「な、これは………………」
「貴様の理想はこのような外法の業であっても不変のモノであろう?」
「お前はそれでもいいのかよ!それで、お前は幸せなのかよ!」
「ヒトの幸福とは他者が定めるもので無く自らで見つけ出すものだ。それが善であれ悪であれ、他者に指図される言われは存在しない。」
「私には理想がある、私には誇りがある。」
「ごめん、慎二。俺はもう、戻れない。そっち側はもう、俺の居場所じゃない。」
「晒しちまえよ。吐き出してしまえ。お前の醜い我欲をさ。俺はそれを賛美する。俺はそれを肯定する。他の誰でも無い、俺の為にな。」
「我らが契は仮初なれど。貴様が約束を守る限り、私も貴様の剣となろう。」
「この聖杯戦争も、いよいよ次で終幕だ。勝者が全てを得るが、敗者は全てを失う。正に原初の戦いと呼べるだろう。」
「誰が相手でも、俺は負けない。コレは、その為の力だ。」
「漸く成ったな。魔術師殺し。」
「僕はもう降りる。後は好きにしろ。」
「監督役として、私はお前に改めて、この言葉を送ろう。」
「戦う。俺は、聖杯戦争を終わらせる。」
逆しまの運命は高らかに唄う。
この戦いの終焉を、少年の夢の始まりを。
刮目せよ、この悲劇に喝采を送れ。
全てを捨て、全てを消し去る少年の道行きに、どうか報いのあらんことを。
さぁ、聖杯戦争を終わらせよう。
帰路に着いたのはとっくに日付が変わってからだった。
あの後、言峰によって俺と慎二の治療がされ、ボロボロだった俺も何とか普通に歩ける程度には回復した。
先ほどから痺れてしまい、感覚の無かった半身も、アイツの治療のおかげで良くなった。
この前からずっとアイツに頼りっぱなしなのは癪だが、それもこれで最後だろう。
言峰との共闘は終わり、俺はこれから1人で戦う事になった。
はっきり言って状況は最悪のままだった。
相手はイリヤと遠坂だ。仮に俺にセイバーが居たままでも勝てるとは言いきれない。
しかし、勝機はある。
ギルガメッシュから貰った報酬。こいつがあれば俺は1人でも戦うことが出来る。
そう思って、右手を固く握りしめる。
あいつは言った。
自分の日常を捨てても尚、勝つために行動する覚悟は有るかと。
愚問だった。そんなもの1番最初から出来ている。
最初から迷ってばかりの俺だったけど、それにだけは迷いは無い。
この道を、俺は行く。その為に日常は捨て去った。
……………藤ねぇには謝らないとな。
ふと空を見上げると、さっきまで爛々と輝いていた月に雲が陰り、辺りを照らしていた光は薄く微かなものとなっていた。
その雲も真っ黒で今にも泣きだしそうに震えていた。
それに気温もかなり下がってきている。思わず首を竦めてしまう程には冷え切った外気は容赦なく俺に襲い掛かる。
「明日は、雨が降るかもな。」
ふと、自分がそれを嫌に思っていると気付いた。
確かに洗濯物の事とかもあるので、世間一般的に好かれてるものでは無い。
でも、ここまで嫌になったことは今まで無かった。
そこまで考えて、思い出してしまった。
「――――――あぁ、そうか。」
雨の夜、立ち尽くす少女。
何もしなかった自分と、遠坂の悲しい瞳。
生まれて初めて流した涙。冷え切ってもう戻らない心。
雨は無意識に、その時のことを回視してしまう。
でもきっと、この後悔は一生続くだろう。
彼女の死を無駄にしない為に、彼女の死に意味を持たせる為に。
————————きっと彼女は俺を恨んでいるだろう。
ずっと助けを求めていたのに、俺はそれに気付いてやれなかった。
彼女の優しさにずっと甘えていた。
その笑顔に何度救われたことか。
彼女の笑顔が好きだった。心底幸せそうに笑うその姿に、自分まで嬉しくなった。
あの笑顔の裏には、言い表せないほどの苦悶があったというのに。
許してくれ、とは言わない。
俺の成すことを見守ってくれ、なんて烏滸がましいこと言えやしない。
ただ、彼女は死後に安寧を。
死者の世界なんて信じちゃいないが、どうか安らかに。
生きている時の痛みを、ずっと忘れていられるように。
そう考えていると例の如く家に着いた。
最近は帰りに色々考えるのが習慣になっている。
それまでに色々有りすぎて、落ち着いて考えられるのはこんな時しか無いからだ。
門をくぐり、玄関の前に立つ。
ドアを開ける。
『お帰りなさい、先輩。』
「なんで…………………………」
何故、何故なんだ。
消えない、離れない。
彼女の言葉が、頭から離れない。
俺にそんな資格は無いというのに、
俺はもう、彼女の先輩じゃないっていうのに
それなのに、何で、
お前はずっと、そこに居るんだよ。
見えない。見えない。見えない。
思い出のような何かがよぎるけど、その全てが他人事の用だった。
真っ暗な玄関の前で、1人歯を噛み締める。
拳を固く握り、体中が強くこわばる。
腹が立つ。
誰でもない自分自身に。
この期に及んで尚、日常を求めようとする罪深い己自身に。
だからきっと、これは気の迷いで
そして、何かの引き金なんだろう
「あぁ、ただいま、×××。」
ふと、そんなことを言ってしまった。
自分に対する怒りで焦げそうな喉からかき集めた、消えかけの言葉。
肩を震わせて、ようやく絞り出した言葉は、他でもない自分の行いに対する皮肉だった。
だけどなぜかその時、
居るはずのない誰かが、見えた気がして。
心から、安心できるような。
あの、花のような笑顔で
「————————————————————————」
答えは無い。
静寂が体を切り裂く。
その痛みでようやく、自分が帰ってくる
「はっ。」
思わず、自分の行動を鼻で笑ってしまう。
どうかしていた。
疲れた、もう寝よう。
色々あった。あり過ぎた。
急に重くなった体を、引きずるように動かして、真っ暗な家に入っていく。
離れていく日常に、馳せる思いもなく、
遠くなっていくかつての記憶を懐かしむ事もない。
あの日常は、もう終わったんだ。
前を向いて、理想を持って、俺はこれからを生きていく。
いつか望むものを手にするために、必死に足掻くことを続ける。
全部断ち切って、俺は先に進む。
後ろなんて、二度と振り向けないように
さようなら、あの愛しき最低の日々よ。
鳴呼、どうか、叶うなら。
出来るだけ早く、いや、今すぐにでも
俺の事なんか忘れて、華やかなままでありますように。
というわけで3話目でした。
不思議な始まりで申し訳ないです。
本来ならあの部分を別の1話にする予定だったのですが、短すぎて出来ないと言われこのような形になりました。
分かりにくいかもしれませんが、あの会話のみの部分は②の最後からつながる場所、つまりギルガメッシュが士郎に与えた報酬の話の断片となっています。
あの部分の真相はこの物語の最後にて綴る、と前回のあとがきで言ったように、真相編はまだまだ先ですので、今はこのヒントのみで何があったかはご想像にお任せします。
まぁ、碌なことではないでしょうがね(愉悦)
さて、今回でこの私的鉄心エンドは丁度折り返し地点です。
ここから先は物語自体の終わりへと向けて進んでいきます。
未だ残る参加者凜やイリヤとはどうなるのか。
そして、正義の味方、衛宮士郎の結末は。
鋭意執筆中ですのでどうかお楽しみに。
では、ここまで長らく読んでいただきありがとうございます。
次回、なるべく早く頑張ります!!