ハーメルンは後書きがあって面白いですね。
結構前書き後書きしっかり書きたいので、追いつくまでお待ちください。
では、どうぞ。
家につく。時刻は丁度12時になろうとしていた。
雷画さんたちのご厚意のおかげでとりあえずは1人だ。
夜には藤ねえと、それに雷画さんも来て食事をすることになったのでそれまでにはいろいろ見てしまおう。
だがその前に
「テキトーに昼飯でも作るかな。」
腹が減った。腹が減っては戦はできぬ。これはいと詮方なき異なり。
「まあ1人だし、なんでもいいよな。」
冷蔵庫を見る。今晩はかなりしっかりと作るつもりなので、昼飯はあり合わせにすると決めた。
ささーっとウインナーを一口大に切り、軽く炒めたら、卵と白飯を入れ塩胡椒。
フライパンのふちに醤油を垂らし、香り立たせて軽くフライパンを振る。
最後にネギを入れ、また少し炒めたら紅しょうがをのせて完成。
まさに男の一人飯。すぐにできる炒飯だ。
こんな感じで簡単に昼食を済ませた。
「さてと。」
一息をついて、居間の隅に置いたアタッシュケースと段ボールに目をやる。
切嗣の遺品。5年前の俺には見せられなかったもの。そうくればあの中に入っているのは、まず間違いなく魔術に関わるものだ。
何かの間違いで暴走して、大惨事になる可能性だってある。未熟な俺が、仮にも魔術師殺しなんて物をやっていた男の遺品の触れるのだ。つつがなく見て終わる、何て事になる方が考えにくい。
なので土蔵で見ることにした。あそこなら何があってもとりあえず自分の犠牲だけで済ませれる。
俺の魔術の修行場所、兼工房である土蔵に移動。いつものブルーシートの上に座り、前に段ボールとアタッシュケースを置く。
「とりあえず段ボールの方からいくか。」
何が入ってるんだ?とにかく慎重に箱を開ける。
最初にでてきたものは
「これは…切嗣が着てたコートか?」
1番上に入っていたのは真っ黒なロングコートだ。しかもかなり年季が入っている。
これは見たことがある。確か、切嗣が海外に出かける時に着ていたやつだ。
「これ…別に魔術礼装ってわけじゃないんだな。」
見た感じ何の変哲もないコートだ。きっと切嗣が気に入っていたものなんだろう。
「懐かしいな…」
あの時は切嗣が海外に行く度に一緒に行く!と言って切嗣を困らせるくせに、帰ってきた後の土産話に夢中になってたもんだ。
持ってみるとポケットに何か入っていた。
探ってみると煙草とライターだった。吸っているのを見たことはないが、昔吸っていたんだろうか。
これはまだ俺には早いだろう。
「さて…って、あれ?」
コートを置いて段ボールを覗く、しかしもうほとんど入ってない。
残っていたのは古ぼけた手帳だった。
「なんだ。これしか入ってなかったのか。」
サイズに対して案外軽かったのは、そうゆうことだったのか。
そう言って手帳をパラパラとめくる。
どうやら日記のようだ。死ぬ直前まで食べたものやったことなどが簡単にまとめられていた。
「ふーん。こんなの書いていたのか。」
しかし残念ながら、切嗣には文才がないのだろう。最後まで読むには稚拙すぎる文章だ。
「はははっ。何か切嗣らしいな。」
確かに文章は稚拙だが、これは確かに切嗣が生きた証だ。
今まで何も残ってなかったので、こんな物でも切嗣が感じられるのは嬉しい。
そうして最後のページを開くと、何かがパラリと落ちる。
「ん?」
落ちてきたのは1枚の紙。しかも白紙だ。
「何でこんなものが…?」
ぴらぴらと振ってみるが、何もない。本当にただの紙だ。
「ただの紙切れ…ってわけでもないだろうし…」
だって切嗣がこんなものを入れる理由がない。こんなことをするなら、わざわざ雷画さんに預ける必要はなかったはずだ。
これは、切嗣が俺に渡したかったもののはずだ。しかも俺が自らと向き合ったこのタイミングで。きっと何か意味がある。
「…………」
しかし考えてもさっぱり分からない。もしかしたら、ほんとに何でもないのかも。
「…次行くか。」
考えててもしょうがない。そう思い今度はアタッシュケースの方を向く。
「えーっとこれは?どう開けるんだ?」
見た感じ鍵穴などは見つからない。というかそもそも鍵なんて入っていなかった。
「これも開かないのかぁ?」
早くも手詰まり。はぁと息を吐いて後ろに倒れこむ。結局コートしか見れてない。
「何なんだよこれ…何を渡したかったんだ、切嗣…」
脱力してしまい、目をつむる。
『何でも、その時のお前ならできる、だそうだ。』
雷画さんの言葉を思い出す。今の俺ならできる…。昔の俺にできなくて、今の俺にできること。
「あの時から出来るようになったっていえば、料理と家事と…それと…魔術…!!」
そうだ。魔術だ。何で忘れていたんだ。魔術について何も知らなかったあの時と比べれば、構造解析や強化など、色々できるようになっている。
がばっと跳ね起きる。そうと分かればやってみるに限る。早速アタッシュケースに手を当て、意識を集中する。
遠坂との修行のおかげで物の強化と解析は完璧になっていた。
頭の中でスイッチをカチリ、といれる。
「――――
ケースの構造が頭に入ってくる。
「これ…もしかして…」
ケースをよく見ると四隅にねじが付いていた。急いでドライバーを持ってきて外す。
するとケースの上の部分がパコっと外れた。
どうやら開閉式ではなく、上の部分が蓋となっていて、外れるようにできていたようだ。
こんなの俺じゃないと分かんないぞ…。
まるで秘密の箱を開けるような不思議な高揚感とともに、早速中を開ける。
そういえばそんな神話があった気がする。
確か…パンドラの箱だったか。
パンドラは主神ゼウスから賜った箱を好奇心で、開けてしまう。
しかしその中にはすべての悪と災いが入っており、それが人間界に解き放たれてしまった。
そしてその性で人間は悪性を手に入れてしまった、という話だ。
もしかするとこれは、誰かにとっての禍なのかもしれない、なんて
柄にもなく興奮しているようだ。そんなことを考えて箱を覗く。
「え………」
しかし、そんな俺の幻想もあながち間違いじゃなかった。
まず目に入ったのは大ぶりのナイフ。その隣には束になったワイヤー。
さらに怪しげな瓶に入った液体。これ絶対毒。100%毒。
「それにこれは…手榴弾か?」
これらは明らかに非合法。見つかったら一発アウトの品ばかり。
これが切嗣が俺に渡したかったもの?
はっきり言って殺意が高すぎる。これ、何も知らない一般人が使っていいものじゃないぞ。
「他には…ん?まだあるのか。」
ケースの端の方を探る。
あったのは銃とホルスター。しかもかなり大事そうにしまってあった。
かなり大きい。およそ実践では使えないサイズだと思う。
「これ…弾は入ってんのか…?」
びくびくしながら触ってみる。怖い。正直かなり怖い。一通り出してみたが物騒すぎる。手榴弾とか銃とか暴発したら洒落にならないぞ。
「こんなもの渡されてもなぁ…、そもそも使い方が分からないし。」
確かにこれを使えればかなりの武器となるだろう。しかし素人が一朝一夕で使えるものじゃない。
これじゃあ猫に小判、豚に真珠、馬の耳に念仏ってやつ。
つまり、俺には過ぎた品。切嗣、これでどうしろってんだ。
「せめて使い方でも書いてありゃな…、あ!」
そうだ紙!!あの手帳に入ってた紙!あれを調べるのを忘れていた!
急いで紙を手に取り魔力を通す。すると、紙に文字が浮かび上がる。
「切嗣…?」
紙にはこうあった。
『
これが、誰にも見られていないことを信じて記す。だから、これは保険だ。ここに書いてあることが分からないなら今すぐ破棄してくれ。
僕はもう長くない。恐らく僕が生きている間には聖杯は破壊できないだろう。だが、手は打った。聖杯の通じている霊脈の流れに、いくつかの瘤を作った。ここに聖杯戦争が始められるだけの魔力が通れば、瘤が破裂し、霊脈そのものから聖杯が崩壊する、というわけだ。
次の聖杯戦争までおよそ55年。丁度その時に破裂するだろう。
だが、万一それが機能しなかった場合に備えて、これを記す。
そのケースには僕が使っていた武装が入っている。使い方が分からないだろうが、ケースを開けた時と同じやり方をすれば分かるだろう。
それとコンテンダーも入れた。中に入っているのは起源弾。魔術師に対しては必殺となるものだ。うまく使ってくれ。
最後に、これは僕が信頼できる人に渡すつもりだ。だが、もし、もしこれが士郎に届いているなら。君はどうするのだろう。僕の過去を知ったら君はどう思うだろうか。
失望しても構わない。僕は決して、誇れる道を歩いては来なかった。
だけど、変わらないものが1つだけある、
僕の失ってばかりの人生において、君は希望そのものだった。どうか健やかに、君は君の生きたいように生きればいい。君は君だけの誇れる道を進んでくれ。
衛宮切嗣
』
手記の内容はシンプルだった。分かったことは1つ。
切嗣は聖杯の破壊を計画しており、そのための準備はすでに終わっていることだ。
きっと一生、この手記が見られないことが1番の望みだったのだろう。
だが、もしこれが見られることになったら、それならば俺に。そう宛てたものだ。
「…………」
そうか、きっと何となく切嗣は分かってたんだろう。
もし仮に、切嗣が想像した事態に陥った時、つまり聖杯戦争が繰り返された場合。
俺がそれに選ばれて、戦わなくちゃならないということを。
だからこれを遺した。俺を救うために。俺を守るために。
―――――俺に意思を、継いでもらうために。
真意はもはや分からない。
だが、
間違っていようと、もう関係ない。
重要なのはここに武器があって、そして俺には戦うべき相手がいる、ということだ。
「―――――
気づけば、入っていた武器を夢中で解析していた。
「これは、コンテンダー、入っているのは起源弾。対象者の魔術回路を切断し、でたらめに繋ぎなおす。」
「こっちの手榴弾は、ピンを抜いて5秒後に爆発する。」
「このナイフは、魔力の通しが良いな…」
あらかた解析が済む。切嗣ほどではないが、もうある程度は使えるだろう。
何故かは分からないが、切嗣の使っていた時の記憶が武器を通じて自分に中に入ってくるようだった。
この武器はもう俺のものだ。なら、どう使おうと俺の自由だろう。
ならば戦うために使うだけだ。きっと武器もそう望んでいる。
「ありがとう、切嗣。」
覚悟はとうにできている。加えて、頼もしい武装も手に入った。
―――――――なら、俺は。