どうも皆さんこんばんは、たまごぼうろです。
さて、今回から終盤へと突入します。
この物語で最も熱い戦いをご覧ください。
暗夜に曇天、月明かりは無い。
今にも鳴きだしそうな空模様に、唸り声のように響く風。
今夜の冷え込みはいっそう厳しく、寒波は容赦無く牙を向く。
まるで、世界そのものが怪物になったようだ。
木々は鋭く光る鉤爪。雲は月を呑み込み、生命の気配は消えた。
世界が、街が、人々を喰らおうと待っている。
正に、そんな不気味な雰囲気の夜。
その中、街灯のみがちらちらと瞬いている。
僅かに地面を照らす人工の白い光の中、静かに駆けるものが一人。
その背後を影が追いかける。
辺りに人はいない。
誰もが知っている。無意識にでも分かっている。
今夜、何かが起こると。それも、ただ事では無い何かが。
けれど、そんなものを一蹴するように、それに迷いはなかった。
進む。進む。進む。
足早に闇夜を駆ける人一人と影一つ。
黒い外套ははためかせ、足音すら置いていく。その姿は、それ自身も怪物じみていた。
目指す場所も向かう先も、それにはとうに決まっているようだった。
今宵の天王山、全ての決着が待つ森を目指して
ただ進み続ける。
古今東西の魑魅魍魎。どのような悪鬼羅刹も踏み込むのを躊躇うその場所に、それは何を思って向かうのか。
一瞬、黒を照らす光源とすれ違う。
そこに映ったのは、鉛のような冷たさを秘めた感情の無い貌だった。
遂に、その時間がやって来た。
時刻は夜の二十二時。
外はとっくに暗くなり、街灯の光のみが細々と灯るのみ。
辺りに人影は感じられず、静寂のみが支配していた。
なんて、こんな夜にももう慣れたものだ。
「………………さて、と。そろそろ行きましょうか。」
アーチャーに声をかける。
あの後、アーチャーの腕の中で一頻り泣いた事で、私は何か吹っ切れる事が出来た。
自分を戒めていた何かから解き放たれ、酷く肩が軽くなった。
なので、彼に料理を作らせ、お腹いっぱいに食べた後お風呂に入った。
そして、今に至る。
いつも通りのルーティンをこなし、いつも通りの格好で。
最早そこに、先程迄の焦りと不安は存在していなかった。
「調子は大丈夫なのか?凛。気持ちは定まったとは言え、身体は本調子とは言えんだろう。もう一日様子を見ても良いと思うが。」
やはり彼は良い人だ。
英霊だろうと関係ない。私は率直に、彼のそんな人柄が好ましかった。
彼は本気で私を気にかけてくれた。マスターとしてでは無く一人の少女として、私の身を気遣ってくれた。
けど、その人柄に甘える時間はとっくに終わっている。
いや、もっと早くそうして甘えていればこんな事にはならなかったかもしれない。
父さんが死んだあの時に、アーチャーを召喚したあの時に。
桜を殺した、あの時に。
しかし、後悔は先立たない。それに私はまだ失敗しちゃいない。
まだ何も成していない。成せていない。
なら、結末はまだ変えられる。バッドエンドなんてもうおしまいだ。
私は、私の為に幸せになる未来を掴む為に、戦うって決めたんだから。
「ありがとう。けどもう大丈夫。それに、今日決着をつけないと。これ以上先延ばしには出来ないわ。」
「………………そうか。」
彼はまだ少しだけ心配そうに私を見つめて、もう一つ聞いてくる。
「では、作戦はどうする?敵はあの狂戦士だ。一筋縄には行かんぞ?」
「あぁ、それね。それなんだけど、ノープランで行くわ。」
酷く真剣にそう聞いてきた彼に、私はサラッと言葉を返した。
結局、私はこれが一番あっている。
情報も無い、時間も無い。
明らかに何もかも足りない状況で、それでも最善を望むなら、余計な画策など私には不要だった。
「色々考えたんだけどね?結局分からないものは対策しようが無いじゃない。外来の魔術師とか何処の誰だか知らないし。ならもう諦めた方がいいかなって。行き当たりばったりになっちゃうけど、ごちゃごちゃ考えてそれに縛られるよりは良いでしょ。」
だから、私は諦めたのだ。
思考を放棄した訳じゃなく、後回しにしたと言っても良い。
考えるべき時は今じゃない。今考えたって堂々巡りになるだけだ。
「それに、警戒してるのはイリヤも同じのはず。ならそれに乗っかった方が楽じゃない。戦闘の最中に介入して来たら、臨機応変に対応して、って聞いてるの?」
そう説明する私を、彼は優しく見ていた。
まるで、何か眩しすぎるものを見て、目を細めるように。
「何よ、その表情。」
少しむくれてそう返すと、彼は安心したように笑みを浮かべた。
「いや、聞いていたとも。実に君らしい、割り切ったいい作戦だと思う。正直心配だったのだが、もう大丈夫だな。それでこそ凛だ。」
そう言って、彼は私の前まで歩み寄り、その膝をついた。
まるで、中世の騎士様が主に忠誠を誓うような雰囲気で、真面目な顔で私を見ている。
その鷹の瞳には敬意と、そして静かな闘志が灯っていた。
「あら、セイバーの真似事かしら?」
「まぁな。君、本当はセイバーを喚びたかったのだろう?」
「えぇ、でももう良いわ。貴方に会えたんだもの。私、貴方と戦えて楽しかったわ。それでチャラにしてあげる。」
「ははっ、手厳しいな。……私も、君に出会えて光栄だよ。親愛なる我がマスター。」
その言葉を最後に、彼は頭を垂れた。
瞳に灯った忠義の炎を、包み込む様に瞼を閉じる。
そうして、誓いの言葉を口にした。
「この身は魔力によって造られた過去の写し身。人ならざる影法師に過ぎず、また私はその中でも異端中の異端。真名も名乗れぬ歪な英霊崩れに過ぎん。けれど、今宵この戦い。この一戦のみは、君が君であり続ける限り、私のなけなしの誇りを賭け、全霊を持って戦うと誓おう。」
らしくなくそう述べた後、いつものニヒルな顔に戻った彼は、悪戯っぽく笑ってこう言った。
「そして、証明してやるとも。私は、君の最強のサーヴァントだとね。」
これが、彼の忠義の言葉。
彼は戦うのだ。
他でも無い、私の為に。
誰でも無い、自分の為に。
彼は先程の私の言葉を、私らしいと微笑んだ。
けれど、それはこちらも同じ。
何とも彼らしい、悲観と親愛の混じった反応に困る決意。
けど、今はそれが何よりも頼もしかった。
「えぇ、貴方の本気、見せて頂戴。私のアーチャー。」
そうして、私たちの最後の戦いは、互いの笑顔と共に開始を告げたのだった。
短い?だが問題は無い。
今回も安定の二話投稿ですよ。