大変お待たせいたしました。
私的鉄心エンド、最新話投稿でございます。
いや本当に日常生活と執筆の両立は大変ですね。
高頻度で投稿しているほかの作者様はどのように進めていられるのでしょうか。
良ければ教えてくださるとうれしいです。
さて、本編ですが、今までお待たせした分かなり大盤振る舞い、なんと3話同時投稿です。
といっても普段自分は1話あたり15000から20000文字くらいで書いていて、投稿する際はそれを何話かに区切っているので正確には投稿するのは1話なんですが今回ばかりは一気に見てほしかったのでそれを全て載せております。なので3話同時になってしまいました。
まぁ細かいところは気にせずに、とりあえず投稿される分を楽しんでいただければと思います。
では、どうぞ。
「終わった………のか………?」
慎二の声が後ろから響く。
言峰の洗礼詠唱にて、間桐臓硯の肉体は消滅した。
「いや、まだだ。あれを見てみろ。」
そう言って塵となった臓硯がいた場所を指差す。
けれどその言葉に焦りは無い。寧ろ愉快気な雰囲気すらあった。
そこには、1匹の小さな虫がいた。
ぎいぎいと火のない場所を探すように蠢いている。
「これが間桐臓硯、その本体だ。間桐桜という隠れ蓑を喪ったので、一時的に自らを体に埋め込んでいたのだろうな。そのままここに引きこもり、聖杯戦争が終わった頃に間桐桜の遺体を回収し、自らの肉体とする計画だったのだろう。今回はそれが仇となったな。早々に次の寄生先に移れば良かったものを。」
言峰はつらつらと話しながら、その虫を拾い上げる。
「さて、気分はどうかな?自らが最も侮っていた者達に打ち破られた感想はどうだ。」
口角を僅かに上げてその虫に話しかける言峰。
「ギィ…がァ………き、貴様ラ………」
最早声になっていない、壊れたラジオから聞こえる雑音の様な音でガサガサと話す臓硯。
「おい!そんな事してる場合じゃないぞ!あと数分でここも火に飲まれる。早いとこ脱出するぞ!」
それを酷く時間のかかるものだと見たのか、慎二が声を上げて脱出を促してくる。
それを聞き、言峰はいつもの無表情に戻り、つまみ上げた虫を懐から取り出した小瓶に詰める。
「まぁ、これは後の肴に取っておこう。お前の言う通り、今は脱出が先決だ。」
いつの間にか、突入した時よりも強く燃え盛る炎を見据えて言う。
小瓶はその手に握ったままだ、
「よし、こっちだ。火災用の防災梯子がある。そこの近くにはガソリンを撒いていないからまだ大丈夫な筈だ。」
慎二が促している。
よし、はやくにげよう。
ここでもえつきるわけにはいかない。
まだやることがある。やることが、…………やること?
あぁ、えっと………それって………
「衛宮!!」
「っ!」
我に返る。
さっきのやり取りの声は聞こえていたはずなのに、どうにも現実味が無い。
まるで、物語の中の人物の会話を聞いているように、さっぱり実感が湧いていなかった。
「お前も来い!早くしろ!」
こうゆう時の慎二の冷静さには舌を巻く。
普段小物だのなんだの言われているが、こいつはすごく優秀なやつだ。
きっとこの戦いが慎二を歪めてしまった。
魔術という超常への依存と、間桐という名前への偏執。
それらに歪まされ、更に本来の性格も相俟って、かなり攻撃的になっていたんだ。
でも、それも終わった。
俺たちで終わらせたんだ。
そう考えて、漸く実感が湧いてきた。
……勝ったのか、俺は。
無謀とも思えたこの計画は、見事大円団で勝利を迎えることが出来た。
誰のおかげ、何てのは全くない。一人一人が、見事その役目を果たすことが出来た。
ある意味、この勝利は必然とも呼べるだろう。
だからこの勝ちは俺だけのものでは無い。
でも、それでも
「あぁ、今行くよ。」
それでも、心から枷が外れたような気分はある。
仄かな達成感が、返って現実味を与えてきていた。
そう自分に言い聞かせて、安堵をしたような振りをして、急いで慎二を追う。
――――――新たに生まれた不安から、無理やりに目を逸らすように
「っはぁ!」
新鮮な空気が肺に染み込んでくる。
この時間の冷たい外気が、先程まで火に晒されていた身に心地良い。
突入していたのは僅か1時間にも満たないが、長い間あそこにいたような感じだった。
慎二の予想よりも火を周りが早く、脱出はかなり大変だった。
お陰で全員が煤まみれになってしまっていた。
慎二も言峰も真っ黒だ。
きっと俺もこんな感じなんだろう。………気にしたら負けだ。
「………………」
後ろを振り向く。
先程戦場だった間桐邸は、もう原型を留めてはいなかった。
かつて家だったものは、今はただの薪となり、火を更に大きくしようとしている。
そこにはもう生命の気配は無い。
そこにあった営み全てを攫っていく炎は、ある種神秘的にすら思える。
曰く、人の歴史とは炎との邂逅が起源だと言う。
これにより、人は冷え込む夜を越える術を身につけ、鋭い牙や爪を持つ獣達を退ける手段を得た。
そしてそれは、辺りを照らし、肉を焼き、鉄を打ち、いつしか人に必要不可欠なものへと変わっていった。
人間は炎をみると、郷愁の様な念に駆られると言うが、これはこんなものでも変わらないのだろうか。
目の前の業火を見て、ふと思う。
俺にはそんなセンチメンタルにこれを見ることは出来ない。
郷愁なんてない。有ろうはずが無い。
これは死だ。死の塊だ。
何も生み出さず、奪う事しかしない。
生み出せたとしてもそれは遺りもの大差なく、どこかに欠陥を孕んでいる。
心中の炎は絶え間無く、永きに渡りこの身を焼き続けた。
あの日から人並みの幸福なんて祈れなくなった。
―――――そんなもの、俺には勿体ない気がして
横を見やる。
俺と同じように、慎二が火に包まれた家を見ていた。
慎二はこの炎に何を見ているのだろうか。
かつて幸せだった頃の日常か、それとも今まで自分を苦しめ続けた過去への追悼か。
無表情のその顔からは何も読み取れない。
苦しいのか、嬉しいのか、悲しいのか、楽しいのか。
ただ、1つだけ分かる事がある。
きっと、こいつには後悔がある。
この結末を選ぶしかなかった事に、こうすることしか出来なかった事に。
人は迷いながらも前に進んでいく生き物だ。
数多の取捨選択。選んだものと捨てたもの。
今回慎二は「家族」と「誇り」という過去を捨て、その代わりに「平穏」を甘受する未来を選んだ。
けれど、その選択には大いなる苦痛が伴っただろう。
遠坂の様に魔術師らしく割り切る事なんて出来てないだろう。
それが普通だ、人として当然の在り方だ。
その在り方は、とても尊いと思う。少なくとも、俺にとっては。
過去は捨てる物ではなく、顧みるべきものだと思う。
無駄じゃない、無意味じゃない。そこにはきっと何かがあったはずだ。
だって、そうじゃないととてもじゃないが釣り合わない。
選んだものより捨てたものの方が大きいなんて、あってはならない。
だから慎二には、後悔をしてもそれを無駄にはして欲しくなかった。
……………俺だって、そう、思いたかった。
忘れたくなんか無かった、忘れた事にしたくなんか無かった。
けれど、そうしないと進めなかったから、そうするしか無かったんだ。
「………同じだな、僕もお前も。」
「え?」
気づくと、慎二が何か呟いていた。
「ほら、僕もお前と同じになったんだなって。」
「同じって、どうゆう事だよ。」
率直に感じた疑問を告げる。
「いや、だからさ」
少しもったいぶって、慎二はその答えを口にした。
「確か衛宮も、10年前の火災で両親を亡くして…えっと、切嗣さん?に引き取られたんだろ?」
「あ、あぁ。そうだよ。」
「きっとこれ、表向きには火災ってことで処理されて、僕はその火災で唯一の肉親を失った青年って事になるからさ。ほら、うちも両親いないし。………同じだろ?」
火を見つめながら言う慎二。
これはあれか。
俺は今慰められてるのか。
どうやらこいつはこいつなりに俺の事を気にかけてこんな柄でも無いことを言ってきたみたいだった。
その気遣いが、なんだか無性に恥ずかしくて
「……お前、ほんとう分かりにくいよな。」
聞こえないように呟いた。
「ん?なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。」
そう言って、炎から目を逸らす。
「感傷に浸るのは終わったのかね。」
少し先でこちらを眺めていた言峰がこちらに向けて言ってくる。
「あぁ、悪かったな。」
「別に、構いはしないさ。それよりも移動するぞ。この火の量なら野次馬の1人や2人集まって来てもおかしくない。」
「そりゃまずい、早く行こう。」
そう言って先を急ぐ言峰について行こうとして、再び後ろを振り返る。
「慎二。」
未だ火の前から動けない慎二に声をかけた。
「…………………」
「行こう、慎二。」
「………………………………あぁ。」
静かな返事と共に、慎二もこちらに振り返り、教会へと向かおうとする。
やっぱりその表情からなにかを読み取ることは出来なくて。
けれど、さっきの慎二の言葉だけが頭に残っていた。
『同じだな、僕もお前も。』
その言葉が、頭の中で反芻される。
実を言えばあの時、俺は聞こえないふりをしていた。
最低な自分を隠してしまった。
だからせめて、ここでは。
自分にだけは、嘘をつけないように。
あの時言えなかった
――――――違うよ。俺とお前じゃ。
これは、聞かせられない独り言。
独りよがりな俺の、誰も顧みない身勝手な言葉。
初めて同じだと、仲間だと言ってくれた友への裏切り。
結局、俺はまた裏切ってばかりだ。
辛うじて残っていた繋がりが、解けるように離れていく。
星は陰り、日常は枯れ、
繋がりと仲間は、自分で絶った。
様々なものを絶ったけど、それでも、俺には道がある。
先を告げる灯火なんてものは無い、茨だらけの畦道だけど。
それでも、俺にはこれだけが。
あれは、いつの事だっただろう。
炎を見てふと、昔の記憶が蘇った。
そうだ、あれはまだ残酷な真実を知る前の、奇跡のような時の一端。
あの頃は、毎日が楽しくて、輝いていて。
僕は優秀だったから、大して努力せずともなんだって出来た。
だから褒められた。
それが嬉しくて、今度は努力した。
そうするとまた褒められて、それが堪らなく快感だった。
僕はなんて幸せなんだ、僕は世界に祝福されて生まれてきた存在なんだって、本気で信じていた。
だから、魔術の事を知った時は、運命だと思った。
間桐の現実を知った時は、変えてやろうと思った。
必死に勉強した。
そうすれば、周りは褒めてくれると思っていたから。
それはきっと、魔術だろうと同じなんだって思っていたから。
でも僕は優秀だから、魔術の勉強以外だって手を抜いたりはしなかった。
一流の魔術師とは、日常に溶け込まなければいけない。
神秘の秘匿の為、自らが魔術の徒だと知られてはならないからだ。
だから、勉強もスポーツも一切手を抜かなかった。
他者から見れば自らをすり減らすような日々だったかもしれないが、それでも僕は楽しかったんだ。
それが報われぬ徒労だと、周りは知っていたはずなのに。
ある日、可愛らしい女の子がうちにやって来た。
その子は今日から自分の妹になるらしく、魔術の事も一切知らない素人だと聞かされた。
率直に思った、可愛そうだと。
彼女は元の親と離れうちに来た。
彼女はきっと僕と違って、祝福されてこなかったんだろうと思うと、何だか少し悲しくなったのを覚えている。
でも僕は優秀で、尚且つ優しいから、そんな妹にもよくしてやった。
とっておきのおやつを分けてやったし、勉強を見てやった事もあった。
にこりともしないあいつを連れ出して、遊んでやった事もあった。
可愛そうな女の子の為に、いいお兄ちゃんになろうと思って、ここでも僕は頑張った。
やる事は増えたけど、こんなの僕にとっては何でもなくて、だから楽しい時間はいつまでも続くと思っていた。
続くと、思っていたんだ。
そこで、楽しい記憶は終わった。
後は知っての通り、惨たらしい青春時代の始まりだ。
絶望と嫉妬に塗れた、実に下らない最悪の毎日の積み重ねしか無かった。
その怒りも、その罪も何もかも僕のものだ。
僕が背負っていくものだ。
だから、それを終わらせた今。
僅かに残ったこの楽しげな記憶など、僕は持つべきでは無いだろう。
過去に囚われる今では無く、未来をむ今を歩む。
それが僕が決めた新しい生き方だ。
魔術師としての間桐は、ここで終わり。
必死になって読み漁った書物も、憧れが詰まっていたあの修練場も。
何もかも、みんな燃えた。
僕が燃やした。
だから、その過去はもう要らない。
天涯孤独?そいつは上等。
ならば僕が証明してやる。それでも幸せになれるって。
だって、僕は優秀だから、努力すれば何だって出来るから。
あの悪夢はもう覚めたんだ。
前を向いて、現実を見て、僕はこれから生きていく。
望むものなんて無いと知りながら。必死に藻掻く振りをして。
吐き出すように、日常を謳歌しよう。
後ろなんて、二度と振り向けないように。
さようなら、この愛しき最低の日々よ。
嗚呼どうか、叶うなら。
出来るだけ早く色褪せて、無くなりますように。