話すネタが無い・・・・
沈黙はそう長くなかった。
顔を出した欲望を理性で抑え込む事は出来ない。
「………………条件がある。」
「聞こう。」
「もし、貴様が失敗した場合の保険が欲しい。貴様と共に我が命運が潰えるのは許されない。」
「失敗はしない、と言ったら?」
「その自信に足るものを示せ。」
そこで、自分は試されているのだと気が付いた。
どうやら同じステージに立つことは出来たようだ。
だが、俺と違ってこいつには確証が無い。
確証が無い者に着いては行けないと、アサシンはそう言っていた。
つまりここだ。
この契約が成るかどうかはここにかかっている、
だから
「自信、と言っていいかは分からないけど。」
現状、俺は最も弱い。
残るサーヴァント、アーチャーとバーサーカーは言うに及ばず、マスターである凛やイリヤにも叶わない。
勝っているとしてもそれは魔術無しの話で、聖杯戦争に勝てる可能性は殆ど存在しない。
それでも、
その分かりきった結末を覆せる物を、俺は持っている。
そう言って胸元から取り出すのは、一丁の大振りの銃。
人の合理性が生み出した凶器。
銘知らぬ、されど確かな頼もしさを秘めた魔術礼装。
「っ.......」
それを見せた時、意外な場所から引き攣るような声が聞こえた。
微かに振り返る。
小さな声の主はそれを憎々しげに、けれどどこか懐かしそうに眺めていた。
「知ってるのか、言峰。」
「無論だとも、忘れるものか。我が仇敵の忘れ形見。どこに消えたかと思っていたが、まさかお前が持っていたとはな。」
「これはなんだ?」
アサシンが急かすように視線を送る。
その視線を返すように言峰は俺に聞いてきた。
「衛宮、お前はどこまで知っている?」
「どこまでと言っても使ったことは無い。弾は一発しか入ってないからな。ただ、これが起源弾って名前なのと、魔術師に対して必殺だ、って事しか聞いていない。」
ここで切嗣からこの間引き継いだ事は伏せた。
きっとそれを知れば、言峰はその痕跡を探すだろう。
そうなれば藤ねぇたちにも迷惑をかけてしまう。
「そうか、ならば教えてやろう。これは起源弾。お前の養父、衛宮切嗣を魔術師殺し足らんとしていた魔術礼装。効果はシンプルにして強力だ。」
言峰は懐から黒い革の手袋を取り出して手にはめる。
そうして、慎重に銃から弾を取り出した。
長く年月が過ぎているはずだが錆の一つも無い銀色の弾丸が、雲の間から僅かに漏れる光に照らされる。
それは鮮やかと言うより、怖いくらいにギラついていた。
「この弾丸を喰らった者は魔術回路が文字通り切断され、そして出鱈目に嗣ぎなおされる。」
「!!」
はっ、と息を呑むアサシン。
しかし俺にはその意味が分からなかった。
「それでどうなるんだ?」
「魔術回路とは言わば毛細血管のようなものだ。そして強力な魔術師ほど、それは全身に張り巡らされている。想像してみろ、それら血管が全て切り離され、同時にぐちゃぐちゃに繋ぎ直されるのを。」
言われて考え、そして俺も息を呑む。
魔術回路が血管と言うなら、そこにはきっと血液が流れ続けているはずだ。
それらが断ち切られ、同時に繋がれる。
そうなれば血管はその変化に耐えきれず破裂してしまうだろう。
全身の血が沸騰したかのように身体中から溢れ出す。
その痛みは想像を絶する。
ましてそれが全身となれば即死は免れない。
「これの恐ろしさはそれだけでは無い。起源弾が作用するのは相手の魔術に触れた時だ。魔力が生成されるのは魔術回路である故だな。よってーーー」
「相手に当てる必要は無い。相手がこれを防御しようとして使った魔術に当たったとしても効果は変わらない、だろ?」
そう言うと言峰は口の端を吊り上げた。
「如何にも。よく分かっているじゃないか。」
自分でそう言って背筋が凍る。
何なら、俺はこれを見つけた時に死んでいてもおかしくなかった。
あの時は銃身のみを解析した為免れたが、銃弾まで届いていればその瞬間起源弾は発動していたはずだ。
そうなれば、凶弾は我が身を喰らっていただろう。
迎撃も防御も、射撃の腕があるのなら回避だって無意味。
切嗣が言っていた意味が漸く分かった。
これは魔術師に対しては紛れも無く必殺だ。
それ迄の研鑽、魔術師として構成された生涯。
それら全てを否定し破壊する。
魔術師殺しの名は伊達では無い。
「これを何時、誰に使うかはお前次第だ。だが使えば最後、後には引けん。お前にその名を背負う覚悟はあるか?」
再び弾の込められた銃を受け取る。
大振りの銃身が先程よりも重く感じた。
これはきっと覚悟の重さだ。
これを使った時の責任を改めて認識した。
けれどそれこそ、俺が一番に求めていたもの。
言峰から視線を切り、言葉を待つアサシンを目で捉える。
銃を胸元のホルスターにしまい、代わりに左手を突き出す。
「これが俺の自信であり覚悟だ。退く気は無い。諦める気も無い。俺は必ず聖杯を手にする。」
最初から覚悟はあった。
俺の運命は、切嗣が死んだあの時から決まっていた。
正義の味方という途方も無い夢を、それでも愚直に追い続け、その遠さに打ちのめされてきた人生だった。
「最後にもう一度だけ聞くぞ。俺と共に来い、アサシン。」
けれど漸く、
「……………いいだろう。貴様の持つその凶器を以て、勝利を掴む証明とする。影に過ぎない我が身を使いこなしてみろ。」
夢に向かって、歩を進めた。
三話目に続きます