私的鉄心END   作:たまごぼうろ

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主人公、遂に爆誕。
ちゃんと喋ったのは16話ぶり。時間にするなら8ヶ月ぶりです。待たせてごめんね・・・。
と言う訳でまさかまさかの3話目です。久しぶりなので大盤振る舞い。
と、言うよりは、ここの話は皆さんに一息で読んで欲しかった、というのが大きいですね。

今回は前書きは少なめにします。どうぞ。


blow up in your face③

 

 

光一つない暗天を仰ぐ。

バーサーカーの時とは違う。

彼は正真正銘に全て出し切って、その結果灰色となり消えたのだ。

 

 

「あぁ……ああぁぁぁ………」

 

 

空に登っていく灰色の粒子を、一粒でも捉えようと必死に引き寄せる。

しかし無情にもそれらは天高く舞い、一瞬のうちに風に攫われて塵となった。

これが、こんなものが、彼の最期なのか。

もっと違う形で終わると思っていた。

きっと笑顔で見送れると思っていた。

 

なのに、なのに、なのに

 

 

 

 

「うそ………シロ………ウ……?」

 

 

泣きそうな声と、崩れるように何かが倒れる音。

何も映せない瞳で、機能的にそちらを見る。

先程までバーサーカーの方いたイリヤがこちらに来たと思えば、その直後に倒れ込んでいた。

 

 

「お嬢様!!」

 

 

森陰から切迫した声と共に誰かが現れる。

その透き通る白い肌を見れば、イリヤと同じアインツベルンが作り出したホムンクルスだと容易に想像出来た。

一人は焦る顔でイリヤに近寄り、もう一人は武器を構えてこちらを見る。

無論、対象は私では無い。

 

 

「退きますよ、リーゼリット!殿は任せました。何としても、あの男にお嬢様を渡してはなりません!」

 

 

「……分かってる。あいつは、イリヤの敵だ。」

 

 

それらの目は明らかに士郎に敵意を向けていた。

何故だろう。

状況こそそう見えないが、彼女らと敵対していたのは私の方だ。

だから、これからイリヤをどうにかする可能性があったのは私のはずだ。

少なくとも、こいつが現れる迄は。

 

 

「………………」

 

 

鋭い目で彼女らを射抜く士郎。

その曇りきった眼に見覚えがあった。

今、背筋を走る恐怖に似たものを感じた。

 

 

ーーーそうだ、あれは確か。

 

 

 

 

『君は、人を殺す事を恐れている。君が今怯えているのは僕じゃなく、僕の不可解な行動だ。僕がこんな事しなければ、君はきっと冷静でいられただろうね。』

 

 

 

 

 

 

 

「………まさか」

 

 

そうしてそのまま、後ろの闇へと飛び退いていくホムンクルス達。

 

 

 

「アサシン、あいつらを追え。絶対に小聖杯(イリヤ)を逃がすな。」

 

 

「だが」

 

 

「いいから行け。あれがお前の望みだろ?」

 

 

「…………承知。」

 

 

 

 

その後直ぐにアサシンも闇に溶けていった。

再び静寂が森を支配する。

いや、支配しているのは彼の方か。

ざわざわと騒ぐ木々の音も、生き物の息遣いも何も聞こえない。

ただ、ここに二人。

余りに対照的な姿で存在する。

 

 

「さて………やっと、邪魔がいなくなったな。」

 

 

その静けさを、冷たい声は容赦なく引き裂く。

やっぱり似てる。

あの時慎二に感じたものに酷く似ている。

不可解な不気味さ、武器を向けられているような怖さ。

頭の中を掻き回されるような、清濁入り混じるカオスな感情。

いや、多分きっと逆だ。

あいつが、彼に似てしまったのだ。

 

 

「あんたが、殺ったのね。」

 

 

「何の事だ?」

 

 

「昨日の間桐を潰したの、あんたでしょ。」

 

 

悲しむ暇など無かった。

先ほどと変わらない、怒りのみがこの体に満ちていた。

だが、感情を殺しそう問う。

冷静にならなくては。

相手は狡猾で、それでいて虎視眈々と、この瞬間を狙っていたんだ。

少し考えれば分かる。

外来の魔術師が今更来るわけが無い。

恐らく綺礼がそんな事許すはずが無い。

借りに来たとしても、英霊を相手どれる強者なんてそういるとは思えない。

なら、それ以外。

あの男を殺す動機を持つ者がやったと考えられる。

それなら犯人は絞られる。

 

間桐という家自体を嫌っていた者。

聖杯戦争の秩序を乱した者を仇する者。

明確な悪に、敵意を示す者。

 

そしてその結果、自らを家を自らで終わらせた愚息はその結末に大きく歪み、成長した。

 

つい先程辿り着いた結論を突きつける。

けど、彼にとってそれは些事に過ぎなかったのか。

 

 

「あぁ、気付いてなかったのか。遠坂はとっくに分かってると思ってたけど。」

 

軽く、受け流すように。

まるで昨日の天気を聞かれたかのように答える。

 

 

「それ、肯定したと受け取っていいのね。」

 

 

「そうだよ、俺が臓硯を殺した。慎二と、言峰と一緒にな。」

 

 

「そう……」

 

 

驚きは無い。

分かってしまえばどうと言う事は無い。

問題はその先だ。

 

 

「じゃあもう一つ。貴方、何でアサシンと一緒にいるの?」

 

 

目下一番の疑問点。

衛宮士郎は敗北した。

他でも無いアサシンと臓硯にセイバーを殺され、命からがら逃げ帰ったのだ。

なのに今、彼はアサシンと行動を共にしている。

自らのサーヴァントの仇である存在と協力しているのだ。

それは、紛れもなく裏切りだろう。

亡きセイバーへの侮辱と捉えられても仕方無い。

 

 

「臓硯は本当に死んだの?それとも慎二のように、今度は貴方が間桐の代理として動いているのかしら?」

 

 

気付けば私は立ち上がり、彼をしっかりと見据えていた。

今はただ、問わねばならない。

怒りも憎しみも追い越して、問うことは一つ。

 

一体今までに何があり、そして今、彼はどう思っているのか。

そして、その結果次第では恐らく、

 

 

 

「答えなさい、返答次第では見逃してあげる。」

 

 

 

「………相変わらず、遠坂は優しいな。」

 

 

 

「…………は?」

 

 

きっぱりと言い切ったつもりだったが、再び軽く返される。

さっきからそうだ。

何か緊張感が無いというか、こんな状況になっても今までと態度が変わっていない。

本当に、久しぶりあった友人に話しかけているのと変わらないのだ。

 

 

 

 

「それよりも、さ。体の方は大丈夫か?見たところかなり魔力が少ないけど。」

 

 

 

 

「ふざけないで、今更善人ぶって何様のつもりなのよ。」

 

 

 

 

「いや、元気ならいいんだ。正直心配だったんだけどさ。流石、遠坂だな。信じて良かったよ。」

 

 

 

ーーー何だ、コレは。

おかしい、おかしすぎる。

話していて気持ちが悪い。

妙に楽観的とか緊張感が無いとか、そんなレベルじゃない。

会話が噛み合っていない。

私と彼とでは、見えている世界に大きな隔たりがある。

そんな齟齬が、遂に私の逆鱗に触れた。

 

 

「信じる?信じるって何よ。」

 

 

対話にならないと分かっても、声を上げずにいられない。

 

 

 

「決まってる。遠坂が勝つ事だ。俺はお前なら必ずバーサーカーを倒すと思っていたからな。事実、その通りになった。」

 

 

「!!……………何よ、それ。」

 

 

堰を切ったように、冷静を装う頭に抑えきれない怒りが込み上げた。

何を簡単そうに言っている。

あんたの勝手な信頼の裏で、私たちがどんなに苦労したかも知らないくせに。

信じる?一体その信頼はなんだ。根拠はどこだ。

信じてたって言うなら、何で、何で、

 

 

 

 

「なら!何であんたはアーチャーを殺したのよ!?」

 

 

 

止められなかった。

最高の皮肉を満面の笑みで食らったのだから。

冷静に努めようとしていた頭を、ガツンと横から殴られた。

 

 

「一部始終を見ていたなら分かるでしょう!アイツはもう戦えなかった。なのに何で、あんな貶めるように殺したの!?」

 

 

「どうしちゃったのよ、士郎。あんたは向こう見ずでおバカでポンコツで、でもだれかを裏切る事だけは絶対にしない、一本スジの通ったやつだったでしょ!?」

 

 

怒りは次第に憐れみに変わった。

彼を知るからこそ、彼のことが理解できなかった。

今までの彼に考えられない行動、言葉の数々。

それらは改めて、アーチャーの喪失に現実味を与える。

 

 

「それなのに、どうして……どうしてよ……」

 

 

 

「アーチャーを………返してよ………」

 

 

歪みかけた視界で、消えたものを求める。

遅いと分かっていても、それでももし、願いが叶うなら。

もう一度でいい。

アーチャーに会って、ありがとうと伝えたい。

ただ、それだけでいいのに。

 

 

 

 

 

けれど

そんな心からの言葉は、同じく心からの言葉の前に無に帰した。

 

 

 

冷えきった、鉄の心で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、どうしたって言うんだ?」

 

 

 

 

「………………………は?」

 

 

 

「あいつ、もう消えかけだっただろ。それに邪魔だったからな。だから殺した。貶めるつもりなんて無い。俺の目的の為に殺した。……まぁ、やったのはアサシンだけどな。」

 

 

 

「何を…………言っているの………」

 

 

 

愕然に狂う私を無視して、彼は言葉を続ける。

 

 

「そもそも、人なんて互いに喰い合う生き物だ。利益の為に簡単に人を殺す生き物だ。倫理も道徳も何もかも脱ぎ捨てて、ただ自らのうちにある黒い欲望に従う愚かな獣だ。」

 

 

「だからって!」

 

 

「だから、桜は死んだ。」

 

 

「!!」

 

 

言い放つそれに悲しみなどは感じられなかった。

彼は事実としてそれを受け入れていた。

終わったことだと、消えてしまった命だと。

 

 

「臓硯という悪に殺された。だから、俺も臓硯を殺したんだ。」

 

 

「当然だろ?自らを欲望で誰かを手にかけた者がそのままのさばっていい訳が無い。」

 

 

 

そうして、次第に熱を帯びていく言。

語るはこの世の理想像。

一つの形の終着点。

 

 

 

「だから、俺が断罪する。他でも無い皆の為にな。それで俺がどうなろうと構わない。」

 

 

 

だが、それは歪な夢物語。

出鱈目な子どもの夢と変わらない。

 

 

 

「俺は決めたんだ。今度こそ本当に意味で、道を違えること無く、例え大切な人を殺す事になろうとも。」

 

 

ゆっくりと手を広げる。

表情は無い。

濁りきった目には一つしか映っていない。

けど、その口角は

僅かに吊り上がっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、正義の味方になるんだよ。遠坂。」

 

 

 

 

 

 

 

それは理想を語る少年の姿で。

だけど、正義を説くには余りにも罪深かった。

 

 

 

「っ………………」

 

 

 

言葉を失う。

これが、狂気か。

これが一人の人間の末路なのか。

士郎の言っている事は世界の理想と言える。

完膚無きまでの勧善懲悪だ。

きっと世界がこう在れたら、という清い未来を示している。

けど、それはたった一人での話だ。

独善的な世界の中で一人、自らを秩序として存在しようとしている。

だが、それには矛盾しか無い。

 

善悪の基準はどう付ける?

殺された人の想いはどうなる?

何より、自分自身がどうなるか分かっているのか?

 

疑問は尽きない。

欠点は飽くほどに有る。

でも、それを言い出すことは出来ない。

 

何を言っても無駄だろう。

衛宮士郎という人間には最早意味が無い。

彼は心の底からこんな継ぎ接ぎだらけの夢物語を実現する為にここに居るのだ。

 

 

 

 

 

「でもまぁ、質問には答えないとな。」

 

 

「質問?」

 

 

「言っただろ?何で俺がアサシンと一緒に居るのかって。」

 

 

そう言って彼は自らの右手の手の甲のこちらに向けた。

そこに輝くのはもう私の手には無い、赤い令呪。

 

 

「令呪………!?」

 

 

 

だが、セイバーと契約していた時とは違う。

形が、違う。

信頼の証では無く、契約の証としての令呪。

今まで彼の右手に輝いていたものとは決定的に何かが違った。

 

 

 

 

「これが答えだ。アサシンは俺のサーヴァントだよ。」

 

 

もう何度目か。

先ほどから絶え間なく驚きの嵐は濁流となって私を飲み込もうとする。

それでも私が冷静になれたのは、恐らく怒りと憎しみによるものなのだろう。

 

 

 

 

「教えなさい。………何があったの。貴方に。」

 

 

 

 

 

「勿論、ハナからそのつもりで来たんだ。」

 

 

 

 

こうして士郎の口から語られる真実は、私の想像を遥かに越えるもので

 

 

 

だから、

 

 

 

私たちは、最後に殺し合うんだ。

 

 

 




と言う訳で、全三話。いかがでしたか。
予想通り、と言う方。まさか、と言う方。いると思います。
是非その辺り、自分がどうなると思っていたかなど、コメントで教えてくれると嬉しいです。僕が1人でニヤニヤします。


さて、珍しく後書きを綴っているのは理由があります。
と言うのも、まだ一つ謎が残っていますよね?
2月10日、士郎が臓碩を下した後、あの部分のみ未だ語っていません。
そこに今回登場した彼の、彼のみが知りうる真相全てがあります。
次回はその部分、空白となった時間をしばし語らせていただきます。

私的鉄心エンドは、まだ終わらない。


次回お楽しみに!

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