私的鉄心END   作:たまごぼうろ

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2話同時投稿です。頑張りました。
GW終わるのに間に合わなかった……………。悔しさしかありません。
皆様は10連休いかがお過ごしだったでしょうか。
僕は忙しくも楽しかったですね。中々に充実していたのではないかと思います。
これからお仕事や学校の方が多いと思いますが、頑張りましょう!
では、どうぞ。


火中に入り、己を示す①

屋敷から煙が見える。

どうやら慎二がついに始めたらしい。

開戦の狼煙のように、灰暗い煙が月夜に上がっていく。

「フッ!」

気合と共にドアを蹴破る言峰。

「行くぞ。」

「あぁ。」

迷いなく入っていく言峰。

その背中を追い、燃え盛る間桐邸に突入した。

まず目の前に飛び込んでくるのは、一面の炎。

「っ……!」

熱い。家の中は何処も彼処も燃えていた。

慎二はかなり派手にやったらしい。辛うじて先に進む通路が残されているのみで、他は火の海だった。

ごうごうと燃え盛る業火は、来る者達を焼き尽くさんと息巻いている。

最早屋敷に生活の後は無く、黒い灰がそこら中に立ち込めていた。

仮に慎二たち以外に人が居たら、それはもう息をしていないだろう。

「……………」

嫌でも、よぎってしまう。

10年前。すべてが終わり、そして俺が始まったあの火災。

傷跡は今でも生々しく残っている。

あの時の熱さを、苦しみを、何より置いてきてしまった物の痛みを。

俺は忘れたことなど無い。

忘れられるわけがない。

だからせめて、それに恥じないように、俺は———

 

「雑念など挟む暇はないぞ。ここも直ぐに燃えてしまうだろう。」

 

「!!」

言峰の言葉で我に返る。

今は感傷に浸れるときじゃない。

「悪い。少し思い出しちまって…」

「詮方なきことではある。だが、今この炎は私たちにとっては先を照らす灯火だ。間違っても敵ではない。」

「…なんだ。心配してるのか?」

思わず顔が緩む。

「ふっ…、どう取るかはお前次第だ。尤も、そんな減らず口を叩ける奴には余計なお世話だったかな。」

「はっ、アンタも相変わらずだな。」

憎まれ口をたたき合う。

だが、おかげで落ち着くことができた。

「行こう。慎二はきっと上に入る。そこに行けば、きっと臓硯も居るはずだ。」

辛うじて残る火の無い所に踏み出す。

辺りとは裏腹に、心は冷え切っている。

「了解した。背中は任せろ、衛宮士郎。」

「アンタ、楽しんでるだろ。」

「ふふ、さて、どうかな。」

ふざけたことを言う言峰を無視して、歩を進める。

兎に角、上に行かなくちゃ。

 

 

 

上階も例によって燃え盛っていた。

息が苦しい。

後ろの言峰も平静は装っているが、明らかに苦しそうだ。

慎二は大丈夫だろうか。

常人がこんな場所で10分も居たら、死んでしまう。

早く目的を果たして、助けないと。

そう考えながら、足を進める。

すると、少し広い空間、ホールのようなところにでた。

ここは比較的火が回っておらず、かなり動き回れそうだ。

そしてそこ奥、先に進む通路の方に、ソレは居た。

「お出ましか…」

距離にして10メートルほど手前に居る、紛れもなく異形と呼べる存在。

体長は俺や言峰を優に超えている。

見た目は蜘蛛に近い。全身に赤黒い体毛が生えており、体の中心。口のような部分はまるで蛭のように蠢いている。

真っ赤な瞳は何かに狂ったよう。

6本の手足は、それらすべてが命を刈り取るような鋭利さだった。

そのサイズと迫力から、熊程度の大きさになったタランチュラ、と言えば分かりやすいか。

そして驚くべき事に、ソレはこの炎の中でさえ、全く燃えていなかった。

ぎちぎちと蠢く異形。

見ただけで思わず吐き気がする。

「Giiiiiiii――――――!!!!!」

「耐火性の使い魔、それもかなりのものだな。流石に自らの弱点くらいは対策しているか。」

感心する言峰をよそに、直ぐに戦闘態勢に入る。

 

「耳と目を塞げ!言峰!」

 

腰のポーチから素早く手榴弾を取り出し、ピンを抜いて投げつける。

綺麗な放物線を描き、怪物へ向かっていく。

我ながら会心の一投。

爆弾は寸分の狂いもなく、その異形の中心へと向かっていき————

 

「Gi、Gaaaaaa!!!!!!!!」

 

派手な音を立てて、爆発した。

「ぐっ!」

爆音と共に来る風に押される。

だがこれだけの威力だ。あいつもただでは済んでいないだろう。

「くそっ、戯けかお前は!こんな場所で手榴弾だと!?」

「いいだろ、これが1番手っ取り早い!」

言峰も悪態をつけるくらいには元気だろう。

そう言って、怪物の方を見やる。

見ると、怪物が居た場所の天井が吹き飛んでいる。

火の粉と共に舞い上がる塵芥。

壁には何か魔術的な防御が貼ってあったのか、少し抉れ、焦げ付く程度だった。

「やったか…?」

そう思ったその瞬間

 

真っ黒な死が、眼前に飛び込んできた。

 

「ッ!同調(トレース)開始(オン)!!」

とっさに背中の木刀を引き抜き、受け流すように防御する。

体に重い衝撃が走る。

「ぐっ!、ぅぅぅ…らぁ!!」

押し切られそうになったその瞬間、そのまま力任せに切り払い、後ろに飛ぶ。

「はぁ、はぁ、嘘だろ…」

煙の中から傷1つなく現れたそれは、敵対者に対して殺意を向ける。

前足を2本上げ、威嚇するようにこちらを睨む。

「あれ、虫ってレベル超えてないか…?」

「あの体毛が爆炎を防いでいるようだな。しかもかなりの強度があると見える。」

そう言って、俺の木刀の方を見る言峰。

見ると、強化されたはずの木刀が、丁度あいつの攻撃を受けた部分だけ薄く抉れていた。

「ちっ、こっちもきついのかよ。」

その出鱈目さに、悪態をつく。

「火器の類は、最早気休め程度にしかならんな。お前の武装では相性が悪い。私が前に出る、お前は援護を…、む。」

 

そこまで言って言葉を切り、後ろへ振り向く言峰。

「どうやら、そうも言っていられない様だ。」

後ろには、前に居るのとまったく同じ異形がもう1体、同じくこちらを威嚇するかのように睨んでいる。

——まずい、挟まれた。何とかどちらかを倒さないと、

そう思い、木刀を構え直した時だった。

 

「カカカカカ!どうじゃ?楽しんでおるか、小僧共。」

 

何処からか声がする。

粘り付く様な低い声、聞いただけで総毛だつ。

「間桐…臓硯!!」

思わず、そう叫んでいた。

「おぉおぉ、そう猛るな、衛宮の子倅。慎二を丸め込みここまで侵入してきたその手腕、見事なものじゃったぞ。亡き養父も優秀な後継ぎができて、さぞ満足であろう。」

馬鹿にするかのような態度に、ますます頭に血が上っていく。

「黙れ!いいから姿を見せろ!」

「猛るなと言っておろうが。儂を殺したいのなら、まずはそ奴らの相手をしてやれ。化生のはらわたに自ら飛び込んできたのじゃ。それくらいの覚悟できておろう?」

「ふっ、はらわたに、ときたか。飼い犬に手を噛まれたのに余裕だな。間桐のご老公?」

眼前の異形に警戒を続けたまま、言峰が口を挟む。

「ほほう、誰かと思えば…。10年ぶりかの、代行者。どうじゃ?その後、迷いは晴れたか?」

「お陰様でな。たった今、邪魔だった羽虫を潰せそうだ。」

いつもの調子で挑発をするが、その表情に余裕はない。

「カカ、大きく出たな。…まぁ良い。貴様らさえ殺せば後はどうとでもなる。重要なのは屋敷ではなく土地じゃ。この程度の損失、愚息の不祥事として受け入れるとも。ではな、精々足掻くがいい。」

「…!、待て!!」

そう叫ぶも、辺りから気配は消えていた。

「くそっ、あいつ…」

「今はあれに構っている暇など無い。眼前に集中しろ。気を抜けば、餌となるのは我々だぞ。」

こちらに背を向け、異形と対峙したまま言峰が言ってくる。

「分かってる。アンタこそ、口ばかり動かしていたらやられるんじゃないのか。」

熱くなっていたのを見抜かれた腹いせに、悪態をつく。

「それは貴様も同じだろう。言われっぱなしは性に合わん。…違うか?」

言峰も、お返しとばかりに返してくる。

「……………」

「……………」

短い沈黙。覚悟を決める。

コレを倒さない限り、お互い前へは進めない。

瞳を閉じ、軽く深呼吸する。

震える手を無理やり押さえつけ、木刀を強く握る。

がちがちと鳴る歯と、どくどくとうるさい心臓から、意識を離す。

冷え切った心に触れる。躊躇いなど、とっくに捨てた。

沸騰寸前だった頭が冴えていく。

 

———————心を、鉄にする

 

「背中は任せたぞ言峰。こんな所でくたばるなよ。」

「それはお互い様というやつだ。そちらこそ、雑念に囚われてやられるなよ。」

俺たちはいつも通りだ。

違うのは眼前に、見慣れない化け物が居るだけ。

「はっ!そうかよ!そういうのはな、倒してから言うんだよ!!」

その叫びを皮切りに、互いに眼前の怪物へ突進する。

此処こそ最大の正念場。

今こそ、己の理想をかけて、己が力を示す時だ————————。

 

 

 

 

そう啖呵を切ったものの、こちらは防戦一方だった。

「ぐっ!!」

再び目の前に迫る黒い腕をぎりぎりで受け流し、後退する。

先ほどからもう数分、こちらにできることと言えば寸でのところで弾くのが精一杯で、何も突破口を見出せてはいない。

ーーくそ、これじゃジリ貧になる。

今はまだ切り返せられるからいいが、この状態が数十分続けば先にやられるのはこちらだ。

忍耐力なら自信があるが、それはあくまで人間相手の話。

人ならざる異形にはこちらの常識など通用しない。

ならば、こちらがリスクを犯すしか、突破口は有り得ない。

「一か八か!」

そう言って、化け物に対し1歩踏み込む。

「Giiiiiiiーーー!!」

目の前に迫った獲物に対し動じることも無く、ソレは真っ黒な脚を突き出してくる。

喰らえば間違いなく即死。

死がリアルに迫ってくる。

その脚に対して、

俺は剣で受けるわけでも、大きくかわす訳でもなく。

軽く身体をズラした。

最小限の行動で、突き出された脚を躱す。

「っ、」

しかし、完全に躱しきれはしなかった。

攻撃が腹を掠める。

鋭い痛み共に、鮮血が飛ぶが、それは許容範囲内。

ーー見切った!

「おらぁ!!」

気合いと共に、跳躍。

真横に迫った脚を思い切り踏み付ける!

「Gaa!」

バランスを崩す怪物。

上手くいった。ギリギリの見切りだったが、既の所で成功した。

体の中心、がら空きの胴体部分に、渾身の一刀を叩き込む!!

「はぁぁぁぁぁ!!」

強化された木刀の一撃が、化け物の体を捉える。

耳に響く鈍い音。

そして、

 

その木刀が、ぼきりとへし折れた。

 

「なっ!?」

驚愕に目を見開く。

「Gyaaaa!!!」

その隙を逃さんとばかりに、化け物が脚を振るってくる。

「がっ」

咄嗟に折れた木刀でガード、同時に後ろに跳躍し、直撃は免れた。

しかし、そのまま勢いと共に、壁に叩きつけられる。

背中に走る強い衝撃。

「ぐはっ、ぅ、ごほっごほっ!」

そのまま倒れ込んでしまう。

息が出来ない。

逆流した血が、咳とともに口から漏れる。

無理やりガードした為、手が痺れている。

「がっ、くそ、何で…」

霞む目で木刀を見やる。

どうやら先程までの攻防で、かなりすり減っていたらしい。

刃の部分の中央からポッキリと折れていた。

自分の会心の行動に、武器の方は着いてこれていなかった。

後悔出来るのも束の間。

 

「!!」

 

殺気を感じ、倒れた体勢のまま横に転がる。

その瞬間、耳に響く強烈な破壊音。

あの怪物が、隙だらけの俺に対して、攻撃を加えたのだと瞬時に理解ができた。

ーーくそ、まずい。体勢を

しかし、そこまでだった。

 

「———、あ」

 

一撃までなら何とか躱せた。

最初の夜、ランサーの攻撃を防いだ時のような、本能に任せた回避。

ギリギリで、無様ではあるが、それでも何とか無傷だった。

しかし、その状態のまま迫る2本目の脚(・・・・・)は、どう考えて躱せない。

仮に無理矢理に躱した所で、腕が足か、どちらかは確実に持っていかれる。

そうなれば、次の攻撃を躱せない。

どちらにせよ袋小路、これをどうにかしない限り未来は無い。

無い、筈なのに

それに対抗できる手段が、見当たらない。

死が迫る。真っ黒な死が。

目の前の映像が、スローモーションになって見える。

コマ送りのようにゆっくりと、数秒後無様に潰される自分の姿がくっきりと。

 

————これは、まずい。

やられる。

分かっていても、解決策なんてなく、体はすぐには動かない。

 

望みをかけるとすれば、それはこの使えなくなった木刀か。

この折れた木刀で、上空から振り下ろされる一撃を防ぐ。

しかしそれも、上手くいくかどうか。

正直言って、厳しいと思う。こいつが今振り下ろしてる一撃は、先ほどまでの攻防とは比べ物にならない迫力がある。

いや、迷ってる暇なんてない。生き残れる可能性があるなら、やるしか————!

決断するのが早いか、行動するのが早いか。

反射的に木刀を構えようとする。

迫る攻撃。

視界から色が消えて、ゆっくりと現実になろうとする。

攻撃が木刀を捉えて、叩き潰そうとする。

 

その瞬間

 

「いや違う。そうじゃない。」

 

何も考えず、疑問に持たず、おもむろに最後の希望(折れた木刀)最後の希望(折れた木刀)を投げ捨てた。

大した理由なんてない。

ただ、最早武器なんて呼べないこいつが、ひどく邪魔に感じたからだ。

 

ーーそんなもの、俺には必要ないだろ。

 

体が、そう叫んでいる。

 

ドクンと何かが脈を打った。

 

そうだ、俺には剣なんて、武器なんて必要ない。

こんなもの不要だ。

今更そんなものは、ただの枷になるだけだ。

だって、そんなもの、

俺は最初から持っている(・・・・・・・・・・・)!!

 

カっと目を見開いて、目の前の死を見やる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

眼前に迫る一刀に対し、思い切り体をよじる。

振り下ろされる一撃。

耳元で、爆音が響いた。

余りの衝撃に床が砕け、破片が舞っている。

しかし、俺は無傷だ。

数ミリの差で、何とか回避した。

「う、らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

安心する暇なんて、体に与えてはならない。

そのまま懐からナイフを取り出して、叩きつけられたその脚の、節を部分に力を込めて突き刺す!

「GYaaaaaaaa!!!」

不意の反撃は予想出来なかったのか、大きく体を仰け反らせ、後退する化け物。

ナイフは深々と脚に刺さったままだ。

これで手持ちの武装はほとんど失った。

 

これでいい。これが一番俺らしい。

余計なものが無くなった体は、びっくりするくらいに軽かった。

これが俺の標準だ。

やっと、戻れた。

これなら、ようやく

 

「お前を、殺してやれる。」

 

両手を掲げる。

瞬間、両腕に熱いものが走る。

「くっ!あぁぁ!!!」

痛い、熱い、脳が焼き切れそうだ。

身体中に血液の代わりに何か違うのものか巡って、そのくせ血流の音はガンガンと響いて。

でも、不思議と嫌な気分はしなかった。

 

 

周囲に漏れ出た魔力がバチバチと雷となって飛び散る。

眼前に稲妻が轟く。

いや、轟いているのは目の中かもしれない。

身体の熱さはどんどん強くなる。

それに加え、痛みも—————

関係ない。今考えるべきはただ1つ。

武器だ。木刀やナイフみたいな、あんなちゃちなものじゃない。

もっと戦える、もっと鋭く、そして強い。

戦う為の、殺す為の武器がいる。

 

瞳を閉じる。

自分の中の精神世界、イメージで形作られたその場所に身を投げる。

埋没していく意識の中、思い描くのはただ1つ。

遠坂のアーチャー。

あいつが使っていたあの双剣。

白と黒、陰と陽、対となりて二刀と化す。

あれをイメージして、再現する!

 

「————————投影(トレース)、」

 

言葉を紡ぐ、

それは1番初め、切嗣に魔術を教わった時に教えて貰った魔術。

余計な詠唱など俺には不要。発する言葉はシンプルで、短ければ一等いい。

衛宮士郎には、それが1番合っている。

 

「————————開始(オン)!!」

 

自らの幻想、自らの理想、それら全てを形作る!!!

 

 

瞬間、両腕が鳴動する。

「が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」

弾けるように振るわれる魔術回路。

痛みなど、熱さなど、とうに限界を超えて今じゃ何も感じない。

しかし、それだけの成果はあった。

生み出された魔力が、回路というアンプを通して、俺の両手にそのイメージを作り出す!!

 

その時、視界がホワイトアウトした

 

眩しくて、何も見えない

けど、その手には確かに、先ほどまでは無かった重みがある

そうして、その一瞬の刹那の後

 

 

 

 

 

視界が、世界が、文字通り切り変わった。

 

 

 

 

 

 

「———干将、莫邪」

 

 

不意に頭に浮かんだこの銘を口にする。

ここに有りしは贋作成れど、しかしその名は確かに真。

 

 

両手に宿る頼もしい重み。

数十センチ以上ある刃渡りからは、すさまじい量の魔力が流れ出ている。

自分が生み出したとは考えきれない業物。

 

「Gaaaaaaaaa!!!!!!」

危険を察知したのか、怪物が前脚2本を掲げて突進してくる。

そしてそのまま、掲げた前脚を交差するように振り下ろしてくる。

先ほどまでとは明らかに違う攻撃。

それを

 

「邪魔だ。」

 

手にした2刀で切り払う、いや

切り捨てる(・・・・・)

振るった刃は驚くほど簡単にこいつの脚に滑り込んで

まるで果物を切るときのように、簡単に切れた。

 

「Giiiiiiiiiiiii!!!!!!!!」

 

脚を落とされ、前のめりに体制を崩す眼前の異形。

今度こそ、隙だらけのその胴体めがけて強く踏み込む。

手にした2刀を上段に構えて、思い切り振り下ろす。

 

「消えろ!!」

 

そしてそのままそいつの胴体部分、目や脚が付いているソコを真っ二つにしてやった。

 

「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

声にならない怨嗟と共に、怪異が崩れ落ちる。

袈裟切りにされ、2つになった胴体から、緑色の液体が流れ出ている。

まだぴくぴくと蠢いているが、最早先ほどのようにいかない。

もう数分すればこいつは死ぬだろう。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

はち切れそうな心臓に、僅かに残った酸素を回す。

————ギリギリだった。

なんとか、勝つことができた。

不意に想い出した投影が、この窮地を救ってくれた。

体はくたくたで、頭は割れるように痛いが、それでも、手も足もまだ動く。

——————勝った。勝ったんだ。

遅れてやってくる実感と達成感を噛み締める。

・・・・・待て、何か忘れているような。

「っ!言峰!」

そう叫んで、後ろを見やる。

アイツはどうなっただろう。まさか調子に乗って、やられてたりは———————

しかし、それは全くの杞憂だった。

 

「何だ、そちらも終わったのか。それに、ほう…やるではないか衛宮士郎。」

 

軽く手をはたきながら、普段と何ら変わらない表情で言峰は立っていた。

「あ、お、おぅ……………」

くそ、少しでも心配した自分が馬鹿だった。

こいつの底知れぬ強さは昨日で確認済みだ。

やられる、なんてそれこそ万に1つも有り得ないんだろう。

「……………それにしても、すごいな。それ。」

言峰の背後で息絶える異形に目を向ける。

俺のかなり悲惨な形になっていて、世の聖人君子の方々には見せられないくらいグロテスクだが、こいつのはもっとひどかった。

まず、6本の脚。こいつの強みともいえるそれが例外の1つもなく叩き潰されている。

ぐちゃぐちゃになった関節部分から漏れ出す液体が痛々しい。

加えて、こいつにはもう目が無かった。

赤く灯るはずの眼球は、緑の水たまりの中に浮かんでいる。

「あぁこれか。少々興が乗ってな。少し遊びが過ぎてしまった。」

涼しい顔でそう言うが、口にするのも憚られるほどの光景だった。

原型を残したまま、その機能だけ完全に失われ絶命したソレは、剥製か何かみたいだ。

「それを言うならお前のも中々だぞ。中心から真っ二つなど、私には真似できん。それにその武器…。いったいどこで覚えたのだ?」

手にした双剣を見据え言峰が言う。

「……………」

しかし、答えることはできない。

「俺たちはただの共闘の筈だ。手の内を明かすまで心を許した覚えはない。」

こいつはあくまで共闘関係だ。こちらの手札を簡単に見せることはできない。

だって、そこまで明かしてしまったら、今度こそ俺は————————

「まぁ良い。おのずと明らかになることだ。それよりも、」

変わらない俺の態度に興味をなくしたのか。

言峰は俺から目を逸らし、挑発するように上を見据えて言った。

 

「それよりも重要なのは、私たちの勝ち、ということだ。だろう?間桐のご老公。」

 

芝居がかった風に、高らかに勝利を謡う言峰と対照的に、心底驚く様な、そして同時に悔し気な声が虚空から響く。

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅ……………。貴様らぁぁぁぁ!!!!」

そこに虫たちが群がり、人を形作る。

憎悪に満ちた顔面は蒼白で、明らかに焦りの色が見える。

 

「終わりだ。間桐臓硯。」

 

剣の切っ先を向けてそう言う。

燃え盛る業火の中、2体の異形を下した俺たちは、

遂にその親玉の喉元さえ、噛み千切ろうとしていた。

 




かなり前になってしまいまいたが本編の内容についての質問をいただいたので、ようやくそこを話せるまでにお話が進んだのでようやく回答しようと思います。

Q、これの士郎は起源弾を投影することはできますか?


A、能力的には可能、しかし技術的には現状不可能、と言ったところでしょうか。
原作3ルートと違い、凛との繋がりが薄いので自らの魔術について理解しきっていません。
なので士郎があの剣の丘にたどり着くのは原作よりもかなり遠回りになります。
加えて、魔力も足りません。鞘も無ければそれ以外の供給源があるわけでも無いので。
今の士郎だと干将・莫邪を4,5対作るのが限界だと思っています。
なので今後の成長次第で投影できる可能性ありますが、いまは絶対にできません。

感想を送って下さった無銘さん、ありがとうございました!
すごく励みになります、嬉しいです。
これからもぜひ見続けてもらえればと思います。

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