私的鉄心END   作:たまごぼうろ

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1話で終わると思いましたか?残念、今日はもう一つあるんですね!!
短くはありますが、僕がどうしても書きたかったシーンでもあります。
この話はアーチャー視点です。ほんの僅かな一瞬のみ、彼の視界を覗きます。
黄金に包まれる中、彼は一体何を見たのか。
では、どうぞ。


Supernova②

瞬間、彼女との思い出が走馬灯のように蘇る。

短く、儚い、駆け抜けるように過ぎ去って、溶けるように消え去った。

余りに遠く、余りに尊い。

決して忘れてはならない、奇跡の日々を。

 

鮮やかに過ぎる景色、息遣い。

その一瞬一瞬。

何もかもが新鮮で、そして輝かしい。

 

遥か遠き、忘れじの旅路。

モノクロに彩がつくのを眺めながら

光の断層にその身を委ねた。

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

 

「◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼!!!!!」

 

 

咆哮が重なる。

バーサーカーの体が聖剣の光によって焼かれていく。

聖剣の投影。

この固有結界内だからこそ成し得た、底無しの奇跡。

その光は冠する名の通り、使用者に勝利を齎す。

光帯は眼前を覆い尽くし、この世界を黄金に染める。

決して果てぬ夜明けのようだ。

何故か目を逸らしたくなる。

体にはもう感覚が無い。

痛みも苦しみも何もかもが、この光に溶けていった。

 

 

しかし、狂戦士は倒れない。

それが彼の意地(宝具)なのだろう。

容赦なく抗い、光を打ち砕き、一歩、また一歩と足を進める。

 

 

僅かに目を細め、そして静かに確信した。

結局、オレでは届かない。

この仮初の聖剣では、こいつの残る四つの命全てを燃やし尽くす事は出来ない。

あと一つが足りない。

威力も射程も何もかも、本物に比べるにも劣るからだ。

オレが偽物だから、偽りだから、最後の最後が届かない。

凛が決死の覚悟で仕掛けてくれた大博打も全て無駄になる。

負ける、負ける、負ける。

オレはもう、オレの力じゃこいつを倒せない。

 

 

 

「◼◼◼◼◼◼◼◼◼!!!!」

 

 

 

再び力強い咆哮。

黒い影は、今や目視できるほど近くに。

その歩みが、遂にオレを捉えようとする。

意地の張り合いなら誰にも負けない自身はあったが、こいつはオレの上を行く。

 

 

 

「あ……………、あぁ…………………………」

 

 

 

その時間は短いようで、けれど途方も無く長く感じられた。

ずっと悩んでたのか、最初から決めていたのか、それすらも分からない。

でも最終的に、オレはこれを選ぶしかなかったのだろう。

後悔はあったものの、躊躇いは無かった。

寂しくはあったけれど、悲しくは無かった。

 

 

振り下ろした剣の柄を優しく撫でる。

あの日の愛しさと憧れが、光を通して脳を焼く。

その全てを懐かしみ、

その行為を裏切りと知りながら、

 

オレは剣を放り投げた。

 

 

 

 

 

「◼◼◼◼◼!?」

 

 

 

 

驚愕を浮かべるバーサーカーも目に入らない。

彼女に伝えるべき言葉を伝えなければ、

まだこの霊基()が動くうちに。

 

 

 

 

「ごめん、セイバー。」

 

 

光の帯が消える。

空を貫く光柱。

巻き上がる燐光。

オレの手から離れた聖剣は緩やかに弧を描き、剣の大地に一振りとして突き刺さる。

それは一番初め、裁定を待つ時と同じように。

使うべきものを、辿るべき運命を、淡々と待っていた。

けれど、それに準ずる王は此処には居らず、

その意志を聞き届けたのか

 

 

最期に、音も無くひび割れた。

 

 

 

 

それは、一つの終焉。

訣別と言っても差支えの無い独り善がり。

 

 

 

 

 

 

「今まで、本当にありがとう。」

 

 

 

 

この勝利の代償に、この思い出を犠牲とする。

 

 

 

 

「……………さよなら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

罅の隙間から細い光が伸びる。

崩壊する刀身。

モノクロになった思い出。

剣は次第にその姿を唯の神秘へと変貌させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——————壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。」

 

 

 

 

溢れ出る奔流。

視界が、世界が、白に包まれた。

その爆発は鮮やかで。

輝きは黄金から、虹色を含んだ白銀へと。

 

次に感じたのは世界が解ける感触。

自らの世界が消えていく。

夢の様に淡く溶け、内にいた者達も現実へと戻っていく。

 

前は見えない。

けれど、遠く遠く遥かな場所で。

星が砕ける音とともに、猛々しい断末魔が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

次に世界を見るときは、一体どう見えるのだろうか。

(セイバー)を失くした今、オレは正しく進めるのだろうか。

消えゆく世界を俯瞰して、そう考える。

 

 

 

————大丈夫、貴方には、リンが居ますから。

 

 

 

「―――――――――!」

 

 

 

その瞬間、有り得ない空耳を聞いた。

気の性じゃない、妄想でもない。

確かに、あの硝子のように澄んだ声が、オレにそう囁いた。

 

 

涙が溢れた。

止めどなく溢れた。

 

漸く全て思い出した。

顔、声、仕草に口調。

 

俺の鮮やかで、残酷な青い春。

消えゆく中でどうしても捨て切れなかった大切なもの。

 

 

しかし、それは還らない。

自らの手で全部壊したのだから。

形は有れど変わらないもの。

不変なる悠久のものに終わりを与えたのは、紛れもない自分だ。

 

 

———でも、いいんだ。

 

———だって、オレには

 

 

 

 

——————もう星の光は、必要ないのだから。

 

 

 

 

 

見事なり、宝石の晃郎。

それは確かに、星を打ち破る輝きへと化したのだ。

 




曰く、星が壊れる瞬間には大規模な爆発があるという。
大き過ぎる一つの生命がその命を終える時、宙に自分がいた証を残す。
そしてそこには、新たな星が生まれる。
崩星は、同時に誕生を導くのだ。
そんな生命の連鎖は、遥か宇宙であっても変わらない。
死する者が後の者に願いを託す。
それは、どんな世界であっても不変の営み。

消え行く星の、最後の光。
散らす流星雨、重力を呑む暗黒点。
始まりと終わりが同地点に生まれる奇跡。

我ら人はその全てに敬意を込めて、
それを、超新星と呼んだ。

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