私的鉄心END   作:たまごぼうろ

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皆さんお久しぶりです。たまごぼうろです。
日が空いてしまって申し訳ない。忙しくて中々時間が取れずに…という感じでした。
最近寒くなってきましたね。皆さん、冬支度は万全でしょうか?
僕の地元では雪が降るので、今はとっても寒いです。
かくいう今も風邪をひいており、若干だるい中これを書いています。
という事で投稿したらお薬を飲んですぐ寝ます。感想等の返信は後日行います。
皆さんも気を付けて残り一か月頑張りましょうね。


あ、今回も二話更新です。
ではどうぞ。


スパークスフロントランナーズ①

「■■■■■■■■!!!」

咆哮と共に、もう何度目かの地鳴りが響きわたる。

バーサーカーの一撃は大地を割り、森の地形を徐々に歪めていた。

辺りには倒れた樹木が折り重なるように積み上がる。

かと思えば、また別の一撃で、それらも粉々に砕け散る。

そうして、木片と瓦礫、土埃と地鳴り。

それら大災害の合間を縫うようにアーチャーはあちこちを飛び回りながら弓を放ち、剣を突き立て、絶えず動き回っていた。

バーサーカーが力なら、彼のそれは技と呼ぶに相応しいだろう。

もうダメだ、これで終わりだ、何度そう思った事か。

アーチャーはその度に、ギリギリのところでそれをいなし、又、それをチャンスに変えていた。

その緊迫具合を証明するように、彼は既にボロボロだった。

バーサーカーの攻撃を、何度も受け流してきたのだ。

人間ならば防御をしても腕が飛ぶような一撃は、以下に英霊と言えども徐々にダメージを蓄積していく。

直撃こそ免れているが、明らかに苦しそうなアーチャー。

加えて、バーサーカーは俊敏だった。

正面から、上から横から、或いは真後ろから。

四方八方から、一呼吸も、瞬きすらも追い越して、襲いくる暴威。

それらを紙一重で躱す緊張感は、その神経を段々とすり減らしていく。

私も黙って見ていた訳では無い。

手持ちの宝石ありったけをもってきたのだ。

アーチャーが作り出した隙に、私も攻撃する。

アーチャーが体勢を崩せば、私が防御する。

そうやって、文字通り二人がかりで戦ってきたのだ。

既に奪った命は五つ。

弓を使い、剣を使い、槍を穿ち、鎌を振るう。

ギリギリの中でもぎ取ったものだった。

無論、リスクはある。

バーサーカーの矛先がこちらに向けば、それこそ一瞬で勝負は着くだろう。

けれど、私は前に出る事を止められなかった。

こんな大一番、黙って見ているだけなんて出来なかったのだ。

何より、私には確信があった。

アーチャーならば必ず、私の事を守ってくれると。

そしてそれは事実となり、私たちはこの怪物相手に戦うことが出来ていた。

そして

 

 

鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ むけつにしてばんじゃく)

 

 

両腕を大きく振るわせ、投擲される夫婦剣。

寸分の狂い無く、バーサーカーの喉元へと向かう。

けれど、届かない。

「■■■■■!!」

簡単にあっさりと、その二刀は弾き飛ばされ、勢いを失い、後方へと消えていく。

 

心技、泰山ニ至リ(ちから やまをぬき)

 

その瞬間、空かさずもう一対、夫婦剣を投影し、突進するアーチャー。

 

心技、黄河ヲ渡ル(つるぎ みずをわかつ)

 

そしてそのままの勢いで、バーサーカーへと斬り掛かる。

ーー届かない。

力任せの突進では、バーサーカーを崩す事は出来ない。

この攻撃は防がれ、手痛いカウンターが待っている。

だが、それは

 

唯名、別天ニ納メ(せいめい りりゅうにとどき)

 

先程弾いたはずの二刀が弧を描き、再びその首を狙っていなければ、の話だ。

アーチャーの剣は陰陽剣。

黒と白、その二対は互いに惹かれ合う。

言わば、磁力のようなものだ。

先程弾かれた二刀は、今現在、アーチャーの手に在る二刀に引き寄せられ、戻って来ていた。

回避不能の絶技。

四方向、同時に襲い来る必殺。

常人ならば、それだけで決着が着くだろう。

しかし、悲しいかな

「無駄よ。」

「◼◼◼◼◼◼ーーー!!!」

ーーーそれでも尚、届かない。

その四つの刃を、バーサーカーは体を大きく回す事で全て防ぎきった。

アーチャーの技は、正に技の極みとも言えるものだった。

剣を投擲する弾かれるタイミングと、突撃のタイミング。

それらを合わせ、又、背後から迫り来る一投目に気づかれないように。

彼の持つ目と、そこに辿り着く迄の努力。

英雄となる者に相応しい、最高の攻撃だった。

けれど、目の前に在るそれは、世界中に数多あるそれの中でも指折りの、最強の英雄。

この程度の絶技、等に見慣れているのだろう。

人外の技では、その理の外にいる者は殺せない。

「◼◼◼◼◼◼◼!!!」

そして、その回転の勢いのまま大きく踏み込んで、眼前のアーチャーを叩き潰そうとする。

繰り出す技が必殺ならば、それを返す刀も又必殺。

あれを喰らえば人堪りも無い。

これまで森を砕き、大地を抉ってきた破壊槌。

それが肉体に直撃すれば、どうなるかなど誰だって分かるだろう。

バーサーカーの攻撃を受けるという事はそうゆう事だ。

良くて四肢欠損、悪ければ一撃で戦闘不能。

分かっている。私もアーチャーも。

頭では無く感覚で、そんな事理解している。

右手を構え、身を屈める。

視力を強化。

暗闇の中、狙うはただ一点。

この身はこの一瞬人間では無く、ただ銃弾を撃つだけの銃身に。

アーチャーの技は、まだ終わっていない。

必殺は必殺のままでいなければならない。

回避不能の一撃が、それでも尚防がれてしまったのならば。

その刃を届かせるのは、マスターの仕事であろう。

「そ…………こっ!!」

魔弾を放つ。

右斜め下、僅かに弧を描き、吸い込まれるようにその場所へ。

バーサーカーがその一撃を放つ為、踏み込もうとした地面へ向けて。

「!?」

着弾。

足場が崩れ、体勢は大きく崩れる。

そうして放たれた一撃は、しかし何にも当たる事は無く、大きく空を切り、また地面にクレーターを生み出した。

アーチャーは無事だ。

既に三対目は投影されている。

 

両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら ともにてんをいだかず)………!」

 

必殺は必殺のまま、その命を断つ。

今度こそ回避は不能。

隙だらけのその胸に、漸く刻まれる刃の軌跡。

投擲の一、突進のニ、生まれた隙に渾身の三。

三つを束ね、一翼を紡ぐ。

 

 

「鶴翼三連!!!」

 

 

「ーーーーー!!」

そのままバーサーカーの体を、大きく十字に斬り裂いた。

声にならない叫びと共に口から大量の血を流し、そのまま前のめりに倒れ込むバーサーカー。

鮮血が地面に斑を作り出す。

致命傷なのは明らか。

これで六度目。

一度喰らった宝具に耐性を持つ、という特性を持つバーサーカーから六度。

それは最早白星と言っても差し支えない所業だろう。

「っ、はぁ…、はぁ、」

バーサーカーの再生にはいくらか時間がかかる。

その間にいったん距離を取り、体勢を整えようとするアーチャー。

無理も無い、彼だって傷は浅くないはずだ。

今の攻防も、一拍の気の緩みで大きく覆っていただろう。

そこでアーチャーは息を整えようとして

だが、その瞬間。

「令呪をもって命ずるわ。起きなさい、バーサーカー。」

朝露のように流麗な声色が瑞々しく響いた。

発した言葉は一滴、されどその効果は大地を揺らす。

令呪の行使により、イリヤの体に魔術回路の流れが駆け巡る。

体中を真紅に染め上げて、白き妖精は薄く笑った。

(令呪による急速回復…!まずい!)

「アーチャー!!」

けれど、現実は残酷に。

形上の白星など、星に届かず燃え尽き消える、憐れな彗星と何ら変わりなく。

真っ黒になった消し炭すら辿り着けない、命の残滓が残るのみ。

「◼◼◼◼◼………!!!」

低い唸り声と共に、英雄は七度目の生を受ける。

火が上がるようにその体は燃え上がり、瞬時に新たな体が作られる。

令呪によるバックアップで、数秒前に切り裂いたはずの体は、すでに傷一つなく再生していた。

逆再生のように奇怪な動きで起き上がるバーサーカー。

そしてそのまま、背後に立つアーチャーへ、出来たばかりの剛腕を鞭のように振るう。

「!?、ぐ、、うぅぅ……があぁ!!」

力任せの裏拳、それですら受けきれない。

辛うじてガードするも、剣ごと砕かれて吹き飛ばされるアーチャー。

身体はそのまま木々の中へ、巨樹がへし折れる音に重なり、吐き出すような苦悶の声が聞こえた。

「が、は………」

「っ、、!!」

すぐさま駆け寄る、

ーーーー事など、この狂戦士が許すはずは無い。

「◼◼◼◼◼◼◼!!!」

バーサーカーは私の方を向いていた。

その剛腕は、天高く振り上げられている。

「あ、やば、」

回避は間に合わない。

私が立っているのは死線。

一瞬の息遣いすら、遥か遠くに感じてしまう。

スローモーション世界の中で、自分の心臓の音のみが早く聞こえる。

その鼓動一つの度に、死が迫ってくる。

きっとこのまま、潰れたトマトのようにひしゃげて、この森の養分になり消えるのだろう。

そう何となく漠然に思い、それでも最後に命乞いとばかりに、振り下ろされる戦斧から無様に身を躱そうとして、

 

 

熾天覆う、七つの円環(ロー・アイアス)………!」

 

 

直撃の間際に、ピンク色の花弁の一葉によって免れた。

「◼◼◼!?」

そのまま攻撃を弾かれ、後ろに飛び退くバーサーカー。

瞬間、その顔に大ぶりの矢が直撃した。

 

「ーーーー!!!!」

「その手を退けろ、狂戦士。」

重い声が響く。

気付けば、アーチャーは私の前に庇うように立っていた。

間一髪のところで、彼は私を守ってくれたのだ。

しかし、その姿は全く無事とは言えなかった。

「大丈夫?」

「問題ない、と言いたいところだが、かなりまずいな。ごほっ……はっ、良いのを貰ってしまった。」

「……ごめん、私のミス。あそこでのフォローは私がすべきだった。」

分かっている、いや、分かっていた。

今のは意味のない会話だ。

バーサーカーの一撃を受けた片腕はだらりと力なく下がり、口からは血が垂れている。

内臓辺りがやられたのだろう。そのダメージは想像に難くない。

手足は小刻みに震え、その声にも覇気は無い。

加えて、アーチャーから感じる私との繋がりが小さくなっていっている。

消えゆく鼓動の様に、微かなものしか感じられなくなってきている。

それは彼自身が、私からの魔力供給があっても現界が難しくなってきているという事。

決定的な敗北が、足音響かせ近づいて来ているという事。

ここは断頭台だ。

処刑人は目の前の怪物。

悪足掻きがお得意な死刑囚も、そろそろ八方塞がり。

常にチラついていた最悪への意識が、いよいよ持って現実味を帯びてくる。

「やるじゃない、リン。それにアーチャー。」

こちらを見据え構えるバーサーカー。

その背後から、一切の焦りを感じさせない愉し気な声と、心無い拍手が聞こえる。

最早勝利を確信したその声は、私に一層の焦燥を募らせた。

「私、驚いているの。まさかバーサーカーを六回も殺せる英雄が残っていたなんて。セイバー以外でこんな事が出来るの、貴方くらいよ、アーチャー。」

 

「イリヤ……………」

「でも、それもここで終わり。貴方、立っているのもやっとでしょう?手足もボロボロ、霊基もズタズタ。そろそろ楽になっても良いのじゃない?」

「……………」

アーチャーは何も答えない。

その沈黙は、それを否定できる気概が残されていないからだ。

イリヤの言葉は紛れもない事実。

片腕を失ったアーチャーは、ここから何を出来るでも無い。

私が知る限り、彼の能力ではこの状況は覆せない。

言われるまでもなく、万策尽きていた。

「っ、まだ!まだここからよ!一旦引きましょう、アーチャー。一度立て直して、それで、」

それでも、私は叫んだ。

私が諦めてはならない。どんな状況でも、私だけは諦めてはいけない。

先があるとか無いとか、そんな話ではない。

これは私が始めた戦い。

ならせめて最後まで、私だけはーーー

「見苦しいわよ、リン。主より従者の方がよっぽど弁えているのでは無くて?」

 

「彼の傷の深さなんて、火を見るよりも明らかでしょう。…不甲斐無いことこの上ないわ。遠坂の品格も、そこまで落ちてしまったの?裏切り者のマキリと大差無いじゃない。」

「そ、それ、で…………」

きっと、今の私の顔を見れば、十人中十人が、絶望、というタイトルをつけるだろう。

ぬるりと首元に冷たいものが這い寄ってくるような感覚。

もう何度も味わった、吐き出したくなるような不快感。

体から温かさが消えていく。

そう言えば今夜は冷えるんだっけ、なんて、頭は必死に現実から逃れようと無駄な勢いでフル回転する。

アクセル全開のべた踏み状態、ならば待つのは破滅のみ。

絶望からは逃れられない。現実はいつだって残酷だ。

分かっていた。分かっていた。分かっていた。

でも結局、最後にはここに辿り着いた。

「貴方たちの負けよ。さようなら、せめて散り際くらいは華やかに彩ってあげる。」

 

その言葉で、私の中の大事な何かが音も無く壊れた。

冷たい体。震える手足。

脱力感に満ち、世界が真っ暗に覆われる。

あぁ、もう楽になりたい。

絶望の淵では、寧ろそれこそが救いとなる。

それは、あの時に痛いくらい味わった。

もう終われ、終わってくれ。

このままどうなっても構いやしない。

ここから逃れられるなら、何だって、

 

絶望が、再び私を包み込む。

有り得ないくらい優しく、これ以上無いくらいにゆっくりと。

もう楽になれと、耳元で囁く。

だから私は、その声を聞き入れて、

それで、

 

 

 

 

 

「それで、どうしたって言うのよ。」

 

そんな最悪の状況で、それでも私はニヤリと笑った。

 

「敗着濃厚がどうしたって言うの?だってまだ負けてないし、あなたもまだ勝ってない。決まってもいないのに勝った気になっているわけ?」

 

これは訣別だ。

今私の中で、イリヤの一言か切っ掛けで、弱い私が壊れたんだ。

アーチャーは言ってくれた。

その弱さこそ私の強さだって、人の死を悲しむ当たり前が、何よりも眩しいものだって。

 

「まだ終わってないわよ、アーチャーは消えていないし、私はほぼ無傷、魔力こそ足りないけとれどまだ動ける。仮にアーチャーがやられたとしても私が戦うわ。」

 

「凛………それは……」

 

無茶だ、と言いかけるアーチャーを無視して、私は勢いよく捲し立てる。

こんな状況に屈したくなかった。

もう二度と、絶望なんかに飲まれたくは無かった。

 

 

「それが状況が見えていないって事だって分からないの?そもそも、貴方一人でバーサーカーに勝てるわけ」

 

ごめん、アーチャー。

私、残念な事に。

あなたの言葉の通りに、弱くはなれないらしい。

 

 

「うっさいわね!そんな事戦う前から分かってるわよ!けど、それでも戦わない訳にはいかないでしょ!その方がよっぽどみっともないわ!!」

 

うわ、頭きた。

どうにも叫ばずにいられない。

ヒートアップした私はそのまま矢継ぎ早に続ける。

 

「幾ら勝ちの目が薄かろうと、戦いを放棄してはただの敗者よ。私は心まで敗者にはなりたくなかった。」

 

「アンタみたいな作りものには分からないでしょうから教えてあげる。人は、生きる為に生きてるの。人の心は前に進む事で生き続ける。不可能だと分かっていても、挑まなきゃならない時があるのよ。」

 

「私はそれこそが人の誇りだと思う。嵐を越えた航海者、雷を堕とした科学者、雪原を打ち破った開拓者。どんな時も、不可能を越えるのは諦めなかった人間なの。不可能に挑み続ける事、諦めずに進む事、それが生きるという事なのよ。」

 

「だから私は戦うわ。生きる為に戦うの。生きて、この不条理を壊す為に戦うのよ。それで、もし死んでしまったら、」

 

私の最悪は、あの暗闇で蹲っていた時が一番。

それに比べればこんなもの、自分の命で済む分幾らか楽だ。

心も身体も落ちるとこまで落ちた。

なら、後は這い上がるだけだ。

 

「その時は、あぁ悔しい!!って思い切り叫んでやるわ!!」

 

言った、言い切ってやった。

傍から見たら負け惜しみでしか無いだろうけど、それでも全力で、思いの丈を叫んでやった。

 

「ほら!やるわよアーチャー!しんどいでしょうけど頑張って!!倒れそうならひっぱたいてあげるから!」

 

あぁ、もうどうにでもなれ、

熱くなった頭で、半ばヤケになりながらアーチャーに発破をかける。

傷だらけの体も構わずに、彼の背中を強く叩いた。

ここまで言ったんだ、幾ら惨めになろうと何としてでも戦って貰わなくては。

 

 

 

 

 

 

「っ、はは」

 

けれど、彼は急に顔を押さえたかと思うと。

 

 

 

 

「はっ、ははははははははは!!!!!」

 

 

 

 

驚くほど大きな声で、幸せそうに笑いだした。

血濡れの体で、狂ったように笑うアーチャー。

感じるのは狂気では無い。

寧ろ、有り得ないくらいの喜びが、その声越しに感じられた。

驚いて彼の顔を覗き込む。

その顔は、死の間際にいるとは思えないくらいに、優しい顔をしていた。

 

「は?え、え、なによ!!あ、あんた急にどうしたの!?さっきの一撃で頭打った!?それとも遂におかしくなったの!?あぁ、もう!とにかく何してんのよ!!」

 

余りにも意外過ぎる行動に熱くなっていた私は何だか恥ずかしくなってしまい、さっきの熱弁のまま叫ぶ。

さすがにはっと気が付いたのか、一頻り笑った後にアーチャーはやっと返事をした。

 

「っ、ははは。いや失敬、折角のマスターの熱弁を台無しにして申し訳無い。」

 

彼はこちらを向かない。

私の方からは、その傷だらけの背中しか見えない。

 

「やっぱり、君は君だな。窮地にあろうと変わらない。美しく、眩しい。人の威厳に満ちている。」

 

けど、その背中は、何よりも雄弁に誇りを謳っていた。

彼は今、どんな顔をしているのだろう。

この絶望の中で、彼は一体どんな顔でいるのだろう。

 

「凛、聞いてくれ。」

 

「な、なによ。」

 

彼は前を向いたまま、顔のみをこちらに向けて呟いた。

その顔は先程の笑顔のまま。

けれど初めて見るような、自信に満ちた顔だった。

 

 

「君も大概だが、どうやらオレもかなり弱っていたらしい。もう一度、言ってくれないか。君の願いを。」

 

 

「!!」

 

 

「この通りボロボロだからな。小さな声じゃ聞き取れない。さっきの様に強く、強く叫んでくれ。」

 

 

「…………それって。」

 

 

「……頼む。今度は必ず、何があっても、忘れないから。」

 

 

優しい目。

私を抱きとめてくれた時と同じ、優しい目だ。

私の好きな、安心する目だ。

 

 

ーーーーーそうか。

彼はとっくに届いていたんだ。

彼の意思は、とっくに私の望むものと同じだった。

きっと出会った時から、彼は私の願いの為に戦うって決めていたんだ。

足りなかったのは、私だ。

私の覚悟が足りなくて、足を引っ張ってしまったんだ。

共に歩むと言ってくれたのに、私だけ少し足りなくて、だから今、こうして追い込まれてしまった。

不甲斐ない。

やはり私は詰めが甘い。

いつもそうだ、二番や三番は上手くいく、何もしなくたって出来る。

けれど、一番大事なものだけは、いつだってしくじってきた。

でも、でも。

人は前に進む。行き先も無いけど進む。

その過程で傷つき、立ち止まる。

誰かの死で、体の傷で、心の傷で。

ちょっとしたきっかけで、人は確かに傷を負う。

けれどそれを経て、人は確かに成長する。

だから人は止まらない。

止まれないんじゃない、止まらないんだ。

その進化の快感に、私たちは酔いしれる。

だから止めない、不可能と分かっていても尚、挑む事を止められない。

そんな大馬鹿者が、今までの歴史を作ってきたんだ。

自らを高め、その弱さを克服する。

時には誰かの手を借りて、自分の弱点を補っていく。

そうして、人は前に進む。

どんな逆境にも、挫けない心を持って。

 

 

向かい風が吹く。

赤い外套をはためかせ、僅かにこちらを向いて、

その背中は、私に声をかける。

強い気持ちで、ただ一言。

私は漸く、追いついた。

 

 

 

 

 

『ーーーーーーーーーーーーーー 共に、往こう。』

 

 

 

 

暗闇の中で、その赤は鮮やかに。

絶望を切り裂いて屹然と。

誇りと願いをその背に込めて。

最後の一歩は、遂に届く。

 

 

「令呪を持って命ずる!」

 

 

右手が紅く光る。

自分の魔術回路とは別の、外付けの魔力が燃え上がる。

私の心と同じように、熱く、熱く燃え上がる。

 

 

 

「私に完璧な勝利を頂戴。負けは許さない、必ず勝って!!!」

 

 

 

そして、私が抱いた最初の願いを、今再び高々と叫び上げた。

 

「…………なるほど。これはまた難儀な命令だ。」

 

「なによ、不満なの?」

 

「いいや、まさかだろう。」

 

そうして、彼は静かに、安心したように目を閉じる。

 

「他でも無い君からの頼みだ、断る訳にはいくまい。」

 

そして、こちらを向いてにっこりと笑った。

 

うん、大丈夫。

それと、心配かけてゴメン。

貴方の覚悟、十分に伝わったわよ。

 

不意に、温かいものが頬を伝った。

悲しかった訳じゃない。

漠然としている中、大好きな物語の終わりを見せられたような。

寂しさと懐かしさに満ちた、感情の雫だった。

 

けど、これじゃあダメだ。

だって、あいつは笑っている。

強すぎる向かい風の中、苦しさなんて見せずに笑っている。

私よりもよっぽど大変な筈なのに、それでも前を向こうとしてる。

 

ありがとう。

貴方が、私のサーヴァントで良かった。

 

心からの言葉を飲み込む。

今はまだ、言うべきでは無い。

この言葉は報酬だ。

完膚無きまでに私の命令を遂行した彼に、敬意と感謝をもって捧げる言葉だ。

だから、今はまだ胸に秘めて。

 

 

「………了解した、任せたまえマスター。」

 

一言一言を噛み締めるように。

 

「感謝するよ、身が引き締まる。」

 

一言一句を咀嚼するように。

 

「ーーーーーーあぁ、そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かの為に戦うのは、こんなにも心地良いものなのか。」

 

この記憶を、忘れないように。

 

 

 

 

満足そうに微笑むアーチャー。

彼にとってはきっと、その言葉だけで十分だったのだろう。

だから私は何も言わず、代わりに全てを託す事にした。

三画目の令呪が消えていく。

彼との最後の繋がりが、徐々に薄れ、離れていく。

けど、私たちの心の内には、

それよりも強固な、確かな絆がある。

 

彼も私もそれでいい。

そんな不確かなものが、今の私たちには丁度いい。

 

だって、私たち人間は、

同じように不確かな未来の為に、最前線で走り続けるのだから。

 

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