雨が上がっていく。
ずっとずっと、戦うもの達へと無慈悲に降り注いでいた雨が。
月が光を地面へと落とす。
まるで、この悲劇を見たくはない、とばかり雲の中に隠れていた月が。
森が、静けさを取り戻す。
狂戦士の嘶き、弓兵の誓い、暗殺者の乾いた声。
様々なものに包まれていた森から、音が消えた。
辺りには木々が連なっている。
地面には水溜まりと血溜まりが奇妙なコントラストを生み出している。
その場所には、炎が散りばめられていた。
残り技達が燻り、僅かな火を上げる。
それがあちらこちらに散らばっていた。
そして、そんな残り火に囲まれるように、大地を抉ったかのような痕跡が残っている。
しかし、それは何処か奇妙な形だった。
恐らく、それは長く長く続く筈だったのだろう。
クレーターは円状では無く、丸い立方形の半分を切り出したかのようだった。
そして、それは不自然に途中で途切れているように見える。
まるで、それ自体が更に強大な質量に打ち消されたかのようだった。
そんな不可解な痕跡の中、二つの人影がそこには見えた。
双方共に血塗れで真っ赤に染まっている。
一人は、ただ立ち尽くし、
一人は、ただ倒れていた。
きっとこの光景を見た者は、それ以外何を思い浮かべる事は出来ないだろう。
影の一つはゆっくりと歩き出す。
倒れた者に向かい足を引き釣る。
その者は紛れも無く勝者のはずだが、それでも身体はボロボロで、まるで敗走のように足取りは重かった。
だが、そう感じた者は漏れなく全員口を噤むだろう。
それは何故か。
それは、臥している影が何より物語っていた。
そうして、辿り着いた者はソレを見下ろす。
もう動かない、否。
最早死に体と化した、動く肉塊の姿を。
「あ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
それは異常な光景だった。
彼女はきっと、瞑目麗しき少女だったのだろう。
才色兼備と讃えられ、それに見合う努力をしてきた筈だ。
それが今は、喉を絞るような声を上げ、甲板に打ち上げられた魚のように、自らの体から流れ出た血の海を跳ね回る。
最早血を色を失い土気色に近くなっている肉体は、しかしながら信じられないほどにのたうち回る。
四肢を千切らんばかりに掻きむしり、狂い足掻いて血を零す。
信じられない苦しみの中に囚われているのは、誰の目にも明らかだった。
それを、人と呼べるのか。
その姿を、生者と呼べるのか。
そして、その光景を眺める人物も又、異常であった。
その燦々足る光景を見て尚、彼は空虚だった。
勝利の余韻に浸るでも、自らで生み出した地獄を見て嬉々としている訳でもない。
強いて言うなら、彼は結果を見ていた。
自分で殺したという過程では無く、目の前で人が死んでいこうとしている、という事実を、ただただ眺めていた。
感慨も罪の意識も、何も無い。
彼の胸中からは、既に様々なものが消え失せていた。
「俺の勝ちだ、遠坂。」
「い゛いたい、いたいいたいいたいいたいいた、あ、ああああああああああああ!!!!!!!!」
血だまりに藻掻く敗者は、遠坂凛。
それを眺めるのは、衛宮士郎。
この惨劇を目の当たりにすれば、きっと誰もが目を覆う。
悍ましく、惨たらしい。
誰よりも直向きだった彼女の最後が、こんなにも惨めなのかと。
誰よりも優しかった彼の結末が、こんなにも残酷なのかと。
こんなものが、全ての決着なのかと。