嘲笑うかのように、両手を広げて言う慎二。

「ちぃ、命拾いしたな慎二。そこで自らが焚いた炎に焼かれて死ぬがいい。」

そんな彼を一瞥し、消える臓碩と虫達。

今はこんな小物よりも、侵入者を迎撃することの方が、臓硯にとっては重要だった。

所詮このような罠を仕掛けても慎二はただの人間。この場から素早く脱出する術を持ち合わせているわけではない。

それよりも、今はあの小僧共だ。

平時ならばあしらうなど造作もないことだが、今この状況では追い詰められているのは自分だろう。

しかし衛宮の子倅の表情。何とも哀れなものだ。

よぎるのは10年前。第4次において猛威を振るった魔術殺し。

まるで生き写しのようだ。

顔は違えども、変わらぬ理想(もの)がそう告げている。

 

「カカ、カカカカカ!儂を殺すために、そこまで堕ちたか。衛宮士郎!」

 

猛る臓硯。ここまでの窮地、いつ以来か。

しかし死ぬわけにはいかない。

この程度の苦境、自らが過ごした500年には及ばない。

そうだ、まだだ。

まだ何も為しちゃいない。まだ何1つ始まっていない。

500年前思い描いた、我が悲願を達成するために————

 

さぁ、刮目しろ老魔術師。

500年の妄執を断つために、此処を死地と知りながら、飛び込んできた愚者が2人。

陰と陽、正義と悪。本来交わらない2者の切っ先が、今はお前に向けられている。

英霊が出る幕など、此処にはない。

聖杯など、此処においては関係ない。

これは正真正銘、ただの魔術師同士の殺し合いだ。

 

 

 

 

 

屋敷から煙が見える。

どうやら慎二がついに始めたらしい。

開戦の狼煙のように、灰暗い煙が月夜に上がっていく。

「フッ!」

気合と共にドアを蹴破る言峰。

「行くぞ。」

「あぁ。」

迷いなく入っていく言峰。

その背中を追い、燃え盛る間桐邸に突入した。

まず目の前に飛び込んでくるのは、一面の炎。

「っ……!」

熱い。家の中は何処も彼処も燃えていた。

慎二はかなり派手にやったらしい。辛うじて先に進む通路が残されているのみで、他は火の海だった。

ごうごうと燃え盛る業火は、来る者達を焼き尽くさんと息巻いている。

最早屋敷に生活の後は無く、黒い灰がそこら中に立ち込めていた。

仮に慎二たち以外に人が居たら、それはもう息をしていないだろう。

「……………」

嫌でも、よぎってしまう。

10年前。すべてが終わり、そして俺が始まったあの火災。

傷跡は今でも生々しく残っている。

あの時の熱さを、苦しみを、何より置いてきてしまった物の痛みを。

俺は忘れたことなど無い。

忘れられるわけがない。

だからせめて、それに恥じないように、俺は———

 

「雑念など挟む暇はないぞ。ここも直ぐに燃えてしまうだろう。」

 

「!!」

言峰の言葉で我に返る。

今は感傷に浸れるときじゃない。

「悪い。少し思い出しちまって…」

「詮方なきことではある。だが、今この炎は私たちにとっては先を照らす灯火だ。間違っても敵ではない。」

「…なんだ。心配してるのか?」

思わず顔が緩む。

「ふっ…、どう取るかはお前次第だ。尤も、そんな減らず口を叩ける奴には余計なお世話だったかな。」

「はっ、アンタも相変わらずだな。」

憎まれ口をたたき合う。

だが、おかげで落ち着くことができた。

「行こう。慎二はきっと上に入る。そこに行けば、きっと臓硯も居るはずだ。」

辛うじて残る火の無い所に踏み出す。

辺りとは裏腹に、心は冷え切っている。

「了解した。背中は任せろ、衛宮士郎。」

「アンタ、楽しんでるだろ。」

「ふふ、さて、どうかな。」

ふざけたことを言う言峰を無視して、歩を進める。

兎に角、上に行かなくちゃ。

 

 

 

上階も例によって燃え盛っていた。

息が苦しい。

後ろの言峰も平静は装っているが、明らかに苦しそうだ。

慎二は大丈夫だろうか。

常人がこんな場所で10分も居たら、死んでしまう。

早く目的を果たして、助けないと。

そう考えながら、足を進める。

すると、少し広い空間、ホールのようなところにでた。

ここは比較的火が回っておらず、かなり動き回れそうだ。

そしてそこ奥、先に進む通路の方に、ソレは居た。

「お出ましか…」

距離にして10メートルほど手前に居る、紛れもなく異形と呼べる存在。

体長は俺や言峰を優に超えている。

見た目は蜘蛛に近い。全身に赤黒い体毛が生えており、体の中心。口のような部分はまるで蛭のように蠢いている。

真っ赤な瞳は何かに狂ったよう。

6本の手足は、それらすべてが命を刈り取るような鋭利さだった。

そのサイズと迫力から、熊程度の大きさになったタランチュラ、と言えば分かりやすいか。

そして驚くべき事に、ソレはこの炎の中でさえ、全く燃えていなかった。

ぎちぎちと蠢く異形。

見ただけで思わず吐き気がする。

「Giiiiiiii――――――!!!!!」

「耐火性の使い魔、それもかなりのものだな。流石に自らの弱点くらいは対策しているか。」

感心する言峰をよそに、直ぐに戦闘態勢に入る。

 

「耳と目を塞げ!言峰!」

 

腰のポーチから素早く手榴弾を取り出し、ピンを抜いて投げつける。

綺麗な放物線を描き、怪物へ向かっていく。

我ながら会心の一投。

爆弾は寸分の狂いもなく、その異形の中心へと向かっていき————

 

「Gi、Gaaaaaa!!!!!!!!」

 

派手な音を立てて、爆発した。

「ぐっ!」

爆音と共に来る風に押される。

だがこれだけの威力だ。あいつもただでは済んでいないだろう。

「くそっ、戯けかお前は!こんな場所で手榴弾だと!?」

「いいだろ、これが1番手っ取り早い!」

言峰も悪態をつけるくらいには元気だろう。

そう言って、怪物の方を見やる。

見ると、怪物が居た場所の天井が吹き飛んでいる。

火の粉と共に舞い上がる塵芥。

壁には何か魔術的な防御が貼ってあったのか、少し抉れ、焦げ付く程度だった。

「やったか…?」

そう思ったその瞬間

 

真っ黒な死が、眼前に飛び込んできた。

 

「ッ!同調(トレース)、開始(オン)!!」

とっさに背中の木刀を引き抜き、受け流すように防御する。

体に重い衝撃が走る。

「ぐっ!、ぅぅぅ…らぁ!!」

押し切られそうになったその瞬間、そのまま力任せに切り払い、後ろに飛ぶ。

「はぁ、はぁ、嘘だろ…」

煙の中から傷1つなく現れたそれは、敵対者に対して殺意を向ける。

前足を2本上げ、威嚇するようにこちらを睨む。

「あれ、虫ってレベル超えてないか…?」

「あの体毛が爆炎を防いでいるようだな。しかもかなりの強度があると見える。」

そう言って、俺の木刀の方を見る言峰。

見ると、強化されたはずの木刀が、丁度あいつの攻撃を受けた部分だけ薄く抉れていた。

「ちっ、こっちもきついのかよ。」

その出鱈目さに、悪態をつく。

「火器の類は、最早気休め程度にしかならんな。お前の武装では相性が悪い。私が前に出る、お前は援護を…、む。」

 

そこまで言って言葉を切り、後ろへ振り向く言峰。

「どうやら、そうも言っていられない様だ。」

後ろには、前に居るのとまったく同じ異形がもう1体、同じくこちらを威嚇するかのように睨んでいる。

——まずい、挟まれた。何とかどちらかを倒さないと、

そう思い、木刀を構え直した時だった。

 

「カカカカカ!どうじゃ?楽しんでおるか、小僧共。」

 

何処からか声がする。

粘り付く様な低い声、聞いただけで総毛だつ。

「間桐…臓硯!!」

思わず、そう叫んでいた。

「おぉおぉ、そう猛るな、衛宮の子倅。慎二を丸め込みここまで侵入してきたその手腕、見事なものじゃったぞ。亡き養父も優秀な後継ぎができて、さぞ満足であろう。」

馬鹿にするかのような態度に、ますます頭に血が上っていく。

「黙れ!いいから姿を見せろ!」

「猛るなと言っておろうが。儂を殺したいのなら、まずはそ奴らの相手をしてやれ。化生のはらわたに自ら飛び込んできたのじゃ。それくらいの覚悟できておろう?」

「ふっ、はらわたに、ときたか。飼い犬に手を噛まれたのに余裕だな。間桐のご老公?」

眼前の異形に警戒を続けたまま、言峰が口を挟む。

「ほほう、誰かと思えば…。10年ぶりかの、代行者。どうじゃ?その後、迷いは晴れたか?」

「お陰様でな。たった今、邪魔だった羽虫を潰せそうだ。」

いつもの調子で挑発をするが、その表情に余裕はない。

「カカ、大きく出たな。…まぁ良い。貴様らさえ殺せば後はどうとでもなる。重要なのは屋敷ではなく土地じゃ。この程度の損失、愚息の不祥事として受け入れるとも。ではな、精々足掻くがいい。」

「…!、待て!!」

そう叫ぶも、辺りから気配は消えていた。

「くそっ、あいつ…」

「今はあれに構っている暇など無い。眼前に集中しろ。気を抜けば、餌となるのは我々だぞ。」

こちらに背を向け、異形と対峙したまま言峰が言ってくる。

「分かってる。アンタこそ、口ばかり動かしていたらやられるんじゃないのか。」

熱くなっていたのを見抜かれた腹いせに、悪態をつく。

「それは貴様も同じだろう。言われっぱなしは性に合わん。…違うか?」

言峰も、お返しとばかりに返してくる。

「……………」

「……………」

短い沈黙。覚悟を決める。

コレを倒さない限り、お互い前へは進めない。

瞳を閉じ、軽く深呼吸する。

震える手を無理やり押さえつけ、木刀を強く握る。

がちがちと鳴る歯と、どくどくとうるさい心臓から、意識を離す。

冷え切った心に触れる。躊躇いなど、とっくに捨てた。

沸騰寸前だった頭が冴えていく。

 

———————心を、鉄にする

 

「背中は任せたぞ言峰。こんな所でくたばるなよ。」

「それはお互い様というやつだ。そちらこそ、雑念に囚われてやられるなよ。」

俺たちはいつも通りだ。

違うのは眼前に、見慣れない化け物が居るだけ。

「はっ!そうかよ!そういうのはな、倒してから言うんだよ!!」

その叫びを皮切りに、互いに眼前の怪物へ突進する。

此処こそ最大の正念場。

今こそ、己の理想をかけて、己が意志を示す時だ。

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