私的鉄心END   作:たまごぼうろ

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二話目です。
先ほどまでは凛視点でしたが、ここからはアーチャー視点で物語は進みます。
それをご理解の上、お読みください。

恐らくここからは、過去最高に熱い展開の連続かと。

ではどうぞ。


スパークスフロントランナーズ②

嘗て、俺は星を見た。

突き付けられる最低の不条理、

理不尽に向けられた現実、

そんな暗闇の中で、それでも気丈に貴く輝く、眩いばかりの星だった。

記憶は薄れ、摩耗し、過去の事など忘れてしまう。

辿り着いたのは、そんな果てなき荒野。

自分の届かない理想を見せつけるように、無限に続く錆色の丘。

けれど、そんな中でも、それだけは薄れること無く鮮やかなままだった。

結局俺は、そんな光に目が眩み、そこに辿り着くために、全てを賭けて進んできたんだ。

 

 

星は人の理の外のもの。

その輝きは、人である以上決して届くことは無い。

けれど、光は一つでは無い。

輝けるものは、確かに、人の世にも存在する。

 

 

 

そして今、オレは再び、輝きを見た。

それは、人の誇り。

努力と研鑽の果て、磨き上げられたその光。

至高の形、宝石の光。

溢れんばかりの眩しさで、自らを鼓舞する深紅の紅玉。

人の可能性を見た、その心に魅せられた。

美しい、人の営みに、その目を奪われた。

 

その輝きが、今度は自分を照らそうと、こちらを見てる。

オレにとっては、それで十分だ。

 

今にも倒れそうだった身体に、力が漲っていく。

彼女の願いが、私の霊基(からだ)に満ちていく。

心中は今までに無いくらいに晴れやか。

青空が、自らで空を描くように、

どこまでも自由、今ならなんだって出来そうだ。

消えさせない。

途絶えさせない。

こんな所で、終わらせない。

今度はオレが、暗闇を破る。

 

この宝石の気高き赤が、何処までも、何処までも映えるように。

 

 

 

 

I am the bone of my sword(ーーー体は剣で出来ている).」

 

 

 

世界を変える言葉を紡ぐ。

内と外、世界と理想。

現実世界を心の在り方で塗り替える。

 

「バーサーカー!!」

 

「◼◼◼◼◼◼◼!!!!」

 

こちらの変化を察知したのか、

イリヤスフィールの合図と共にこちらに突進してくるバーサーカー。

 

あぁ、ちょっと待て。

今、いいとこなんだ。

初めて、英霊として戦い続けてから、初めてなんだよ。

誰かの為に、戦うっていうのは。

 

 

 

Steel is my body , and fire is my blood(血潮は鉄で、心は硝子).」

 

 

 

右手を挙げる。

先程投影した盾。

残るは五枚、薄桃に光るその花弁。

それら全てを目の前の英雄に向けて、

囲むように、展開する。

 

「ーーー!!!?」

 

突如現れた花弁に行く手を阻まれるバーサーカー。

四方を囲むは、嘗て大英雄の投擲を防いだ堅牢なる防壁。

 

 

 

I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を超えて不敗).」

 

 

 

咄嗟に上に跳躍し、脱出を試みようとするバーサーカー。

 

だが、それは無駄だ。

最後の一枚は、そこに使わせてもらった。

 

「◼◼◼!!」

 

その跳躍も、同じく花弁に阻まれる。

これで五方、完全に行き場を無くす。

 

 

 

Unknown to Death(ただの一度も敗走はなく). 」

 

 

 

猛るバーサーカー。

無理やりにでも花弁を破壊しようと、手にした斧で殴りつけるが、傷一つつかない。

当然だ。

これはオレが持つ最上の盾、そして、オレがお前に勝っている、数少ない点なのだから。

 

 

 

Nor known to Life(ただの一度も理解されない).」

 

 

 

「バーサーカー!下よ!地面を砕きなさい!」

 

 

イリヤが叫ぶ。

………気付かれたか。

花弁で囲めているのは、前後左右に上のみ。

当然、下は何もしちゃいない。

 

「◼◼◼◼◼!!!」

 

咆哮と共に大地を砕こうとするバーサーカー。

一撃毎に地面が揺れる。

そう、唯一の抜け道である下、つまり地面を砕き、そこを抜けて来ようとしているのだ。

なんという力技、狂戦士の名に相応しい。

けれど、

 

 

「うそ、なんで?さっきまで簡単に壊せたのに!」

 

音こそ派手に響くものの、地面は壊れない。

有り余る巨躯による暴威に晒されてなお、崩れること無く、

連綿と続いた歴史を示すように、その形を保ち続ける。

 

 

 

Have withstood pain to create many weapons(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う).」

 

 

 

これも、当然と言えば当然なんだ。

バーサーカーの攻撃は、確かに大地を割る程の威力を持つ。

事実、今この一帯で彼が手を加えていない場所は無く、何処も彼処もが崩れている。

だから、砕けないんだ。

地中奥深く、この星の創成から存在する、地球上で最も硬い地面。

内部に存在するマグマ、それら全てを押し留める星の殻。

そう、岩盤まで、バーサーカーは辿り着いてしまったのだ。

だから壊せない。

幾らひび割れようと、バーサーカー程巨大な体が通れる程の亀裂は生まれない。

数億年の地球の歴史を、たかが英雄が壊せはしない。

英雄は築いたのは飽くまで一時代、全ての時代を見てきたこの大地には、届けども、破壊するのは不可能だ。

 

………まぁ、狙っていた訳では無いがな。

ギリギリになりながらも、躱し続けたかいがあったというものだ。

 

 

 

Yet , those hands will never hold anything(故に、その生涯に意味は無く).」

 

 

 

「◼◼◼◼◼!!!」

 

 

身動きが取れないながらも、それでも花弁を砕こうと、正面を殴りつけるバーサーカー。

花弁も無敵では無い、次第に亀裂は波紋のように広がっていく。

 

本当に、どこまでも出鱈目な奴だ。

オレが持つ最上の守りを、こうも簡単に破ろうとするか。

 

こんな英雄崩れには過ぎた相手だと、改めて実感させられる。

結局、オレにもお前にも、足りなかったのは時間の差だ。

 

 

「◼◼◼◼◼◼◼◼!!!!」

 

 

花弁が破壊される。

勢いよく突っ込んでくるバーサーカー。

今までの鬱憤を打ち砕き、渾身の踏み込みで間合いを詰めてくる。

振り上げられる斧。

迫り来るは射殺す百頭。

 

ーーーーけど、もう遅い。

 

 

 

So, as I pray(その体は)……」

 

 

 

詠唱は始まりの一言へ。

世界を塗り替える大魔術。

思考はクリア、とうに世界はオレの中にある。

いや、違う。

元よりそれ以外など、この身は持っちゃいない。

 

全てを捨てた。

あの時描いたユメの形も、誇りも、想いも、何もかも。

助ける為に殺し続けた。救う為に奪い続けた。

殺して、殺して、殺して、殺して。

そこに悪があるのならばと、そう聞けば聞くほどに、自分から何かが零れ落ちていった。

そうやって、徐々に徐々に擦り切れて、最後には何も無くなった。

そうしてまっさらになった自分は、余りにも、余りにも愚かだった。

届くはずのない理想を追う、奴隷のような旅路。

一体そこに、なんの意味があったのだろう。

 

 

それでも

最後に一つだけ、どうしても捨てきれなかったものがある。

何も無い自分に遺った、最初の願いがここにある。

 

 

人の願い、健やかな想い、その全て。

礎を築く、その忌名は

 

 

 

 

 

UNLIMITED BLADE WORKS(きっと剣で出来ていた)……!!!」

 

 

 

 

 

そうして、オレの視界は白に包まれた。

この世界を巻き添えにして。

たった一人の、少女の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、此処へ。

理想を追う旅路の終わりにして、敗れた現実の始まりの地。

どこまでも続く赤銅色の荒野。

空に移るは錆びた歯車。

そして、地に刺さる無限の剣柄。

大小様々。

されどその中に、血を知らぬものは一つも無し。

綺麗なものなど存在しない。

余分な物など背負う隙の無い。

余りに醜い、オレの世界。

捨てきれなかった無惨な正義。

その、残滓。

 

 

「固有結界………、これが、あなたの宝具………、じゃあ、あなたは。」

 

唖然としたような凛の声が聞こえる。

それに、顔を向けること無く背中のみで答える。

だって、なぁ。

余り、見てもらいたいものでも無いんだから。

ただ、哀れな男が一人いた、そんな無意味な意味証明に過ぎないんだから。

 

「あぁ。オレは生前、魔術師だった。生憎、武勇や偉業とは縁が無くてね。そんなものとは程遠い生涯だった。そんな中、オレが持ち得るのはこの世界だけだ。」

 

「こんな世界がどうしたって言うのよ。」

 

前方から違う声が聞こえる。

イリヤの声だ。

 

「何をするかと思えば、こんな寂れた場所に連れてかれるなんてね。ここが貴方のホームグラウンドな訳?随分と贅沢じゃない。」

 

皮肉交じりのその声は、然して、先程までの余裕を感じられないものになっていた。

彼女は焦っている。

いや、驚いているのか。

けれどまだ足りない、この焦燥よりも、彼女がバーサーカーに置く信頼の方が厚い。

だからまず、その場違いな余裕を剥がしてやる。

 

「いや、耳に痛い。無礼は謝ろう、レディ。お子様には少々刺激が強すぎたかな?」

 

「……馬鹿にして。いいわ、どこであろうとバーサーカーは負けない。行きなさい、バーサーカー!!」

 

 

「◼◼◼◼◼◼!!!」

 

 

バーサーカーがこの身を潰そうと動き出す。

無限に及ぶ剣の柄を跳ね除けて、飛び出すその姿は真に破壊者。

ならばやってみろ、これまでと同じく、全て壊しきってみろ。

 

 

 

投影、開始(トレース、オン)。」

 

 

 

言葉に呼応するように、魔術回路が唸りを上げる。

血が逆流し、血管は限界までに腫れ上がる。

脳が沸騰して、気を抜けば意識が飛びそうになる。

けれど、想像/創造をやめない。

ただ一つをイメージし続ける。

たったそれだけを今まで愚直に続けてきたんだ。

 

「!?」

 

創り出すは朱槍。

アイルランドの御子、太陽の化身。

彼が影の国にて、その師から貰い受けた魔槍。

因果逆転の呪いを秘めた、必中必殺の死の投擲。

 

 

向かってくるならば、丁度いい。

ご丁寧に狙う必要も無くなる訳だ。

 

 

 

 

I am the bone of my sword(その心臓もらい受ける)…!」

 

 

 

 

 

魔力を纏い、生み出される神造の兵器。

通常ならばこのレベルの投影は不可能。

けれど、今はこの世界がオレの背中を押す。

 

体勢は低く。

例えるならそう、獣の構え。

 

突っ込んでくるバーサーカーに対し、こちらも槍を構えたまま突進する。

勢いがいる。

彼がこれを使う時は決まってこうしていた。

風と共に走る、走る、走る。

全力で地を蹴って、前へ前へ、疾く疾く。

そして、その疾走の勢いを殺さず、そのまま跳躍、

 

同時に、右腕を構える。

弾け飛びそうな右腕を、それでも限界まで引き絞る。

 

魔術回路は臨界点。

既に骨子は造られて、オレの手には剣がある。

生まれるは贋作、されどその効力は、本物と違わず。

その偽りの真名と共に、それを全力でそ投擲する。

今、神代の紅き魔力は収束し、一刺一殺の呪力を放つ。

 

 

 

 

偽・突き穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!!!」

 

 

 

 

轟音を引き裂いて、朱槍は一直線に向かっていく。

大して狙いはつけていない、されど、因果は既に繋がった。

回避は不能、迎撃は不毛。

寸分の狂い無く、バーサーカーの心臓へと突き刺さる。

 

 

「◼◼◼◼◼◼◼!」

 

 

荒野にある小高い丘に着地し、既に決められた結果を見やる。

バーサーカーの体に呪いが盈ちる。

割れるように広がる死の呪い。

それは忽ちに、その体から命を奪い去った。

 

立ち尽くしたまま止まるバーサーカー。

零れ落ちる血は黒く染まり、体から溢れる度に塵となって消えていく。

七つ目の命は、突き穿たれ消滅した。

息の無い眼は言うに及ばす、

胸に槍を刺したまま、完全に停止した。

 

「!!!、アーチャー、貴方………。」

 

イリヤの顔から余裕が消える。

見開かれた赤い瞳は、真っ直ぐとこちらを睨みつける。

そうだ、その顔だ。

我が世界を前に、最早一片の予断など許すものか。

 

 

 

「君が自らのサーヴァントに全幅の信頼を置いているのは分かる。だが、それでもオレを舐め過ぎだ、イリヤスフィール。此処はオレの世界。どんな強大な相手だろうと、全力で牙を向くぞ。」

 

 

 

手近にあった剣を引き抜く。

軽い、何も詰まっていない凡庸な剣。

これがオレだ。このちっぽけな剣こそ、オレの象徴だ。

だが、それで何が悪い。

眼前の敵を倒せさえすれば、何を使おうとも構いやしない。

 

風が、オレを追い越した。

命を張る主の為に、オレも同じく全てを賭ける。

何も無いこの場所で、それでも気高く佇んで、こちらを見つめる宝石の輝き。

何としてでも守ってみせる。

 

「◼◼◼◼………」

 

バーサーカーが復活した。

彼も先程とは違う、オレの事を完全に殺すべき相手として認識したようだ。

これで漸く、同じステージに立てた。

 

真っ直ぐと、狂戦士の射殺すような目を睨む。

その唸り声は感嘆のようにも聞こえる。

 

手にした剣の切っ先を、バーサーカーに向けた。

待たせてすまないな。

さぁ、決着をつけようか。

 

 

 

 

 

「往くぞ、大英雄。貴様の試練、オレが全て超えてみせよう。」

 

 

 

 

「…………………!!」

 

 

そんな宣戦布告を聞いたバーサーカーの口角が僅かにつり上がった。

狂化されている彼が、通常こんな事をするなど有り得ない。

彼が身を置くの狂乱の中。

そこでは理性などただの枷でしかない。

だが、彼が築いた歴史は戦いの歴史。

人々が理性を手にする前に、既に生存競争という戦いは始まっている。

故に、彼もまたこの戦いを望んでいる。

狂って尚、求めるもの。

相対した強敵と鎬を削るのを歓び。

その歓喜に打ち震えているのだ。

 

そしてオレは、最後の戦いに臨んだ。

勝つ為に。

勝って、彼女に報いる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

挑むは無銘の無限の剣。

世界そのものを味方につけ、自ら賭して英雄へ臨む。

世界が、時代が、どのように移り変わろうとも変えられないただ一つの理想。

人の強欲、その頂点。

そのエゴは、人の性さえ喰い潰す善。

 

戦士も又、その挑戦に構える。

 

一部の隙も感じられない不動の構え。

世界が、時代が、どのように移り変わろうとも変わらない不変の強さ。

人の忍耐、その極み。

十二の試練は、今再び勇者を待ち受ける。

 

 

 

聖杯戦争。

万能の願望器を巡り、数多の命が散ったこの戦い。

その天王山は誰も知らない世界にて、

二人の勇士の譲れないものがぶつかり合う。

 

いざ、終幕へ。

 

 

 

 






体は、剣で出来ている。
血潮は鉄で、心は硝子。
幾たびの戦場を越えて不敗。
ただの一度も敗走はなく、
ただの一度も理解されない。
彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う。
故に、その生涯に意味は無い。
されど、
剣で出来たその体は、
ただ、一人のために。



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