実は失踪中に「天気の子」を見に行きまして。
や、良かったです。僕、特に映画が好きと言う訳でも評論家ぶっているわけでも無いのですが、凄く面白かったです。
主人公がヒロインを求めて全てを捨てて走り、そして周りもその実直さに影響されていく。
「君の名は」に比べてると展開のインパクトに欠ける分、大分分かりやすく面白い作品だったと思います。
それで、見終わったあと何か既視感があったんですよ。この感動の具合、何かに似ているなーと。
それで考えてみたら、天気の子の感想、僕がセイバールートを見た時の感想と近かったんです。
ヒロインが今までの人生よりも、刹那の間の逢瀬を求めた感じとか。
主人公が自分のすべてを投げ出してヒロインに会いに行こうとした感じとか。
向かう先は破滅しかないボーイミーツガールって、あんなに綺麗で、そして眩しいんですね。
お時間があれば見に行ってみたらよいと思います。刺さる人には刺さる作品です。
では、どうぞ。
「どうゆうことよ。間桐邸が火災って。」
「言葉通りだ。タイミング的に昨日の深夜だろう。私も俄には信じられん。」
「あの地はこの冬木で、うちに継ぐ強力な霊地よ!?そんなに簡単に落とされるはずが無い!」
「分かっている。しかし、これは事実だ。」
信じられない。
あそこを簡単に落とす事など出来ない。
間桐は使い魔を使役することに優れている。
それ即ち、こと自陣営の守りにおいては、本人が無くともある程度は出来るという事だ。
加えて臓硯本人が居ればそれはもっと強固なものになる。
魔術師の工房の守りとは、そうゆうものだ。
侵入は容易いが、脱出は困難。
自らで作り出した蜘蛛の糸にかかった獲物を容赦無く殺す。
そこに慈悲は無く、ただ無断で踏み入った者を始末するだけ。
それはうちだって同じだ。
だから、私たちも侵入までしか行けなかった。
臓硯が居なく、守りが手薄な時にこっそりと。
そうしなければ、いくらサーヴァントがいても無傷では済まないからだ。
そんな魔術の要塞を一晩で落とすなんて。
そんな事出来るなら、とっくに私たちがやっている。
こんな事出来るのはーーーー
「…………行くわよ。」
「何?」
「現場に行くって言ってんの!アーチャー!着いてきなさい!!」
「待て待て待て!考え無しか君は?これがこのタイミングで起こったということは間違い無く魔術師の仕業だぞ!君まで危険に晒されてどうする!?」
「だったらあなたが守ればいいじゃない!とにかく行くわよ!ほら早く!!」
そう言って、急ぎ足で外へ向かう。
「…………」
後ろで言葉を失い絶句している音が聞こえたが、今はそれどころではない。
何かが起こっている、それも良くない事が。
聖杯戦争関連ならばまだ良い。それは自業自得であるし、魔術師間で完結する話だ。
けれど、これは違う。
これをこのまま放っておいたら、きっと最悪を迎えるしかなくなる。
そんな絶対の予感が私を突き動かしていた。
そう考えて私は家を出る。
この予感が、杞憂で終わることを願って。
「着いたぞ」
アーチャーに担がれて間桐邸から少し離れた建物の屋上に降り立つ。
雨は先程より弱くなっていた。
とはいえアーチャーに担がれ移動したので、レインコートはびしょ濡れだった。
しかし、今はそんな些事はどうでも良い。
「これは……………」
目の当たりにした悲惨な光景が、それをかき消していたからだ。
少し先に間桐邸が見える。
けれど、そこに以前の面影は一切見られなかった。
ただの焼け跡だった。
真っ黒な何かでしかなかった。
もし、この火災の事を知らずにここを見れば、ここに豪邸があったなんて事、信じはしないだろう。
家の骨組みから庭や離れに至るまで、敷地内全てが消し炭と化していた。
「この襲撃者っての相当な派手好きね。又は相当の無鉄砲か。」
見れば見るほど酷い有様だ。
幸い、雨のお陰で火は消えており、周りに火が移った様子も見られない。
閑静な朝の住宅街のはずの場所で、一際浮いている黒い焼け跡。
こうなれば、最早工房が、等とは言っていられない。
それに、貯め込んでいた資産や知識も全焼してしまっているだろう。
「間桐はこれで完全に敗退だな。最早魔術師としての復興も不可能だろう。」
アーチャーもそう言う程に、何もかもが燃え尽きていた。
嘗て此処で積み上げられてきたであろう研鑽も、歪ながらも細々と続いていた平穏も。
「………!凛、あそこにいるのは君の学友では?確か………………マトウシンジとか言ったか。」
アーチャーが家から少し離れたところを見ながら私に尋ねる。
見ると、人だかりが出来ていた。
しかし、私には人だかりがあると分かるのが限界で、そこにいる人間の事は見ることが出来ない。
「ちょっと待って。今遠見の魔術をかけるわ。」
なのでそう言って、自身の眼球を強化する。
より遠くを、より正確に見れるようになる遠見の魔術。
レインコートのフードを上げて、人だかりの方向を覗く。
強化魔術の初歩の初歩なので、詠唱無しでも成立する。
それを使って見ると、確かに人だかりの中央に見知った顔がいた。
雑踏に揉まれながら、不機嫌そうな顔で立っている。
「そっか…。まぁ居るわよね。自分ちだし。」
桜の兄にして間桐の長男、間桐慎二がいた。
どうやら警察官に簡単な事情聴取を受けているらしい。
彼の少し怪訝で、それでいて冷静な顔を見て直ぐにピンと来る。
「アーチャー、あそこで何話してるか聞こえる?」
「いや、悪いが私は視えるだけだ。聞くことは出来ない。君が聴力を強化した方がまだマシだろう。」
「そ、ならそうするわ。」
そう言って、今度は聴力を強化する。
それも、単純に遠くの音を拾えるようにだけでなく、聞き分けも出来るようにした。
すると、野次馬たちの様々な憶測が飛び交う中に、聞き慣れた声が聞こえてくる。
『はい、そうです。僕が家に帰った時にはこうなっていました。近隣の方々には迷惑をかけてしまったと思います。』
紛れもなく慎二の声だ。
彼は驚く程落ち着いた声で、近くにいる警察官からの質問に答えていた。
『犯人の心当たり?さぁ?この家には僕と祖父と妹の3人でしたから、特にこれと言ったものは思いつきませんね。』
『ところで祖父は、……………そうですか。いえ、かかりつけの医師からももう長くないと言われてたので。唯一、苦しみながら死んでしまったのが悲しいです。』
(何よあいつ。随分と冷たいわね。仮にも親族でしょ。)
何か違和感がある。
彼はこのような非常事態においてあそこまで冷静でいられる男では無い。
常時の彼ならば、この有り様を見た途端に騒ぎ出し、不審者として通報されても何ら可笑しくはないだろう。
にも関わらず、彼は表情一つ変えない。
ならば、何かを知っているか、それよりも強い何かに屈服させられているか。そのどちらかだろう。
「…………決まりね。」
短く呟いて、アーチャーに指示を出す。
「アーチャー、貴方はあの家を調べて。霊体化すれば侵入は簡単でしょう?」
「それは構わないが、君はどうするのかね。」
「慎二を追うわ。あいつ、絶対何か知っているわよ。」
「了解した。何か痕跡が見つかれば報告する。」
そう言って霊体化し消えるアーチャー。
それと同時に、私も慎二に話を聞く算段を整える。
丁度、彼は警察官に連れられて別の場所に移動するところだった。
「さて、こっちも始めますか。」
そう言って、私も動きだした。