私的鉄心END   作:たまごぼうろ

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Interlude

Interlude

 

燃え盛る部屋の中。

間桐慎二は、壁に背を預けて座り込み嘆息する。

臓硯が目の前から消えたことで、今まで隠していた緊張の糸がほつれたようだ。

「はぁ、はぁ、げほっ!」

ため息をつくも、深く息を吸い込めない。

当然だ。

あたりは最早火の海。脱出のための通路はあるが、それ以外は炎に包まれている。

それに、ここまで来て自分だけ逃げるなんて、そんなみっともないこと出来ない。

「はぁ、ほんと、馬鹿だねぇ。僕もあいつも。」

懐からハンカチを取り出し、口元を覆うように巻く。

魔術的な加護がかかっているわけでもないただのハンカチだが、気休め程度にはなるだろう。

加えて煙は火災時だと空気より軽くなり、上に昇る。

今座り込んでいれば、動き回るよりは長く息ができるだろう。

後は熱さだが、これはまぁ、我慢するしかない。

――ここが全焼するまで大体20分くらいか。

とは言えども、苦しいものは苦しい。

肺はとっくに音を上げて、新鮮な酸素を要求してくる。

そのくせ心臓はさっきからせわしなく動き回っている。

体がだるい。頭に酸素が回っていない。

部屋は熱いはずなのに、指先は何だか冷たく感じる。

目が霞む。思ったよりも煙が濃い。

身体状況も、今置かれている状況も今までの中で過去最悪で、

そのくせ見返りなんてなく、ただ燃え切った家が残るだけで、

なのに、

 

「はは、ははははは。」

 

気分な今までに無いくらい最高で、体とは裏腹に力に満ちていた。

ちっぽけな反逆が、心の底から誇らしかった。

しかし

「…って言っても、ほんとに気持ちだけなんだよなぁ。」

そう、いくら気持ちに鼓舞されようが、すぐそこで行われている戦いには参加できない。

………あれは自分にはたどり着けない場所だ。

これ以上ないくらい輝いていて、そのくせ、いくら手を伸ばしても近くになんて行けなくて。

でも、それでも。分かってなお、足掻き続けていた。

皮肉なことに、足掻けるだけの環境が此処にはあって、だから無駄に期待してしまった。

それも今日で終わりだ。この憧れは断ち切らなきゃいけない。

夢は現実の前に敗れ去る。そんな簡単なことを認められなかった己の弱さを噛み締める。

それでも、やっぱり悔しかった。

自らの手で暗幕を落とすにしちゃあ、その光は余りにも眩しすぎた。

それが無意味なものであろうと、

いくら不可能であろうと、夢を見続けるくらいは、していたかった。

———だってさ、ほら。

夢は追っている時が、1番楽しいって、言うだろう?

ま、ここまで来ちゃあ、それもできないけどな。

炎の中で、ちっぽけな少年は自嘲気に嗤う。

とっくに眩んでいた瞳が、煙のせいで曇っていく。

 

「そこは、僕じゃいけないところさ。だから、頼んだぜ衛宮。」

 

下の方から戦闘音がする。どうやら始まったらしい。

眩しいものを見るかのように目を細め、手を伸ばす。

遠く遠く、自分じゃわからない世界。

楽園のようで、地獄に近い。強いようで、本当は弱い。

自分が憧れた、現世の浮世。

そんなところに、何も知らないまま躊躇いもせず入っていった友人の背に、ほのかな羨望と憐憫を覚えながら。

 

「ほんと、馬鹿だよなぁ、僕って…」

 

持たざる者は、その手を静かに下に降ろした。

 

 

Interlude out

 




これで、夢を見るのは終わり。
見るも無情な現実が、両手を広げて待っていた。
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