私的鉄心END   作:たまごぼうろ

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二話目です。



決戦 アーチャーvsバーサーカー②

「………さて、到着だ。」

 

アーチャーの体から手を離し地面に降り立つ。

冬木氏の郊外にある深い森。

此処こそがアインツベルンの本拠地であり、最後の戦いの場だった。

その先に光は無く、ただただ闇が広がるのみ。

まるで、私達を深淵へと誘う門のようだった。

 

「じゃあ行くわよ。」

 

けれど、そこに躊躇い無く足を踏み入れる。

こんなもので怯んでいては話にならない。

この先には正真正銘の化け物が、他でも無い私達を待っているのだから。

 

「暗いな。月明かりでもあれば幾分かマシだったろうに。」

 

アーチャーですらそう言う程に、森の中は真っ暗だった。

そこは一種の異界と言っても良いだろう。

木々は畝り、侵入者の視界に不気味な手足を覗かせる。

根は地面を這い、侵入者の足を絡めとる。

そして、地面は大小様々な勾配を生み出し、これらの妨害全てを纏めあげる。

森全体が、その先へ行くものの行く手を阻んでいた。

 

「さて、どう動こうか。さしあたってはまずアインツベルンの城を目指して……。ん?」

 

顎に手を当て少し考え込んだアーチャーはふと何かに気づいたように顔を上げた。

 

「凛。あちらを見ろ。」

 

「………そう。探す手間が省けたわ。」

 

アーチャーが指さした先にいたのは一体の白銀に光り輝く小さな鳥だった。

それに生気は無く、例えるならそう、玩具の動物のように規則的に辺りを回りながら飛んでいる。

その身は銀色の糸のようなもので編まれていた。

それ自体に敵意は感じられず、まるで私達を待っているように飛び続ける銀色の小鳥。

まず間違いなくイリヤの魔術だろう。

そして、それがここにあり、襲ってこないという事はつまり、

 

『着いて来なさい。私はここよ。逃げも隠れもしない。正々堂々、決着を付けましょう。』

 

そんな可憐な音色で奏でられる挑戦状が、あの小鳥から囀られているようだった。

 

「行くわよ、後を追う。」

 

「承知した。」

 

そうして私達は小鳥の後を追う。

それは時折此方を確認するように小さく旋回しながらも、正確に目的地を目指していた。

木々の間を駆け抜けて、小鳥を見失わないように慎重に進む。

すると、次第に木の数が少なくなり、足元も平らに近くなってきた。

明らかに戦いやすい場所に誘導されている。

ここはアインツベルンの結界。

この森の中ならば何処にいようと私達の居場所は分かるはずなのに、その地の利をイリヤは敢えて捨てようとしている。

バーサーカーに全面の信頼を置く彼女らしい、堂々とした戦い方。

彼女は本気で思っているのだ。

かかってこい、此方は余計な事などしない。

どのような小細工、どのような策略を巡らせようと構わない。

なぜなら、圧倒的な力の前には、そのような物は無力に等しい。

故に、バーサーカーにそんなものは通じない、と。

 

「舐めてくれるじゃない………」

 

しかし、それは好都合。

油断、慢心、それら全てが欠片でもある限り、どんな達人であろうとも動きに遅れが生ずる。

命の取り合いに置いて、その一瞬のしょうじゅん逡巡は命取りだ。

反乱、革命、下剋上、クーデター。

遥か昔より、名を変え地を変え時を変え、何百何千、大小関係なく行われてきた大物喰らい。

それはいつだって、そんな小さな綻びが原因だった。

ならば今回も同じ、必ず付け入る隙はある。

相手の手札は既にフルオープン。

能力、真名、宝具ともに把握済み。

対して此方はアンノウン。

能力、宝具、真名。

それら全てが未だ不明、なんなら宝具と真名は私も知らない。

そこがチャンスだ。

未知に対する驚きと、慢心で生まれる油断。

この二つがあるならば、勝てない相手では無いはずだ。

それに、私だって戦える。

アーチャーに任せっぱなしにはいかない。

今日は大盤振る舞い。家にあった宝石を片っ端から持ってきた。

勝つ。必ず勝つ。

私達を二人で、必ずーーーーー。

 

 

そして終着。

銀で編まれた小鳥が解ける。

それは、主の元に戻った証。

役割を終えて、静かに消える道標。

そこには、小さな少女が一人いた。

透き通るような銀髪に、同じく白い肌。

その中で、赤い瞳がよく映える。

それは雪の精のような。儚げで、それでいて美しい。

人間離れしたその風貌も、彼女が纏う雰囲気で返って真実味を持たせている。

月のない夜。

真暗な森の最深部。少し開けたその戦場。

 

「ようこそ、そして久しぶりね。リン。」

 

「ええ、ご招待ありがとう。イリヤ。」

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

今宵のもう一人の主役が、紫色のスカートを傾げて、こちらの登場を待っていた。

 

「わざわざ案内してくれるなんて親切じゃない。最初の時とは大違いね。」

 

「だって、これが最後だもの。それに相応しい舞台を整えてあげただけよ。」

 

ゆったりと笑ってそう言うイリヤ。

 

「ふぅん。自分の陣地じゃないと相応しく思えないのね、貴方。随分と消極的じゃない。もっと世界を見てみたら?戦う場所なんていくらでもあると思うわよ。」

 

「ふふ、だって商品を受け取ったら直ぐに使いたくなるのが貴方達でしょう?だから、ここが相応しいのよ。」

 

「相変わらず自信家ね。一つ教えてあげる。勝者にとって相応しい場所なんて無いのよ。ううん、元より戦いに置いて場所なんて小さなものなの。ホームだろうとアウェーだろうと、何処だろうと勝つのが、真の勝者ってもんなのよ。自分の陣地で戦って勝った気になっているなら、それはただの二流に過ぎない。」

 

「私、貴方のそうゆう所が好きよ。勝てないと分かっているのに、それでも戦わなきゃいけない。遠吠えだと分かっているのに、吠えずにはいられない負け犬なの。知ってる?二流ほど御託を並べて可愛く吠えるのよ。」

 

「あら、ならいいじゃない。二流同士、泥仕合と洒落込みましょう。でしょ?アーチャー。」

 

そうして、隣に立つアーチャーに声をかける。

 

「ふっ、出会い頭に舌戦とは、やはり女というのものは恐ろしいな。」

 

「ちょっと!そこはあんたも挑発する所でしょ!!いつもの皮肉はどこにいったのよ!!」

 

 

「はは、ならば一言、加えさせてもらおうか。私はマスターとは違い、二流以下、良くて三流のサーヴァント崩れなのでね。悪いが、誇りなどという重いもの、一人分しか持っていない。故に泥仕合なら専売特許だ。主が望むなら何処まででも付き合ってもらおう。構わないだろうな?狂戦士よ。」

 

そんな自虐とも取れる言葉と共に、彼もまた、ここにいないはずの無い異形に声をかけた。

言葉自体は飄々としていたが、そこには確かな闘志が篭っている。

その声は届いてはいないだろう。届いていたとしても、彼の耳には可笑しな吃音にしか聞こえてない。

けれど、ソレは狂戦士であるまえに、一人の武人だ。戦い誇りを見出す戦士だ。

そして戦士ならば、その言葉に込められた闘気を無視出来るはずは無い。

 

「▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️………」

 

鼓膜がビリビリと鳴る。

あたりの大気は震え、木々は再びざわめきを取り戻す。

ただ現れただけなのに、圧倒的な存在感に気圧されてしまう。

バーサーカー、ヘラクレス。

イリヤを守る戦士が、彼女の背後に現れた。

 

「あは、やる気じゃない。負け犬にも矜持はあるって訳ね。」

 

「そんな大層なものでは無いさ。ただ、たった一つ譲れないものかある。君達を押し退けてでもな。」

 

「そう。なら、それ事ぐちゃぐちゃにしてあげる。行くわよ、バーサーカー。」

 

「▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️ーーーーー!!!!!!!」

 

彼女の声と呼応して、暴力的に響き轟く狂戦士の咆哮。

同時に、彼の全身も燃えるような赤に変わる。

巨大な戦斧を片手に取り、今にも弾けだしそうに構える。

闘気も狂気も、最大限まで高まっていた。

 

「……投影、開始(トレース、オン)。」

 

同時にアーチャーも双剣を手にする。

彼にはバーサーカーなような迫力は無い。

戦意も覇気も、武勲も栄光も無い。

人を震えさせ、また突き動かすような勇気も、そしてそれを促す誇りも無い。

英雄として、男として、人として、アーチャーはバーサーカーに大きく劣っている。

誰よりも彼が、そんな当たり前の事を強く実感しているだろう。

けれど、

世界でたった一人、私だけは知っている。

彼には人を慈しむ優しさがある、死後の身になっても、人を救おうとする正義の心がある。

バーサーカーには無い者を、確かに彼は持っている。

事命のやり取り置いて、英雄としての格など意味を成さない。

必要なのは覚悟と、そして勝利を描く力だ。

何百何千と敗北しようと、何か一つでも相手に優るものが存在するならば、必ず、必ず勝つ事は出来る。

バーサーカーとの距離は十数メートル。

既に互いの間合いとなっている。

 

「行くわよ、アーチャー。」

 

心を込めて、気迫を込めて、万感の思いを込めて、最後に彼に声をかけた。

いよいよ始まるのだ。

聖杯戦争、その終幕を飾る一戦が。

 

「……承知した、全霊で臨むとしよう。」

 

その一言を皮切りに、ガラスが弾けたような音がした。

 

「………え?」

 

一瞬の強い光。

驚くような声はイリヤから。

理由は分かっている。

私が放った宝石の閃光弾が炸裂したからだ。

 

「▪️▪️▪️▪️!!!」

 

バーサーカーは瞬時にその原因たる私を排除しようと動くも、既に遅い。

彼は基本的にイリヤの指令が無くては動けない。

だから、そのイリヤにほんの少しでも隙を作れたのならば

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻じれ狂う)……」

 

後方から低い声で詠唱が聞こえる。

それと同時に、私は大きく横に飛び退いた。

ここまでは事前の打ち合わせ通り。

作戦は無くとも、何もかもが無策で来たわけでは無い。

飛び退いたのは、巻き込まれない為だ。

私が生み出したこの一瞬の隙に、彼の渾身の一射を叩き込むための。

 

「ッ!バーサーカー!!」

 

黒い洋弓が軋む。

極限まで引き絞られた剣に、紅色を纏いを練られた魔力。

偽りの虹蜺は裂帛の叫びと共に、空間を裂き、一部の狂いもなく標的へと向けられる。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)ーー!!!」

 

「!!!!」

 

剣を放った衝撃は大地を震わせ、大気は鳴くように唸る。

音速を超えるその剣は、寸分の狂いも無くバーサーカーの胸に突き刺さった。

肉を削ぎ、骨を断つアーチャーの強弓。

大きく後方に飛ばされるバーサーカー。

しかし、それだけでは終わらない。

 

「弾けろ。」

 

その瞬間、熱と轟音が静寂に浸った森を満たす。

アーチャーの剣は、それが突き刺さったバーサーカーの体ごと大きく爆ぜた。

その爆発は木々や地面を巻き込み、その一帯を抉る。

神秘の破壊による爆裂は、森の中の生命の息吹を一瞬にして刈り取った。

地響きは暫く続いた。

煙のように舞う土埃。

飛び退いた瞬間に貼った防御結界越しにでも、その破壊力は体感できた。

 

「ほんと、何だかんだ派手好きよね。あいつ。」

 

漸く土煙が晴れてきて、周りが見渡せるようになる。

ここより数メートル先。

先程私が居た場所とほぼ変わらないその場所で、上半身を無くした大男が立ち尽くしていた。

そこに命の色は無く、最早肉塊と化していた。

これ以上無い、見事なまでの不意討ち。

そんな大爆撃は、確かに怪物の命を一つ、奪っていった。

 

「くっ、なんて事!折角お誂え向きの場所を整えてあげたって言うのに、いきなり不意討ちなんて!品が無いことこの上ないわ!」」

 

イリヤの声が聞こえる。

どうやら彼女もこの不意の爆撃を回避していたようだ。

その声には怒りがある。

当然だろう。あんなの、いきなり戦場にミサイルを落とされたようなものだ。

正直、私でさえ少しどうかと思った。

 

「はっ!これで一つ!奪わせてもらったぞ大英雄!!…しかしそうか。こんなに簡単に行くとはな、十二回、案外簡単やもしれん!」

 

「ッ〜〜〜〜〜〜!!」

 

対するアーチャーは、弓を持ったまま私の隣に降り立ち、至極楽しそうに叫ぶ。

いつもの悪態が数倍酷く聞こえてくる。

 

「信じられない!何なのあいつ!最低よ、リン。貴方のサーヴァント、マナーってものが無いわけ!?」

 

彼女の怒りは当然だろう。

逆の立場だったら私も怒る。そりゃもう盛大に怒るだろう。

けど、それは飽くまで仮定の話。

自分がやった側ならば、こんなに愉快な事無いだろう。

 

「何言ってるのよ。力も技量も、気迫だってそっちが上。ならこっちは狡さしか無いじゃない?ね、アーチャー。」

 

悪びれる事無くそう言い張る。

戦場にはルールなんて無いのだ。卑怯だ何だと言われても、戦果で全て洗い流せる。

 

「まぁ、そんなところだ。無作法なのは百も承知だとも。しかし、なりふり構っていられないのでね。そこは目を瞑ってもらおう。」

 

この主にして、この従者有り。

だってこの初動だけはほぼ打ち合わせ無しでも完璧に決まったのだから。

笑ってしまう。

結局の所、私は吹っ切れたら手段なんて選ばない冷血な人間だった訳だ。

 

「……同じ穴のムジナって事。いいわ、起きなさい!バーサーカー!」

 

「■■■■■■■………!」

 

彼女の額には軽く青筋が立っている、……ような気がする。

兎に角、彼女の叫びにより、狂戦士は再び息を吹き返した。

失われた上半身は瞬く間に再生し、先程と変わらぬ姿に戻る。

十二の試練。

話には聞いていたが、やはりとんでもない宝具だ。

私たちはこれから、こんな化け物と正面からやり合って、十一回殺さなきゃいけないなんて。

けれど、私の胸に不安は無かった。

寧ろ何か吹っ切れたような清々しささえある。

汗をかいているのは爆撃で起きた熱のせいで、小刻みに震える手はきっと武者震い。

罪悪感も後悔も、今は全て置いてきた。

普段と同じだ。いつも通りの私だ。

そっと心の内で、意味の無くなった倫理観を手放す。

この身を戦いの為のものに作り替える。

もう不意討ちは効かない。正々堂々、正面から、この怪物を打ち砕く。

迷いは無い、恐れも無い。今更、あっていい訳が無い。

私が今、ここに居られる理由は一つ。

 

「さて、狼煙は上げたぞ。今更怖気付いちゃいないだろうな。」

 

「誰にもの言ってんのよ。そっちこそ大丈夫?不意打ちだけでもうお終いなんて、拍子抜けにも程があるわよ。」

 

「ん、……まぁ無いとも言い切れんな。正直な所、一人なら難しかったかもしれん。………けど」

 

「けど?」

 

「君がいる。君が隣で、私を見ている。共に戦ってくれている。これだけで私は、幾らでも強くなれる。」

 

 

この頼もしさが、今の私を繋ぎ止める。

彼の言葉が嬉しい。彼の言葉が心強い。

欲しい。勝利が欲しい。

どうしても、何がなんでも。

彼と共に戦った証が欲しい。桜の犠牲が無駄では無かった理由が欲しい。

どうしても勝たないと、私も桜も、そして、アーチャーも報われない。

 

眼前、唸りを上げ猛る狂戦士。

一挙手一投足、その全てが致命傷。

岩肌のような体躯、大樹のような腕から振るわれる剛腕は、心の臓破裂させる。

力の差など、見るまでも無く圧倒的。

しかし、これは元より負け戦。

零に等しい勝利の道を、何千という中から選び取る行為。

故に、必要なのは力では無く、どこが相手に勝っているかという事。

そこから勝ちを奪い取り、十一ある相手の命をすり潰す様に削る消耗戦。

 

ああ、やってやる。やってやるとも。

無様だろうと、惨めだろうと、泥に塗れようと、みっともなく命を乞う事になろうと。

必ず、必ず勝ってみせる。

 

「いつになく調子良いじゃない。なら見せてよね、貴方の勇姿を。死んだら承知しないわよ。」

 

「任せたまえ。はは、全く光栄だね。まさか現代において、英雄殺しを再現出来るとは。歪なこの身には、相応しい愚行だ。」

 

そして、最後には高らかに笑ってやるんだ。

誰よりも笑顔で、世界で一番幸せって顔で。

きっとそれが、後悔が無いって事だろうから。

それに、そうなればせめて。

私が引き裂いた、叶うはずだったあの恋だって幾らか顔向け出来るだろう。

そうして、大きな決意と小さな悲願を胸にして、私は戦いに臨んだ。

これが最後だろうと、そう考えて。

 

 

 




今回は前書きを頑張れる元気がなかった…
次回は恐らく一週間空いてしまうと思います。
上手くいけば今週かも?
次回もよろしくお願いします。
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